さやかに生えてほむほむが頑張る話《完結》   作:ラゼ

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シリアスに見えるところもあるけどただのギャグです。叛逆後の世界の話ですので、ネタバレ注意。

叛逆知らない人でも読もうって人は、ざっくりとした説明だけあとがきに書いときますので先にそれを読んでくだされ。


生えた理由を書くべきか否か。それが問題だ。

 悲劇は改変され、されど悲劇は続く。それを認めず改変し、けれど悲劇はまだまだ続く。最後の最後に彼女は納得したけれど、それでもそれは悲劇だった。誰にも認められないけれど、彼女は彼女の大切な人が幸せなら納得できた。

 なのに彼女の記憶を中途半端に残すのは、いったい何故だろう。幾度も再編された世界で、ただ一人。自分の事を理解してくれる人が欲しかったのだろうか。

 

 その答えは誰にも――本人でさえも理解できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原中学校。今日も今日とて勤勉なる学生たちは、健全な学生生活に勤しむだろう。とはいえ今は朝も早く、登校しているのは一部の真面目君と真面目ちゃん、もしくはたまたま早起きした生徒くらいのものだ。そしてこの世界の女神であり、悪魔でもある暁美ほむらはその一部に含まれる。

 真面目というわけではないが、勉強が遅れているのは事実。何度も繰り返したループの中での勉強は、文字通り『同じもの』でしかない故に、学力向上の面では役立っていなかったからである。もともと勉強も運動も苦手だった彼女は、同じことの繰り返しで同じことが上手くなっていっただけにすぎない。

 

 つまり新しいことを始めようとすれば、それは不器用で要領の悪い彼女の素が出てしまうということでもある。世界を再編でき、少しは弄れることもできるとはいえ全知全能とは程遠い。優先順位は依然大切な友人が幸せになっているかどうかの一点に尽きるが、それでも運動と勉強がダメダメな神というのもどうかと思い、ほむらはせっせと日々を苦労しておくっているのだ。

 

 そんな彼女に、教室に入ってきたばかりのクラスメイトが金切り声を上げながら掴みかかる。

 

「あんた! どういうつもりよ!」

「…何事かしら、美樹さん?」

「白々しいわね! あんたがまどかの力を使って何かしたんでしょうが!」

「…?」

 

 美樹さやか。自称女神のカバン持ちにして、この世界で唯一元の世界を知る存在。ほむらが前の女神――そして大切な友人である『鹿目まどか』から奪った神の力と半身を元に戻そうと画策している者でもある。彼女もほむらがまどかを救おうとした経緯は知っているし、並々ならぬ道を辿ってきたことも知識にある。

 

 しかしさやかにとってもまどかは大切な友人で、彼女が様々な思いで下した決断をほむらが踏みにじった事を許せないと感じているのだ。

 

「とぼけてんじゃないわよ! こここ、こんなの、ありえないでしょうが!? は・や・く・戻せぇーーー!」

「騒々しいわ。『精々仲良くしましょう』とは言ったけれど、あなたの返答は否だった筈よ? それに記憶も随分戻ってるみたい…」

「こんの――っ、何が、何が目的なのよ!? こんなの嫌がらせ以外にあるわけないじゃんか!」

「だから何のことかしら? 心当たりはないのだけれど」

 

 素知らぬ顔で惚けるほむらに、怒り心頭のさやかはその『心当たり』をほむらの手に無理やり掴ませる。これがお前の仕業でなければいったい誰の仕業というのだ、といった風に。

 

「これよ! あんたねぇ! いったい何がしたいのよ!」

「…? …っ!? ひゃ、あわ、ふぇ!? あ、ああ――」

「え、ちょっ、おま」

 

 さやかに手を取られ、無理やり股間に持っていかされたほむら。何がどうしたのだと怪訝な顔になり、その屹立した御立派様の固い感触に触れ――それがナニであるか気付いた瞬間、茹でだこのように真っ赤になって卒倒した。

 病弱で人付き合いがほとんどなく、学校に通えるようになってからもずっとコミュ障だった彼女。もちろん男のアレなど見たことも触ったことなく、正真正銘に処女でおぼこなぼっちである。さやかもさやかで、たとえほむらのせいで『生えた』のだと思っていても、無理やり触らせるあたり混乱具合が窺える。もちろん彼女も処女でお亡くなりになった悲しき女子である。まあ復活はしているが、お相手は今のところ未定であるのに変わりはない。

 

「ひゅぅ…」

「え、ええ……あんたじゃなかったの? で、でもこんなの――うひゃんっ」

 

 かくんと気絶したほむらは、そのまま彼女のナニかを掴んだまま意識を閉ざした。無意識にニギニギしているのは謎だが、ようやくさやかも彼女への指摘が間違いだったことに気付いた……が、その未知の気持ちよさに腰が砕けそうになる。

