【大空】と【白夜叉】のミッドチルダの出会い~改~   作:ただの名のないジャンプファン

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標的83 錯覚は人のここから映し出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ミットチルダ 首都 クラナガン 再開発地区 とある廃ビル ティアナSid~

 

 

ティアナは故意か事故か建物の中に追いやられその建物ごと結界に入れられた。

 

「残念だが、お前が次の日を見ることはない。お前は此処で死ぬのだからな」

 

「でもまぁ安心するっス。全員纏めて一緒にあの世に送ってあげるっス。だから寂しくはないッスよ」

 

「戦闘‥機人…」

 

ティアナの相手はツナが以前。フェイトと共にクルーズ船で戦った戦闘機人のチンク、先日の公開陳述会で目にしたウェンディの2人がティアナの前に立ち塞がった。

 

(あ~あ、殺気と狂気を滲みだしちゃって‥少しはスバルみたいな能天気なポンコツぶりを見せてくれないかしら?)

 

2人の戦闘機人を前にしてティアナは引き攣った笑みを浮かべた。

同じ戦闘機人でも自分の知るナカジマ姉妹とは雰囲気が大違いだ。

育った環境の違いで此処までも違いが出るとは‥‥

数は1対2と俄然としてティアナが不利であるが、相手は見逃してはくれない様だ。

それに無理に倒す事はない。

此処に2人居ると言う事は、他の誰かは戦闘機人と接触しない可能性がある。

自分に援軍が来ないとは言い切れない。

 

(やるだけやってみないとね‥‥幸い相手の戦闘機人の情報はある!!ランスターの弾丸は全てを貫く!!それは自身の信念もね!!)

 

ティアナは深呼吸をして2人の戦闘機人と対峙した。

 

(ふぅ~……じゃ、まずは状況分析から始めようかしら)

 

敵と対峙しながらもティアナは冷静に状況を分析している。

裏をかかれこそしたが、ティアナは一切動揺していない。

正確には動揺を押し込め平静を保っていると言うべきだろう。

この敵に囲まれている状況下で動揺やパニックを起こせばそれは死活問題となる。

ましてや相手は自分を気絶させたり、捕縛しようとしているのではなく、殺そうとしている相手なのだから、こんな時こそ冷静さを失う訳にはいかない。

視線の先の敵に気取られないよう注意しながら大きく息をつき、さりげなく周囲の様子に気を配る。

場所はコンクリートで囲まれたビルの屋内で結界が貼られている為、移動範囲は限られている。

壁や床の傷み具合などからして、廃ビルのうちの1棟。

この場所を切り抜けさえすれば、仲間たちとの合流は難しくないし、ナンバーズ2人を仕留められれば戦況は一気に此方へ有利になる。

まぁ、問題はどうやってこの場を切り抜けるかなのだが……。

 

「私の相手は、アンタ達って事で良いのかしら?」

 

ティアナは念の為に自分が相手のするのはチンクとウェンディの2人なのかを尋ねる。

まぁ、敵であるあの2人が正直に『そうだ、我々2人がお前の相手だ』と言うことは期待していない。

それにこのビル全体を結界で包み込んでいるのは恐らく目の前の2人の戦闘機人ではない。

小柄で髪は銀髪、眼帯をつけているチンクの能力は金属を爆発物に変える能力。

そして隣に居るもう人の赤髪でパイナップルの様な髪型の戦闘機人は、手に持っているボードの様なモノからどう見ても結界を張っているのはこの赤髪のパイナップルでもない。

 

(多分、この結界を張っているのはオットーって言う戦闘機人ね‥‥)

 

事前に情報を持っているのと持っていないのではやはり、違いが出る。

赤髪のパイナップル髪に関してはまだ情報がないが、チンクの情報は重要だった。

何も知らずに彼女の傍に行けば爆発と衝撃に巻き込まれることなど直ぐに予想できる。

そして、この結界を張っている別の‥3人目の戦闘機人‥‥オットーの存在。

オットーはナンバーズの中でも後方支援型の戦闘機人でこうした結界やガジェットの様にAMFを発生させることが出来る能力を有している。

結界がある限り、ティアナはこのビルから出る事は出来ないが、これだけ大きなビル全体を結界で包み込むほどの力だ。

いくら戦闘機人とはいえ、これだけ大きなビルの結界を維持するのは大変な筈。

その証拠にオットーは結界だけでAMFは出していない。

オットーがAMFを出せないから確実に自分を仕留める為に態々2人の戦闘機人を自分にぶつけてきたのかもしれない。

また、オットーが結界を張っている間はオットー自身が無防備になっている可能性もあり、その場合オットーの護衛をしているガジェットか戦闘機人もいる可能性もある。

つまり、ティアナは眼前の2人の戦闘機人の他にオットーらとの第二ラウンドも視野に入れなければならなかった。

だが、まずはこの状況を切り抜けるしかない。

 

