……身体が、思うように動かない。
俺は今、どんな状況にあるんだろうか……
ピッ、ピッ、ピッ…という機械音が耳に絶え間なく届いている
ゾンビという特殊能力で俺は死なないはずだ…
だが、手の感覚、足の感覚が……ない。
そうか、思い出した____俺は……
■
ギルドハウスから転送された俺は、変な浮遊感から解放され…、目の奥が太陽の光で熱いのが分かる、
目を開けると、まさに初心者が来るべき場所のような平和な野原が広がっていた
「っわ、すげえ!」
こっから俺の新生活が、始まっちゃうわけかぁあ!!
「ん。よし、じゃあタイチ、クエスト内容を確認しよう」
ライトがズボンのポケットからクエスト内容が記載されている紙を取り出し、地面に広げる
【D級勇者を1人倒せ】
と、書かれている
「おい待てよ、D級勇者ってなんだ?」
初めて聞いた単語に首を傾げる
「メティアさんが言ってた兵士のランクみたいなものだよ。」
いや、ごめん、よく聞いてなかった。
「説明頼む」
「なんでだよぉ?!ぁあ…分かったよ」
ライトが説明してくれた事をまとめると
こうだ。
まず、一番上にアーサー
その下にS級勇者
その下にA級勇者
その下にB級勇者
その下にC級勇者
その下にD級勇者
その下に兵士がいるらしい。
…つまり、こういうランクみたいなものだった。
ぶっちゃけ言うとD級勇者ってのは兵士とさほど変わらないらしい
しかしB級勇者より上になると上位6級悪魔以上、つまりは特殊能力を会得していないと厳しいようなものらしい。
「おい待てよ、それ俺達B級勇者とか特殊能力持ってるからいけちゃうじゃんか」
「いや無理でしょ?だって相手は戦い慣れしたゴロツキ共、こっちは1人は戦闘の役に立たない役立たずと僕の雷人だけ、つまり戦えるの僕しかいないじゃん」
おっと、足でまといと遠回しに言われた気がする。
「ふ、舐めるなよ。俺はなぁ」
自分の頭を人差し指でポンポンとつつきながら
「知恵で戦う男よ!!!IQ200に任せなっ!!」
「へぇ、IQ200、それで補習とかまじ笑えるわ〜〜」
「ぐっはぁあああああ!!補習とか、言う……な…」
ここが戦場だということを忘れ、軽口を叩きあっている所に
「お前達っ!!何奴ッ!!!!」
と、声を飛ばされた
声のした方向を見ると、スカーフを頭に巻き、ピタッとした鎧を来て、動きやすそうなズボンを履いた男が居た
「おいライト、どうする」
「まずは相手の出方を伺おう」
「何奴だ、見かけない顔だな」
「お前こそ何奴だぁ!」
俺が相手の素性を探ろうとする、それに対して相手は、ほう。と頷き
「はっは、この俺を探ろうというのか、はっはっは、貴様……」
ギロりと睨まれ、少しビビる
「人間……ではないな。つまり悪魔か。」
「な____おいライトバレてるぞ、戦闘準備」
悪魔ということが早速バレた、なんで?!なんで?
相手は剣を抜き、
「この俺の顔を見て、名前が出てこないのだ、人間ならば知らぬ人間は居らぬだろう、良いだろう、貴様ら悪魔はどの道死ぬ身、冥土の土産に持っていけ…我が名は【フェルグラント】、S級勇者である」
…………え…
右手にじとりと汗が滲む、見るとライトの方も額より汗が溢れている
「えぇえ…えす、S級勇者ぁあぁ!!!!!なんでこんな所に!?」
「ここは始まりの場所じゃないの!?なんでラスボス側近が居るんだよぉおおおおおおおおお!??!」
ライトと俺の重なる疑問符を無視し、近づいてくるフェルグラント、1歩また1歩と近づかれる度に心臓の鼓動が加速していく。
汗が止まらない、ライトに逃げるぞ。と伝えたいが、S級勇者だからだろうか、威圧感が半端ない、口を開らけずにいる…
「………(ちょ、これやべぇって…)」
見ればもう剣先が届く距離まで来ている、あ、これ……死___
死を覚悟した時だった
「ライトニングゥゥボルトショォオオオック!!!」
隣に居たライトからバチバチと雷が炸裂し、見事にフェルグラントに直撃する。
「………く、やった、よくやったライトぉおぉうわぁあああ」
「はぁっ、はぁ、はぁ……タイチ、お前ぇ…足が竦んでただろう…流石足でまと……はぁはぁ」
「………それについてはまじごめんって、最初からS級勇者とかまじビビ………る…っ…て…」
おかしい、ライトの雷が炸裂したはずのフェルグラントが直立不動で動かない___立ったまま死んだのか?