 

「ねえ、起きてよ……うう、どうしよ」

 

 床にへたり込みながら自分の腰に倒れかかるほむらに、さやかは慌てて周囲を見渡す。かなり早い時間とはいえ、この全面ガラス張りでプライバシーもクソもない学校ではかなり遠いところからでも何が起きているか解るのだ。変態が建築したと言われても驚かないこの場所で、しかし現状において変態なのは確実にさやかである。

 

 そろそろ時間的にも、遠目に見える登校者的にも、中々まずい状況と言えるだろう。そもそもスカートで目立ちにくいとはいえ、彼女の息子は今もって御立派であるのだから。

 

「うー……保健室に連れていくしかないか」

 

 嫌悪していると言ってもいい目の前の少女だが、自分のせいで気絶したとなれば放置するわけにもいかないだろう。少なくとも美樹さやかとはそういう少女である。とりあえず自分の分身をいまだにニギニギしている手を名残惜しそうに引っぺがし、お姫様抱っこでほむらを抱えるさやか。

 

「か、軽っ!? …ごはん食べてんのかな、こいつ」

 

 いつもなら気にも留めない同性の柔らかさや匂い。ナニか生えている今はやたらと意識してしまい、暗い雰囲気とはいえ間違いなく美少女なほむらを抱きかかえると、少しドギマギしてしまうさやかであった。頭を振りながら邪まな思考を掃い、抱えた際の負担の少なさに再度驚く。自分の半分も無さそうなその重みに、敵とはいえ心配になるのも仕方ないだろう。

 

 とにかく急いで保健室に向かおうとしたさやかであったが、そこで運悪く出会ったのは自家の同居人『佐倉杏子』。朝、起きるや否や学校にすっ飛んでいったさやかを心配して早めに登校してきたのだ。

 

「おいさやか、いったいどうしたのさ……ん? 暁美? なんで抱きかかえてんだよ」

「あ、あはは……いやその、色々ありまして、たはは…」

「はあ? ったくわけわかんねえ奴だな。だいたいそいつの事嫌ってたんじゃないのか?」

「え、えーと」

 

 朝起きたら生えてたから、犯人と思しきこいつに我が息子を触らせたら気絶しました――などと言える筈もなく、しどろもどろに濁すさやか。とにかく保健室に行ってくるから、と全速力でその場を離脱した。がっくんがっくん揺れているほむらの首が折れそうで、ちょっとした恐怖である。

 

「わっけわかんねえの…」

「あら、おはよう佐倉さん。珍しく早いのね」

「ん……よおマミ。いや、さやかの奴が起きるなり学校に飛んでいきやがってさ。弁当も持たずにどうしたっつー話だよ」

「へえ…?」

 

 残された杏子に声を掛けたのは『巴マミ』。見滝原中学の三年生にして、魔法少女チームのまとめ役だ。美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、百江なぎさは魔法少女としてこの街を守る『ピュエラマギ・ホーリーカルテット』を結成しており、それぞれが気の置けない仲でもある。マミがお姉さん役であることは間違いないが、しかし根は甘えたさんなことも本人以外には知られているのが悲しいところだ。

 

「暁美さんを抱えてたけど、もしかして仲直りしたのかしら……ということは、晴れて『ピュエラマギ・ホーリークインテット』の誕生ね!」

「勘弁してくれよ…」

 

 なにより一番残念なのは、中学三年生にもなって中学二年生が患う病気に罹っているところである。彼女は魔法少女と思われるほむらを魔法少女チームに誘おうとは思っているのだが、さやかとの仲が非常に悪いことを察して中々踏み出せずにいたのだ。しかしその懸念が解消されれば、チームとして語呂の良い数字――五人組になるのだから、マミとしても笑顔を隠せずにはいられないだろう。

 

「ま、なるようになるんじゃないの?」

「うふふ……暁美さんは紅茶好きかしら」

 

 とりあえず魔法少女四人のうち、一人の少女成分が『1』ではなく『0.8』程になっているのはまだ誰も知らないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、なんとか誤魔化せた。でも先生居ないし、どうしようかな…」

「…」

 

 保健室に到着したさやかは、ほむらをベッドに横たえて自分も椅子に腰を下ろす。保険の教員はまだ来ていないようで、どうしたものかと思案に耽る。

 ふいにほむらの少し乱れた服が目に入り、皺になってもいけないので綺麗に正そうとするが――その一種淫靡とも言える艶やかさに、さやかは唾をごくりと呑んだ。

 

「…黙って寝てれば綺麗なのに。ほら、ちょ、ちょっと動かすよー」

 

