さやかに生えてほむほむが頑張る話《完結》   作:ラゼ

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まどマギもうちょっと再燃しないかな~。新しいSSもあんま出てこないし、つらたん。


ゴング

 

 寂れた公園。集まるは三人の魔法少女と一人の堕女神。白い孵卵器の思惑も重なって、事態は加速していく。

 

「どうしたってんだよさやか! マミ!」

「いやだから色々事情があるんだって! 説明してる時間がないんだよ!」

「えっと……えっと…」

 

 二人してほむらを虐めているかのような光景は、杏子の怒りを買った。しかし悠長にしていては手遅れになるかもしれない関係上、さやかは無理やりに堕女神に手を伸ばす。

 

「ぐぬぬ……邪魔しないでったら杏子!」

「だからなんでこいつに手ぇ出そうとしてんだよ! まずは説明しやがれ!」

「ああもう、この解らずや! 時間がないって言ってるんだよ!」

「はあ!? さやかにだけは言われたくないんだけど!」

「なっ…! どういう意味さ!」

「ふ、二人とも落ち着いて……ね? 喧嘩はよくないと思うの」

「ああ? じゃあマミはどっちの味方なんだよ!」

「あたしですよねマミさん! さっき信じてくれましたよね!」

「え、う……あ、あの……私」

 

 喧嘩を止めようとしてとばっちりを受けたマミ。気の強さは見せかけだけであるが故に、彼女は押されると弱い。二人に睨みつけられ固まってしまった。しかしほむらが心配であることもまた事実。明らかに平素の彼女とは違う様子は、さやかの言に一定の信憑性を持たせていたのだ。

 

「うう……えいっ!」

『うひゃぁっ! マミさんダメぇ~』

 

 掴み合いにまで発展しそうな二人を躱し、その後ろに居たほむらを抱きすくめるマミ。とにかく今が異常事態というならば、そしてほむらが必要だというならば。その上更に二人を落ち着かせるというならば、とにかく動かねばならないと判断しての行動だ。

 

「佐倉さん! 今の暁美さんがおかしいのは解るでしょう? ほら!」

「…まあ確かにおかしいけどさ。でもそれとさっきの引っ張りあいになんの関係があんだよ」

『おっぱいがまみまみ~!』

「…」

「…」

「…」

「…ショック療法か?」

「そ、そう! だから杏子も手伝って!」

「わ、わかったよ」

 

 さやかが千の言葉を尽くすよりも、ほむらの変態行動一つで杏子の怒りが鎮まった。流石の女神である。それはさておいて、今度は魔法少女三人によるほむらの大岡裁きが始まった。傍から見れば友人の取り合いか、もしくは腕を伸ばしたいと熱望する女子を手助けしているように見えなくもない。昨今はワンピース女子というものが流行っているのだ。

 

『あうううぅ…』

「お、おい。ほんとにこれでいいのか…?」

「たぶん!」

「曖昧に断言しないでほしいわ」

『裂ける……さけ、あっ――」

 

 そして数分の後、その瞬間は訪れた。パチン、という乾いた音と共に一人の少女が二人に分かたれたのだ。ガッツポーズをして拳を握り締めるさやかと、目を丸くして今しがたの出来事に驚く杏子とマミ。まあいきなり友人が二つに分裂し、それどころか片方はまったくの別人だったのだからそれも仕方ないだろう。

 

「大丈夫? ほむら、まどか」

「さやかちゃん…」

「さやか…」

「よかった~、一時はどうなることかと……いや今もどうにかなってるけどさ。でもこれでちゃんと話し合え――ちょっ!?」

「うわぁぁん!!」

「いやあぁぁ!!」

「ええぇー!? ちょ、待って待って……あぁぁ! しかもなんで反対方向に行くんだよう!」

 

 そして二人に分かれた彼女達はというと、そうなった原因の魔法少女達に視線をちらっと向け――顔を両手で覆いながら東と西にそれぞれ走り出した。

 

 だがそれもむべなるかな。先程の彼女達も間違いなく“彼女達”であるが故に記憶は鮮明に持っているのだ。さやか、杏子、それにマミに対する恥ずかしい発言と行動の数々。いたたまれなくなって逃げ出すのも、神や悪魔である前に少女なのだから当然だろう。

