そう、あれは…
確か1ヶ月前ぐらいだったのことだろうか
1ヶ月前の金曜日
部活も終わり、自宅に帰宅する。家に入ったとき、達生の目にしたものは
「えっ…母さん?」
「あらっ、たっちゃん。今帰宅…?」
久しぶりに達生の母が家に帰ってきていた。祖母とテーブルでお茶を飲んでいた。セミロングの黒髪に年齢は40行ったか行ってないぐらいだったけ?正確な年齢は覚えてない。
会うのは1年ぶり?ぐらいだろうか。急に母親がいたことに驚きを隠せなかった。
「こんな、夜遅くに…夜遊びしてないでしょうね?」
「部活だよ。部活。いつものことだよ。しかも、夜遅くって、まだ7時だよ。後たっちゃんって、俺もう高校生なんだけど…その…やめてくれない?」
「まだ7時?…うっかりしてた」
どうやら、母はうっかりしていたようだ。仕事には熱心であるが、時々うっかりしている時もある。うっかりしている時が、実に面白い。あだ名については一切触れられなかったが…
「で…今日はどうしたの?帰る時はいつもメールをくれるのに」
「それは…実はね…」
いつも家に帰る時は事前にメールをくれる。だが、今回はメールがなかった。メールがなかったことは今回が初めてだった。
もしかして、うっかりしてメールを送り忘れていたのかな?
「母さん…社長になっちゃいましたー」
!?…?
「「パチパチパチパチ」」
祖母と母は拍手をしている。社長?うっかり者の母さんが?
未だに理解が出来なかった。
「ここは拍手をする所でしょ!」
「いやいや、いきなり「社長になっちゃいましたー」とか小学生が言いそうなことを言われても…」
「この子は頭が固いんだから」
頭が固いとかそう言う問題なのか?俺が間違っているのか?
いきなり、「社長になっちゃいましたー」とか言われて理解できる高校生は……いるちゃいるかもしれないけど
ここで、達生は思った。
母さんがうっかり者、かつ天然であることに
「で…社長さんが家に帰ってきても良いの?社長は忙しいのでは?」
「…忙しいけど…母さん。あることを思ったの」
あること?家に帰らないと出来ないこと?
「たっちゃん。母さんの仕事知らないでしょ?」
「母さんの仕事?確か、料理的な感じだったよね?」
「場所は?」
「し…静岡県…?」
「……」
「……」
うん?何が聞きたかったんだ?全然意味がわからない。こんな母さんがよく社長になれたな…
「ごっほん。今回は母さんの仕事を見てもらいたいと思います」
「仕事を見る?」
「今まで、母さんの仕事はある程度わかっていても、実際に見ないと、どんな仕事をしているかはわからないでしょ。だから仕事場を紹介しようと思って」
「紹介ねぇ……」
「社長の特権で何とか了承をもらえたの。一番、店長の海老名くんから了承をもらうのは難しかったわ。日時は明日」
え……海老名?海老名くん?
海老名ちゃんと同じ苗字の母さんが言う『海老名くん』
世の中には同じ苗字の人はいっぱいいる。もしかしたら、海老名だっていっぱいいるかもしれない。
だが、この母さんの言葉には何かを感じる。何かって、何だ?と聞かれたら、説明することが出来ない何か。男のカンではない何か。こういう時の『何か』は当たらないときが多いが、今回は一緒に行ったら、何か……何かを発見できる気がする。
「わかった。明日の部活はないから、行くよ」
「良かったぁ……これで断られたら、家に帰った意味ないもん」
都合が良いことに明日と明後日の部活は休み。今日、顧問の佐藤先生が「たまには休むべし」とか言っていたような覚えがある。
これも行かなければならない、運命的なものだろうか……
「で…何時出発?」
「えーと…4時」
「4時!?結構早いな…。じゃあ、今日は早めに寝ないと」
こうして、達生は静岡に行くことになった。
最後に達生が思ったことはただ、一つ…
何か母さんと話していると…年下か同年代の子と話してるんじゃないかと思ってしまった。
うっかり者ではあるが、天然ではない。
単なる子供だ