天才ボーダー隊員   作:うるうるく

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また遅れました。申し訳ありません。
許してくれるという心優しい方も、そんなの許さねぇよという方も、是非ともご覧下さい。


天才VS最強 (前半)

良次がボーダー隊員として、初のランク戦を始めて、いくらかの時間が経過していた。10戦勝負のうち、すでに3戦を終えているが、その3戦は、大方の予想通り太刀川慶が勝利を収めていた。

 

そして今、続く4戦目が始まろうとしているなか、綾辻遥は心配そうに良次を見つめていた。先の3戦では、正に太刀川が圧倒していたと言ってもよいだろう。両者ともに攻撃手の訓練用トリガーではあるが、流石というべきか、1戦目と2戦目、太刀川は瞬時に詰め寄り良次を斬り伏せていた。3戦目は、良次もトリオン体に少し慣れたのか、少しの間太刀川の攻撃を防いではいたものの、やはり斬り伏せられてしまった。

 

 

 

「よし君、大丈夫かな・・・」

「まあ、しょうがないですよ。相手が悪すぎますからね」

 

 

遥がそう呟くと、それを慰めるかのように木虎が応える。しかし、その返答も当然のことだろう。今行われているのは、正に頂点と底辺の戦いである。いくら初期ポイントが高いからといってもまだまだ素人にはちがいないのであるのだから。

 

 

「それにしても彼、あれで綾辻よりも年下なのか。見た目だけでいけば、俺よりも年上と言われても不思議ではないが」

「そうですね。玉狛の木崎さんみたいな体つきですし。流石にあそこまでとはいきませんが」

 

 

嵐山隊の面々が、良次の所見についてそれぞれ述べる。遥自身も感じたように、やはり年下には到底見えないらしい。

 

 

「でも、からかったりしたら結構可愛い反応するんですよ?その辺りは年相応だと思います、ふふ」

「可愛いって、あの人がですか?・・・全く想像できないような」

 

 

木虎がそういうと、大きくリアクションこそとらないものの、遥を除く嵐山隊の面々は心のなかで同意した。つまるところ、稲葉良次という男は、そういった風には見えない男だということであろう。

 

 

 

「そういえば、彼の妙な動きは何だったんだろうな」

「妙、ですか?……ああ、一戦目の開始と同時にその場でしてた高速足踏みのことですね。確かに不思議と言えば不思議でした」

 

 

少しの沈黙が流れたあと、思い出したように嵐山が一同に質問を投げ掛けた。少しばかり抽象的だったその質問の内容を、一番最初に理解した時枝が言葉を返した。一同が確かにと相槌をうつと、嵐山も同じように頷きながら付け加える。

 

 

 

「それに二戦目の時にその場で剣を振り始めたのも妙だったな」

「そうですか?私には、とりあえずめちゃくちゃに振り回していたように見えたのですが。ただ迫ってくる太刀川さんに抵抗しようとしていたんじゃないですか?」

「ああ、うん。恐らくそうだと俺も思うんだが。なんかこう、………振り方を知っている上で敢えて振り回していたと言うか、…抵抗のためじゃなくて端から振り回すことを目的にしてたと言うか…」

 

 

 

嵐山は、少しの間思案しながら独り言のように考えを呟いていた。しかし、結局納得のいく考えが浮かばなかったために考えるのをやめ、隊の皆に気のせいだったと口にして

、再び対戦ブースに目を向けた。

 

 

 

 

それから少しして、4戦目が始まった。見物しているものは皆、太刀川の勝利を疑わず、殆どの者の関心は、太刀川の戦い方から何かを学ぼうという方面と今度は良次が何秒生き残れるだろうかという方面に向けられていた。しかし、

 

 

「な!!?」

「うそ!?」

 

 

その期待は裏切られた。

 

太刀川が先ほどと同じように正面から斬り伏せようと接近すると、良次も同様に太刀川に接近した。太刀川がそのトリガーを振り下ろすと、良次は体を僅かに反らし自らの右腕を斬られながらも、太刀川の右手を斬り落とした。その後、一度鍔迫り合いのような形を組んだかと思うと、両者ともに押し合い、一定の距離を確保した。

 

 

良次は右の肘から先を失い、太刀川は右手の手首から先を失った。質量的に言えば、太刀川に分があるように感じられるが、両者ともに片腕で剣を振らなければならなくなったことを考えると、互角と言ってもよいだろう。

 

 

無名のC級隊員が太刀川の片手を落とした。そのことに騒然となる見物人たちのなか、嵐山たちは努めて冷静に現状を分析する。

 

 

「まさか、太刀川の片手を取るとは」

「はい。回避から攻撃まで一つにまとまった動き、という感じでしたね。綾辻さん、彼は本当に何者なんですか?」

 

 

遥自身も、良次が一体何者なのか気になっていると、時枝からそう投げ掛けられる。自分もよく分からない、という旨を伝えると、少し残念そうにしながらも再びブースに目を向けた。

 

 

