樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

6 / 21
ロイヤルプラチナノーブルフラッシュレインボーだよ馬鹿野郎!(#24 Aが来た!より)

 ________ Aに出会うとこう聞かれる。赤が好き? 白が好き? 青が好き?

 

 

 

 

 青と答えれば水に落とされて殺される。

 

 白と答えれば体中の血を抜かれて殺される。

 

 そして赤と答えれば、血まみれにされて殺される……。

 

 

 

 

 

 ______________。。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたのは放課後、帰路の途中だった。

 

 今日は童守町全体を何やら物々しい雰囲気が包んでいる。大人たちは一枚の紙を手にあたりを警戒し、パトカーが何台も道を行き交っていた。

 よそよそしい態度をとったかと思えば、ピリピリとしながら子供たちに早く帰れ、寄り道をするなと警告する大人に子供たちは困惑する。俺はその様子を見ながら喉が酷く乾くのを感じた。

 

 

(まさか、今日なのか)

 

 

 ごくりとつばを飲み込んで、手に汗を握った。そしておぼつかない足取りで歩き、帰り道の途中の駄菓子屋で爆竹とBB弾、玩具の銃を買い込んだ。情けない装備だが、事前に準備できなければ俺に出来る自衛手段などこんなものだ。

 

 本当なら、さっさと家に帰るべきだ。今はまだ早い時間で、空も青く怪しい夕暮れ時までには時間がある。

 だけど今日はたしか広たちが教室に残って、学級新聞を作っていなかったか……? ああそうだ。そういやさっき、教室を出る前に「お疲れ~。まだ随分とかかりそうだな。頑張れよ」と声をかけたんだっけ。

 そう考えたら、気づけば俺はなけなしの装備を手に学校へと戻っていた。広、郷子、美樹はやはりまだ教室に残っていて、「あれ、樹季どうしたの?」と聞かれて俺は引きつった笑いで「忘れ物」と嘘をつく。ドジだと笑われて、俺も内心を悟らせないように笑った。多少引きつっていたのはご愛嬌だ。

 

 その後他の大人たちのように妙にピリピリとした雰囲気の鵺野先生に早く帰るようにと促されて、俺たちは帰宅することになった。

 最初こそ鵺野先生に無理言ってでもつきそってもらおうとも思ったが、多分大人が近くに居れば"あいつ"は出てこないだろう。もちろん会わないのが一番いいけど、それだと別の誰かが被害にあうか日をずらして別の日に襲われるかもしれない。……そう考えたら、遭遇した時の対策もろくに無いのに俺は先生に何も言えなかった。

 多分、俺のせいじゃないけど俺のせいで別の誰かが死ぬかもしれないってのが怖かったんだ。「本当に会うわけないかもしれない、大丈夫かもしれない」って甘えもあったんだろうな。

 

 けどそれで広たちが本当に奴に遭遇してしまったなら、不確定ながら未来を知ってたのに対策出来なかった俺の責任だ。誰がそれを知らなくても、俺は、俺自身だけはそれを知っている。だからせめて俺に出来る精一杯をやろうと思ったんだ。後になってとんでもない自惚れだって痛感することになるんだけどな。

 

 太陽が姿を隠し始め、それに伴って足元の影が伸びていく。

 広たちは俺が違和感を感じたように周囲のものものしい雰囲気を疑問に思ったようで、町全体の嫌な空気に不満そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、ふと周囲から人の気配が途切れた時だ。人の視線から外れ、ぽっかり空いた空白。俺たちだけしかいない空間。

 

 そこに奴は来た。

 

 

 

 

 

 

『赤が好き? 白が好き? それとも青が好き?』

 

 

 

 

 

 

 

 血で染まったような真っ赤なマントに、シルクハット。黄昏時の薄暗い空気にぼやっと浮かぶ白い仮面。……手品師か、はたまたどこぞのサーカスから抜け出してきた道化師か。何も知らなければ、その奇妙な風貌に笑ったかもしれない。しかし俺は知っている。コイツの正体を。

 

 

 

______________怪人A。30年間も捕まらない、下校中の子供を狙った殺人鬼。すでに100人以上が惨殺されているという。噂によればもとは普通の床屋だったが、子供のいたずらで店が火事になり大火傷を負ったAは、子供を酷く憎んでいるという…………。____________

 

 

 

 だけど頭で考えていたように体が動かない。そしてそんな俺の気も知らないで、男の妙な格好に笑っている広、郷子、美樹が問いに答えてしまった。

 

