【大空】と【白夜叉】のミッドチルダの出会い~改~   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。

いよいよ上映『リリカルなのはReflection』これをどんだけ楽しみにしていたことか.....いつかこれでもReflectionに出てくるキャラクターを使いたいものだ。

更新です。


標的76 地獄に送るのは死神天国に送るのは...

 

 

 

 

 

聖王のゆりかごが突如ミッドの空に浮上し、戦闘機人達によるアインヘリアル砲台が破壊された時、時空管理局地上本部の最深部でもある動きがあった。

時空管理局地上本部の最深部、そこは最早人の出入りはほとんどない、古い時代の遺産が鎮座する場所であり、管理局員の中でも特別な権限と許可がない者以外立ち入りが許されないミッドでも神聖な場所と言えるような場所だった。

そこには薄明かりに照らされた大きな3つのシリンダー型の生体ポットがあり、その中に大量の溶液の他に人の脳みそが浮いていた。

この3つの脳みそは只の脳みそではない。

脳みそ達の正体は『管理局最高評議会』。

旧暦の時代、次元世界を平定し時空管理局設立後一線を退いた3人で管理局の中で英雄とも言える存在だった。

管理局最高評議会は彼らが、その後も次元世界を見守るために作った事実上の最高意思決定機関なのだった。

しかし、ここ数十年の間に居るとされながらも最高評議会のメンバーの姿を見た者はおらず、現在、管理局で英雄とされる三提督、法務顧問相談役のレオーネ・フィルス、武装隊栄誉元帥のラルゴ・キ-ル、本局統幕議長のミゼット・クローベルですら最高評議会のメンバーの姿を見ていない。

だが、最高評議会の決定事項や命令はどこからか指示されてくることから最高評議会は確かに存在していた。

でも、そのメンバーの姿を見た者は居ないと言う矛盾がある‥‥それもその筈だ。

何しろ彼らはとうの昔に肉体を捨て、脳髄だけの姿になって生体ポットの中に浮いて生きているのだ。

だが、そんな現実を知られれば、何かと不都合が生じる。

管理局がクローン研究や戦闘機人の研究を禁じているように生命に関する道徳から外れているような事は、管理局では法律で禁止している。

だが、彼らは永遠の命欲しさに自分達で築いた法律を破り、こうして生き長らえていた。

権力の象徴は上の方から腐敗していく‥‥彼らの存在は管理局の闇とも言える存在で、決して表に出る事無く、あくまでも裏方に徹し、表舞台に立つ役者たちに時には助力し、時には助言し手を回してきた。

当然その行為の中には自分達が定めた法律を破る行為が多く含まれていた。

 

「ジェイルは少々やりすぎたな」

 

「レジアスとて、我らの重要な駒の一つであるというのに」

 

「我らが求めた聖王のゆりかごも、奴は自分の玩具にしようとしている」

 

「止めねばならんな」

 

暗い虚空に足場だけが浮かぶ不気味な空間に機械混じりな声が響く。

脳みそだけとなり声帯を持たない彼らは、機械により合成された感情を感じさせない声で淡々と会議を進めている。

 

「だが、ジェイルは貴重な個体だ。消去するにはまだ惜しい」

 

「しかし、彼の人造魔導師計画もゼストは失敗、ルーテシアもまだまだ成功の域には至らなかった。まぁ、聖王の器に関しては完全に成功の様だ。そろそろ、良いのではないか?」

 

ジェイル・スカリエッティ‥またの名を開発コードネーム「アンリミテッドデザイア(無限の欲望)」。

最高評議会が失われた世界、アルハザードの技術と知恵を使って生み出した遺児。

あの天災科学者のスカリエッティでさえ、最高評議会が秘密裏に推し進めて来たプロジェクトの1つに過ぎない。

別に彼を弁護するわけではないが、彼は管理局の手によって生み出され、管理局の為にこれまで違法行為を行う事を押し付けられ、その管理局によって犯罪者に仕立て上げられた言わば必要悪の存在だった。

元をただせば彼だって管理局の局員と言ってもおかしくはない。

今回の事件、これは彼にとっては自由を得るための反乱だったのかもしれない。

そして、今回の事件は手駒の1つでしかない彼が、今その手から離れ自分達に反旗を翻そうと画策していた事に彼らはようやく気付いた。

とはいえ、例えスカリエッティがゆりかごを復活させて動かそうが、それすらも掌の上の事。

自分達の絶対的優位という認識に揺らぎはなく、彼らの様子に『焦燥』の色はなくむしろ『余裕』さえある。

 