「これは、出し惜しみなんかしてられる場合じゃないわね。いける?クロスミラージュ?」

 

「オーライ、マイ・マスター」

 

ティアナは小声で自らの愛機に呼びかける。

 

「さあ、どうだろうな」

 

そしてチンクはティアナの問いに答えるがやはり、はぐらかすような答えだった。

まぁ、最初から素直に答えてくれるとは期待していなかったのでティアナとしては、落胆はしないし、チンクの回答は予想の範囲内の回答だった。

 

「行くぞ、ウェンディ」

 

「了解ッス」

 

(……来る)

 

放たれたスティンガーには誘導性が付与されており、様々に角度を変えてティアナへと殺到する。

またそれにやや遅れてウェンディもライディングボードに乗って疾走を開始。

相手が動きを見せたことでティアナも行動を開始する。

あの赤髪のパイナップルはスバルとは異なるが、機動力重視の戦闘機人。

あの戦闘機人が前衛でチンクがその隙を突いてスティンガーで攻撃すると言う戦法なのだろう。

 

(あのナイフ‥‥恐らく触れたり、あの戦闘機人の自由意思で起爆する筈‥‥それを防ぐには届く前に仕留めないと!!)

 

「クロスファイアシュート!!」

 

ティアナが自分に迫るスティンガーを次々と撃ち落していく。

案の定ティアナの予想通り、チンクの投げたスティンガーはティアナの魔法弾に当たった瞬間に爆発を起こす。

そこへ、スティンガーに続いてライディングボードに乗ったウェンディが迫る。

とはいえ、この程度はティアナにとっては想定の範囲内の事。

まずは機動力のあるウェンディを仕留めれば、中距離・近距離が得意なチンクだけとなる。

彼女1人ならば、遠距離が得意な自分1人でも何とか対処が出来るとティアナはそう考えていた。

此方へ暴走特急の様に突っ込んで来るウェンディ。

こういった機動力が得意な奴の相手は相棒との訓練で慣れている。

ティアナは一気に勝負をかけようと砲撃準備に入る。

だが、当のウェンディはティアナを目前に突如進路変更を行った。

 

(えっ?)

 

あまりの呆気なさ‥‥と言うか、ウェンディの行動に理解が追い付かずに一瞬ティアナの思考が停止する。

その為、僅かに気付くのが遅れた。

突然進路を変えたウェンディが残して行った置き土産に‥‥

視界一面を埋め尽くすほどの大量のスティンガーに‥‥

 

「やばっ!!」

 

ティアナが行動する前に視界が眼を焼く程に強烈な白一色の光で塗りつぶされる。

チンクは遠距離攻撃を行う際にウェンディに爆撃機の様な役目を任せていたのだ。

ウェンディの機動力を使い目標(ティアナ)の近くにスティンガーを運ばせて、近くにスティンガーをばら撒き離脱、そしてチンクがスティンガーを起爆させる。

流石は姉妹‥ウェンディの機動力を熟知している戦い方であり、息の合ったコンビネーションだ。

しかし、事前にチンクの情報を得ているティアナだってこれで終わりではない。

爆炎が収まるとそこにはティアナの姿はない。

スティンガーの爆発で木端微塵になったのかと思われたがそれも違う。

いくら木端微塵になっても何かしらの形跡は残る筈だ。

血液やティアナの身体を構成している肉片が‥‥

それさえも無いと言う事は、ティアナは上手く回避する事が出来たのだ。

 

「居ないッス!!まさかさっきのは幻影!?」

 

着弾の衝撃によりティアナの姿が消失した事で、2人はそれが幻術によるものであった事を遅ればせながら理解する。

ティアナがチンクの情報を得ていたようにスカリエッティ側も当然、六課のメンバーの情報ぐらいは把握しており、ティアナがガンナータイプの魔導師でその他に幻術使いである事も事前に知っていた。