両者ともに左手一本でトリガーを握っている。とはいえ、太刀川はいつも二刀流であるため、左手のみで剣を扱うことにあまり違和感は無さそうだ。対する良次も多少の違和感はありそうだが、とりわけ慌てた様子も見られない。普通であれば、トリオン体といっても腕を斬られたわけだから、動揺しそうなものだが。ましてや、初めてであれば、慌てて当然であるはずだ。

 

しかし、良次は落ち着き払っている。

 

落ち着いて、太刀川を正面から見据えていた。

 

 

 

 

その時、唐突に太刀川が接近する、自分から攻めていくスタイルは実に彼らしいと言えるだろう。対する良次は剣先を太刀川に向けたままその接近を待つ。両者がぶつかる直前、太刀川は片腕にも関わらず先ほどとほぼ同じスピードで剣を横方向に薙ぐ。対する良次はそれを縦に斬り下ろすと、即座に太刀川の脇腹を貫こうと剣を構える。

 

しかしながら、そう簡単にやられるような太刀川慶では当然ない。その気配を感じるや否や、体を脇にずらし回避の姿勢を取りながら果敢に良次の首を斬りにいく。

 

突きの体勢に入っていた良次もその攻撃を途中で取り止め、太刀川の斬撃を回避しようと姿勢を低くして両膝の辺りを水平に薙いだ。

 

 

その攻防、僅か数瞬。

 

 

 

良次は太刀川の両膝から下を落とすことに成功したものの、僅かに回避のスピードが遅れて首を落とされる結果となった。

 

 

 

『稲葉、ダウン』

 

 

そうアナウンスがなり4つ目の白星が太刀川につく。しかし、問題はそこではなかった。負けはしたものの、太刀川の手足の内、3つも落としたのは、C級隊員としては前代未聞だった。

 

 

「・・・負けはしたが、まさかここまで善戦するとはな」

「太刀川さんが手を抜いてる、・・・というわけではないですよね?」

 

 

当然皆が、その線を考えていたが、実力があるものほどその考えを否定せざるを得なかった。訓練用トリガーであるから、太刀川は本来の全力は出せていないだろう。しかし、今出せる全力を出しているのであろうことは、彼らの目には明らかだったのだ。そのうえ、良次の方も同じ武器を使っているのだ。到底C級隊員であるところの良次では手も足も出ないはずなのである。

 

 

「というか、動き速すぎないですか?正隊員の攻撃手でもあそこまでの速さはなかなか・・・」

「うむ。さて、5戦目だが、これはもしかしたらもしかするぞ」

 

 

時枝と嵐山が真剣な面持ちでそう分析する。その後ろで、木虎が少し悔しそうに、遥は未だ心配そうな表情で良次を見つめる。噂を聞き付けたのであろう、始まった当初よりも幾分か多くの人々に見つめられながら、ついに5戦目が始まろうとしていた。

 

 

 

 

全10戦のうち既に4戦が終わり、今まさに5戦目が始まろうとしているなか、良次はトリオン体の性能をはっきりと認識しようと先ほどまでの戦いを思い出しながら、頭を巡らせていた。

 

 

(脚と体軸の動作感覚はほぼ完璧に把握できた。腕も肩回りも概ね大丈夫だろう)

 

 

一戦目の高速足踏みと二戦目の剣振り回しを振り返り、その感覚を甦らせる。本来の肉体との性能差は、良次が想定していたよりも少しばかり大きかったが、恐らく大丈夫だと良次は感じていた。

 

 

想定外だが、それはいい方向でだ。これほどならば、相当な立ち回りを披露できるだろう。そう考えたあと、良次はその他の要因のことに考えを向ける。

 

 

(問題があるとしたら、この剣か。三戦目と今の四戦目で大体の耐久度と切れ味は分かったが、流石に使いこなせるとまではいかなそうだな)

 

 

右手に持った訓練用トリガーに目をやりながら、そう考える。本来ならば、もう少しこの剣を腕に馴染ませたいところだったが、そうもいかなくなってきた。勝負は全部で10戦。そのうち既に4戦を終え、良次は既に4敗を喫しているのだ。

 

 

(次負けたら、もう勝ちはなくなるのか。それはなんとしてでも回避しないと)

 

 

 

良次自身の意地などもあるが、何よりも、早く遥に近付きたいという思いが故に、良次は勝負に負ける気など全くなかった。

 

 

(太刀川さんが万全ではなさそうなのが救いか。まあ、こちらも万全ではないか)

 

 

しかし、と良次は考えを進める

 

 

(確かに万全ではない。だが、充分ではある)

 

 

 

五戦目開始のアナウンスがなる。真正面には先ほどと同じように太刀川が立っている。良次はそれを真っ直ぐに見据え、自分自身に言い聞かせるように、僅かに口を開いた。

 

 

「さて、試合開始だ」

 

 




人の呼び方とかはいまいちうろ覚えなところがあるので
間違っていたら是非ご指摘ください。


次は恐らく早めに出せそうです。

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