樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

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イタコギャルと俺(#74 霊能力美少女イタコギャル・いずな より)

 童守町センター街……この賑やかな繁華街では、童守小の生徒は遊ぶことを禁止されている。しかし俺は親父が忘れて行った会議の資料を届けるという漫画でしか見たことが無いミッションを遂行するため、そのセンター街を通っていた。というか、親父の会社がセンター街を抜けてすぐのところなんだよな。どうしても通らないとかなり遠回りになって不便だし、しかたがないだろう。

 

 無事にお使いを終えた俺は、まあ帰り道だしと言い訳して少しセンター街の賑やかな空気を味わいながら色々見ながら歩いていた。たまには一緒に出掛けようと、肩には豆太郎が乗っている。ぬいぐるみのふりをして目立たないようにしている豆太郎だが、空気にあてられてか若干そわそわしているようだ。まあ、普段散歩するコースだとこんなに人居ないもんな。

 

 そうして歩いていたんだが、途中で怪しい格好をした鳴介を見つけた。一応俺の中身は25歳だが今は童守小の生徒……見つかったら小言の一つももらいそうだと、初めは声をかけないで通り過ぎようとした。が、クレーンゲームで惜しくもゲットしそこねたぬいぐるみを鬼の手を使ってチョイチョイと景品が落ちる穴に引き寄せようとする情けない姿に、見て居られず思わず声をかけた。

 

「おい鳴介、なにやってんだよ」

「!? い、樹季!? いやぁ、これはだな……、って、おいおい。お前は中身はどうあれ童守小の生徒なんだぞ? こんなところにいちゃぁいかんだろう。俺は最近ここで遊んでいる生徒が居るって聞いて変装して調査に来たんだ。まさかその生徒ってお前か?」

「俺は父さんの会社に忘れ物届けに行ってたんだよ。父さんの会社、この先なんだ」

 

 俺はそう言って通りの先を親指で示すと、100円玉をゲームに入れて鳴介がとろうとしていた商品をつかんで景品穴に落とした。

 

「おおっ! お前器用だなぁ」

「こういうの得意なんだ。こち亀のクレーンゲーム回を読み込んで超練習したからな! ……ところで、遊んでいる生徒ってもしかしてあいつら?」

 

 鳴介にゲットした座敷童に似たぬいぐるみを押し付けてから、視界に入った見慣れた姿を目で追いながら言う。鳴介も俺の視線を辿り、その先に広、郷子、美樹、克也のおなじみの4人を見つけてぎょっと目を見開いた。

 

「まさか俺のクラスの生徒が? ど、どこに行くんだ……」

 

 後を追う鳴介に、面白そうだから俺もついていくことにした。なんというか、今回は危険が無さそうな回の予感がするんだよな! そういう時は結構楽しいから積極的に関わることにしている。

 

 

 

 

 そして広たちのあとをついていくと、ちょっと開けた公園のようなスペースにたどり着いた。噴水やベンチもあって、繁華街で疲れた足を癒せる憩いの場所って感じだ。

 

「いずなのお姉さまー! 約束通り友達連れてきましたー!」

「ああ、また小学生のお客かい。小学生は金にならないからな……あんまり相手にしたくないんだよね」

「あん! そんなこと言わないでお姉さま~」

 

 そして美樹が先導して駆け寄った先に居たのは、丈の短いスカートのセーラー服を着こんだ一人の少女。足元は俺が居た2000年代でも生き残っているルーズソックスに包まれていた。……あれ、案外あったかくておしゃれは我慢! でミニスカ履きこなす子にはありがたいんだって前従姉妹のねーちゃんが言ってたなぁ……。こっちの世界じゃ全盛期か? とりあえず、その少女を見て「ああ、いずな回か」と納得した。見るのは初めてだが、ぬ~べ~でギャルといったらあの子だもんな。

 それにしても、予想していたよりずっと可愛い。めっちゃ可愛い。黒髪ロングで肌の白い秋田美人……か。あれでギャルじゃなければ好みドンピシャなんだけどな……。

 