「我らが求むるは、優れた指導者によって総べられる世界。我らがその指導者を選び、その陰で我らが世界を導かねばならん」

 

「左様、その為の生命操作技術、その為のゆりかご」

 

「旧暦の時代より、世界を見守る為に我が身を捨てて永らえたが、もうさほど長くは持たん」

 

「だが次元の海と管理局は、未だ我らが見守って行かねばならん」

 

「「「次元世界の平和と正義のために!!」」」

 

彼らの主張と理想は今を生きる人々‥‥機動六課のメンバーや真っ正直に生きている人々にとって酷く傲慢な考えである事に彼らは気付かないし、気づく必要もないのだろう。

元は崇高な理念と意思、正義、人々や世界の平和を信じてそれを志して歩んできたのかもしれないがそれも今は大昔の事だ。

彼らの思想がいつからこうして歪んでしまったのかは定かではないが、推測できるのは恐らく彼らが老いを感じ始めた頃だろう。

例え、高い魔力を誇る魔導師でも老いには勝てない。

そして人間である以上いつかは必ず『死』はやってくる。

彼らはその死に恐怖し、そしていつまでも高い権力の椅子に座っていたいと言う強く傲慢な欲望から今の姿となったのだろう。

1つ言えるのは、彼らは最早旧時代の有害物であり、今の時代に必ずしも必要不可欠な存在ではないという事だ。

 

「ん?」

 

その時、最高評議会のメンバーの1人(?)が何かに気付く。

それは、評議会3名が浮かぶ生体ポットにゆっくりと近づく移動式の床であり、その上に立つ1人の女の存在だ。

 

「失礼いたします。メンテナンスのお時間です」

 

「おお、そうか」

 

「では、手早くやってくれ」

 

「左様、今は会議中なのでな」

 

「承知しました」

 

(ふん、最高権力者と言うモノはどの世界でも変わらず、永遠の命を求めるものだな)

 

最高評議会のメンバーの下にやって来たのはレジアスの次席秘書官のカローラ・アクシオだった。

しかし、今日この場に居るカローラは普段のカローラとは何だか纏う雰囲気が異なったが、最高評議会のメンバーはその事に気づくことなく会議を続けている。

そんな中、

 

ガシャーン!!

 

突如、ガラスが割れるような音が辺りに響いた。

 

「ぐあぁぁ!!」

 

「むっ、き、貴様!!」

 

ガラスが割れる音の次には機械音声の悲鳴が響き、次に機械音声の怒鳴り声が響く。

 

「何をする!?」

 

「『何を?』‥だと?知れた事、既に用済みの廃棄物を処理しに来たまでよ‥‥」

 

なんと、最高評議会の生体ポットのメンテナンスに来たはずのカローラがメンバーの1人の生体ポットに日本刀を突き刺し、ポットの中にあったメンバーの本体である脳みそを日本刀で串刺しにしたのだ。

脳と言うのは生物にとって重要な器官であり、それが傷つけば生物としての機能に支障をきたすか死んでしまう場合もある。

それは脳みそだけとなった最高評議会メンバーも例外ではない。

カローラはそんな哀れな最高評議会の1人を日本刀ごとポットの外へと出すと刀を振り、メンバーの1人を強引に床へと落とすとソレを足で踏みつぶした。

そしてカローラの姿は管理局の制服から白い胴に水色の八咫烏の絵が描かれた黒い忍び装束を来た銀髪の男となる。

 

「貴様…何者だ……!」

 

「おのれ、痴れ者めがぁ!!名を名乗れ!!」

 

「我は天に仕える八咫烏、管理局を設立した偉大なる老害共、もはや貴様らの時代はもう終わった。その醜い姿で生き恥を晒す前に八咫烏の爪で地獄へと旅立つがいい‥‥」

 

