新興都市『神浜町』
円環の理に導かれた魔法少女達が住む幻想世界。魔法少女が増える度に新しい世界が創られ、円環の理は賑わっていく。ここはそんな世界の一つだ。つい先日、この場所に一人の魔法少女が導かれた。
色んな魔法少女が住む街に、ほんの少しだけ存在する“特別”な魔法少女。その最後の一人。散っていく仲間を見送って、最後の最後まで魔獣に抗った勇敢な魔法少女。語られる伝説の魔獣――かつてのワルプルギスの夜にも劣らない暴虐の嵐を、その命と引き換えに打倒し、女神に抱きすくめられながら導かれた紫の少女。
「…あれ?」
そんな彼女は、今何故か裸で自らのベッドに転がっていた。ズキズキと痛む頭を手で擦り、いったいなにがあったのか思い出そうと顔を顰める。とりあえず身を起こそうとベッドの端に手をかけようとして――右手に突如触れた柔らかい感触に驚愕の声をあげた。
「――っ!?」
「…んん……ふぁ…ー。あれ? ほむら、おは……よう……うおおぉっ!?」
「なっ、ななな…!」
「ちょ、はっ、ええと待って……ひゃんっ!?」
ベッドの上に、生まれたままの姿で寄り添っていたほむらとさやか。両者とも驚きで声が出せず、ただただ悲鳴ともつかない音を口から漏らすのみであった。
「あ、お、おはよう…」
「う、うん…」
気まずい空気が漂い、とにかく体を隠そうとほむらが掛け布団を胸元まで引き上げた。同じベッドに寝ていたのだから当然のことだが、布団は共有されている。つまりほむらが使った面積分、さやかを隠していた部分が露になるというわけだが――
「あ、あ、あ…」
「え、なに…? ――っな、なな、なんでまた生えてるの!? や、やっぱりあんたがなにかしてたんでしょ! 昨日まではなんともなかったのに!」
「ま、前よりおっきい…」
「見るなー!」
布団をほむらに被せ、急いで服を着るさやか。色々と引っかかって非常に手間取っている様子である。傍から見れば、急に亭主が帰ってくることになり急いで帰らなければならなくなった間男のようだ。
とにもかくにも着替え終わったさやかはほむらに事の次第を問いかけた。
「それでえっと……なんでこうなってるんだっけ…?」
二人で話し合いながら昨夜の記憶を引き出していく。昨晩――ようやくかつて仲間が揃ったことで再会の喜びを分かち合い、歓迎会が開かれたのだ。年間の円環予算の内、5割くらいをその歓迎会に注ぎ込もうとするまどかをさやかがチョークスリーパーで落としたのは、二人の記憶にも新しい。
ささやかな、けれど楽しい歓迎会は遅くまで続いた。『円環の理』に時間の概念があるかどうかは謎だが、とにかく遅くまで続いたのだ。お酒も入り(※この作品に登場する少女達はみんな20歳(記憶の上で)を超えています)色々とぶっちゃけたりと、仲が深まる夜であった。
皆が酔いつぶれた後、ほむらの新居への案内はさやかがすることとなったのだ。そう――彼女が“神浜町”へ案内されたのは少し特別な事情がある。ここは現世と『円環の理』を繋ぐ場所。もう少しいえば、とある世界への入り口――橋頭保といってもいいかもしれない。
『円環の理』という存在は過去、現在、未来、そして平行世界といったあらゆるものに繋がり、魔法少女を救済している。現代という時間軸でまどかが女神になったと同時に、全てがそうあるべきと改変されたともいえる。しかし一つだけ……ぽつりと残った一つの世界。女神が現れる以前のように魔女が跋扈し、魔法少女が苦難の道を歩み、絶望に苛まれる世界があった。
女神であっても間接的に干渉できないその世界を、それでも『円環の理』たる彼女は救わなければならない。それが存在理由であり、生まれた意味でもあるからだ。
間接的に干渉できないのなら直接的に。故に彼女はその世界に一つの街を創った。“神浜町”――それが街の名だ。円環の理でありながら現世でもあるその場所は、世界でただ一つの『魔女が居ない街』。魔法少女が魔女にならない奇跡の街。魔法少女が噂を聞きつけて集まり、魔法少女を集めることで『円環の理』が正常に機能しない原因を探るための街だ。
そして原因を探るための人員こそが暁美ほむらという少女なのだ。『円環の理』においては新人といえども、女神とはツーカーの仲だ。ストーカー……もとい、探偵のように行動することにかけては魔法少女随一といってもいい。抜擢されたのも自然といえば自然な流れであった。なによりも、その世界にだって“ほむら”がいる。“まどか”がいる。
そして魔女にならない秘密を探るためその世界の“暁美ほむら”は『神浜町』に向かい、それを追って“鹿目まどか”も訪れている。つまりほむら以上に適任な存在もいないというわけだ。
「…思い出したわ。二人ともぐでんぐでんだったから、そのままベッドに倒れこんで寝ちゃったのよ。服は暑くて脱いでしまったんでしょう」
「そ、そうだっけ? …まあそれはそれでいいんだけどさ、ナニこれ!? なんで生えてんの!?」
「私に聞かないで」
「うう、悪夢だぁ…」
生えている時の、いってしまえば“色惚けた”精神状態はさやかの記憶に深く刻まれていた。情緒不安定というよりは、性欲が強まり抑えが効きにくいといったところだろうか。そして恥ずかしい記憶も、気持ちいい記憶も。浮かび上がればほむらの顔をまともに見れない自信が彼女にはあった。
「…その秘密もこの世界にあるかもしれないわね」
「そうかなぁ……うぅ。とにかく原因究明してからじゃないと戻れないよ…」
「そう。ならこの世界では私のカバン持ちになるわけね」
「はぁ!? なんでそうなるのさ!」
詰め寄り、食って掛かるさやかにほむらは淫靡に微笑んだ。くるりと態勢を入れ替えて、勢いそのままにベッドに倒れこむ二人。さやかが下で、ほむらが上だ。
「う、うわっ! ちょっ…」
「本当に節操がないのね」
「せ、生理現象なんだから仕方ないでしょ!?」
「魔法少女が集まる街よ? 知り合いに犯罪者が生まれてしまうのは避けたいものね」
「う、うぐ…」
だから――仕方なく、よ。そういって、彼女は蒼い少女の頬に手を添える。戸惑う少女も、余裕の笑みを見せる少女も、その顔は朱に染まっている。
ほむらは少女のはだけた服から見える白い腹部をツツとなぞり、そのまま細い指先を下げていく。頭の位置が徐々に下がり、髪の先端がベッドにかかる。いつものように片腕で髪をかき上げ、いつかのように彼女は――キスをした。
二人の任務の始まりは、少し過激に始まるようである
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