 

「わ、私、変態さんじゃないよぉー!」

「知ってるから! だから待ってぇー! まどかぁー!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!」

「気持ちは解るから止まってよほむらぁー!」

「な、なんなんだよ。なんでほむらから転校生が出てくるんだよ…?」

「どうなってるのかしら…」

 

 このままでは体も魂も、最悪四か所に分かれてしまうことになる。収集がつかなくなるのはまずいと、とにかく二手に分かれて捕まえるよう指示を出そうとしたさやか。しかし――

 

「ううぅ、恥ずかしい……うぎゅぅっ!」

「まどか!?」

「うわぁ……顔面からいったぞおい」

「忘れなさい忘れなさい忘れなさいわす――ふぎゃっ!」

「ほむらー!?」

「リアルで木にぶつかる人なんて初めて見たわ…」

 

 しかし――その前に神も悪魔も自爆してしまった。そう、普通に考えれば手で顔を隠して走ることなどできるわけがないのだ。いや、できることはできるが危険極まりないだろう。当然ともいえる帰結だが、二人は障害物に衝突し自爆したのだ。

 

 まどかは公園の入り口にある柵に下半身をとられそのまま顔面から転倒した。ほむらの方はというと立ち並ぶ樹木の一本に正面衝突し、女性としてあるまじき奇声を上げながら地に沈んだ。まあ記憶を消したいと所望しているのだから、方法としては意外と間違っていないのかもしれない。

 

「ほ、ほむら……大丈夫?」

「…大丈夫じゃないわ」

「頭は? 大丈夫?」

 

 頭。木にぶつかった際に頭を打っていないかと心配し、ほむらに声をかけたさやか。しかし彼女の今の心境を考えれば違う意味にとってしまうのはある意味仕方のないことであった。

 

「わわ、私は別に貴女なんか好きじゃないんだからね!」

「どこのツンデレだよ」

「ゴゴ、ゴムなしなんて! ありえない! ハレンチよ!」

「そこなのかよ!? というか昭和のおばはんかあんたは!」

「おでこが、いたい……うぅ…」

「よしよし。ほら、立って。回復したげるからさ」

 

 優しくほむらの腕を引いて回復魔法をかけるさやか。カバン持ちの癖にまどかを優先にしないあたりが、先ほどからかわれた際の苛立ちを引きずっている証である。実際にはまどかとほむら両人の責任だが、さやかを揶揄う時の口調は大体まどかであったためだ。

 

「大丈夫? もう、女の子は顔を大切にしなくちゃダメよ。ほら動かないで」

「マミさん…」

「あら、会ったことあるかしら? …でもなんだか、すごく懐かしい気がするわ…」

「え、えへへ……マミさんはいつだって私の憧れです。強くて、かっこよくて、綺麗で…」

「え、えぇ!? えーと……やだ、もう。ごめんなさい、私あなたのこと覚えていないみたいなの」

「いいんです、知らなくて当然だから。それにもう治ったみたいです」

 

 さやかがほむらの方へ行ったことで、マミは必然的にまどかの方へ行かざるを得なかった。回復魔法を使える魔法少女はこの二人だけなのだ。頬に擦り傷を作ったまどかを“めっ”と叱り、手を添えながら癒す姿はまさにできる女。正気に戻ったまどかは、その懐かしい姿に目頭が熱くなった。

 

 全ての因果の記録が彼女にあるというならば、記憶の最初はいつだって巴マミと共にある。まどかは師であり、仲間であり、良き先輩であった彼女をさやかやほむらと同じくらい好きなのだ。

 

 たとえ自分のことを覚えていなくても、大事な存在であることに変わりはない。

 

「鹿目さぁ……なに? あんたも魔法少女だったの?」

「ううん。違うよ杏子ちゃん。私は…」

「…?」

「私は“円環の理”。全ての魔法少女を救済する法則であり、“理”」

「…」

「…」

「ほ、本当だよ!? そんな目で見ないで!」

「ああ……うん、そうか。いや信じてないわけじゃねえよ、うん。お前はきっと円環の理ってやつさ、うん」

「優しい目で見つめないでよ! わ、私本当に女神だもん!」

「そうよね! えーと、鹿目さん? 貴女は暁美さんと対を為す存在……悪魔とは相容れぬ宿命を持った女神なのよね!」

「えぇー…」

 