しかし、2人にとっての予想外は自分達戦闘機人のシステム眼をだます程の能力を有しているとは思っていなかった事である。

 

「逃げられたか‥‥オットー、敵の位置はモニターできるか?」

 

チンクは結界を張っているオットーと連絡を取る。

このビルは今、オットーの箱庭と言っても過言ではない状態だ。

故にこのビルに居る限りはオットーの目から逃げ隠れする事は不可能だ。

 

「大丈夫です、チンク姉さま。逃げられたと言っても、そこはあくまでも結界の中。所詮、相手は袋のねずみ‥‥逃げ切る事は不可能‥‥」

 

オットーは早速結界内のティアナを探す。

しかし、

 

「ん?」

 

「どうした?オットー」

 

「すみません、チンク姉さま。ちょっと面倒な事になっています」

 

「どうした?」

 

「どうも、相手は光学迷彩の魔法を掛けているみたいで現在位置が特定できません。すみませんが解析できるようになるまでは直接探してもらうしかなさそうです」

 

「嘘っ!?アイツ、私ら戦闘機人のシステム眼を騙しているんッスか!?」

 

「なるほど、了解した。まぁ、それでも悪あがきに過ぎんがな」

 

「それくらいやってもらわないと面白くないッスからねぇ~セカンドと組んでどうにか半人前のへっぽこガンナーがどこまでやれるか、楽しませてもらうッスよぉ」

 

そう言葉を交わしながら、ウェンディとチンクはティアナを探し始める。

廃墟のビルには静寂が取り戻される。

だが、静かな空間の一部に、突如として小さな歪みが生じた。

それはまるでターミネーターが未来から送られて来たかのような光景だった。

その歪みは瞬く間の内に巨大化し、人1人分の大きさとなり、その歪みの向こうから姿を現したのは未来からやって来たターミネーター‥‥ではなくティアナだった。

 

「ったく、アイツら言いたい放題言ってくれるわね。まぁ、半人前以下って言うのは否定できないけど……」

 

悪態をつきながら、壁に背を預けるティアナ。

彼女はあの時、スティンガーが爆発する直前にある魔法をつかい、この難を逃れたのだ。

 

(オプティックハイドⅡ‥‥アイツの言う通り、幻術にはまだまだ進化の余地があったって事ね‥‥)

 

ティアナの脳裏に以前行った模擬戦前の獄寺の言葉が過ぎる。

彼女はスティンガーが爆発する直前に幻影と入れ替わって難を逃れ、今はステルス能力の魔法、『オプティックハイド』にてチンクとウェンディをやり過ごした。

しかし、チンクとオットーの会話からこのステルス機能の魔法もそう長くはもたない様だ。

それに幻影と入れ替わるオプティックハイドⅡは有幻覚魔法、『ファントム・シルエット』同様、かなりの魔力と集中力を必要とする為、そう何度も使用はできない。

事実、ティアナが実戦でこれを行うのは初めての事だし、元々ティアナは魔力の量が魔導師としては多い方ではない。

 

「それでもムカつくことには変わりないし、落とし前は後でしっかりつけさせてもらうわよ」

 

あの2人を倒して捕らえる為の策を考える。

敵が自分の正確な位置を捉えるまでに、恐らくそう時間はないだろう。

それに敵はあの2人だけではない。

少なくともビルの外でこの結界を張っている戦闘機人、オットーも居る。

 

「とりあえず、好き放題言ってくれたお礼に1発ぶん殴ってやりたい所なんだけど……っ!?」

 

そこでフッと、ティアナはある事に気付く。

射撃型の自分が、「ぶん殴る」は流石に無い。

そう言うのはスバルがお似合いである。

戦闘スタイル的にもそうだが、そういう直情的な行動選択は治すべき悪癖だ。

どうやら無意識のうちに頭に血が上り熱くなっていたらしい。

訓練校時代も上位の成績を取った時に周りの連中から、

 

「あの子、士官学校も空隊も落ちたんでしょう?」

 

「格下の陸ならトップ取れると思っているんでしょう?」

 

「恥ずかしくないのかしらね」

 

なんて皮肉と嫉妬を含んだ罵倒を浴びた事がある。

その時も思わず暴言を吐いた同期生を殴り掛かろうとしたが、この時はすぐ隣に居たスバルに止められた。

それに六課に来た時や獄寺が自分の大事なロケットを壊した時の1件でも自分は冷静に事を運べなかった。

そう思うと自分は意外と短気なのかもしれない。

 

