樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

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毛玉のホワイトクリスマス(#114 幸運のケサランパサランより)

 今日はクリスマス。俺達5年3組は、調理実習で作った特大ケーキを中心にクリスマス会をしていた。

 

 この特大ケーキ、何を隠そう俺が構成を考えたのだ! 特大ケーキは本当に大きいのだが、そんな大きなスポンジ型が小学校の調理室にあるわけもないし、第一オーブンに入らない。それに万が一その辺がクリアできたとしても、調理実習の時間内で作るには大きなスポンジなど焼いていては間に合わないのだ。大きすぎて生焼けになってしまう。調理実習の先生も特大ケーキを作りたいと主張する俺たちに「小さいのをたくさん作ったら?」と勧めてきたしな。

 

 でも、せっかくのクリスマスパーティーだ。今の俺は大人じゃないけど、サンタ代わりに同級生たちの希望を叶えてやってもいいんじゃないかと思ったわけで。だから必死に考えたのだ。

 

 で、俺はそれぞれの班に指示を出した。まずケーキ型ではなく鉄板にクッキングシートを敷き生地を流し込んで、平たくて大きなスポンジをたくさん作る! そして長方形のそれを組み合わせ、模造紙に大円を描いて切った型紙にあわせて切る。作ってから移すのでは崩れるから、それは直接ケーキを載せる台(これは給食の調理室から借りた)に置く。そしてスポンジにシロップを打ってからクリームやフルーツを敷き詰めて、同じようにして丸くしたスポンジ生地を上に乗せる! 一繋ぎの生地じゃないからバランス悪いんじゃないかと懸念されたけど、クリームが接着剤の役割をしてくれるからな。生地を乗せてからちょっと押さえれば問題無い。で、それを何度か繰り返す。これで土台は完成だ。

 不格好な側面はクリームを塗って隠しちまえばいいし、何よりその辺の仕上げは女子が頑張ってくれた。お店で売ってるみたいなクリームの絞り方とか、上の飾りのクッキーで作ったヘクセンハウスとか。かなり高クオリティに仕上がったと思う。

 

 うむ、俺も頑張った甲斐があったというものだ!

 

「メリークリスマス!」

「ひょえー! でっけぇケーキ! 美味そ~!」

「ホントよね! 樹季には感謝だわ」

「いや、みんな頑張ったよ。俺だけの成果じゃないって」

 

 歓声を上げる広に、ぽんっと俺の肩を叩いて褒めてくれる郷子。照れくさくなった俺はぽりぽりと顔をかくと、早く始めようと仕切り屋の美樹を促した。

 

「さ、始めようぜ!」

「ええ! ふんふん。ロウソクもばっちりね! じゃあみんな、一斉にロウソクを吹き消すのよ! わかった? いっせいよ、いっせい! 一秒でも先に吹いた奴は廊下で鼻の下に割りばしさして、ツリーの飾り付けてヤカンもって阿波踊りだかんね」

 

 なんかすげぇこと言い出したな!!

 おい待て、それフラグじゃないか?

 

 しかし俺の心配をよそに、美樹のカウントダウンが始まる。

 

「5、4、3、2、い……」

「あ」

 

 ふいに最後の数字を言おうとした美樹の鼻あたりに、ふわりと白い毛玉が外から舞い込む。あ、そういやストーブの換気のために窓開けてたんだったっけ。

 

 

 そして、案の定。

 

 

「ブワックショドワックショハックショーン!!!!」

 

 

 色々盛り増しにダイナマイトな美樹のくしゃみが、ロウソクどころかケーキの飾りもろとも吹き飛ばしたのだった。

 

 さよなら俺たちの調理時間!!