忍び装束の銀髪の男こと朧は刀を構え残った最高評議会のメンバーに言い放つ。

朧の言葉を聞き残るメンバー達は瞬時に理解した。

掌の上にいたと思っていたあの男も世界もずっと昔に彼らの手を離れていた。

この場から動くことも出来ず、外の情報を得るのにも他人を頼らなければならない彼らの致命的なミスだった。

こういう意味においても彼らは老いていたのかもしれない。

抵抗する為の肉体を捨てた彼らに、最早この運命を覆す術はない。

彼らが生き残るには何とか朧を説得する方法しか残されていなかった。

 

「何故だ、何故我らを討つ! 我らは次元世界の為、この身を捨てて尽力してきた。その我らを討つ道理が、貴様にあるのか!?」

 

「そ、そうだ!!まだ世界には我らが必要だ!」

 

「今、我らを欠けば世界がどうなるか貴様はわかっているのか!?その責任を貴様は取れると言うのか!?」

 

「お前達の死は天が定めた運命‥お前達の死後、この世界が栄えるも滅びるも天が定めし天命に従うべし」

 

「や、やめろ…やめろ―――――――――――――――――っ!!」

 

「ま、まだ死にたくな‥‥」

 

そうして数秒後。

もはや人と呼べるかすら、分からなくなった最高評議会の面々は今度こそ本当に物言わぬ肉塊となり果てた。

 

「ふん、結局は欲に従い大義を元に生きていただけか。さて間もなくだ、間もなくあの御方も此方に来られる‥天の導きはどちらに転ぶか」

 

日本刀から滴る溶液を振り落としながら、朧は無表情のまま呟きそのまま暗闇に姿を消した。

この日、長年時空管理局を見守り、影から牛耳ってきた最高評議会は人知れずその歴史に幕を下ろしたのである。

 

「こ、これは‥一体‥‥何が‥‥」

 

それから少しして、本物のカローラが降りてくると彼女の目に写ったのは割られたポットに床に散らばる脳みその肉片だった。

 

「誰が私よりも先に‥‥」

 

どうやら、カローラ自身も最高評議会のメンバーを殺す為に此処へ来た様だ。

 

「まぁ、いいわ。連中をバラす手間が省けたし‥‥さて、そろそろ用済みの中将閣下にも老害共の後を追ってもらいましょうか?」

 

カローラは冷たく、そして不気味にニヤリと笑みを浮かべその場を後にした。

スカリエッティが動き出し最高評議会のメンバーも葬った今、レジアスもスカリエッティにとっては用済みとなっていた。

 

 

それから暫しの時間が過ぎ、地上本部の本部長、レジアス・ゲイズ中将は自らの執務室である男と対面していた。

その男の名はゼスト・グランガイツ。

かつてのレジアスの親友だった男‥‥。

そして今はスカリエッティによって蘇生させられた幽霊とも言える存在。

彼はどうしてもレジアスに尋ねなければならない事があった。

その為に彼は今日まで生きていたようなものだった。

 

「ぜ、ゼスト‥‥」

 

目の前に死んだと思っていた親友の姿を見てレジアスは顔を青くしている。

 

「レジアス‥9年前……俺と、俺の部下達を殺させたのはお前の指示で間違いないのか?」

 

ゼストの言う9年前の出来事‥‥それはナカジマ家も関わりのある出来事だった。

9年前のある日、ゼストは今のようにレジアスに詰め寄っていた。

レジアス、ゼスト‥この2人は昔から共に正義を志してミッドの平和のために力を尽くそうとしていた。

しかし、彼らがどんなに頑張ろうと優秀な人材は本局の『海』へと次々と流れて行き、ミッドの治安は一向に回復することなく反管理局のテロが横行し、罪もなく、力のない一般市民が犠牲となって行く。

そのくせ、『海』からは「自分達の足元も綺麗にすることも出来ない役立たず共」と蔑まれる日々。

高魔導師のゼストならいざ知らず、非魔導師ながら地上本部のトップに登り詰めたレジアスにとっては『海』からの皮肉や罵倒は耐え難い苦痛だったのだろう。

元々は優秀な人材、多額の予算を根こそぎ奪っていく本局が根本的な原因なのだが、本局の魔導師達はそれに気づくことなく、自分達の足元よりもまだ見ぬ空ばかりを見上げ続けていたのだ。

レジアスがそれをどんなに上申しても伝説の三提督さえもそれを真剣に取り合わず、

 

『レジ坊がまた我儘を言っている』

 

