さやかに生えてほむほむが頑張る話《完結》   作:ラゼ

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R15は保険どころじゃないから注意してね!

まあ18ではないと、思います、うん。はい。


女の子は嘘がお上手

 

「…ん。あ…?」

「あ、やっと起きた」

「美樹、さん…?」

「ん、そうだよ」

 

 教室でほむらが呼ぶ『美樹さん』とは明らかに違う声質。ややもすれば嘲りを含んでいるようなそれとは違い、恐る恐る手探りのように名前を呼ぶ姿はさやかを少し驚かせた。

 結局吐いた後にまた意識を失ったほむらを介抱し、目覚めるまで横についていたさやか。ほむらの様子に驚きはしたものの、安心させるように笑顔で答える。

 

「……? ……! …こほん。それで、美樹さやか」

「いや、取り繕っても遅いから」

「取り繕ってなんかないわ」

「み、美樹さん……! って言ってたじゃん」

「勝手に捏造しないで」

「ぷっ、くっくく。あ~、あんたの結界思い出すなー。『ちがっ……いますぅ、わたしはかぼちゃ…』なんつって――」

「黙りなさいラズベリー」

「『白状なさい! こんな回りくどい手口を使って、一体何が目的なの?』――以上、ほむらのほむらによるほむらのための世界でほむらがなぎさに言ったセリフでした~。これはたしかに頭がカボチャじゃないと…」

「だ・ま・り・な・さい!」

 

 実は探偵が犯人で、しかもその事実に本人が気付いていなかったという間抜け探偵、暁美ほむら。その事実をからかわれて憤慨するものの、傍から見れば友人同士のじゃれあいにしか見えていないことには気づいていない。ひとしきり嫌味を言いあった後、ふと自分がどうしてここに居るのかという事に思い当りほむらは問いを投げかける。

 

「ところで私、どうなったのかしら…? 凄い吐き気に襲われて…」

「そのあと気絶しちゃったからベッドに運んだんだよ。できる限り処理はしといたけど、口の中が気になるんなら濯いでくれば?」

「…そう。一応感謝しておくわ」

「存分に感謝したまえ」

 

 年頃の女子として吐瀉物の匂いが残っているかもしれない口内をそのままにしておける筈もなく、すぐにトイレの洗面台に向かうほむら。何か重要な事を忘れているような気がしつつも、覚醒したばかりの呆けた頭ではすぐに思い出せない。

 

 首を捻りながらも洗面台の前に立ち、うがいを何度かして口を濯ぐ。手に息を吹きかけて匂いを確認し、問題なさそうだと判断してついでに髪を整える。少し乱れている服を正し、スカートをぱんぱんと掃い――ほむらは下着とレギンスが消失していることに気付いた。

 

「――――っ!? な、な、な」

 

 いったい何が、と驚愕で声も出なくなるが、そもそもこの保健室に居る経緯すら頭からすっぽ抜けていたのだからそれも仕方ないだろう。動揺しつつも深呼吸をして精神を落ち着かせ、ゆっくりと記憶を掘り返す。

 

「…そう、そうだわ。美樹さやかに、アレが生えて……それで……あっ!」

 

 そして全てを思い出した瞬間、ほむらが一番に取った行動は自分の乙女を確認することであった。中学二年生だというのに茂みの一切ないそこを入念に確認し、何者も侵入した形跡がないことにほっとする。まあ流石にさやかがそこまで酷い事をするとは思っていないが、しかし自分の寝込みを襲おうとしたことも事実だ。

 

 これは仕方ない、仕方ない、という風にさやかを疑った自分の後ろめたさを解していくほむら。しかし確認したはいいものの、全てを思い出した今どんな顔をして戻ればいいのだろうと改めて赤面する。同性のクラスメイトとはいえ、ノーパンで堂々としていられるほどほむらの神経は図太くないのだ。

 

 そもそも今は同性(仮)くらいのレベルだろう。少女0.8で少年0.2くらいの割合かもしれない。

 

「ほむら、大丈夫?」

「ひゃいっ!?」

 

 そんな逡巡で時間が過ぎていけばまた倒れているのではないかとさやかが心配するのも当然で、ドア越しに声を掛けられたほむらは素っ頓狂な声を上げた。

 

「だ、大丈夫よ。もう出るわ」

「そう? なんか変な声だったけど……まだ気分悪いの?」

「大丈夫よ!」

「お、おう」

 

 こういう時に限って優しい声を掛けるのはやめてくれ、とほむらは頭を抱えて前後左右に振り乱す。しかし動揺したままの姿を見せるのは悔しくもあり恥ずかしくもある。素知らぬ顔で平然と。それができずして何が悪魔か、と姿勢を正し背筋をピンと伸ばしてドアを開けた。

 

「ししし心配をかけたようね美樹しゃか」

「落ち着け」

 

 誰が釈迦だと突っ込みを入れようとしたさやかだったが、あまりの動揺っぷりに思わず心配してしまった。かっくんかっくんと歩きながらベッドの端に座ろうとしているほむら。手と足が同時に出ており、さやかは彼女が転んでしまわないかとはらはらしながら見つめ――そして案の定ほむらはベッドに到着する直前に素っ転んだ。

 

「さっきからなにしてるんだよ……ほら、手」

「う、うぅ…」

 

 腰をさすりながら羞恥と痛みに耐えるほむら。差し出された手を少しだけ見つめ、素直に握り締めた。…が、いまだに動揺は続いており、引き起こされた勢いそのままに立ち上がった瞬間、今度はぐきりと足首の関節を捻った。

