さやかに生えてほむほむが頑張る話《完結》   作:ラゼ

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心理描写上手いこと書けてるかな…


少女は狼なのよ

 

「…はあ」

「どしたの? ほむらー」

「…」

 

 結局あの後、幼女の純真な瞳に根負けしてチーズを受け取ったほむら。美樹ブルー、佐倉レッド、巴イエロー、百江ピンクに続く暁美ブラックとして『ピュエラマギ・ホーリークインテット』に無理やり加入させられることとなった。更に次の日が休みということで新メンバーの歓迎会を開くことになったのだが、ほむらは当然それを固辞した。

 

 そんな彼女の前に差し出されたのは、マミに抱っこされたなぎさ。視線を同じ高さに合わされ、ひたすら『お願い光線』を照射されつづけた悪魔は、少しばかりの抵抗も空しく陥落したのであった。

 

「…で。何故あなたは私についてくるのかしら」

「え? さっきそういうことで決まったじゃん。蒸し返すなよー」

「私は了承していないのだけど」

「まあまあ、気にしなさんな」

「貴女ってほんと、美樹さやか」

「人の名前を悪口みたいに言うなー!」

 

 それぞれが帰路につく段になり、さやかはほむらの家に泊まる旨を両親に伝えるよう杏子に頼んだ。いきなりなんだと訝しむ杏子に、どうしても話さなければいけないことがあるのだと懇願し、なんとか了承を得たのだ。マミは微笑ましいものを見るように目を細め、ほむらはまず私に良いかどうか聞けよと内心で突っ込んだ。

 

「それで、本当のところどういうつもりなの? 寝込みを襲って神の力を取り戻そうとでも言うのかしら」

「違うって。どっちにしろまどかがその場に居なきゃそんなの無理な相談でしょ?」

「ならお目付け役? 心配しなくても約束した以上歓迎会くらいは出るわよ」

「へえ、そりゃ意外だ。あんたのことだから普通に無視するもんだと思ってた……って、そうでもなくて。なんていうか……その、ねえ」

「…?」

「いや、ほら。流石に家に帰ると誤魔化しきれないというか~」

「煮え切らないわね。どういう意味?」

「うー……察しろよぉ」

 

 杏子とは同じ家で暮らしているのだから、お風呂しかり着替えしかりさやかのオットセイを見られる可能性は高いだろう。彼女にとってこんな状態は出来る限り誰にも伏せておきたいし、知っている人間が増えるのは好ましくない。つまり休日二日をほむらの家で過ごし、その間に解決することを期待しているのだ。

 

「訳が解らないわ……あっ! あ、と、その…」

「…解ってくれた?」

「え、でも、わ、私…」

「お願い! これのこと知ってるのあんただけだし、こんなの他の誰にも頼れない…!」

「う、うぅ…」

 

 この謎の現象の秘匿、および解決に力を貸してくれと言外に滲ませて拝み倒すさやか。悩みに悩みぬいているほむらの手を握り、必死に頭を下げている。

 しかし実のところ、悪魔とはいえ性悪な訳ではないほむらにとってそのお願いは特段断るようなものではなかった。同じ女としてもいきなり股間にナニか生えてくる恐怖は共感できるものだ。ならば何故ここまで悩んでいるのかというと――単にお願いの内容を勘違いしているからである。

 

 つまりさやかの『お願い』というのは、昼間なんとか収まったはいいものの、いつまた御立派になるか解らない『さやかちゃん』を『さやかさん』にならないよう『処理』してくれと――そう捉えたのだ。

 

「きょ、杏子……あの子なら、貴女だったら、大丈夫でしょう?」

「大丈夫かもしんないけど、今はほむらじゃなきゃ駄目なんだよ…」

「え、えぇ…!?」

 

 これ知ってるのあんただけだから……という部分はほむらの耳に入らなかった。ぐるぐると思考が目まぐるしく回り、しかし確かに可哀そうだ、などと訳の分からない感情が脳内を埋め尽くす。そしてそうこうしているうちに二人は目的地――ほむらホームに到着し、そのまま中へ入る。

 