「いけない、いけない。心を落ち着けなさい、ティアナ‥苛立ちも怒りも深く秘めておかないと‥‥」

 

ティアナは頭を振ってこみ上げて来た怒りを抑える。

例えどれほど感情を刺激されようと、それを呑み込んで冷静沈着に物事を達観した視点で見る。

なにより、熱くなっていては良い策など思い浮かぶ筈も無い。

 

(さて、あのチンクとか言う銀髪眼帯についてはある程度の情報は解析できた‥‥この結界を張っているオットーについてはまだ、無視していいわ‥‥問題はあの赤毛パイナップルのウェンディね‥‥)

 

六課はまだウェンディとの交戦機会がないので、ウェンディに関して情報がなかった。

 

(基本はあのラィディングボードによる機動戦だと思うけど、彼女、手には何も持っていなかったわね‥‥まさか、あのボードによる体当たりだけが攻撃手段なんて思えないし‥‥)

 

これまでの動きでウェンディはボードによる移動でスティンガーをばら撒くことしかしていない。

確かにあのボードの機動力で体当たりをされれば自動車に轢かれるぐらいのダメージを受けるかもしれない。

だが、これまでのナンバーズの攻撃能力としてはあまりにもショボい。

 

(となると、あのボードに何かしらの武装か仕掛けが施されているとみた方がいいわね)

 

ティアナはウェンディのボード自体に何かしらの武装が施されていると予測する。

しかし、まだ確証がない。

この目でちゃんと見て確証を得なければならない。戦場で都合のいい憶測は判断を謝らせる元になりかねない。

その他にもあの2人の連携の完成度、それぞれの傾向など、欲しい情報は幾らでもある。

圧倒的に不利な状況である事に違いはない以上、それらを少しでも多く揃える事が生死を分けるだろう。

 

(いっそ、幻術を囮に使うべきかしら?)

 

ティアナはウェンディの能力を見る為にファントム・シルエットを使うべきかと迷う。

だが、あまり多用すればこっちが魔力切れを起こす可能性もある。

あの模擬戦からティアナは鍛練を怠らず、あの時の模擬戦では1回使っただけで魔力切れを起こしたが、今では数回ならば使用しても魔力切れは起こさないレベルにまで上達していた。

それでも基本魔力が少ないティアナにとっては重要な問題だ。

それに情報収集のみならば、従来のフェイクシルエットだけでも事足りる筈だ。

 

「じゃ、やることも決まったし…………行きますか!」

 

ティアナはその場を後にする。

幻術を駆使し、誘導弾で牽制しながら情報を収集していたのも僅かな時間。

相手もバカではない。

不完全ながらも対策が為され始め、幻術の効果は激減し始めた。

疾駆するウェンディを惑わそうと出現させた幻影がボードに装備されていた大口径の砲撃よって吹き飛ばされる。

 

(やっぱり、ボードに武装が施されていたわね)

 

ティアナの予想通りウェンディのライディングボードは移動手段だけでなく攻守も兼ね備えた武器だった。

 

「さすが、オットー、仕事が早い」

 

「そうッスね。でも、初めに比べればだいぶマシとはいえ、やっぱりめんどい奴ッス。なんかもっと手っ取り早い方法はないもんッスかねぇ」

 

