俺が死んでから2日が経った。
クエストはどうしたと聞かれればこう答えるしかない。
【怖いです。働きたくないでござる。】
死んだことにより俺の精神は結構なダメージを食らっていたらしい。
働かせてもらってる身でワガママは言えないとか思ったし、クエストはきちんと受けようとも思った。
でも、いざ転送される、と思うと
「うわぁああああ!ちょ、タンマ!たんまでお願いしますぅぅわぁ」
と、反射的に叫んでしまう始末。
なんか、身体が思うように違う意味で動かない。
そんな訳で今はこうして、ギルドハウスから少し離れた位置にある宿屋でゴロゴロしています!あー、働きたくないでござるぅ、働きたくないでござるぅ。
そしてなんとこの世界、漫画があった、今ゴロゴロしながら読んでいるのは
「王と王と、一般市民と蝿…か、んー、半分まで読んでみてるけど蝿の意味が分からないままだな…」
また1ページ、ぱらりと捲っているところに
部屋の扉が思い切り開かれた!
「おぃいいいい!!まだゴロゴロしてんのぉおお!?」
そこには汗だくのライトが、
「ぁあ、ライトか、どした?」
「どした?じゃなくてェェ!一刻も早く、クエストに向かうぞォォォ!!!!」
漫画を取り上げられ、布団を剥がれる。
「____なにすんだよっ!」
俺が怒りと驚きを混ぜた声でライトに問いかける
「忘れたの?!早く聖王を倒さないと僕達の肉体は朽ちてしまうんだよ!!!だから、早くッ!!」
________あ、そうだ、忘れてた。
「ヤッベェぇ!漫画なんて読んでる場合じゃねぇじゃねえか!!早くクエスト行くぞォォォ!!」
バタバタとパジャマから動きやすい半袖、半ズボンに履き替え、外に飛び出す。
「__いや、まじでごめん、ちょっとビビっちまってた!けど、それどころじゃねぇよな!!!」
宿屋から飛び出した俺達はすぐ近くのギルドハウスへ入り、
「メティアさぁぁぁん!!クエスト、クエストをお願いしますッ!」
突如、休暇を取っていたと思われる俺と汗だくのライトにクエストを!と頼まれたメティアさんは困惑顔だ、でも関係ない。
「お願いしますッ!前回と同じクエストでも構いませんからっ!」
「えええ?!!も、もうお怪我は大丈夫なんですか?!」
「はい!万全ですッ!!!」
俺が腕をブンブン回して元気なことを伝えると、では…と、一息ついて。
「そうですね、やはり最初から対人戦はキツかったようです、なので対モンスタークエストにしましょうか?」
「え、?対モンスター?それって身内を殺すってことですか?」
ライトが共殺しは嫌だ!と抗議する。
「ちが、違いますよっ!!私達悪魔はモンスターではなくアンデッドですから、モンスターというのはですね、どちらの軍勢にも味方していない生物達のことです。そうですね、具体的には狼とか、デスフラワーとかですかね、狼男はアンデッドなので味方ですが。」
つまり、俺達悪魔はモンスターではないので、クエスト内容は敵でも味方でもないモンスターを討伐せよ、と。
でも、敵じゃないなら討伐する必要はないのでは?
「どうしてモンスターは討伐しないといけないのです?」
「そうですね、モンスターは基本敵ではありません、ですが、始まりの野原などに居座られると勇者軍に攻め入る時に邪魔になりますし、時には有害なモンスターもは現れます、なので排除しておく必要があるのです」
そう言って、クエストの内容の書かれた紙を指差し、
「今回討伐してもらいますは巨大な蜘蛛【ビックスパイダー】の討伐になります。前回行ってもらいました始まりの野原ですが、そこにこのビックスパイダーがポツポツと出現し始めました、このモンスターですが、毒を吐いてきます、毒を浴びたら死にはしませんが全身が痒くなります。嫌なモンスターですよね、いっそ殺してくれって思うほど痒くなるそうです。人間に向かって、アンデッドに向かって毒は吐いてくるそうです。どうか毒には注意をして討伐に挑んでください!」
「えぇ、それって敵じゃないですか……っ!」
全身が痒くなるって、嫌だなぁ、俺蚊さえも嫌いなんだよなぁ。
あのつい掻いちゃう痒み。
大ッ嫌いだ。
まあでも仕方ない、2度目の人生の為だ、頑張ろう。
とりあえず毒には気を付けてやって行こう。
「よし、行くかライト!」
「僕の電撃で1発だよ!」
うん、なにやらワキワキしてるからライトに任せれば大丈夫そうだ。
「では行ってらっしゃい!頑張って下さいね〜」
軽い微笑みをかけて、俺とライトをトラウマの眩い光が包み込む。
「うっ、うわぁぁぁっひょぉぉぉおおお」
一瞬出掛けた悲鳴を無理矢理歓声に変化される俺、俺すげぇえええ!