 

「あぎゃっ!?」

「うわっとと」

 

 そのままさやかの方に倒れこむほむら。結構な体格差があるため巻き込んで倒れるようなことはなかったものの、そのまま抱き合うような形になってしまった。自分と絶望的なまでに差があるふくよかな感触に一瞬憎しみの炎を滾らせ、しかし保健室に運ばれた当初の場面を思い出して頬を染める。

 

 さやかもさやかで、今はもう鎮まっている自分の分身がまたぞろ首を擡げようとしているのを感じ、慌てて距離を取ろうとするが――

 

「おいさやかー、もう一時間目終わっちまったぞー」

「ほむらちゃん、大丈夫?」

 

 がらり、とまたもや保健室の扉が無遠慮に開け放たれる。まあHRに加え一時限目の授業すら終わってもまだ友人が帰ってこないとなれば、流石に心配もするだろう。偶然というよりかは必然でしかない。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

 

 固まる四人。まどかと杏子は、先ほどさやかがほむらを押し倒していたことを『誤解』だと認識していた。単に体制を崩して倒れこんだだけだと思っていたし、事実半分ほどはその通りである。というよりかそうでもなければ意識のないクラスメイトを襲おうとしていた人物を放置などしていかないという話だ。

 

 しかし今。頬を染めながら抱き合う少女二人を見て、流石に混乱したのだ。ほむらの方はともかくとして、さやかが彼女を嫌っていたのは周知の事実だ。保健室に運んだ行為自体は、嫌いだとしても流石に目の前で倒れたならば普通は誰でもそうするだろうと思うものである。

 

 しかしながら今のこの状況を見れば流石に考えを改めざるを得ないだろう。

 

「あ、あはは……あの、その」

 

 さやかもこれはまずいと言い訳を考えるが――その瞬間、偶然の女神の悪戯か、彼女のポケットからほむらの下着とレギンスが零れ落ちた。

 

「あ……私の…」

「!?」

「!?」

 

 ちょっ、おまっ、というさやかの言葉を無視してほむらはそれを取り戻す。彼女のキャパシティは先程からいっぱいいっぱいで、状況を判断する余裕など欠片もないのだ。今彼女にとって一番大事なことは、下着とレギンスに白い液体がついていないかだけである。

 

「…使わなかったの?」

「ほむらぁー!? ちょっと黙って!?」

「え、でもレギンスだけじゃ物足りないから、って……むぐぐっ!?」

「さやか、お前…」

「さやかちゃん…」

「違う、ほんとに違うんだって! 色々誤解が生じてるだけだから!」

 

 ほむらの口を無理やり塞ぎながら『誤解だ』を繰り返すさやか。もはや浮気の言い訳をしているような男にしか見えず、まどかと杏子の疑いの目はどんどん強まっていった。

 

「ほむらちゃん、本当に誤解なの?」

「え? ええ……と。何について、かしら」

 

 なるべくまどかと接触しないように心掛けているほむらだが、流石に面と向かって問われれば答えないわけにもいかない。そもそも今がどういう状況下もきちんと理解していないために、まずそれについて問いを投げ返した。

 

「さやかちゃんに、無理やり何かされてない? その、下着とかも…」

「ま、まどかー!?」

 

 前の世界――つまり二人が親友だった世界とは違い、ここでの関係は『転校生鹿目まどか』にできた『知り合ったばかりの友達美樹さやか』なのだ。故に問答無用に信じられるほど信頼が形成されておらず、下手をすれば虐めだったという可能性もまどかは視野に入れていた。

 

 ちなみに杏子はどうしたものかと頬を搔いていた。

 

「え……あ、え、と。…これは自分で脱いだものだから、気にしないで。私と貴女には何もなかった。そうでしょう? さやか」

「ほ、ほむらぁ…!」

 

 そしてようやくなんとか事態を認識したほむら。というかさやかに対しての自分の暴走っぷりも思い出して、少し赤面する。なんとかいつも通りのクールで冷静な悪魔を装い、誤解している二人の少女にさやかとの冷たい関係を見せ付ける。

 

 顔を赤くしながらで、しかも今まで下の名前を呼んでいなかったという事実は置いてきぼりだが。さやかの『救われた』という表情までおまけにつけば、その関係がただならぬ――かどうかはともかく、険悪とは程遠いものだとは誰でも理解できるだろう。

 

「…」

「…」

 

 うーむ、と唇を尖らせて考え込むまどか。眉間を揉み解しながら唸る杏子。なにがあればここまで仲が進展するだろうと訝しみつつも、胸の内にもやもやしたものを感じずにはいられない様子だ。

 

「…ま、なんにしても仲直りしたわけだ。体調はもう大丈夫なのか?」

「え、ええ。大丈夫よ」

「さやかちゃん、ごめんね。なんか疑っちゃって…」

「い、いいのいいの! あんな場面見られたらしょうがないって!」

 

 全員が全員心のうちに何かを抱えつつ、保健室を後にした。記憶が消えても情動は残る。それぞれがそれぞれに対して抱える感情もまた同じ。

 

 ほむらは何がどうしてこうなったんだろうとため息をつきながらも、横で笑う大切な友人を見てふっと微笑んだ。

 そういえばさやかのアレはどうなったのかな、という思考が頭をちらりと掠めたが、少し視線をずらして見た感じでは鎮まっているようだと見て取れる。

 良かった、とほっとしながら――うがいをしても少しだけ違和感がある喉で、唾液を飲み込んだ。


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