「何だあの子は……。中学生のくせに化粧なんてして……。まさか、あれが世にいうコギャルか?」

「いや、中学生だからマゴギャルだな」

「そ、そういうのか? よく知ってるな樹季」

 

 かつて超GALS! 寿蘭を視聴していた俺に死角は無かった。少女雑誌の漫画が原作だけど、結構面白かったんだよな。昔ジャンプと交換で漫画の方も女子に見せてもらったけど少女漫画は侮れない。ふわふわな恋愛ものばかりと思いきや、ストーリーがちゃんと練られていて心理描写も濃いから勢い重視な所がある少年漫画とはまたおもむきが違って面白いのだ。あとギャグ物のレベルも高い。赤ずきんチャチャ、めだかの学校、ハイスコア、こどものおもちゃ、魔法騎士レイアース、カードキャプターさくら、神風怪盗ジャンヌ、赤ちゃんと僕、僕の地球を守って……雑誌がごちゃ混ぜだけどこのあたりは面白くて読んでたの覚えてるな。レイアースに関しちゃ、点描とキラキラトーンがふんだんに使われた前の作品からページをまくったら超格好いいロボット出てきてビビったわ。これ少女漫画雑誌だよな!? って思わず二度見した思い出。……まあ、それは今どうでもいいか。でも思い出したら読みたくなってきたから、今度女子に何か貸してもらおう。自分で買うには少女漫画コーナーは男子にとっちゃサンクチュアリすぎて近づけないぜ。

 

 ぼ~っと過去に想いを馳せつつ様子を窺っていると、彼女は管狐という東北地方のイタコ(霊能力者)が使うという妖獣を使って広たちの質問(有料)に答えるべく彼らを町に放った。そして見事「明日のテストの答案」「喧嘩した相手の今の気持ち」などを答えていく。……管狐はそれぞれ持つ能力が違うというが、心を読めるってのは結構やばい能力な気がする。鳴介が放たれた管狐を一匹つかまえて、そんな妖獣を君みたいな子供に扱いきれるのかと聞いたのも無理はない。見事反発されて、巨大管狐に押しつぶされてしまったが。

 

 

「あたしに説教するなんて、100年早いよ~だ!」

 

 

 そう言って去って行ってしまったいずな。俺はつぶされた鳴介を憐れみつつも、面白いものが見れたとほくほくだった。

 

「管狐可愛かったな。な? 豆太ろ……う……」

 

 肩にくっついているはずの豆太郎にそう話しかけたつもりだった。が、俺の視線は空をきって隣に居た美樹にぶつかった。

 

「え、豆太郎? 豆太郎!?」

「ああ、豆太郎ならいずなお姉さまについていっちゃったわよ」

「ええ!?」

 

 どうりで肩が軽いと思ったよ!

 

 俺は急いでいずなが去った方向に駆けだした。おおかた管狐につられてついて行っちゃったんだろうけど……。お前賢いんだから、頼むからもうちょっと好奇心をおさえてくれ!

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

「あら? あんた、何処から来たの?」

 

 世話になっている親戚の家に帰って来たいずなは、玄関の前で後ろについてきていた小さな動物に気づいた。それはまだ子供のタヌキで、可愛らしく小首をかしげていずなを見上げている。

 

「きゅう~」

「あははっ、あんた可愛いわね! このあたりじゃタヌキは珍しいけど……親からはぐれちゃったのかい?」

「きゅっ、きゅきゅ~」

「悪いけどタヌキの言葉はわかんないわねぇ……。でも、これも何かの縁か。可哀そうだしミルクくらいならあげてもいいよ。入んな」

 

 何かを主張するように声をあげるタヌキが可愛くて、いずなは近所の目が無いのを確認してからそっとタヌキを玄関に招き入れた。そして扉を閉めようとした時だ。

 

「あ、あの! そのタヌキ、うちの、子、です!」

 

 ぜーはーと息切れをおこし、膝に両手をついて汗だくで呼吸を繰り返す小学生がいずなに声をかけてきたのだった。

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

「わっ! すごい……! こんなにたくさん……」

「きゅっきゅ~!」

「管狐はイタコの家で繁殖して、75匹にまで増えるんだよ。まだこの家にはそんないないけどね」

 

