樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

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色々なお話
玉藻てんてーと俺(#13 鬼の手VS火輪尾の術より)


 昨日玉藻てんてーが来た。おう、妖狐玉藻さんだぜ。ぬ~べ~のライバルキャラになる予定の齢400歳のお狐様だぜ。教生と偽ってやって来たんだぜ。人化の術ってやつを完成させるために広の頭蓋骨を狙って来たんだぜ。歯ぎしりするレベルのイケメンだったぜ。

 

 知らないふりをするのが物凄く大変だった。

 

 だって、あの人(人じゃないけど)絶対鋭いだろ。もし万が一俺が変な目を向けていることに気づかれて、下手なちょっかい出されちゃたまんねぇよ。まあ広以外に対しては興味が薄いようで、適当にあしらって人気を得るに努めてた程度だから俺の杞憂だったわけだが。

 彼との戦いで鵺野先生は大怪我をすることになるが、俺にはどうすることも出来ないし彼は自分で玉藻について気づいて対策を講じるのだから俺が原作知識でもって口出ししたとしても意味が無い。むしろこの戦いを経て玉藻は鵺野先生に興味を持ち後々ライバルながらも頼もしい仲間になってくれるのだ。俺に出来る事なんて本当に何も無いだろう。

 けど広たちと玉藻につけさせるミサンガを作るのは手伝った。ま、さっさと作って玉藻に遭遇する前に俺は帰ったけどな。薄情なようだが俺に出来るのはそこまでだ。

 広は最初玉藻になついたように見えたが、危険を感じた鵺野先生の指示によって玉藻に白衣観音経で作ったミサンガをつけさせたのだ。ちょっとご機嫌取りをしたくらいでは広たちの鵺野先生への信頼は揺るがない、ということだろう。先生の事を信じる広に迷いはなかった。

 

 そして翌日広に話を聞けば、案の定激闘を繰り広げて鵺野先生は大怪我をしたらしい。……しかし、それでも包帯を巻いてるとはいえ普通に出勤した鵺野先生は凄いと思う。そして偉いとも思うが、トラックに跳ねられた上に打撲、裂傷、骨折の怪我のオンパレードでも元気そうにしているあたり妖怪呼ばわりされても仕方がないと思った。とんでもないタフさである。さ、流石主人公……。

 でもって玉藻だが、こちらも一回負けたくせにしれっと復活して出勤してきていた。といってもあちらも怪我は深刻らしく、耳を澄まして会話を聞いたところによると一時休戦を申し込んだようだ。

 それにとりあえず安心して、俺は広たちに声をかけてから先に教室へ戻ろうとした。

 

 しかし、その時だった。

 

「やあ、樹季くん。おはよう」

「お、おはようございます玉藻先生」

 

 何で話しかけてくるんだよ! 肩に手を置かれて呼び止められたから無視することも出来ず、俺は恐る恐る振り返った。そこには予想に違わず、憎らしいほどにキラッキラした笑顔を振りまく妖狐玉藻。助けを求めようにも、ちょうどタイミングが悪く周りに誰も居ない。

 

「あの、俺に何かようですか? もうすぐホームルームなんで教室戻りたいんですけど……」

「何、そう時間は取らせないよ。ただこれを外してほしくてね」

「これ?」

 

 玉藻が俺の肩から手を外し、右手を指さす。見ればその手首には昨日俺が作った白衣観音経ミサンガが巻かれていた。

 

(え、なんでまだミサンガが? たしか一時的な足止めにしかならなかったって広が……)

「経文で作られたミサンガ、これにはしてやられたよ。他のは大したことがなかったがこれは別だ。拘束力は一日経って弱まったが、まとわりついて離れないのが不快でね。これを作ったのは君だろ? 外してくれないか」

「ミサンガって、何のことです?」

「とぼけなくてもいい。これからは君の臭いがするからすぐわかったよ。私の正体も知っているんだろう?」

「ぐっ」

 

 ずいっと顔を寄せられて思わず後ずさる。うおお! イケメンの無表情怖ェ!!

 っていうか、離れないってなんだ!? え、俺のミサンガそんな効果抜群だったの!? 何でだよ!

 

 …………あ。そういえば、ちょっとでも効果を発揮しますようにって自分の髪の毛を一本編み込んだんだった。髪の毛は霊力が溜まりやすい場所だって聞いたことがある気がするから、願掛けのつもりで一本だけ。まさかそれか? たしかに俺の霊力って微妙に強いみたいだけど、それが理由か!? おい、ちょっとしたアイテム作れてんじゃねーか! よし、これで護身用のアイテム作り放題だぜ! ひゃっほう! ……とか、現実逃避してる場合じゃないな。つーか聞いた感じ時間経過に合わせて効力薄まるっぽいし、玉藻も鬱陶しいから外したい程度っぽいし……特にいいこと発見したわけでもなさそうだ。むしろ変に機嫌を損なった可能性がある。

 

「わ、わかったよ。外せばいいんだろ?」

 

 どうせ効果は大したことないんだ。さっさと外して機嫌を取った方が良さそうだと、俺は玉藻の右手首に巻きついていたミサンガを力任せに引きちぎった。

 

「ありがとう。……フフッ、君はどうやら将来有望な霊能力者のようだ」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 冗談でもそんな褒め言葉いらねぇよ! 俺は霊力のコントロールは身に着けたいけど先生みたいに妖怪と戦えないから! 霊能力者になる気とかないから!