「…はっ!? な、なんで家に入ってるのよ!」

「いや、お邪魔しますっていったじゃん。鍵も開けてくれたじゃん」

「あ、貴女は私の敵でしょう!?」

「んー……その辺もちょっと話したいなって。記憶が不鮮明だった時は不信感ばっか募ってたからあんな言い方しちゃったけどさ、私はあんたのこと敵とは思ってないよ」

「な…!」

 

 にへら、と笑うさやかに表情を固まらせるほむら。世界を再編したばかりの敵意丸出しだった美樹さやかはどこへ行ったのかと驚愕し、記憶が戻ったにしても随分と様変わりしすぎな彼女の様子に違和感を覚える。思い出した、というならばここ数日の筈だ。朝の様子を考えると自分がさやかに『生えさせた』という勘違い――それを加味したとしても敵意はそれなりにあったように思える。

 

 態度が軟化するにしても少々露骨がすぎるその様子は、逆にほむらを冷静にさせた。何かを企んでいるのではないのか、と。

 

「…怪しい」

「えっ?」

「あなた、私に何か隠しているでしょう?」

「なな、何をだよ! 別に疚しいことなんか何も…」

「それならちゃんと目を合わして言ってくれるかしら」

「う…」

 

 背を曲げて、下からねめつけるように問い詰めるほむら。両者の顔の距離はぐぐっと縮まり、横に目を反らすさやかは冷や汗を大量に流し始めた。

 

「正直に話しなさい」

「う、嘘なんて言ってない!」

「…」

「…」

「『どうしてかしら。ただ何となく分かってしまうの。貴女が嘘つきだって事』」

「ちょ、そのセリフはぁ…」

「『噓つきの目をしてる。空っぽな言葉を喋ってる。内心は全然別な事を考えてるんでしょう? ごまかし切れるものじゃないわ、そういうの』」

「うがー! 嫌味かあんた! そりゃあの時は悪かったよ! 忠告も無視したし結局あんたの言う通りになったし!」

「挙句の果てに魚になるし」

「うるさーい! あんただって頭がお花畑の魔女になったでしょうが!」

「ちょっと、変な言い方しないで! それだとただのお馬鹿さんみたいに聞こえるじゃない!」

「私だって魚じゃなくて人魚だし!」

「――っ!? あ、あれが、にっ、にんっ…! ぶふっ!」

「ぷ、くくっ…! む、むかつくぅ…!」

 

 言い合う内に変なテンションになっていく二人。苦悩の末の結末であり、後悔と悲恋、そして慟哭と哀哭の道程――それを象徴する魔女の姿形。それを笑い話にできる日がくるなどとは露ほども思っていなかったし、想像すらしていなかっただろう。

 

 ひとしきり罵り合い、二人の腹筋が引きつりそうになった頃にはほむらの疑問もさやかの秘め事も彼方に置き去りにされていたのだった。

 

「…疲れたわ」

「たはは……まあとにかく、悪いけど少しのあいだよろしく頼むよ。ちゃんとお礼はするからさ」

「…とりあえずは誤魔化されてあげる。嘘をついたり人に言えないようなことをしたなら、貴女は勝手に落ち込むタイプだもの」

「ぎく」

「何を企んでいるかは知らないけれど、精々自己嫌悪に苛まれてソウルジェムを濁らさないことね」

「うぅ、肝に銘じます」

 

 ふぁさっと長い髪を靡かせ、ほむらは奥の部屋に歩いていく。色々あったせいで、さやかの幹をティロってフィナーレしなければならないことは綺麗さっぱり忘れていた。まあそれも勘違いではあるのだが。

 

 さやかの方はというと、離れていく悪魔の背を見ながら深く息を吐いていた。保健室でほむらが気絶している間やらかしてしまった一事を思い出し、頭を抱えてぶんぶんと振り回す。先程ほむらが考えていた通り、さやかは朝方まではそれなりの隔意を確かにもっていたのだ。しかしそれも今は雲散霧消している……その理由とは。

 

 人が人に対して優しくなる――それはどういう理由が一般的だろうか。

 

 贈り物をする……なるほど、確かに手っ取り早い上に効果的な手段だろう。あまりに高価なものであれば逆効果になることもあるだろうが、好意を示すには解りやすいやりかただ。