そんな疑問は直ぐに吹き飛んだ____いや、意識すら……
「ほう、雷を出す能力か、だがまだまだ甘いな。」
「生きて___っ!!?」
「………ぁが…ぐファッ」
フェルグラントより放たれる剣撃に反応することが出来ず、そのまま立て続けに何かを詠唱され、身体を何かに圧迫される___苦しぃ
「ライト………逃げ_____ぉ」
最後まで言い切れずに、俺の意識は完全に途切れてしまった。
遠くで、「タイチィィ」と言うのが聞こえた気がする………
プツリ________
■
ここは______?
うっすらと目に届く淡い光を、なんとか見ようと目を開ける…
……身体が思うように動かない。
俺は今どんな状況にあるのだろうか…
ピッ、ピッ、ピッ、という機械音が耳に絶え間なく届いている
ゾンビという特殊能力で俺は死なないはずだ…
だが、手の感覚、足の感覚が……ない。
そうか、思い出した______俺は、
【死んだのか】
危なかった、今ごろゾンビじゃなければあのミカエルの所に逆戻りだった。
再生中なのだろうか、ハラハラと塵のような物が目の前を行ったり来たりしている、段々と手が元通りになりつつあるのが分かる。
あ、ライトは………どうなったのだろうか____
その時だ。
「タイチィィィ!!大丈夫なの?怪我は……怪我どころじゃないけどゾンビだから再生して平気そうだね!良かったぁあ…」
聞こえた、ライトの声だ。そうか、お前も無事だったのか…
「でも、何故だろうね、始まりの平原と呼ばれている野原にS級勇者が居たのは……」
「ですね、でも何にせよ無事でよかったですよ、お二人共!」
続いて、アークさんとメティアさんの声が聞こえた。
なんとか戻ってこられたのだと認識し、安心する。
「ぅ、ライト……皆さん_____」
遂に口が再生されたのか、声が出せるようになった。
殆どの部位が再生完了のようだ。
「タイチ、平気なのかい?」
「あ、まぁ。そうですね…、なんとか…はは、ゾンビじゃなかったら死んでしたよ、文字通り。」
「そうだね、ゾンビという特殊能力が再生能力だと分かったよ、ありがとう、でも危ないところだった、俺が駆けつけていなければ今頃はもっと酷かっただろう」
俺の再生構築された肩にポンと手を置き、腰に手を回してアークさんが硬いベッドのようなものから座る体勢にしてくれる。
それを見て、本当に無事だということを確認出来たのかライトがふーっと息を吐き
「正直、僕死んだと思ったよ…タイチも、僕も。間一髪の所で僕がアークさんに連絡取れたから良かったものの……ふぅ」
「連絡?連絡手段なんてあったのか?」
ライトがポケットをゴソゴソと探り、中から折りたたみ式のいわゆるガラケーみたいなのを取り出し、
「うん、これでね、あ、この話もタイチ聞いてなかったんだっけ?これは電波が届く場所ならどこからでも連絡できる機械、通称【連絡機】」
名前そのまんまだなぁ……、って、ええ、そんな便利なもん渡されてたのかよ?!
「い、いつの間に……」
「まあこれで連絡が来た時はテスト連絡かな?と実際思ったよ、けど事が緊急そうだったからね、すぐそこに転送で飛んだよ、まさかフェルグラントが居るとは____」
まあ少しだが状況が飲み込めた気がする。
「それで…あの、クエストの方なんですが、場所を変えてやってもらうということに……」
メティアさんが恐る恐ると言った感じで伝えてくる___休む間もなくクエストか……少し死にかけた俺は気が進まないが、働かせてもらってる身でワガママは言えない。
「分かりました、」
こうして俺達は2度目の初期クエストに挑むことになった。
まさか一回目の初クエストがこんな事になるなんて____。
前途多難だな……はは