あまり気の長いちまちました戦いは好まないのかウェンディがぼやく。

オットーが組んだプログラムのおかげで、大体5割の確率で幻影を見抜けるようにはなって来た。この調子で行けば、遠からず完全に見抜けるようになるだろう。

だが、現状ティアナの幻術から完全に抜け出せたわけではない。

戦闘機人の自分らが格下と思っていた相手に今なお踊らされて、良い気分がする筈もない。

ティアナ同様、チンク達としたら、さっさとティアナを片付けて他のナンバーズの援軍に向かいたいのだ。

かと言って、ここで苛立ちに身をまかせれば相手の思う壺。

それがわからない程、チンクもウェンディもバカではない。

そんな2人の下にティアナのクラスファイヤシュートがいくつも飛来する。

線を向ければ、ティアナが瓦礫や柱の影から姿を見せていた。

ただしその数、実に5人。

幻術を使用しているのは明らかなのだがそこに居るティアナが全員偽物なのか、それとも本物が紛れ込んでいるのか。

幻術使い特有の戦法に、2人は知らず知らずのうちに眉をしかめた。

もう何度も繰り返してきた事なのだが、この様な謎掛け染みた戦闘はやはりやり辛い。

いくら5割の精度で幻影を見抜けるとは言え、逆に言えばまだ半分は見抜けないと言う事である。

チンクのスティンガーにも数に限りがある。

こうなれば確実に幻影とわかる物だけは無視し、残る判然としないものは残さず切り捨てていく。

スティンガーの投擲距離外のティアナもいるが、それらはウェンディがしっかり対処している。

これなら、本体がいるのなら本体にダメージを与えられるし、いなくても幻影はすべて消失する。

 

「くっ」

 

チンクが眉をしかめ、改めてティアナの居所を探ろうとする。

すると、着実に性能が向上しつつある対幻術プログラムが、ある1点に不審な存在を発見した。

 

「そこだ!!」

 

「なっ!?」

 

「やっと見つけたッスよ!!」

 

チンクのスティンガーの投擲がティアナを襲う。

左肩を掠め、今まで姿を消していたティアナが姿を現した。

ステルス魔法のオプティックハイドが解けたのだ。

チンクの後ろにはボードを構えているウェンディの姿。

ティアナの戦術に落ち度はなかった。

ミスがあったとすれば、対幻術プログラムの学習速度を見誤ったと言う1点のみだ。

 

「このっ……!」

 

思い切り後ろに飛び下がりながら、銃口を向けるティアナ。

だが、チンクも今更誘導弾や幻術を使う隙を与えるつもりはない。

これまでの戦いからティアナにこれ以上時間をかけている暇もないし、あの幻術にも誘導魔弾にも正直イライラしていた。

こんな厄介な敵の相手はもうたくさんだった。

AMFが使用できればこんな奴、もう片付いていた筈だ。

その肝心のAMFが使用できないので発生用にガジェットを連れて来ればよかったと今更後悔したが、その片ももうすぐに着く。

確実に息の根を止める為、チンクは迅速に容赦なく徹底的に心をぶらすことなく一足飛びでティアナとの距離を詰める。

IS能力ではなく直接スティンガーでティアナの心臓を突き刺すつもりだった。

そして、ティアナの周囲に誘導弾が展開されるより速く、ティアナの心臓にスティンガーを突き立てようとして‥‥

 

「っ!?」

 

全身を駆け巡った危機感に従い半歩身を引いた。

その直後、チンクの右頬にツゥッと薄らと刻まれた一筋の赤い線。

チンクの視線の先には、先ほどと変わらずクロスミラージュを向けるティアナの姿。

ただし、その銃口からは見るも鮮やかな燈色の光が放たれている。

 

「なるほど。直射型の弾丸は、何も実体弾だけではないと言う事か」

 

「そのとおりよ」

 

ティアナが再度引き金を引くのに先んじてチンクはスティンガーを投擲しようとする。

しかし、引き金を引く指とナイフを投げる手、どちらの方が早いかなど自明の理だ。

銃口から次々に吐き出される光弾に晒され、チンクはスティンガーの投擲を諦めてティアナと一端距離をとった。

代わりにチンクの背後から放たれたウェンディの砲撃がティアナの直射弾を相殺する。

 

「確かに早いけど、甘いッスよ!」

 

「実体弾と魔力弾の違いはあれ、同様のものは先ほどの戦闘で見ている我々に 同じ手が何度も通用すると思ったら大間違いだぞ」

 

「ちっ」

 

ティアナとウェンディの撃ち合いは、幻術で魔力を消費しているティアナの方がやや不利。

分の悪さを悟り、ティアナはフェイクシルエットで己の幻影を作る。

先ほどよりさらに数が減り、幻影の数は4体。

本体と合わせて5人のティアナは、敵を惑わす為に方々に散るのだった。

だが、時間が経つにつれ対幻術プログラムの解析が進んでいくと戦況は徐々に戦闘機人達へと傾いて行く。

当初は情報収集する程に余裕があったのが、やがて正面から戦わざるを得なくなり、等々逃げの一手を打たねばならない程にティアナは追い詰められていく。

そして、ついにフロアの片隅へと追い詰められていた。

 

「まったく、随分とてこずらせてくれたな」

 

「ホントっスよ。とはいえ、長かった鬼ごっこもこれで終わりなわけっスけど‥さぁ、覚悟は良いッスか?」

 