 用は済んだだろうし、俺は脱兎のごとく逃げ出した。……まあ、結局玉藻も教室に来るから後で顔を合わせる羽目になるんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 妖狐玉藻はミサンガを引きちぎるなり、律儀にも「失礼します」と言ってから逃げて行った藤原樹季という生徒を彼の背中が見えなくなるまで目で追っていた。その左手は右手をさすっており、その手の下の右手首にはうっすらとした赤い跡が残っている。

 

(今は微弱な力だが、わずかとはいえこの玉藻の力を封じた才能は素晴らしいな)

 

 昨日生徒たちが作ったミサンガで一時的に四肢の動きを止められた玉藻だが、すぐに霊力で引きちぎって経文で出来た拘束具を無効化した。だが、その中で右手首のひとつだけが千切れずに残っていたのだ。

 もともと生徒の中でも霊力が高い子供だと思ってはいたが、まさか霊具を作り出せる能力を備えているとは驚きだ。霊具と言っても単独では指先の動きを鈍化する程度の効力しか無かった上に時間が経つにつれてその効力は失われていったが、それでも玉藻が自力で外せない品を作った……それだけで評価に値する。むしろ将来性を考慮すれば脅威と言ってもよいだろう。

 強力な霊能力者はそれだけで厄介だが、その力を品物に込められるとあらば対妖怪の品がある程度流通してしまう。脅威は言い過ぎかもしれないが、人化の術を完成させて人間界に災厄をもたらす際に邪魔になる事は間違いない。

 

「しかし、今は未来の可能性よりも鵺野先生ですね」

 

 そう言って玉藻はふっと笑う。…………興味がわいたのだ。あの教師に。

 自分を倒した初めての男、鵺野鳴介。何度倒しても生徒のために起き上がり、ついには負けた。400年の長き時を生きた妖狐が、人間ごときに負けたのだ!

 玉藻はあの男の何処からそんな力が湧いてくるのか知りたいと思った。偶然や時の運もあるだろうが、それだけで片付けられない何かがある。その秘密を知れば自分の中の何かが変わる。……そう考えると、不思議と心が躍った。

 

 

「どれ。手始めに鵺野先生を幻術で引き付けて、広くんに今までの彼の戦いについて聞いてみようか」

 

 

 そして彼はその後、生徒を守るために妖狐族と戦った霊能力者をことごとく葬って来た「火輪尾の術」を空海レベルまで耐え、最終的に炎を切り裂くに至った鵺野を目の当たりにする事となった。

 

 

(鵺野先生……。あなたの力のその秘密、この玉藻が必ずいただく!)

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 鵺野先生が今度は火傷をおった。どうやらまた玉藻とやりあったらしい。だっていうのに、放課後の日課となっている俺の霊力コントロール修行に付き合ってくれるんだから頭が下がるぜ。

 せめて何か出来ないかと半分冗談のつもりで、鵺野先生の恩師である美奈子先生の得意技だったというヒーリングを試してみた。っつっても「痛いの痛いのとんでけ~」レベルのおまじないだが。でも先生なら可愛い生徒の気遣いってだけで元気になってくれそうだからな。女子生徒でないのが申し訳ないが、少しは気休めになるだろう。

 

「治れ~治れ~……なんちゃって」

「……なあ、樹季」

「はい?」

「なんというか……。お前、俺が思ってる以上に凄いかもしれん」

「え? どういうことですか、それ」

「えっとだな。お前は冗談のつもりなんだろうが……効いてるぞ」

「……何が?」

「ヒーリング」

「…………はい?」

 

 鵺野先生の言葉が最初理解できず、俺はハトが豆鉄砲くらったような顔をしていたと思う。

 

「疲労をわずかに取る程度だが、イメージだけでヒーリングが出来るなんてすごい才能だぞ! えっと……けど、言いにくいんだがな……その……」

「あの、覚悟するんで一思いに言ってくれませんか。デメリットは何です」

「お前って変なところで潔いなぁ。えーとだな、お前は覚えもいいし、今の段階でも俺が小さいときに悩まされたような霊障には悩まされなくていいと保証出来る。けど高い霊力は本人の意思に関係なく時に力の強い妖怪や霊を刺激するんだ。いくら隠しても、格の高い相手にはバレてしまうからな。つまり」

「襲われやすくなる、と」

「う、うん。そういうことだ。でもそんな死刑宣告されたみたいな顔するなら自分で言わなくても……。えー、だから、その……な? 俺も精一杯フォローするから、樹季、お前もうちょっと本格的に霊能力を学ぼうか」

「…………」

「だ、大丈夫だ! 先生に任せろ! き、きっとどんな妖怪にも負けない霊能力者にお前を育ててみせ「嫌だ」……樹季?」

 

 

 

 

 

「嫌だぁぁぁああああああああああ!!!! 霊能者になんてなりたくないぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

 

 俺の慟哭が、夕日差し込む校舎の中に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつきは は ホイミ と エンチャント を おぼえた(テッテレ~

なお、性能はカスの模様。

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