樹季少年の憂鬱   作:丸焼きどらごん

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※今現在(11月13日)まだ書いてませんが、主人公が中身(25歳)のことをカミングアウト済み後のお話なのでぬ~べ~の事を内心で名前呼びしています。

主人公がおっぱいおっぱい言ってるだけのお話。


そこはエデンだった(#55 妖怪あかなめより)

 今日、俺は銭湯に行く。大事な事だからもう一度言うが、銭湯に行くのだ。今まで様々な恐怖体験をしてきたが、今日ほど妖怪関係で心躍る日はないだろう。

 

 数日前からどういうわけか俺の家や同級生の家、近所の家と……風呂場が10年も掃除をしなかったかのように垢で汚れるという事態が頻発したのだ。俺はこの事件を目の当たりにし、誰にも見えないようにガッツポーズを作った。

 

 来た……来た来た来た! 来たぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 俺は覚えている。覚えているぞ!! これが妖怪あかなめの回であることを!! そして、数少ない大人のおねいさんのビッグボインを真正面から見られる機会であることを!! 同級生? 知らん! いくら大人顔負けのないすばでーだろうが、ガキに用はない! 俺が求めるエデンは16歳以上からだ!!

 鼻の穴が大きくなるのを自覚しながらも、俺はスキップで銭湯までの道のりを歩いた。ちなみに時間が早いので、共働きの両親はまだ帰宅しておらず一緒じゃない。だから親父の目を気にすることなく今日のイベントに臨めるのだ。

 

 ビッグボインもいいが、控えめなフェアリーボインだってもちろん素晴らしい。あと、あれだ。若い頃はボインこそ至高と思っていたが、最近の俺は実は下半身派なのだ。ぷりんっとした柔らかい尻からなだらかな曲線を描く太もものラインの優美さといったら、まさに芸術。というか、もう女体そのものが芸術!!

 そう、だから至高なる芸術品を鑑賞したいというのは男という以前に知能ある人として当然の思考の帰結なのである! けして俺が特別スケベなわけでは……わけでは………………いや、よそう。別の世界に来てまで自分を偽るのは。

 

 

 

 スケベで何が悪い! ああそうだよ俺はスケベだよというか男はみんなスケベなんだよ!! だから「ちょっと悪いかな」と思いつつもそんな罪悪感に屈する俺ではないッっ!! 今日は見てやる、見てやるぞぉぉぉぉ! これは日ごろ妖怪の脅威に怯える俺に神様がプレゼントしてくれた数少ないビッグチャンスなんだ!!

 

 

 

 俺は肩で風をきって歩いた。楽園を目指して。

 銭湯で最初に会った広には「樹季、なんか今日のお前の顔妙に凛々しいな。てか、なんか顔濃くなってないか?」と言われ、鏡を見たらうっかり劇画タッチになっていた。ははっ、劇画タッチ? 俺は何を言っているんだ。漫画じゃあるまいし。おっと、内心で小粋なジョークを飛ばしている場合じゃないな。紳士たるもの、心を静めて風呂に入り身を清め、神聖なるイベントに備えなければならぬのだ。

 

「なあ、今度は妙に悟ったような笑顔になってるぞあいつ」

「ああ。しかもそのまま鼻血を出してる……きっとあいつ、女湯を妄想で我慢しようとしてるんだぜ」

「なんか可哀想だな……」

「ふっ、しかたがねぇ。あいつにも楽園って奴を拝ませてやるか」

「! くっくっく……克也、やっぱりお前、銭湯に行こうなんて言い出したからにはそれなりの下心あってのことだな?」

「ふっふっふ。もちろん……」

 

 なにやら広と克也が失礼なことを言ってるが、今の俺は心が広い。許してやるから、せいぜいみみっちい穴からせせこましく覗いているがいい。あ、俺? 結構だ。気持ちは嬉しいが、俺のビッグドリームはそんな穴から覗けるもんじゃあないんだぜ。

 