「俺は燃える闘魂の赤!」

「あたしは清純派の白!」

「わたしはブルーベリージャムの青! で? 答えると何かくれるわけ?」

 

 答えた後にお気楽にも男に近づく美樹を見て、固まっていた体が跳ねるようにして動く。

 

 

 

「ロイヤルプラチナノーブルフラッシュレインボーだよ馬鹿野郎!!!!」

 

 

 

 俺はやけくそに叫ぶと、父さんからくすねて持っていたライター(キャバクラの名前が書いてあったのには目を瞑る)で爆竹に火をつけ赤マントの男こと「怪人A」に投げつけた。

 

「え、樹季!?」

「簡単に言うぞ! そいつはロリショタ限定変態妖怪殺人鬼だ! 近づくな殺されるぞ!!」

「いい!? なんだそりゃ!」

「広、女子後ろに下げろ! でもって逃げろ! 鵺野先生呼んでこい!!」

 

 少しでも怯めば足がすくむと、怒声に近い声で叫んだ。しかし突然のことに広も郷子も美樹も戸惑っている様子で、いまいち動きが鈍い。そしてAは爆竹などものともしないようにマントで振り払うと、ぼそりとつぶやいた。

 

『レインボー……七色……プラチナ……白……。つまり、全部』

「まさかのポジティブ解釈にビックリだよ!!」

 

 そんな前向きに物事を考えられるなら火傷にくじけず真っ当な人生を生きてくださいクソが!!

 

 俺は微量ながら霊力を込めて玩具の拳銃でBB弾を撃つが、浮遊霊程度ならともかく当然ながら人間相手じゃ効きやしない。

 そうなのだ……。この男、妖怪じみてはいるが生身の人間である。強かろうが弱かろうが、そもそも霊能力が効くわけなかった。しかし無抵抗というわけにもいかず、残りの爆竹も全部投げつけようとライターに手をかけた。

 

 

 

 が、気づけば音もなくAの仮面が真正面に迫っていた。

 のっぺりとした白い仮面の下からのぞくぎょろりとした目と視線がぶつかり、俺は金縛りにあったかのように固まった。

 

 

 

「「「樹季!?」」」

「ひっ!」

 

 強く手首を掴まれ、その強い力にぞっと体が震える。引っこ抜こうにもビクともせず、俺は今さらながら大人と子供の力の差というものを思い知った。赤子の手を捻るように、という表現がふと頭をよぎる。

 …………妖怪相手じゃないと、化け物じみていようが正体は胸糞悪い殺人鬼だと、そう思ってちっぽけな大人としての矜持を奮い立たせたつもりだった。だけど俺は今の自分も無力な子供であるという自覚が薄かったらしい。手を振り払えないってだけで怖くて怖くてたまらなかった。

 

 だけど、ただ黙ったままでは良いようにされるだけだ。

 思いっきり虚勢だが「テメェのタマキンぶっつぶしてやらぁ!!」と叫んでAの股間めがけて足を蹴り上げた俺頑張った。超頑張った。けど、つま先が捕らえたのは布だけで……………………はずしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!! なんだよこいつ足超長ェよ!! マントで分かりにくいけど股の位置たっけぇな!!

 で、そうこうしてたら気づけば体を抱え込まれて宙を舞っていた。見上げれば仮面の下から酷い火傷のような爛れた肌をのぞかせるAの顎……こんなローアングルいらんわ! どうせ下からのぞくんだったら女子高生のパンツとかが良かった。

 

 けど、そんな阿呆な事考えてる余裕はすぐに無くなった。

 俺はAに学校の屋上にある貯水槽に連れて行かれ、まず逆さに吊るされて首にいくつもの細い管をぶっ刺されて血を抜かれた。そしてそのまま体を真正面から鎌で切り裂かれる。あたりには俺の血が飛び散り、切り傷の方は浅いものの「あ、これ死んだ」と思った。けど反面、考える力が残ってる分まだ大丈夫だとも思ったんだが……。

 貧血で意識がもうろうとする中、ぶっといロープに石をくくり付ける奴の姿が映る。そしてそれは俺の体にくくり付けられ…………。って、おい。

 

 

 待て待て待て!! 死ぬ、今の時点で死んでないのが嘘みたいだがそれはガチで死ねる!! 助けられる前に死ぬ! 出血した状態で重石付きで水の中放り込まれたら普通に死ぬ!!