 悪魔の証明ならぬ女神の証明。ミステリーならずとも、自分が何者であるかを証明するというのは、意外と難しいものだ。魔法少女に免許などないように、女神にも免許などないのだから。むしろソウルジェムすらないのだから尚更だろう。

 

「うー……えいっ! これでどう?」

「なっ!」

「わぁ、素敵!」

 

 だが彼女には最終手段が――女神の姿そのものを見せるという手段が残されていた。可哀そうな目で見られたくないから、という酷い理由ではあったが、これで効果は覿面だろう。白い純白のドレス。胸元があまりにもエロティックに開かれている謎仕様ではあるが、神々しさという点ではこれ以上ない程の威容だ。

 

 ――しかし。しかし、現実とはかくも厳しいものである。

 

「おいマミ。もしかしてあたし達、遅れてるんじゃねえか?」

「え? どういう意味?」

「ほむらもアレだし、鹿目もコレだし。もしかして最近の魔法少女のコスチュームってああいうのが流行ってんじゃねえのか…?」

「…! そういう、ことだったの…? 私達、時代遅れだったの!?」

「違うよぉ! なんでそうなるの!?」

 

 海、もしくはプール。あるいは川。水着ではなく下着を履いていれば、ただの変人だ。しかしそんな痴態も、数が多くなってくれば常識の方が変わってしまうこともある。“重複”の読み方や“全然”の使い方など、時代と共に誤用が常識になっていくことは案外あるものだ。

 

 故に新しい魔法少女が二人続けて変な衣装を採用しているとなれば、逆にそちらがスタンダードなのかと疑ってしまうこともあるだろう。そのやりとりにがっくりと肩を落とすまどかであったが、その瞬間彼女を襲う黒い影が現れた。

 

「もう! 二人とも――っ!? ほむらちゃんっ!?」

「――くっ…!」

「ほむら! なにしてんのさ!」

「まどか……いえ、“円環の理” 貴女は私の中で大人しくしていなさい」

「ほむらちゃん…」

「ダークオーブの中は意外と悪くないでしょう? “まどか”は今幸せなの……だから、だから! 邪魔をしないで!」

「全然幸せじゃないよ! ほむらちゃんが苦しんでるのに、私が幸せな筈ない!」

「言葉は不要よ。そんな段階はずっと昔に過ぎ去ってる…! 私が苦しむのが嫌だっていうのなら…! それなら! 何故貴女は“そう”なったのよ! そんなの……そんなの全然幸せなんかじゃない! 私はただ貴女に幸せでいてほしかっただけなのに…」

「――っ! ほむらちゃん…」

「ただの魔法少女ならよかった。マミみたいに。杏子みたいに。なまじ記憶があったから…! だから私には後悔しかなかった…! こんなに苦しいのなら……愛なんていらない! だから私は悪魔になったのよ!」

「あ…」

 

 ほむらが激情にかられて心情を吐露することは、殆どといっていいほどにない。ましてやまどかを責めるような発言など、彼女の身を護るための理由以外で発したことなど一度もない。けれど今、良くも悪くも彼女は内心を叫んでいるのだ。

 

 円環の理になどなってほしくはなかったと。今までの自分を無駄にはしない――そう言ってくれたのに。それなのに、自分には後悔しかなかったと。せめて記憶が無ければここまで“哀れ”なことにはならなかったと。鹿目まどかの記憶がない自分など、もはや自分ではない。

 

 ――ああ、それでよかったのだ。もう、消えてしまえばそれでよかった。鹿目まどかを救う事だけが存在理由になっていた、成り果てていたのだから。それが叶わなかったのなら、綺麗さっぱり消えてしまえばよかったのだ。こんな無様を晒して生きながらえて。なんて“ざま”なんだろう。

 

 そう、彼女は叫んだ。

 