一応は警戒しながらも、勝利を確信するチンクとウェンディ。

2人が勝利を確信するのも当然で、今のティアナがいるのは決して横幅が広いとは言えない廊下の突き当たり‥‥まさに袋の鼠だ。

背後と両脇は壁に阻まれ逃げ道などある筈もなく、正面にはチンクとウェンディが立ちふさがっている。

 

「貴様の幻術は厄介だからな、確実に息の根を止めさせてもらうぞ」

 

スティンガーを構えたチンクが前に出る。

ことここに至っても尚、2人の心に慢心はない。

眼前のティアナが幻影ではない事は、闘いながら幻術パターンを解析した事で明らかだ。

ティアナはこれまでの戦闘で既に満身創痍の状態となっていた。

大混戦の中、クロスミラージュも1丁何処かに落してしまった。

あとはもう仕留めるだけで終わるが、たとえどれだけ有利な状況にあろうと、最後の最後まで気を緩めてはいけない。

陣形を見る限りウェンディが後ろから援護しつつ、チンクが詰め寄って仕留めるというプランなのだろう。

堅実に、手堅く行けば絶対的に有利なチンクとウェンディの勝利は揺るがない。

だが、

 

(なんとかここまで誘導できた。あとは連中が手堅く出てくれれば……)

 

ギャンブルではあるが、一発逆転も不可能ではない。

一見すると袋小路に追い込まれ、不利な要素ばかりに思えるティアナ。

しかし、2人が並んで動くには狭い通路内であるこの状況はティアナにとって決して不利な状況ではない。

敵が選択可能な戦術の幅を狭まった事で、相手の手を読みやすくなった。

また、満身創痍のティアナを相手に数的にもコンディション的にも有利な2人が奇策に賭けに出る意味はない。

堅実に行けば十中八九を勝てる状況だからこそ、更に相手の手の内が読みやすくなる。

 

「死ねぇぇぇー!!」

 

「っ!?」

 

ブシュッ‥‥

 

チンクのスティンガーがティアナの心臓に深々と突き刺さる。

 

(殺った!!)

 

チンクには確かな手応えがあった。

しかし‥‥

心臓をスティンガーで突き刺された筈のティアナは何故かニヤッと笑みを浮かべると次第にその姿は消え始めた。

 

「なっ!?」

 

「幻術!?そんなバカなっ!?」

 

チンクとウェンディは信じられなかった。

あのティアナは確かに幻術ではないと確認出来ていたし、スティンガーを刺した時、チンクには確かな手応えがあった。

 

「ならば奴は何処だ!?」

 

「此処よ!!」

 

「「っ!?」」

 

その時、2人の背後からティアナの声がした。

ティアナは此処でファントム・シルエットを使い、チンクに攻撃をさせてオプティックハイドⅡにてファントム・シルエットの幻影と入れ替わりチンク達の背後に回ったのだ。

高等幻影魔法の連続しようとこれまでの戦いでティアナにはもう魔力がほとんど残されていない。

故にこれがティアナの最後の攻撃となる。

此処で失敗すれば自分は確実に殺される。

だからこそ、ティアナは出し惜しみすることはない。

 

「クロスファイア―――――――――――!」

 

愛機を構え、自身の周囲に大量の誘導弾を布陣するティアナ。

チンクとウェンディは即座にそれに気付き、対応するべくそれぞれに動き出す。

チンクはスティンガーを構え真っ直ぐティアナへと走り出し、その背後からウェンディが援護するべく武装を持ち上げる。

放たれる誘導弾を、チンクを迂回するようにウェンディが打ち落とすことで道を通す。

その道を通ってチンクが接近し、今度こそ、ティアナの心臓にスティンガー突き立てる。

多少予定が変わったが、最終的には自分達の勝利で終わるシナリオの筈だった。

だがそれは、予想外の事態で変更された。

それまで廃ビル全体を包み込み、内外を隔てていた結界が消失したのである。

 

「結界が!!」

 

「まさか、オットーがやられたッスか!?」

 

結界の消失はオットーの身に何かがあった事を知らせていた。

突然の結界の消失に勝利を確信していた2人の心に僅かにブレが生じた。

ティアナはその隙を身のがさす愛機の銃口を暗い灰色の天井に向けた。

 

「シュ――――――ト!!」

 

