こりゃ、絶体絶命。どうしたものか。
「た…達生くん?どうしたんですか?」
きりえちゃんが聞いてきた。ここは正直に「俺も忘れてきたわ。てへっ!」とでも言っておくべきなのか?
それとも、今は誤魔化しておく?
うーん。誤魔化した所でどうするんだ。俺は
「実は俺も財布忘れてきたしまった…」
「‥‥そ‥‥そんな‥‥」
「でも、大丈夫。諦めない限り、試合は終わらないから」
自分でこんなことを言っておきながら、何が大丈夫なのだろうか?現状、今大ピンチなんだが。
と‥ここで、俺はこのピンチから脱出できそうな案が一つ頭に浮かんだ。これが、無理ならもう‥‥‥‥うん。諦めよう。
「きりえちゃん。ちょっと待ってて‥‥」
「は‥‥はい‥‥」
俺は、ささっとトイレに駆け込む。そして、ポケットからスマホを取りだし、電話帳を開き、ある人に電話をかける。
プルルル プルルル プル‥‥
「もしもし~。どうしたの~?」
スマホからは聞き慣れた女性の声。まず、電話が繋がってくれたことに感謝。
「もしもし。母さん。今静岡にいるんだけど、非常事態で‥‥」「ひ‥ひっじょうじたい?事故でもあったの?それとも、何か犯罪でも起こしたの?今、病院?警察署?交番?」
‥‥この人は‥‥。相変わらず変わらないな。
「そこまでの非常事態じゃないんだけど、今母さんの店にいるんだ」
「私のお店?どうして‥‥?what?」
「まぁ、話すと‥‥かくかくしかじか」
「で、今ここに来ていて、財布がない状態なんだ」
1分~2分ほどの説明だったが、何とか母さんには伝わった。
「お財布がないのね。わかったわ。それなら‥‥裏口に来てくれる?」
裏口‥‥となると、店の外に出ないといけないのか。
「ごめん。母さん。もう、お店に入ってしまって‥‥俺は今トイレにいるんだけど、9番テーブルに同じ部員の子もいるんだ」
「そ‥‥そうなの。困ったわね。もう、あれしかないのかしら」
「あれ‥‥とは?」
「ひ・み・つ。9番テーブルで5分ほど待っててくれる?」
何か怪しいが、頼んでいる身としてはここは呑むしかない。
「わかった。待っとくよ」
「じゃあ、待たね~」
プツ‥‥プー プー プー
心配だが、ここは母に頼るしかない。
通話が切れた携帯をポケットにしまい、俺はトイレを出た。
きりえちゃんの所へ戻る。きりえちゃんは戻ってきた俺を見ると、表情が和らいだ。きっと、一人で心細かったのかもしれない。
「それで、お財布の件は‥‥」
「それなら、5分ほど、ここで待っとけば、大丈夫」
「は‥‥はぁ‥‥」
そして、待つこと5分後‥‥
一人のサングラスをした女性が俺たちの元へやって来た。
「あなた達をタダ食いで逮捕します!」
「ええっ?だ誰ですか??タダ食いって!?」
きりえちゃんはいきなりの訪問者にひどく慌てている。
「母さん。遊ぶのはやめてくれ。きりえちゃんがパニックを起こしているから」
「か‥‥母さん??」
「あら、それは残念ね。ふふ」
そう言って、俺の隣に座るサングラスの女性。
「で、こっちから頼んでいてなんだけど、ここに来ても大丈夫なの?」
「たっちゃんが困っているんだもの。私は仕事より、助けることを優先します」
「あはは‥‥ありがとう。母さん」
本当に、この店の社長が客として、来ても大丈夫なのだろうか?と思うが、大丈夫ということにしておこう。
「え‥‥えっと?」
きりえちゃんは状況を呑み込めていないようだ。まぁ、無理もないか。
「きりえちゃん。この人が俺の母親」
「どうも~たっちゃんの母で~す。たっちゃんにこんなに可愛い彼女さんが出来ていたなんて、私は嬉しいわ。嬉しくて泣きそうだわ。ひっく、ひっく」
面倒だから。そういうの
「か‥‥彼女!?」
「違うから、電話で部員の子って言ったよね」
「部員の子といいつつ、彼女さんなんでしょ。このこの~」
母は俺のほっぺたをつついてくる。
まったく、面倒な人だ。
「ふふっ、冗談よ。確か、きりえさんだったかしら?」
「は‥はい。本場きりえです」
「救世主の私が来たから、もう安心よ。好きなもの頼みなさい」
頼りになる時は本当に頼りになる人だ。この人は
ご飯を食べ終え、お会計を済ませ、店の外に出る。母さんもお昼を食べてなかったらしく、母さんもご飯を食べていた。
「ふぅ~やっぱり、美味しいわね~。じゃあ、私。そろそろ行くわね」
「ありがとう母さん。今日はすごく助かったよ」
「ご馳走して頂きありがとうございました。このお金はいつか‥‥返」
「いいのよ。いいのよ。いつか、恋人同士になるんだもの。ご馳走するのが早かろうが、遅かろうが、どっちでもいいわ。ふふふ」
本当にこの人はからかうのが好きだな。まぁ、そこが面白い面でもあるけど
「はいはい。じゃあね。母さん」
「さようなら。本日はありがとうございました」
「またね~。青春はまだまだ、だからね~」
こうして、俺ときりえちゃんは救世主と別れたのだった。
そして、帰りの電車の中。
「ごめんね。母があんな人で」
俺は溜め息をつきながら、きりえちゃんに言った。
「いえ、今日はお世話になりましたし、何よりも優しそうな人でした。まるで、うまるさんのような‥‥」
きりえちゃんは何か想像しているようだ。
うまるちゃん?うまるちゃんと母さんかぁ‥‥
うまるちゃんが優しいのも、母さんが優しいのも間違いないが‥‥
「あはは‥‥」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね」
母さんは単なる子供だからなー
俺はそんなことを思いながら、きりえちゃんといろんなことを話して、楽しんだのだった。
いろんなクロスオーバーのリクエストありがとうございました。次回から、ある漫画とクロスオーバーさせていこうと思います。その漫画は現在もマガジンで連載しています。