「だから――もう言葉なんかじゃ戻れない!」

「…っ! それなら止めて見せる! たとえほむらちゃんと戦うとしても!」

「――ああぁぁ!」

「――ふうぅぅ!」

 

 黒い翼をはためかせて、悪魔が宙へ舞う。迎え撃つは白の女神。弓をつがえて狙いを定める。どちらも相手の幸せを望んでいるのに、彼女達は相容れない。それが定めか運命か。

 

 そしてその中心に、青い少女が飛び込んだ。

 

「待ったぁぁぁ!!」

「邪魔を――しないで!」

「さやかちゃん!?」

 

 認められない。絶対に認められない。有り得ない。有り得てはならないことが今、起こっている。彼女の心が叫ぶのだ。それだけは見過ごしてはいけないと。

 

「ほむら!」

「…聞こえなかったかしら。もう、言葉なんかじゃ戻れない。貴女の言葉なら尚更に」

「さやかちゃん……ここまできたら、私もそうするしかないと思う――」

「え? いやそれは別にいいんじゃない? あんたらはもっと喧嘩するべきだと思うし。ぶっちゃけ殴りあって親睦を深めるべきだと思うし」

「なっ――じゃ、じゃあなぜ止めるのよ」

 

 愛を語るには、友情を語るには彼女達の接した時間はあまりにも少ない。クラブで知り合い数時間一緒に遊んだチャラ男同士の方が遥かに打ち解けているといっても過言ではない。だから喧嘩をするのはいいことだ。少なくともさやかはそう思った。

 

 大切な友人というには、あまりにも彼女達の付き合いは浅いのだから。

 

 だから、さやかが突っ込みたかったのはそんなところではない。どう考えてもおかしい、ほむらの姿についてなのだ。

 

「あのさぁ……悪魔のあんたって、女神の力を使ったあんたの事じゃない。今のほむらは完全にほむらだけなのに、なんで悪魔の姿になれるのさ」

「えっ」

 

 そう、さやかがどうしてもいいたかったのはそれだ。いわゆるデビホムとは、“まどかの力を奪ったほむら”なわけだ。ならば何故まどかが解放されている状態で悪魔になれるのか――そう彼女は問うた。

 

「…」

「…」

「…」

「あ、ああぁぁぁ!」

「戻ったー!?」

 

 人間の想像力、妄想力とは凄いものだ。プラシーボ効果というものをご存じだろうか。薬を飲んだという過程を体が認めれば――それが単なるビタミン剤だったとしても効果が出る、というものだ。もしくはパブロフの犬でもいい。条件反射。レモンや梅干しの味を鮮明に意識すれば、唾液の分泌が促進される現象。

 

 そこから一歩進んで、ほむらは『トムとジェリー』現象に陥っていたのだ。ジェリーにいつも酷い目に合わされるトム。床板を外されても暫くは気付かずに宙を歩いているトム。体がえげつないことになっていても最後まで気付かなかったりするトム。

 

 つまりほむらは無意識に悪魔の力を発揮していたが、さやかに事実を指摘されることによって元に戻ったのだ。

 

「そ、そんな…」

「いや当たり前でしょ」

「さやかちゃん、酷い…」

「あたし!?」

 

 これで武力行使はまずなくなった。かつてほむらがまどかの力を奪えたのは、不意打ちが成功しただけに過ぎないのだから。もはや警戒している女神から力を奪うことなど、何人たりとも成功しえないだろう。

 

「…」

「ほむら」

「…」

「…ほむら」

「…」

「ていっ!」

「あぎゃっ!? なにするのよ!」

「だんまりよくない! …それと、これでもう一つしか手段がなくなったわけだよね」

「う…」

 

 戦う力が無くなったのなら、後は言葉で。ほむらはそう受け取ったし、まどかにもそう聞こえた。しかしさやかだけは、先程の言葉を実行すべきだと二人の手を取った。

 

「じゃあ……ファイッ!」

「えっ」

「えっ」

「ファイッ!!」

 

 つまり女神と悪魔の殴り合い――その戦いの火蓋が切って落とされたというわけだ。なお内容はグルグルパンチが主体であったそうな。

 





烈海王「ウワアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ほむら「ウワアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
まどか「ウワアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

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