捻デレ者と和菓子屋の娘   作:グッバイぐら

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こんにちは。グッバイぐらです。
今回は、八幡と桐崎父の話し合い会です。よって、他の主要キャラは出てきません。



・・・なんでそこまでするんですか?

「・・・で、そろそろ何故私を呼んだのか、教えてもらっていいかな?」

俺が注文した物がテーブルに置かれ、一息ついたところで桐崎父が切り出してきた。

「...その前に、よく俺みたいなただの高校生の呼び出しに応じてくれましたね。正直、俺としてはダメ元のつもりだったんですけど...。」

「まぁ、クロードの一件で、君や君の家族に迷惑をかけた自覚はあるからね。さすがに金が絡むものや、こちらに損失が出ることが明らかな内容ならともかく、極力要望には答えたいと思っている。...ああ、もしかしたらそのクロードの一件についてなのかな?」

...この人ホントにいい人過ぎるだろ。あのドアについては修理代全額出してもらったし、俺も親もあんまり気にはしてないんだけど...むしろ通報してすいませんでしたって感じだし...。

「いえ、それとは別件です。」

「ふむ...ならば…鶫君についてかな?」

…すげーな。当たりだ。

「まあ、そうっすけど・・・よく分かりましたね?」

「いや何、鶫君は今日転校したばかりだからね。時期的に考えると、その2つ以外には心当たりがなかっただけだよ。」

「…なるほど。」

そう言われれば納得できる。できるんだが、ノーヒントで言い当てられる側としてはびっくりするわ。

 まあそれがそれとしてそろそろ切り出しますか。

「じゃ、単刀直入に聞きますけど、何であの転校生・・・鶫さんに、恋人の件が演技だって教えなかったんですか?」

「・・・何故、とは?」

「他の組員の暴走を防ぐために、ポーズとして転校させるって所までは納得出来ます。」

桐崎父はここまでは黙って聞いていた。

「でも、その牽制目的で送り込んだ張本人が真相を知らなかったら意味ないでしょう。実際、今学校では鶫さんが暴走してややこしいことになってますし。」

そう、俺が聞きたかったのはこのことだ。

 他の組員の暴走を防ぐ必要性は理解できるし、そのための最良の手段がこの転校措置だというのもまあわかる。

 だがその牽制役が暴走してしまっては何も意味がない。いや、暴走する人数が減ったという意味はあるかもしれない。だが結果として一条やその周りの人間に危害が及んでしまっては、むしろ逆効果だろう。

「・・・私がそこまで読むことができなかったとしたら?」

「それはないでしょ。」

話してみた感じ、桐崎父がそこまで読めない人間とは思えないし、大事な案件をうっかり伝え忘れるとも思えない。なら、わざと伝えなかったのだろう。だがその意図が分からない。

「・・・まあ君には迷惑をかけたからね。他言無用で頼むよ。」

「もちろん。」

「では…。

2人の監視というのは建前でね。正直な所、彼女が学校に通ってくれるなら理由はなんでもよかったんだよ。」

 

 

 ・・・学校に通ってくれるなら?どういうことだ?

「彼女はまあ生真面目な性格だからね。こういう理由でもない限り、転校なんてしてくれなかったんだよ。」

「えーと…つまり、桐崎ではなく、鶫さんのためってことですか?」

「ああ。」

・・・全てが納得できないわけではない。ボスとして、組員を気遣うのは当たり前のことなのだろう。だが何故学校に通わせることが鶫さんのためになる?

「彼女はクロードが拾った孤児でね。クロードが面倒を見ていたのだが、幼少期からずっと訓練訓練で、学校はおろか、同年代の友人も千棘や組織内の子供を除けば誰もいなかった。」

「・・・そうですか。」

…あいつ孤児だったのか。というかあの眼鏡。せめて学校くらい通わせてやれよ。

「彼女の直属の上司はクロードだから、私も無闇に口出しする訳にもいかなくてね。」

「・・・つまり、その直属の上司様がいない今のうちに学校に通わせようってことですか?」

「ははは。そう言ってしまうと身も蓋もないが、まあ概ねそんな所だね。自己満足だが、少しでも普通の女の子としての生活を送ってほしいと思って、ね。これまでの環境のせいか、言動や考え方は大分男勝りになってしまったが、それでもやはり年頃の女の子だからね。」

・・・やっぱこの人、ギャングのボスなんて肩書き似合わないくらいの善人だ。部下を見捨てず、結果的に部下のためのなるであろう決断を下す。まさに大きな組織のトップの理想像だろう。と、ここまで考えた所で1つの疑問が生まれた。

「・・・なんでそこまでするんですか?」

確かにこの人は人格者なのだろう。だがそれにしても少し情が入りすぎている気がする。眼鏡には丁度いいと言って救出せず、鶫さんに関しては暴走するのを予想した上で転校させた。年齢差を考えても扱いの差が大きいだろう。

しかも鶫さんの暴走を予想していて、それでもポーズとして転校させたということは、他の組員の暴走は認めないが、鶫さんの暴走に関しては黙認するということになる。

 いくら何でも贔屓しすぎじゃないか?

「・・・まあ、あの子には千棘の親として感謝してるんだよ。」

「桐崎の親として、ですか?」

鶫さんの親代わりとして、なら分かる。だが桐崎の?

「千棘は昔からギャングの娘として見られていたのと、クロードの過保護のせいで中々友達が出来なくてね。そんな中、鶫君は千棘の友人になってくれて、千棘のために色々な努力をしてくれた。それが親として嬉しくてね。だからまあ、多少私情が混じってしまうのかな。…今のもオフレコで頼むよ。恥ずかしいからね。」

「…言いませんよ。」

本当に、この人はとんでもない善人だ。人としても、親としても。

 

 

 

 

 

 「ところで、なんで鶫さんの下の名前が≪誠士郎≫なんですか?」

「ああ、それはクロードが彼女のことを男だと勘違いして、テキトーに名付けてしまってね。」

「・・・え?」

「ちなみにクロードは今も彼女のことを男だと思っている。」

「・・・え⁉」




ありがとうございました。
鶫の転校理由、ちょっとクサいですかね?
クロードがいない今、転校理由がほかに思いつかず…。

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