 ちなみに今回の垢事件について保健所の職員と一緒に下水の調査をしていた鳴介と先ほど合流したのだが、その鳴介は今覗きを試みた広と克也を押しのけて目玉が飛び出さんばかりの勢いで女湯を覗こうと必死になっている。まあ麗しの律子先生が入っているから気持ちは分かるが、その姿と言ったら情けない事この上ない。

 本当に妖怪から生徒を守る時の格好良さと普段にギャップのある男だのう……。

 

 途中ママと一緒に普通に女湯に入るという偉業をなしていたまことが同級生女子にぶっとばされて壁を越えてきたりしたが、俺の心は乱れない。座して時を待つのみよ。

 

「なあなあ、樹季は女湯覗きたくねぇの?」

 

 瞑想をする修行僧のごとく静かに湯につかっていた俺に、克也が尋ねる。俺はやれやれと思いつつも、まだケツの青いガキにちょっとしたアドバイスをくれてやることにした。

 

「克也、たしかに覗きにはロマンがある。バレるかもしれないスリルと僅かな隙間から楽園を垣間見ようとする背徳心がよりいっそう我々を興奮させ心が滾る」

「おい、なんかこいつ語り始めたぞ」

「キャラもなんか変わってるよな」

「ちょっと気味悪いのだ……」

 

 フンッ、チャイルドどもめ。せっかく俺がエロスの先輩としてその心を解いてやろうというんだ。黙って最後まで聞け!

 

「だが、我々には想像の翼を羽ばたかせ、秘められたる無限の可能性を呼び覚ます材料がすでに与えられているではないか!」

「お、おう。まあ、まず落ち着けよ」

 

 克也がドン引きしながらもどうどうと落ち着けてくるが、俺のパッションは収まらない。これでも女湯に聞こえないように声は抑えてるんだぞ! だから広、桶に水を溜めるな俺にぶっかける準備をするな! 俺は正気だ!

 

「まず、何も言わず耳を澄ませ。お前にエロスの翼を授けよう」

「耳?」

 

 俺は諭すように言って、女湯に耳を傾けさせる。なにげにクラスの男子に加え、他の男性客まで耳を傾けているところに男としての強い絆を感じた。ああ、そうさ。男はいつだってエロいのさ。俺たちみんな兄弟さ!

 

 

 

『律子先生って肌も綺麗ですよね~。ムチムチプリンなうえにスベスベつるんつるんだなんて素敵……』

『あら、肌の綺麗さなら郷子ちゃんたち若い子には負けるわ。それにさっきも言ったけどあなた達はこれからが成長期じゃない』

『私も胸、大きくなれますか?』

『ええ、もちろんよ!』

『律子せんせ~い、あんまり気休めを言って希望持たせちゃ駄目よー?』

『う、煩いわよ美樹! ちょ、ちょっと胸が大きいからってねぇ……』

『えー? ちょっとかしら? ほれほれ、どうよこの柔らかさ!』

『ちょ、押し付けないでよ! って、わわわ!? ご、ごめんなさい律子先生! 私ったら先生の胸に……』

『いいのよ。怪我が無くてよかったわ。それより美樹ちゃん、ふざけるのもほどほどにしないと危ないわよ? お風呂は滑りやすいし、他にもお客さんがたくさんいるんだから』

『は~い』

 

 

 

「……想像しろ。今の会話は俺たちに十分な材料を与えてくれた。いいか? 桃色に火照った体にまとわりつく湯気の滴、自分が胸と尻の谷間を伝い滴り落ちるその水滴になったと思って想像するんだ」

 

 ごくりと誰かが唾を飲み込んだ。

 

「ささやかな胸を気にして恥じらいながら胸を押さえつつ律子先生のおっぱいを羨望のまなざしで見つめる郷子に、小学生としては立派すぎる胸を押し付けて自慢する美樹。そしてその勢いに押されてよろけた郷子を慈母のごとくささえる律子先生の女神と見まがう豊満なおっぱい。ほら、どうだ? わざわざ覗かなくても瞼の裏にビジョンが浮かんできただろう……?」

 