と言って取り合わなかった。

レジアスがはやての機動六課を目の敵にするのは、機動六課の構成メンバーが本局の魔導師が多い事だった。

本局は『陸』の縄張りに自分達の先兵となる機動六課を送り込み、『陸』の全権を乗っ取るつもりだとレジアスは考えた。

決定的だったのが、『陸』の縄張りに部隊と隊舎を置くのにも関わらず、『陸』のトップであるレジアスは機動六課の創設会議には一度も呼ばれず、気づいたら創設されていたと言う事態だった。

これらの事で彼が機動六課に対して好印象を抱けと言うのが無理である。

ミッドの平和と市民の安全はレジアスとゼストの長年の悲願でもあった。

権力を持っても魔力を持たぬレジアスは等々管理局の闇とも言える最高評議会そしてスカリエッティと関わりを持つようになり、プロジェクトFATE及び戦闘機人の技術を『陸』の人員不足解消の為利用しようと考えたのだ。

しかし、黒い事実は何処からか漏れたのかゼストの耳にも入る事となった。

もしかしたら、最高評議会またはスカリエッティが何らかの意図か目的があって故意に流したのかもしれない。

そんな中、ゼストは当時のスカリエッティのアジトの場所を突き止めそこを強襲する計画を立てた。

だが、それに待ったをかけたのが他ならぬレジアスだった。

今、ゼストにスカリエッティのアジトを強襲されて彼が捕まる事があれば自分がこれまで築いて来た地位が崩れるだけでなく、彼が密かに進めてきた戦闘機人、人造魔導師の導入計画が水の泡になってしまう。

そうなればミッドの平和は更に遠のいてしまう。

レジアスはそれを恐れゼストにスカリエッティのアジトの強襲に待ったをかけたのだ。

だが、レジアスのこの行動がゼストに不信感を抱かせた。

ゼストはレジアスを問い詰め、どういう理由でスカリエッティのアジトの強襲を中止にするのか?また最近噂になっているレジアスの黒い噂について、それが事実なのか嘘なのかを問いただした。

しかし、レジアスは噂については否定も肯定もせず、アジトの強襲の中止についても明確な答えは出さなかった。

煮え切らないレジアスの態度に業を煮やしたゼストは予定通りスカリエッティのアジトの強襲を敢行すると行ってレジアスの下を去って行った。

だが、2人のやり取りはスカリエッティ側に全て筒抜けだった。

レジアスはスカリエッティにゼスト隊が強襲する前に逃げてくれと言うが、彼は当時起動したばかりのトーレ、クアットロ、チンクの相手に相応しいと言ってそのままゼスト隊を迎え撃ち、彼らを返り討ちにした。

ゼストを含む、隊員の死体を前にスカリエッティはレジアスに戦闘機人の凄さをアピールにしてそのままアジトを変えた。

この事件でゲンヤの妻であり、ギンガ、スバルの母親であるクイント・ナカジマは殉職したが、スカリエッティ側もチンクがゼストとの戦闘で右目を失った。

スカリエッティはチンクに敗北したとは言え、AMFで満たされた空間で彼女の右目を失わせるほどの腕を持つゼストにレリックを移植してレリックウェポンとして蘇生させ、そして当時まだ乳飲み子であるルーテシを生んだばかりのメガーヌの召喚師としての腕前を見て、娘のルーテシアもメガーヌ同様、凄腕の召喚師になると判断し、最高評議会の力を使い、ルーテシアを誘拐した。

スカリエッティの読みは的中し、ルーテシアはメガーヌ同様、凄腕の召喚師となった。

そして今、ゼストは9年前の事を含めてスカリエッティとレジアスとの関わりをこうしてと問いただしていた。

レジアスの執務室にはレジアスとゼストの他にもう1人‥次席秘書官のカローラがいた。

秘書としてレジアスの傍にいたカローラが2人に気づかれぬよう密かに動き出す。

 

「ゼスト‥‥ワシは‥‥ワシは‥‥」

 

レジアスがゼストに何かを言うとした時、

 

ザシュッ

 

肉を突き刺すような鈍い音が執務室に響く。

 

「がはっ!!」

 

レジアスの口からは赤い血が吐き出され、彼の腹部からは鋭い鍵爪が姿をのぞかせる。

彼女が何故ゼストの前でレジアスを殺したのか?