 誰に言い訳をしているのか、自分に言い訳をしているのか、疚しいことなど何もないと言い聞かせながらほむらの背中に腕を回す。自分もベッドに膝立ちになり、ほむらの姿勢を変える。傍から見れば意中の女性を抱き寄せようとしている風にも見え、そして実のところもう覚醒して薄目を開けているほむらはいまだに硬くなっているであろうさやかの息子に興味津々なようだ。

 

「おっとと……うわっ!?」

「――っ!?」

 

 横着にも靴を履いたまま作業していたさやかは、腕に抱えるほむらの『体のこわばり』のせいかバランスを崩し、そのまま抱き着くように倒れこんだ。

 

「あ…」

「…っ」

 

 唇が触れそうになる程に近づき、体は密着している。華奢で折れそうなその体躯だが、確かに女性特有の柔らかさはあるほむら。体が密着しているということはさやかの分身も当たっているというわけで、下腹部にその硬さを感じつつも彼女は意地でも目を開けなかった。どうしていいか解らなかったともいうが。

 

「ほむら…」

「…」

 

 その距離を放さない。離せないで、さやかはほむらの名を呼んだ。

 

 神の力を奪った悪魔の少女、暁美ほむら。彼女が歩んできた道のりは艱難辛苦という言葉すら陳腐に思えるもので、そしてその全ての過去をさやかは知っている。女神であったまどかがほむらを救おうとした際、彼女はその記憶の一部を託されたのだ。それによりほむらの苦悩――そして、何よりも自分が掛けてきた迷惑を実感することとなった。

 

 もちろんほむらが記憶を保持してループするのとは違い、毎回真っ新な状態で彼女と出会うのだから、掛ける迷惑も似たようなものでしかないのは仕方ないだろう。自分の知らない自分がほむらに辛辣に当たったことも、正直後ろめたくはあるものの仕方ないという感情もある。なにせもう少し言い方とかあるだろうこのコミュ障、というレベルでほむらのコミュニケーションの取り方は壊滅的なのだ。何も知らない自分なら、対立以外は有り得ないと納得するものがある。

 

 全てはまどかのため。そこについて疑う余地は欠片もない。ただやり方が納得できないだけなのだ。さやか自身もほむらの事を本気で嫌っている訳ではない――否、嫌えないのだ。どの世界でも恋に無様で不器用だった自分、それがほむらとどうしても重なってしまうから。

 

 きっと自分なら百回魔女になっても足りない道程を、ほむらは歯を食いしばって歩んできたから。だからどうしても憎めない、けれど憎らしい。そんな複雑な感情で、さやかはほむらに覆いかぶさったまま名を呟く。

 

 『ほむら』と。無数の過去においてそう呼んだ自分は殆ど居ない。それを知って、それでも彼女はそう呼んだ。

 

「…」

「…」

 

 どうしても目は開けず、開けられずにほむらはじっと体を固める。

 

 神のカバン持ちな少女、美樹さやか。彼女が自分をほむらと呼ぶのはいつぶりだろうか。直近のおままごとのような偽世界を除くなら、それは数えきれない程のループにおいて、数えられる程度のものだ。繰り返す世界の全てを覚えている筈もないが、忘れもしない最初の世界で彼女は初めて喋ったクラスメイトなのだから。

 

 三つ編みで眼鏡をかけて、勉強もできず運動もできない。クラスに馴染めず、一人ぼっちでいる自分にノートを見せてくれた少女。それがさやかだ。救いをくれて、憧れを感じたのはまどかただ一人でも、最初に歩み寄りと優しさをくれたのは紛れもなく彼女なのだ。

 

 初めてほむらと呼んでくれたのはきっとその時で。そしてそれ以降は彼女がそう呼んでいても、何も感じなかった。『まどかを救うために仕方なく』仲良くしなければならない少女。いつからか邪魔な存在になって、どうしようもなく決裂することがよくあった。

 

 そんな彼女だから疎ましく、そんな彼女だから記憶を放置して、そんな彼女の敵意が心地いい。誰一人理解してくれずとも、彼女だけは理解して敵してくれる。

 

「…」

「…」

 

 などと感動的な言葉を脳内でつらつらと並べている二人だが、要は御立派様のご意向に逆らえない少女と、下腹部のオットセイな感触にパニクリ過ぎて動けない少女が居るだけということだ。

 

 全ての音が消えたようにしんと静まり返る保健室。両者の心臓の鼓動だけが痛いほどに響き、二人の周囲だけに熱が籠る。ギイ、とベッドの上の重心が傾いた音が小さく鳴り――

 

「ほむらちゃん、大丈夫…?」

「おいさやか、そろそろ授業始まんぞー」

「うぎゃぁぁぁーー!!」

「――っ!?」

 