「「えっ!?」」

 

自分達に向けられると思っていた魔力弾の半分が次々に天井へと突き刺さる。

元々風雨に晒され劣化していたこともあって脆くなっていた天井は容易く瓦解し、ティアナを含め、その場にいる3人に容赦なく降り注ぐ。

この余りにも予想外なティアナの行動と事態に2人の動きが僅かに鈍り、ウェンディとチンクは反射的に頭を守ろうと腕が持ち上がりかけた。

しかしティアナだけは、降り注ぐ瓦礫もお構いなしに敵から目を逸らさない。

大ぶりの瓦礫が肩に当たり、鈍痛が走る。

頭部を掠めた瓦礫により、ようやく塞がりかけていた傷が開き、血液が再度彼女の左目を塞ぐ。

それでもなおティアナは真っ直ぐに狙うべき敵へ視線を固定し、痛みを振り払って愛機を構える。

そして、残る半分のスフィアを自身の正面で収束砲撃に変えて撃つ。

 

「だぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

収束された極太の燈色の光の奔流は、降り注ぐ瓦礫を砕いてチンク目掛けて迫りくる。

 

(私のミス…だな……)

 

分散配置するかAMF発生用にガジェットを連れて来ればこんなことにはならなかっただろう。

チンクは、そんな悔恨の全てを飲みほした上で、自身と後ろに居るウェンディを守る為急ぎ防御外套「シェルコート」を翻して身を守る。

 

「くっ‥‥ぐっ‥‥」

 

両足を踏みしめ、なんとか砲撃に耐える。

だが、徐々に砲撃の威力で身体が後ろへと押されていく。

チンクはさらに踏ん張る脚に力を込める。

僅かな時間拮抗する両者だったが、間もなく均衡が崩れた。

ティアナの砲撃はその場で破裂、同時にチンクもその煽りを受けて大きく後方へと吹き飛ばされる。

 

「チンク姉!!」

 

ウェンディは吹き飛ばされる姉を咄嗟に庇い、身体でチンクを受け止める。

かなりの速度で飛ばされたせいだろう。チンクを受け止めた時、ウェンディの顔に苦悶の色が浮かぶ。

そして、チンクはウェンディの腕の中で気を失っていた。

一方、辛うじて倒れこむことなく姉を支え切ったウェンディだったが、彼女は自身の背後から忍び寄る何かに気付かない。

姉の無事を確認しようとした所で、後頭部で衝撃が爆ぜた。

 

「がっ‥‥」

 

ウェンディは自身の身に何が起こったか理解する前に、狙い澄ました一撃により意識を断たれ、力なくその場に崩れ落ちる。

その正体は、ティアナが最初に天井に向けてはなった誘導弾。

より正確には、魔力弾の外郭を更に膜状バリアで覆う『ヴァリアブルショット』。

誘導弾は直射弾と違い、術者の意思で軌道を変える事が出来る。

また、ヴァリアブルショットは膜状バリアで覆われている性質上、通常の魔力弾に比べて頑丈だ。

それらの特性を利用し、天井を破壊しながらも膜状バリアを引き換えに、まだ消えていなかった1発でウェンディの意識を刈りとったのだ。

 

「ハァ…ハァ……戦闘機人…2名、撃破。貴女達を確保します……って、聞こえてないか」

 

既に意識の無いチンクとウェンディに逮捕する事を宣言したが、意識の無い2人は当然聞いていない。

乱れた息を整えながら、肩や頭に掛かった埃を落とす。

緊張の糸が解けたのか、ティアナはその場に腰を落とす。

魔力は尽き、体中はボロボロであちこち痛い。

 

「どう?へっぽこだってやる時にはやるのよ」

 

ティアナは気を失っているチンクとウェンディにドヤ顔で言い放った。

 

「あぁ~ヤバ‥‥もう魔力が残っていないわ~‥‥それに身体中がメチャクチャ痛い‥‥」

 

そして、ティアナ自身もその場に大の字で倒れた。

 

「スバル達の所に行きたかったけど、この状況じゃ、足手纏いになりそうね‥‥でも、この状況‥ちょっとヤバいわね‥‥敵が来なければいいんだけど‥‥」

 

この状況で敵が来たらヤバいが今のティアナは満足に動くことさえ出来なかった。

ティアナは敵が来ない事を祈りながら、目を閉じた。

 

 

・・・・続く


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