 

 しかし意識に反して俺の体はぐったりとして動かない。そして俺の小さな体が持ち上げられて……。

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 

 

 

 

 ぬーべー先生イィィィィィィ!!!!!

 もう駄目だ、そう思った時だ。我らがヒーロー、鵺野先生が駆けつけてくれた!! ナイス、圧倒的ナイスタイミング!! 流石主人公!! あんた最高だ!!

 

 Aは鵺野先生を見ると、思いのほか潔く逃げ出した。しかし俺は忘れていない……俺以外に、奴に回答してしまった子供の事を。

 

「せ……んせ……」

「樹季、樹季! 大丈夫か!? 待ってろ、今すぐ救急車を呼んでやるからな!」

「俺は……まだ、大丈夫……だけど、広たちが……危ない……あいつらも、Aに答えちまってる……」

「! しかし、」

「い……行って! 行ってくれよ!! すぐ下だ! 俺は、自分のヒーリングで、なんとか、する……から!」

「樹季、お前……」

 

 渋る鵺野先生を行かせるために、何とか回復しようと自分自身にヒーリングをかけた。すると以前より効果が増したのか、叫ぶ力くらいは戻って来たようだ。心なしか傷も少し塞がった気がする。……ヒーリングって、自分にもかけられるんだな。ぶっつけ本番の思い付きだったが良い発見をした。

 

「行ってくれ! お願いだから!」

「くっ、……わかった。お前の気持ち受け取ったぞ! 広たちは絶対に助ける! それまで死ぬなよ!」

「っす!」

 

 鵺野先生と拳を突き合わせると、俺はぐったりと体を地面に投げ出した。

 ヒーリングの力を意識して体中に広げ、回復を促す。どうやら他人に施す場合でなければ手のひらから気を発する必要は無いようだ。霊能力に目覚めた時は全力で能力を地面に叩き付けたかったが、命が助かるならそう悪いばっかりのもんでも無いか……。

 

 それにしても馬鹿やったもんだ。

 

 鵺野先生みたいにとはいかなくても俺だって中身だけとはいえ大人だ。無意識に妖怪相手じゃビビって駄目でも人間相手ならちょっとは子供を守れるかもって思ったんだろうなー……。いや、フタを開けたらキチガイ殺人鬼ってレベルを超越した化けモンだったわけだが。子供とはいえ人一人抱えて屋上までひとっ跳びってなんだよ。怪人ってか超人だろ。

 時間稼ぎくらい出来るかと自惚れて、爆竹の音で大人が駆けつけてくれないかと期待した。……だけどその結果がこの様だ。かっこ悪ィな、俺。

 

 

 

「頼むぜ、先生。あいつらを助けてやってくれよな……」

 

 

 

 出来る限りの回復をした後、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めた先は病院だった。

 気絶していた時間はそう長くなかったらしく、ベッドの傍には鵺野先生、広、郷子、美樹が居て目覚めた俺に口々に声をかけてくれた。両親にも連絡してくれた後らしく、もうすぐ2人とも来るらしい。……驚かせただろうなぁ……。

 

「樹季、大丈夫か!? ったく、無茶しすぎだぜ。……けど、助かった。ありがとな」

「広……。お前らは大丈夫だったのか?」

「ああ、ぬ~べ~が助けてくれたからな!」

「そうそう! Aの体からこう、バリバリって幽体を引っ張り出しちゃってさー! あいつすっごく慌ててたのよ!」

「美樹、樹季は病み上がりなんだからあんまり近くで大きな声出さないの!」

「郷子、お前も結構声デカいぞ?」

「え、あ、ご、ゴメンナサイ……」

 

 普段通りの様子に、思わず笑ってしまった。でもって傷に響いて超痛かった。

 

 鵺野先生に聞けばAは鵺野先生と戦った後、ダルマストーブの火がマントに燃え移って窓から落ちて死んだらしい。しかしその後噂で死体が何処を探しても見つからないと聞いた。……どこまでも不気味な奴である。

 貧血でくらくらするわ切り裂かれた傷は痛いわ、真っ青な顔で駆けつけた両親には泣かれるわ、仲間を心配する気持ちは立派だがもっと自分の事も考えろと鵺野先生に諭されるわ……散々な一日だった。

 

 

 

 

 

 

 しばらくは相手がサンタクロースでも、赤い色の服は見たくない。

 

 

 

 

 

 

 

 




正直原作で郷子が血抜きされてたの見て、よく死ななかったなと思いました。






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。