では、どうぞ。
どうやら桐崎は今日もペンダント探しに精を出すようだ。昨日、本人にもういいって言われたんだから探すの止めて帰っても何も言われんだろうに。
「...ちょっといいか?」
俺がそう声をかけると、桐崎は渋々といった感じでこちらに顔を向けた。
「何?今忙しいから後にしてくれない?」
どうやら相当にご機嫌斜めのようだ。まぁ、昨日の今日だし、分からんでも無いけど。
「いや、何?昨日一条にもういいって言われたのにまだ探すのかと思ってな。」
「...別に。あんたに関係ある?」
「まぁ関係は無いけどな。それより、探すならここじゃなくて校門の辺りの方が良いぞ。」
「...どういうこと?」
桐崎が訝しげな視線を俺に向けてくる。まぁ、大して話したことも無い奴にいきなりそう言われたら疑問符浮かべるのは当然だな。
「この辺は昨日、一昨日くらいに俺とあと小野寺が探したからな。お前らが探した場所も考えたら後探してないのは校門周辺くらいだろ。」
一応嘘は言っていない。昨日俺と小野寺は確かにここを探した。ただ少しばかり説明不足ではあるんだけど...。
「あんたは探さなくていいの?」
「生憎俺はそこまで社畜精神に溢れてはいない。それに俺に手伝うように言ったのは一条ではなくお前だろ。ならお前が解雇された以上、俺が手伝う義務もなくなったはずだ。」
「何それ...。」
桐崎はドン引きしていた。
「あんたあいつの友達じゃないの?」
「断じて違う。俺に友達は1人もいないからな。」
「...言ってて悲しくならないの?」
それを言うな。
「そんなことより、下校する生徒が少ない内に探した方が良いんじゃねーの?生徒が増えると目立つし。」
「...」
桐崎は俺に対し怪しげな視線を向けながらも校門まで走っていった。
その翌日、俺は1人ペンダント探しをしている一条の所に向かった。
「一条」
俺がそう声をかけると、昨日の桐崎と同じような感じでこちらに顔を向けた。
「桐崎がお前に来てほしいって言ってたぞ。」
「桐崎が...?」
「ああ。」
「...分かった。」
「・・・なんだよあいつ、こんなとこ呼び出して」
「さあな。一昨日のことで何かあるんじゃねーの?」
俺がそう言うと一条は顔を背けた。一条としても罪悪感に近いものは感じているらしい。
...ん?
「一条、あっち」
「え?」
「いや、あっちの方で振りかぶってるの、桐崎じゃね?」
「あ、ホントだ。あいつ何を...」
一条が言い終わる前に桐崎らしき人影は腕を降り下ろしていた。つーか何かがこっちの方に凄いスピードで飛んできてるんですけど...。
「ギャアーース!!!」
とか考えてたらその何かが一条の顔面に直撃した。マジで?あそこからここまで結構離れてるんですけど?どんな肩とコントロールですか?プロ野球のピッチャー顔負けのレベルだぞ...一条生きてるかな...。
「痛ってぇー!!何すんだあの野郎...!!」
あ、生きてた。
「大丈夫か?」
一応聞いてみた。
「何か目の前チカチカしてすげぇ頭痛いんだけど。」
「そうか。なら大丈夫だな。」
「話聞いてた!?」
いや、だっておれの問いに普通に答えてるし、大丈夫じゃね?
「それよりもさっき飛んできたもの見てみろ。」
「え...!これ...!!」
「お前のだろ?それ。」
「あぁ。でも何であいつが...」
「あー、何だ?あいつ、あの後も探してたみたいだぞ?」
「・・・!?」
おーおー、びっくりしていらっしゃる。
「ま、お前に見付からないように気をつけてはいたみたいだがな。」
「あいつが...ん?なんだこれ?」
「ん?」
見てみるとペンダントのチェーンに手紙らしきものが結んであった。そこには
『訳せるもんなら訳してみろ!!
I fulfiled my duty.
So don't talk to me anymore
scum bastard!!
Chitoge』
と書かれてあった。なるほど、さっぱり分からん。でも一条をバカにしてる事だけは何となく分かるな。
「・・・読めねぇけどバカにされてる事だけは分かるな。」
一条にもその部分は伝わったらしい。
「...あいつの言ってる事ももっともなんだよなぁ...。」
何かいきなり一条が語り始めたんですけど。
「何だ、いきなり。」
「ああいや、俺もこんな約束忘れちまった方がいいのかなって思ってさ。」
...コイツ本気で言ってんのか...?
「アホか。」
「え?」
いきなりの俺の発言に一条は戸惑っているが構わず続ける。
「約束ってのがとんな内容かは知らねぇけど、今重要なのはそこじゃねぇだろ。お前は相手が忘れてるならその約束とやらがどうでもいいのか?」
「・・・」
一条は黙って俺の話を聞いている。
「それにお前、約束すっぽかされた奴の気持ち考えろ。大抵の奴は自分が何かやったんじゃないかって疑心暗鬼に陥って最悪自己嫌悪にまで至るんだぞ。ソースは俺。」
これまでクラスメイトとの約束なんか守ってもらえた試しがない。しかも必ず俺に責任押し付けられたし。まあその言い分を真に受けてた俺も俺だけど。
「・・・そうだよな。もし今後その子に会えても会えなくても俺にとって大事な約束なのは変わんねぇ。大事に持っとくよ。」
どうやら一条の中で色々納得出来たらしい。...どうでもいいけど今の俺に話してたの?内容独り言じゃね?
「色々サンキュー、比企谷。またな。」
「おう。...ふぅ。」
終わったか。いや、マジで疲れた。だって1週間ずっと働き詰めだったし、最後に余計な仕事が増えたし。
帰りにマッ缶買ってこうかな...。
~Side小咲~
委員会の帰り、一条君と比企谷君を見付けてさっきから様子を見ていた。...何で昨日の内にペンダントを一条君に返さなかったのか気になっていたけど、今の様子を見て納得した。...何てことは無い、自分が感謝されるより2人の仲を取り持つ事を優先したというだけの事だ。
「...ふふっ。」
それだけのことなのに何故か嬉しく思ってしまう。いや、理由も分かっている。自分の思い人の優しさを見ることが出来たからだ。おそらくあの後、折角見付けたペンダントを再びどこかに置いてきて、それを桐崎さんに見付けさせたのだろう。
言葉で言うのは簡単だけど、自分の名誉より他人同士の関係を優先させるというのは中々出来るものではないと思う。少なくとも私は。ましてや、その内の1人は転校して間もない、大した接点も無い、見ず知らずに等しい人。そんな人のために下心目的でもなく、迷わず自分の名誉を放棄するなど...
「やっぱり、優しいなぁ...。」
まぁ、そんなこと本人に言ったら
「教室の雰囲気が悪くなったら面倒くさくなるからやっただけだ。」
なんて誤魔化されそうだけど。...比企谷君は嫌がっているけど、そういう優しい部分が捻デレと呼ばれる由縁だったりする。
今日は金曜日だから、次会えるとしたら来週になる。
来週こそは、頑張って話しかけてみよう。
そんな決意をする今日この頃です。
ありがとうございました。今回書いて思ったのですが...女子視点、めっちゃムズイです...