 俺は豆太郎を追いかけて、そのままいずなの家まで来てしまった。事情を話して豆太郎を引き取って帰ろうとしたのだが、思いがけず「あんたさっきも居たけど、管狐が見えてるんだろう? その子もよく見ると霊力が高くて普通のタヌキじゃないっぽいし……。面白そうだから、ちょっと話聞かせてよ。中入んな」と言われて家の中に招待されてしまったのだ。

 強引さに負けて思わず入ってしまったが、女子中学生の部屋に入るというシチュエーションに妙に背徳感を感じてしまう……。だが部屋に入った途端に俺を歓迎してくれた管狐の群れに圧倒され、そんな余計な気持ちは吹き飛んだ。

 

「わっとっと!? ちょ、くすぐった!?」

「あはははは! あんた凄いね! 初対面でこの子たちがそんなに懐くなんて珍しいよ」

「ちょっと、笑ってないで助け、わぶ!?」

 

 管狐は俺が珍しいのか周囲でちょろちょろしていたのだが、一匹がすり寄って来たので可愛くて思わず撫でると他の奴らまで殺到してきたのだ。可愛い、可愛いがこの数は駄目だろ! つ、潰される……!

 いずなは豆太郎を撫でてご満悦で、助けてくれる様子はない。むしろ微笑ましそうな顔で見ているが、俺としちゃ本気で苦しいんだが……!

 

 なんとか抜け出した時には、俺の体力は底をつきかけてきた。

 

 その後、俺は豆太郎と出会った経緯を話しながらいずなの話も聞いた。なんでも東京の高校を受験するからと言って、実家でのイタコ修業をほっぽりだして親戚の家に転がり込んだらしい。だが本当は受験する気はさらさらなく、生まれ持った才能を生かして霊能力者としての名をあげて大金持ちになりたいんだと。

 

「へぇ……。いずなさんは凄いな」

「ほ~っほっほ! そうでしょ? イカしてるでしょ? あたしはイタコのサラブレットだもの! いずれは超大金持ちよ! でも見たとこあんたも結構才能あるっぽいわよ。よかったら、将来助手として使ってあげようか」

「いや、俺はいいよ。俺も霊能力はあるけど、出来ればコントロールを身につけたら霊とは関わらないで生きていきたいから……」

「ええ~! 何でよもったいない!」

「だ、だって怖いし……」

「男のくせに意気地が無いわねー! どう? 今からお姉さんがちょちょっと鍛えてあげようか?」

「い、いいよ! 結構です! 俺、もう霊能力を教えてくれる先生いるんだ!」

「むっ、こ~んな美少女の好意を断るなんて……。っていうか、先生ってもしかしてさっきのゲジゲジ眉毛?」

 

 不機嫌そうにむくれたいずなが、苦々しく口にするのは多分鳴介のことだな。……ゲジゲジって言ってやるなよ。男らしくて格好いい眉毛じゃないか……。

 

「う、うん。俺、あの先生にはずいぶん助けてもらったんだ。霊能力者としても超一流の人だよ」

「え~? ぜんっぜんそんな風に見えないんですけどー」

「でもいざってときは本当に頼りになるし格好いいんだ! いずなさんも、もし困ったことがあったら鳴介に頼るといいよ。きっと助けてくれる」

「ふんだ! あたしは一人で平気だね。あんな奴より、あたしの方がよっぽど凄いんだから!」

 

 清々しいまでの自信だな……。ちょっと羨ましいくらいだけど、きっとまだ決定的な挫折を味わったことが無いんだろう。ちょっとこの若者が心配になった俺である。

 

「あんたこそ、困ったことがあったらあたしを頼んな! あんな霊能力者どころか0能力者っぽいおっさんより、この美少女霊能力者いずなちゃんが助けてやるよ。ま、有料だけどね~」

「あ、それについては是非真剣にお願いします」

「な、なんだよ急に真面目な顔になって」

 