それは彼に親友の最後をまざまざと見せつける為であった。

 

「レジアス!!貴様!!」

 

真相を聞き出す前に‥ましてや親友を目の前で殺されたゼストはカローラを睨みつける。

そしてカローラの姿は管理局の制服からナンバーズが纏っていた青を基調とするボディースーツへと変貌し容姿も髪の色も変化した。

 

「騎士ゼスト‥貴方も最高評議会や中将のようにもはや利用価値のない過去の遺物‥‥私、ナンバーズⅡ、ドゥーエが親友や部下達の下へと送って差し上げますわ」

 

カローラ改めナンバーズⅡ、ドゥーエはレジアスの腹部から鍵爪を抜くと不敵な笑みを浮かべながらゼストに言い放つ。

彼女のISは『偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』。

自分と似たような体型ならば容姿も髪の毛の色、そして声さえも変える事が出来る潜入・暗殺に特化したIS能力だった。

ドゥーエはこの能力を駆使してかつては聖王教会にシスターとして潜入し聖王の聖骸布から聖王、オリヴィエの髪の毛を入手した。

ドゥーエが手に入れたその髪の毛がプロジェクトFATEの技術で生み出されたのがヴィヴィオだった。

こうした経緯とスカリエッティの技術がヴィヴィオを誕生させた事からスカリエッティがヴィヴィオの父親でドゥーエがヴィヴィオの母親に当たるのかもしれない。

そしてその後は管理局員として管理局に潜入し、管理局の動きや機密情報をスカリエッティに送っていたのだった。

 

ゼストと対峙するドゥーエには焦りの色はなかった。

その理由はかつて妹のチンクに敗北しスカリエッティの手によってレリックウェポンとして蘇生したゼストならば自分でも簡単に葬れるとドゥーエは踏んでいた。

しかし、ゼストとてこの9年間何もしなかったわけではない。

チンクが右目を治さなかったようにゼストも己の敗北から腕を上げなければならないと思いレリックウェポンになりながらも腕を磨いていた。

 

「レジアスの仇だ」

 

「へぇ~局員なのに投降を呼びかけないのね」

 

普通局員は犯罪者に対してまずは投降を呼びかける。

しかし、ゼストはドゥーエに投降を呼びかける事無く最初から彼女を殺すつもりだった。

 

「俺はもう局員じゃない」

 

「そうだったわね‥‥」

 

ゼストとドゥーエは互いに駆け出す。

 

ガキーン!!

 

ゼストの槍型のデバイスとドゥーエの鍵爪、ピアッシングネイルがぶつかり合う。

ドゥーエは今の自分でもゼストに勝てると思っていたが失念していたことが2つあった。

1つはゼストが9年間の間レリックウェポンになりながらも鍛練と修業を忘れなかった事

そしてもう1つはこの部屋がAMFで満たされていなかった事だ。

ゼスト隊の時にはスカリエッティのアジトはAMFで満たされていた。

それ故、ゼスト隊の隊員は満足に力を出すことが出来ずに敗北したのだが、ここでは違う。

彼女の敗北はそれが大きな原因だったのかもしれない。

 

「ふん」

 

競り合っていた中、ゼストがピアッシングネイルを振り払い、次いでピアッシングネイルを一刀両断にするとドゥーエの腹部に深々と槍を突き刺す。

 

「がはっ!!」

 

「レジアスが味わった痛みだ。貴様もとくと味わってから逝くがいい」

 

ゼストは一撃で終わらせるのではなく、敢えて苦しんで死ぬように槍を突き刺したのだ。

ドゥーエは自分の腹に突き刺さった槍を引き抜こうとしたが、ゼストはそれを許さず、両手でグッと抜けないように槍を抑える。

ドゥーエの周りには忽ち彼女の血だまりが出来上がり、彼女は苦痛に顔を歪めるが、やがて槍を握っていた彼女の手はパタッと床に落ちそのまま息絶えた。

これがナンバーズⅡ、ドゥーエの最後だった。

 

(俺はここまでだ。後は頼んだぞ、白蘭‥‥)

 

親友の口から直接真相は聞き出せなかったが、ドゥーエの言動から既に聞きたい事は推測できた。

やはり、レジアスは自分の推測通りスカリエッティと繋がっていた。

アギトやルーテシア、スカリエッティに囚われの身となっているメガーヌの事など心配事は多々あるが、ゼストにはもう残された時間がなかった。

 