 しかし彼女達のようにこじれた仲であった場合、あまり意味がない手法でもある。

 

 内面を深く知り、理解を深める……これは彼女達にも少し当て嵌まる。互いの辿ってきた道を互いによく知っており――しかし、だからこそ相容れない決定的な部分があったのだ。それ故に対立していたからこそ、ほむらはさやかに違和感を覚えたのだから。

 

 性的な接触を重ねる……これは異性同性を問わず一番心が通じ合いやすい手段だ。そもそもそこに至っている以上は気の置けない仲であることが多いというのはあるだろう。しかしそうでなかったとしても、相手の体温を感じあう行為というのは、精神にも多大な影響を齎すものである。

 

 衣着せぬ物言いというが、まさに裸一貫で向き合えば心の距離も体の距離も近づくのが必然である。

 

 翻って、さやかがほむらにやたらと饒舌になり、態度が軟化した理由を考えてみれば――想像は容易い。男なんて下半身で物を考えているのよ、などとはよく言ったものだ。それは本能でもあり、人が人である正常な証でもあるのだ。

 

 無論ほむらがトイレでしっかり確認した通り、彼女はまだまだ乙女である。ただし『そういう』行為というのは色々な手段があるもので、下半身に思考を汚染されていたとしても、最低限の自制はさやかにもあった。

 

 どこまでやらかしたかは――神のみぞ知るというものである。

 

「ほむらー、着替えある?」

「ないこともないけど…サイズが、ね」

「あー」

「ナイトガウンがあるから、下着の上にそれでも羽織りなさい。サイズフリーだから大丈夫でしょう?」

「サンキュー……って透け透け!? 変態だーー!」

「不満なら帰りなさい」

「う、いや着るけど……さっきの姿もそうだけどさ、ほむらって露出してる服が趣味なの?」

「人聞きが悪いわね。そもそも普通に売ってる服なんだから、おかしくはないでしょう」

「そうかなー」

 

 これじゃナイトガウンていうよりベビードールじゃないか、と呟きながら服を拡げてまじまじと見つめるさやか。流石にブラはないか……サイズが、あっはっはなどとほむらを揶揄い、頬を抓られていた。

 

「ご飯はなにかなー」

「貴女には遠慮という言葉が無いのかしら?」

「やだなー、さやかちゃんといえば謙虚な女性の筆頭じゃん」

「つまり抜きでいいのね」

「ごめんなさい」

 

 よろしい、とほむらがふふんと笑って夕食を並べる。なんだかんだと言っても家に客を入れるのは彼女も初めてのことだ。いつもよりかなり豪華なメニューを次々と置いていく。

 

「プレーン、チーズ、フルーツ、チョコレート、メープル。喜びなさい、普段ならお目にかかれないベジタブル味とポテト味もあるわ」

「…なにこれ」

「カロリーメイトよ」

「わかってるよ! いやそうじゃなくて夕食は!?」

「カロリーメイトよ」

「訳がわからないよ!」

「何が不満だというの?」

「全部だよ!」

 

 全身で不満を表しながらほむらの正気を疑うさやか。彼女の体が異様に軽かった訳はこういうことかと冷や汗をかき、悪魔が栄養失調で死んだら女神の力はどこに行くのだろうと無さそうで有りそうな未来に思いを馳せる。

 

「と・に・か・く、こんなの食事じゃなーい! スーパー行くよ!」

「…お金はあるの? 昼休みに財布の中身を見てため息をついていたけれど」

「…………ほむらお姉さま~」

「あなたみたいな妹を持った覚えはなくってよ、さやか」

「ぷ、くく。なんだ意外とノってくるじゃん。ほらほら、お金は後で返すから行こう!」

「ちょっと、急に手を引っ張らないで…!」

 

 屈託のない笑顔でほむらを引っ張るさやか。困った顔でさやかに引っ張られる、けれど口の端が少しだけ上向いているほむら。

 二人の少女が言い合いをしながら、そして少しだけ笑いあいながら、夜道を歩いていく。

 

 魔法少女達の夜は、まだまだ長い――


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