今日学校にタヌキが出た。しかもただのタヌキではなく、エクトプラズマという霊媒物質を使って変身する正真正銘の化けタヌキである。
そいつは鵺野先生に化けて律子先生にイタズラしたり、5年3組の給食を食い尽くしていったり、真っ裸(もちろん鵺野先生の姿のまま)で爽やかに走ったり……直接的に俺たちへの被害は無かったものの、鵺野先生を社会的に殺そうとする恐るべき相手だった。ま、まあその原因は鵺野先生の妄想をタヌキが読み取ったせいだったりするわけだが……。律子先生には山芋(比喩)という被害まで出したし……うん。恐るべき相手だったな!
みんなでタヌキを探す際、ビビりの俺が見つけてしまったら俺の今までの恐怖体験を感じ取ってとんでもない妖怪キメラに変身してしまうのでは……。そう思ってあまり真面目に探さなかったのだが、ふと気になって掃除用具入れを開けたら見つけてしまった。最近無くしものをしてもすぐに見つけられる事が多く、勘が鋭くなったのかと喜んでいたがこんなところで発揮されなくても……。
が、いざ見て見れば霊媒物質を発して変身しようとしているもののタヌキは可愛かった。俺動物好きだけど、実家の時は面倒見切れないだろうから飼うなって言われて、一人暮らしの時はペットNGのアパートだったから身近に動物居たことなかったんだよな。だからつい可愛くて手を伸ばせば、思いのほかすんなりと頭を撫でさせてくれた。
そのまま抱き上げて「捕まえたぜー」とクラスのみんなに報告すると、最初は恐る恐るだったものの皆も可愛い可愛いとタヌキに寄って来た。すると好意的な感情を寄せられたからか、タヌキはエクトプラズマを発することをやめて大人しく俺の腕に抱かれて撫でられていた。……可愛いな、こいつ。
鵺野先生にも「よくやったぞ樹季!」と感謝され、今回の騒動は非常に穏やかな終わりを迎えた。
しかし問題はこのタヌキをどうするか、だ。一応しばらく学校で飼って変身しないように教え込むという運びになったが……問題は俺である。
なんというか、タヌキに懐かれた。俺が離れようとすると切なげに鳴くわ、それでも離れようとすると変身して(美樹の記憶を読み取ったのかろくろ首になって首だけ伸ばして来て泡吹くかと思った)ついて来ようとするわ……撫でて抱き上げただけなのに、何故こうも懐く。俺は動物限定の撫でポスキルでも持っているのか?
「多分、こいつはお前の気に惹かれてるんだろう」
「気?」
鵺野先生の言葉に首をかしげると、俺に抱かれて気持ちよさそうに目を瞑っているタヌキを撫でながら先生が言う。
「ヒーリングを使えるお前の気は優しい慈しみの気配がするんだ。動物は人間より霊感が強いし、特にこいつなんて変身までする。色んな人間に捨てられたコイツにとって、優しい感情を向けてくれたお前の気に安心して仲間みたいに思っているのかもな」
「はあ……そっスか……」
あながち撫でポスキルが間違っていなかった件。え、じゃあ俺がこいつ可愛いな~優しくしたいな~って思えば動物は俺にベタ惚れ? な、なんてこった……! こりゃあ、もっふもふのおさわり天国も夢じゃないぞ!
と、冗談言ってる場合じゃないか。この分だと帰宅する時もついてきちゃいそうだなぁ……。
ふと見下ろすと、目を覚ましたのか俺を見上げてくるつぶらな瞳と目があった。
「うっ」
や、ヤバい……! 撫でポとか言ってる場合じゃないぞ。俺の方が落とされそうだ。というか、あと一押しされたらまず……
ペロッ
「先生、こいつ俺が飼います」
頬っぺたを舐められて瞬時に俺の心が陥落した瞬間である。
その後俺は、前の世界の時のように「面倒見切れないだろうからダメ」と反対されるも、今年の誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントはいらないからと両親にねだりにねだってタヌキを飼う許可を勝ち取った。
色々申請したり許可をもらうのが大変だったが、なんとか先日タヌキは我が家族になった。化けタヌキだけあって普通のタヌキより(といっても普通のタヌキがどんなもんか知らんが)頭がいいコイツはすぐに両親にも気に入られて、現在我が家のアイドルである。
今日も俺の使い捨てカメラが火を噴くぜ! 後で父さんに仕事帰りに印刷出して来てくれって頼まないとな!
多分以前の生活にこいつがいたら、今頃俺は慣れないインスタグラムやフェイスブックにも手を出して画面をタヌキの写真で埋めていただろう。きっとユーチューブにも手を出してたな! こいつの愛くるしい姿を全世界の人間に見せてやりたいぜ!
ちなみに名前は「豆太郎」にした。豆みたいに小さくてつぶらな瞳が可愛いからな!
これは日頃の憂鬱な気持ちが少し軽くなった、ちょっと嬉しい出来事の話。
…………まあ、おまけで化け癖を治させるという使命が追加されたんだけどな。
豆太郎は現在俺と一緒にぬ~べ~先生と修行中である。
短いですが好きなお話だったので追加。
あのタヌキ可愛かったからマスコットとして準レギュラー化して欲しかったんだ……。