(出来れば、もう少しお前達の行く末を見届けたかったが……詮無い事か)

 

彼はもう一人の親友に後の事を託すことにした。

 

 

白蘭を炎真に任せたシグナムはゼストの後を追う。

彼が向かったのは十中八九、レジアスの下‥‥。

やがて、レジアスの執務室前に到着すると、扉の前にはリィンと同じ融合機のアギトが陣取っていた。

アギトはシグナムの姿を見つけるとシグナムに向けて火球を投げてきた。

 

「よせ、融合機のお前では私には勝てん!!」

 

「そんな事は分かっている!!でも、旦那は今、古い友達と大事な話をしているんだ!!そいつを邪魔しよぅってんなら容赦しねぇぞ!!」

 

(やれやれ、こうも頑なでは話し合いどころではないな)

 

アギトの火球を躱しながらシグナムはアギトが相手の言い分など、元より精神的に聞く余地がないのだと推測する。

とはいえ、シグナムもあまり悠長にしてはいられない。

シグナムが現れた事で、アギトはその小さな体を精一杯広げ、自身の背後にバリアを展開している。

身を呈してでもシグナムを阻む、アギトの意思の表れだろう。

アギトの決意と覚悟は認めるが、それでもここを通してもらわなければならないのだから。

無言のままレヴァンティンを上段に構え、アギトが自身の背後に展開するバリアに狙いを定める。

アギトを倒すことが目的なのではない。目的はあくまでも、この先にいるであろうゼストだ。

僅かな時間ぶつかり合っただけだが、それでもこの健気で一途な融合騎の事をシグナムは決して嫌いではない。

アギトを傷つけることなく、ただ背後のバリアだけを斬る。

その意思をこの一太刀に込め、シグナムは愛機を振り下ろそうとしたその時、アギトにゼストからの念話が入る。

 

(アギト‥‥)

 

「旦那!!」

 

アギトが思わず口に出し、バリアを解除する。

バリアが解除された事でシグナムも構えを解く。

 

(レジアスとの用件は済んだ‥‥だが、お前の下にはもう戻れないようだ‥‥)

 

「そんなっ!!旦那!!」

 

アギトがレジアスの執務室へと入っていくとシグナムもそれに続く。

 

「これはっ!?」

 

シグナムがそこで見たのは既に事切れているレジアスとナンバーズらしき女の死体。

そして、本棚に背中を預けて床に座っているゼストの姿だった。

 

「旦那!!」

 

アギトはそんなゼストにしがみついている。

 

「すまんな、アギト。苦労をかけた」

 

目に涙を浮かべるアギトに、ゼストはその武骨な手を乗せて労う。

 

「レジアス中将は貴方が?」

 

シグナムはゼストにレジアスを殺したのはゼストなのかと問うとゼストは、

 

「ああ、俺が殺した‥‥」

 

ゼストはレジアスを殺したのは自分だと言う。

 

「俺とレジアスは同罪だ。俺達が奉じる正義は同じものであり、俺はその正義に殉じるつもりだった。もし、その正義が歪もうとしていたのなら、俺がそれを正さなければならなかった。俺はそれを出来ずに挙句の果てスカリエッティと手を組ませてしまった‥‥レジアスは俺が殺したも同然だ」

 

「‥‥」

 

シグナムは黙ってゼストの懺悔の言葉に耳を傾ける。

 

「旦那‥‥」

 

「アギト‥お前は‥お前達は未来へと進まなければならん。俺の様な過去の遺物にいつまでも囚われるな」

 

「でも‥でも‥‥」

 

「烈火の将と言ったか?」

 

「ああ」

 

「アギトとルーテシアの事を…頼めるか?巡り合うべき相手に巡り合えなかった、不幸な子どもだ‥‥貴殿ならば俺よりもアギトと心を通わせることが出来るだろう‥‥」

 

ゼストの頼みに、シグナムは無言のうちに首肯を返す。

それに満足そうな、安心したような微笑みを浮かべるゼスト。

だがそこで、アギトがうつむきながら涙を堪えている事に気付く。

 

「そんな顔をするな。お前達と過ごした日々、存外…悪くなかった。俺などには、勿体無い‥程に‥な‥‥」

 

そう言ってゼストは静かに目を閉じた。

彼が再び目を覚ます事はなかった‥‥。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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