とでも思ってないとまたこの転生から逃げてしまいそうだ。
グッと目をつぶり、転生が済むのも堪える。
ブゥゥワンッ
転生が完了したのか、足が草を踏みしめている感触がある。
「来ちまったなぁ。」
「んーっと………」
俺がやだなぁ、帰りたいなぁ、日本に。その為には頑張らないとなんだよなぁ。ぁーと憂鬱になりつつもなんかよく分からない気分になっているところに
「うっわぁぁあー!!デカイッーー!」
横からそんな叫び声が、俺も足元から目を逸らし、前方を見てみると
そこにはワシャワシャと動く、巨大な、蜘蛛が!!!
「うわぁぁぁっ!!!?」
今までの常識とは異なる、デカくてデカくてデカイ、とにかくデカイ。そして、キモい。
日本の蜘蛛みたいに手で潰せそうにもないし……どうしたものか。
「おいライト、ちょっと1発雷が効くかどうか試してみてくれ」
ライトは指示に従い、右手をパーの形にして、蜘蛛に向ける。
「『ボルトロケットパーァンチ』」
思いのほかダサい詠唱をしたと同時に右手よりバチバチと雷が発生し、それは蜘蛛に向かって放たれる。
バチィッ!!と蜘蛛にあたり、蜘蛛はベタりと地面に突っ伏す。
蜘蛛に雷は有効…と。
なら今回のミッションはお手頃っぽいな。
「ライト、もっとだ、もっと倒してくれ!」
「うへぇ…」
そこには蜘蛛と同じように突っ伏したライトが!
「どうした!?大丈夫か!?」
「アークさんの言った通りだ、制御が効かない……コントロールは大分コツを掴んだんだけど……ダメだ、身体に力が入らない…あ、ちょっと、こっちに蜘蛛きてる、やばい、動けない。ちょ、タイチ、頼む、蜘蛛倒して!」
ワサ…ワサ……あー、振り向きたくねぇ。
このままライトを置いてささっと逃げたい気分だが、動けないライトを放っておくわけにもいかないし。
戦闘力、たったの5か、ゴミめ。な俺だけど、殺ってやらァ!!
振り返り、剣を手にぎゅっと握りしめ、目の前の蜘蛛……
に、威勢よく叫ぼうとして_____
「って、居すぎだろぉおおおおッ!!!!!」
予想では2.3匹かと思ったが、斜め上を行き、蜘蛛は7.8.匹居た。
無理だわ。うん。全身痒くなる毒、避けれねぇわ。
「ライトさァァァン!!!!!、頼む、助け_____」
助けを乞う前に、一斉に蜘蛛の口から放たれた毒に全身侵される。
______「痒ゅーーーーーーーっ!!!」
想像を絶する痒さが全身を駆け回り、そのまま地面に倒れ、ジタバタする。
「痒いッ!!痒い痒いああああああ痒いィーーーッ!!!」
息が、痒すぎて出来なくなり、こんな死に方嫌だと思考する暇も痒すぎてなく、意識が薄れ_____
「『ライトニングッボルトォォォ』」
______ライトの全身から雷が発せられ、周りの蜘蛛全てを薙ぎ払う!!!と同時に近くに居た俺も巻き添えをくらい
「イダダダダーー、!!かゆ、かゆかゆーーーッ!!」
痒さと痛みがもう訳分からんくらいに全身を支配して___
ライトは全マナを使い切ってしまったのかプシューと、倒れ込み__
またワサワサと沸いた蜘蛛に囲まれ____
ぁぁ、神様____。
「誰かァァァッ!ぁあっかゆ痛ィイ!!助けて痒い、助けてくれぇええええええ」
俺が死ぬのはともかくライトも危機的状況なので、助けを求め大声を張り上げる。しかし応答してくれる声はなく、ただワサワサと動く蜘蛛達の移動音だけが耳に______
その時だ。
「さぁ、倒しなさい、我が下僕、スケルトン達よッ!!!」
そんな声が_____聞こえた気がした。