 いや、いい。何も言わなくてもいいのだ。お前たちの鼻から流れる赤い血潮が全てを物語った。……見れたんだな、妄想の翼が羽ばたいた先を。

 いずれ来る大ネット社会……それは、簡単に肌色の画像を検索できるばかりに我々からこういった想像力を奪っていくのだ。だからこそ、今のこの良き時代に想像力を培うのだ若者よ。誰かが捨てたエロ本にすがり、涙ぐましくも雨に濡れたページを乾かしてめくる労力も想像力を培う糧となろう……そう、今こそエロという大海原に漕ぎ出す大航海時代。飽和したエロに感覚がマヒする前に、君たちには大いなる想像力の扉が今、開かれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 とかなんとか馬鹿な事考えてたら女湯から悲鳴が聞こえてきたので、俺は速やかにパニックに駆けつけようとする鳴介の後に続いた。ついてきたのは広と克也だけか……ふっ、馬鹿め。他の男どもよ、悲鳴にびびって来なかったことを後悔するがよい。せいぜい妄想で満足してな!

 

 

 

 

 

 そして脱衣所で鳴介が番台に座るおばあさんに、女湯の客に慌てず落ち着いて避難するように指示していたら……エデンの扉は開かれた。

 

『きゃぁぁぁあ~~~~~!!』

 

 番台の横にある女湯とつながる扉から現れる、煌く湯水を散らし、たたわたに揺れるおっぱいおっぱいおっぱい…………俺たち4人の鼻からは、赤い液体がロケット噴射された。ご、極楽じゃ~! ここが極楽浄土だったんじゃぁ~!

 が、至福の光景を心のアルバムにしまっている最中にぽよんとした衝撃に押されてスッ転んだ。何だ!? 俺はまだ大本命の逃げる彼女たちのお尻を堪能してないってのに! せかっくベストポジションに居るのに!!

 

「痛た……って、美樹!?」

「きゃあああ!! ちょ、樹季!? ヤダちょっとどいてよ!」

 

 どうやら逃げてる途中の美樹がぶつかったみたいだ。いやどけってお前……お前に押し倒されてる形なんだからお前がどけよ! って、あああ! 俺のエデンが去っていくーーー!!

 

「とりあえず、ほれ」

 

 裸で同級生を押し倒すという事態にパニックになっているようだが、俺はいくら巨乳でも小学生は管轄外だ。でも気まずいのでとりあえず俺のバスタオルを押し付けていろいろ隠させると、そのままぐいぐい背中を押して他の女性たちが逃げてったコインランドリーに押しやった。

 そして脱衣所に残った俺たちは、無言で前かがみになると水風呂に入る。

 

 

 

「おのれ妖怪めーっ!!ぬ~べ~先生を舐めるなよー!」

 

 

 

 

 そして劇画タッチでうおおおお!っと妖怪に対して怒りを滾らせる俺たち。でもきっと内心での本音は「ちょびっとありがとう」かなって……へっ、男って奴ぁ素直じゃなくていけねぇや。

 

 

 その後、女湯で垢をなめとっていた妖怪あかなめに遭遇。鳴介が調べたところ、その正体がタワシの付喪神であると判明した。彼らは古くなって廃れた銭湯が閉店することを知って、それをなんとか防ごうと町中の風呂を汚して客を集めたらしい。

 どちらにしろ銭湯を営むおばあさんは老齢を理由にやめるつもりだったようだが、最後にお客を呼んでくれてありがとうとタワシたちに涙ながらに感謝していた。ええ話や……。

 

 

 うん、ええ話だからさ……コインランドリーから漏れ出てくる憤怒のオーラ何て知らないよ?

 

 

 

「この~! やっぱりぬ~べ~の仕業だったのね!」

「律子先生の裸見たくて妖怪出したんでしょ!」

「この変態スケベ教師!」

「最低!」

 

 

「誤解だぁ~~~~~!」

 

 

 

 とりあえず、誤解とはいえ女性陣の怒りをすべて請け負ってくれた鳴介に合掌。

 

 見守る事しか出来ない無力な俺を許せ……。代わりと言っちゃなんだが後で何か美味いものでも差し入れしてやるからなと、俺は自分の罪悪感に蓋をした。

 

 

 

 

 


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