 

 

 

 

※ ケーキはあとで美味しくいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら美樹のくしゃみを誘発したのは、ケサランパサランという小妖怪だったらしい。自分の言った通り廊下で鼻の下に割りばしさして、ツリーの飾り付けてヤカンもって阿波踊りさせられた美樹がやけに喜び勇んで帰ったと思ったら、それが原因か。

 

 そ、それにしてもケサランパサランか……! 羨ましい。

 

 ケサランパサランとは、要するに幸運をもたらしてくれる幸せの毛玉だ。見た目は白くふわふわしたピンポン玉大の毛玉で、ふわふわと勝手に動くのが特徴である。ちなみにおしろいと一緒に入れておくと増える。

 なぜ妙に詳しく覚えているかというと、ぬ~べ~のこの回を読んだ当時友達と一緒になってケサランパサランを探しまくったからだ。当時はかなり真剣に探したもんだ。そして道端にたまたま自生していた綿花を見つけ、ケサランパサランだと思い込んで瓶におしろいといっしょに入れていた。いつの間にかどこかに行っちゃったけど、懐かしいなぁ……。

 

 でも、この世界のケサランパサランは正真正銘本物だ。本音を言えば、かなり真剣に分けてほしい。

 だって大事に育てて常に持ち歩いていれば、妖怪と遭遇しても逃げ切れるじゃないか。もちろん普通に幸運も欲しいけど、俺としてはケサランパサランには昔話の三枚のお札的な役割を期待したい。

 

 だけど翌日。登校するなりぬ~べ~にケサランパサランの事を聞いた広たちが美樹に分けてくれと頼んでも、「増えなかった」と誤魔化したあたりあいつケサランパサランを独り占めする気だな。にやけた顔を見るに、すでに相当な幸運にあやかったに違いない。

 でもたしかこの回って、何か大きな事故があって、それでみんなを助けるために美樹はケサランパサランを全部使っちゃうんだよな。欲に忠実ではあるが、実はかなりいいやつってのは、俺含めてクラスのみんなが承知済みだ。それと同時にトラブルメーカーで色んな厄介事も引っ張ってくるし、調子に乗りやすくて騒がしいけど。

 

 でも美樹は、いい奴だ。

 

「…………」

 

 何処で事故が起こるかまでは、覚えてない。

 

「…………。はあ。しょうがねぇか……」

 

 ケサランパサランは欲しいけど、その前にまず事故だ。確か妖怪は関わっていないはずだけど、事故が起こると分かっている現場にただ美樹を行かせるのもな。ケサランパサランが居るとはいえ、怪我するかもしれないし。

 そう思った俺は、放課後童守30ビルに林家ペーとパー子のクリスマスショーを見に行くという美樹たちについて行く事を決めた。美樹はどうやらおしろいを買い込むために行くらしいけどな。

 

 そして、童守30ビル。

 

 俺はトイレに行くと言ってみんなから離れると、ビルの案内図に目を向けた。多分タイミング的に、事故が起こるとしたらこの場所だろうし。

 あらかじめ鳴介には、俺の勘を理由にして「何か良くないことが起こりそうだから注意してくれ」とは言ってある。そんな俺が一人離れたことに鳴介が心配そうな表情を向けてきたが、本当にトイレだからと言い張った。まあ嘘なんだけど。

 俺は壁に貼ってあったビルの案内図のポスターを「ごめんなさい!」と言いながら剥がし、人目に付く前にあわててトイレに駆け込んだ。そして取り出した糸をくくり付けた五円玉……フーチを使って、ビルの中をくまなく探る。これは以前美樹がクラスで流行らせた占いだが、俺や鳴介みたいに霊力が強いものが使うとかなりの精度を誇るのだ。

 そしてある個所でフーチが左回転……悪い時を示す方向へ回ると、俺は一目散にそこへ向かって走り出した。

 

 だけど、俺は甘かったらしい。

 

「!?」

 

 ドンっという鈍い音が響き、窓の外を見れば壊れた展望エレベーターからさっき別れたばかりの鳴介、広、郷子、まことが鳴介の手だけを頼りにぶら下がっていた。周囲からは黒い煙があがっていて、爆発が起きてそうなったのだと知れる。さっき俺が見つけた場所……中華料理屋が事故の原因なら、多分ガス爆発か何かだろう。