 だっていざってときに頼れる人間を増やしておけるならそれに越したことは無いじゃないか……。もし鳴介が居ないところで妖怪に襲われたら、俺はお年玉だって投げ出して助けを乞いたい。けど、そのためには頼りになるくらい彼女にも成長してもらわねば。

 

「いざってときは頼るんで、頼れるくらい強くなってくださいね! 応援してます!」

「なんかひっかかかる言い方ね……」

「超絶に美しくて可愛くてイカしてる(スーパー)孫GAL美少女霊能力者いずな様、ますますのご活躍を期待しております!」

「! あ、あら~。そんなあからさまな褒め言葉であたしが調子に乗るとでも? ま、まあ将来の助手候補ってことで、いざってときは割引価格で助けてやるよ」

「あざーっす!!」

 

 よし! 思いがけずいざという時の命綱を増やすことが出来たぞ! いや、本当に頼むよ……。俺、戦う力は無いし本当に怖いんだよ……。女子中学生にすがってでも助けてほしいくらい怖いんだよ……。情けないけど……。

 

 

 

 とりあえず、その後は雑談してから家電だけど電話番号を交換して別れた。

 

 しかし俺はその後ことあるごとに助手もどきとして呼び出されることになり、電話番号を教えたことを後悔することになる。おい……お前の助手は美樹だろ……。俺を巻き込むなよ……。父さん母さんも「中学生のお姉さんに勉強教えてもらってるんだって? このこの! 年上なんてやるじゃない」とか変に勘違いしてるし、いずなが家に来たときなんか勝手に俺の部屋まで通してお菓子とジュース出してるし……。勘弁してくれよ。勝手にパーソナルスペース入ってくるなってば。そのくせお経壁紙を見て「辛気臭い部屋」とか言って文句つけてくるし……!

 案外家が近かったのが災いした。こいつ、完全に俺の部屋を別荘か何かと勘違いしている。

 

 

 

 そしてある日、学校から帰った俺を俺の部屋で勝手に漫画を読みながらくつろいで待っていたいずな。

 

「おいいずな、お前また勝手に人の家……。母さんと仲良くなるのやめろよな!」

 

 もうすでにさん付けも敬語も無い。こんな女相手に気を使っていられるか!

 

「何よ、あんた生意気になったわよね~。あ! それよりちょっと聞いてよ!」

「……何?」

「ねえねえ! あたしもさ、あの先生に弟子入りしようと思ってんの! ってことはあんたの妹弟子って感じじゃん? よろしくね、オ・ニ・イ・サ・マ!」

「はあ? あんなに煙たがってたのにどういうことだよ。それに妹弟子ってお前……」

「この間さ、新しい管狐が生まれたんだけどあたしの手におえる子じゃなくて……。でも、それをあの先生が育ててた超強い管狐があっという間にやっつけちゃったんだ! 流石にあたしも自分の未熟さを実感したわけ。で、そんな凄い先生が居るなら弟子入りするっきゃないっしょ! ってなったの!」

「へえ……」

 

 興奮しきりに話すいずなの話を半分聞き流しながら、俺はランドセルをおろしてちらっと豆太郎を見る。豆太郎の奴、いずなの膝の上で気持ちよさそうに寝てやがるな……この裏切り者め。ちょっとくらい番犬ならぬ番タヌキとして頑張れよ。あっさり侵入者に陥落させられてるんじゃない!

 

 まあそんなことを言っていたいずなだが、早々に変わるはずもない。ちょっとすれば、のど元過ぎれば熱さ忘れるを体現するかのようにまた霊能力を使って商売にせいを出しはじめた。鳴介の所で修業? してないしてない。

 ……まったく、これだから近頃の若者は。

 

 

 

「そういえば樹季って、時々すっごいおっさん臭いよな。そんなんじゃ女の子にもてないわよ~」

 

 

 

 

 

 この女、絶対今後俺の部屋の敷居を跨がせない。

 

 そう誓った、マインドクラッシュを食らった気分のある日の午後。……今度、鳴介と一緒にジュースでいいから愚痴を肴に語り合おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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