 何で俺は場所が分かっただけで一人でなんとかできると思ったんだとか、こんなにすぐに事故が起きるだなんて思ってなかったとか、いろいろな考えで頭が埋まった。けどすくむ足をなんとか動かして、階段を駆け上がる。そしてその途中で、美樹を見つけた。

 

「美樹!」

「樹季! あんた無事だったの!?」

「ああ。お前も無事だったみたいだな。……なあお前、ケサランパサランでどうにかみんなを助けられないかって思ってんだろ?」

「え、何でそれ……」

「お前がケサランパサラン隠してることぐらい分かるっての! でも、まだビル内は危険だ。二次災害があるかもしれない。だから俺にケサランパサラン渡して、お前は逃げろ! みんなは俺が何とかするから! 屋上なんて行ってみろ! いざって時に逃げ場なんかねぇぞ!」

「! それはあんたもいっしょでしょ!? 樹季こそ、さっさと逃げたらどうなのよ! 嫌よ。ケサランパサランは私のなの! だから私が使ってみんなを助けるわ! そのためには、願いを叶えるためには、ちゃんと皆が見える場所に行って願わないと……!」

「ばっか! いっつも図々しいくせに、こういう時だけ根性見せやがって!」

「馬鹿とはなによ!」

「いいから、俺に任せろ!」

「嫌! 私が行く!」

「渡せ!」

「嫌!」

 

 このままではらちが明かない。そう思って、最終手段として無理やり美樹からケサランパサランが入った瓶を取ろうと思った時だ。

 

「ええい、しゃらくさい! だったら一緒に行くわよ!」

「え、ちょ、おい!」

 

 俺が行動するより早く、美樹が俺の腕を引っ張って階段を駆け上がり始めた。

 ……俺、かっこ悪いなぁ……。事故も防げなければ、同級生の女の子一人安全なところに逃げさせてやれないなんて。

 

 でもこうなったらつきあうさ! 最後までな!

 

 

 

 

 

 

 

 で。その後どうなったかと言えば、最初はデカすぎる願いに美樹が持っていたケサランパサランは全て消えてしまった。だけど美樹が「こんなものあっても役に立たない!」と、買ったばかりのおしろいをぶちまけたことで奇跡がおきたんだ。なんと屋上から風に舞って空へと昇ったおしろいのおかげなのか……空からまるで雪のように、大量のケサランパサランが舞い降りてきたのだ!!

 ケサランパサランたちは鳴介たちを助けるばかりでなく、あれだけの大事故の中心であった中華料理屋から一人も死人を出さなかった。きっと自分達では意志を持たないケサランパサラン達に、美樹の「みんなを助けて」という願いが指向性となって働いたんだ。だから"みんな"助かった。

 

 俺はと言えばそんな奇跡を目の当たりにして、感動と共になおさら自分の無力さを痛感したわけだが……。

 

「えっと、樹季……さ。あんた別に役に立たなかったけど、その……。階段を上がる時、本当は凄く怖かったから……そばに居てくれて、ちょっと心強かったわ。ちょっとよ? ちょっと! 勘違いしないでよね!」

 

 そんな風に美樹に言われたから、ちょっとだけ救われた。

 

 

 ちなみに美樹の言葉に感謝した後、こっそりケサランパサランを捕まえようとしたら「ちょっと! せっかく私がみんなへのクリスマスプレゼントとしてケサランパサラン大盤振る舞いして諦めたってのに、抜け駆けはさせないわよ!!」と、美樹に羽交い絞めにして阻止された。ほんのちょっとの感謝が消え失せた瞬間である。ああ! 俺の護身アイテムがぁぁぁぁ!!

 

 

 

 ああもう!

 

 

 

「メリークリスマスだちくしょーーーーーーう! みんな幸せになりやがれーーーー!!」

 

 

 俺のやけくその叫びが、ケサランパサランが降りしきるホワイトクリスマスの空に響き渡った。

 

 




クリスマスに間に合わなかったので滑り込みで今年中に。
主人公ケーキ作りに貢献するくらいしかしてないぜ……!

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