 ガラリと保健室の扉が開かれる。着替えなどに使われることもある保健室は流石にガラス張りではなく、故に不幸にもさやかは彼女達の接近に気が付かなかった。そして今の現状はというと、顔を赤くしながらほむらを押し倒して唇を奪おうとしているさやかの図だ。扉が開くと同時に椅子に戻るなどという神業は持ち合わせておらず、つまりは額面通りにこの絵面を受け止められたということだ。

 

「え、え…?」

「は…? おま、さや、え?」

「あ、あわ、これは違くて、その――」

「…」

 

 

 御立派様が生えたから気の迷い的なあれがそれで、さやかちゃんのさやかちゃんが鞘に収まりきらなかったというか――などと言えたらそれはもう女の子として死んでいる。彼女は一度どころか、ほむらの主観に置いては数百回ではきかないくらい死んでいるが、それとこれとは話が別である。

 

「そ、その……アメリカではそういうの結構あったから、私は気にしないよ!」

「ちょ、いや、それは誤解で…!」

「さやか、お前男に振られたからって女に走らなくても…」

「い、いやだからさ、これは誤解というかなんというか…」

 

 ほむらは目を閉じたまま無言に徹する。この状況で実は起きていたなどと知れたら、答えに窮するのは自分とて同じことなのだから。

 

 『鹿目まどか』――自分の大切な友人であり、上司でもある筈の桃色少女。今は神の力も記憶も奪われてただの少女以外の何者でもないが、何かきっかけさえあれば――とさやかは考えているのだが、今はとにかく言い訳に終始する。前の世界では日本生まれで日本育ちの生粋ジャパニーズだったまどか。悪魔が再編した世界では何故か帰国子女設定になっているのだが、そのおかげか同性愛に寛容でなによりだ……ってなんでやねん! と脳内で自分に突っ込むさやか。

 

 とにかくこれは誤解なのだと理解してもらわねばならないのだ。自分のためにも、ほむらのためにも。

 

「さやかお前、暁美の事邪険にしてたのってもしかして好きな子ほど苛めたくなる的なやつ…?」

「ち、違わい!」

「ほ、ほむらちゃんのくれたリボン、譲ろうか?」

「――っまどか! それはほむらの大切な思いそのものなんだから、そんなこと――あ、いや」

 

 世界の再編の際にまどかがほむらに託したリボン。世界の改変の際にほむらがまどかに返したリボン。どんな思いでそれを返したのか、痛いほどに解るからこそさやかは声を荒げ――それがどういう意味を持つか理解して慌てて言葉を止めた。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

「ごゆっくり」

「ごゆっくり」

「おおいっ!?」

 

 杏子とまどかは見つめあい、頷きあって保健室を後にした。さやかを見る目が非常に優しそうだったことが、その本人にとって心を抉られる一因であった。

 

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ」

「友人関係かソレのことか、どっちを言ってるのかしら」

「両方……ってうわっ!? 起きてたのかよ!」

「ええ。あなたが不埒な行為に及ぼうとしていた時からね」

「え…」

 

 冷や汗をだらだら流しながら青褪めるさやか。言ってしまえば婦女暴行一歩手前であるし、途中からきたまどかや杏子と違って最初から見ていたのなら言い訳も糞もないだろう。

 

「う、いや……じゃ、じゃあなんで跳ねのけなかったのさ」

「え…」

 

 何とか落ち着いたほむらは、さやかに対し優位に立てる状況を作れることに気付いた。元々、記憶を持ち邪魔をしてくる彼女をなんとなく放置して楽しむようなほむらだ。この異常な状況下とはいえ、自分にナニかしようとしていた事実は彼女を弄るのに十分な素材だろう。

 

 と思ってはたのだが、先程なにも抵抗しなかった事を指摘されて逆に慌てふためる。恐怖と緊張とドキドキで固まってました――などとは口が裂けても言えるわけがない。

 結局互いに目を反らし、微妙な空気で無言の時間が続くことになった。

 

「…あ、チャイム鳴っちゃった」

「そう、ね」

 

 数分が経ち、必然的にHR開始の合図が鳴り渡る。遅刻に関して言うならまどかと杏子が事情を説明しているだろうし、問題はないだろう。しかし今の現状は問題だらけで、特にさやかは身体的にも問題しかない状態だ。このまま授業に出続ければ、いずれ『御立派なさやか様』というあだ名がつけられかねない。体育の授業などもってのほかだろう。

 

「…それ、心当たりはないの?」

「え? あ、うん……朝起きたら、その、生えてた」

 

 冷静になればなるほど、女二人の空間に竿が一本の異常が際立つ。冷たい雰囲気を滲ませるほむらの問いも、当人の顔が紅葉もかくやと言う程に染まっていれば印象が変わるものだ。さやかもなんだか急に恥ずかしくなり、太ももをぎゅっと締める。

 

「し、鎮まらないの?」

「う、うん」

 

 生えているのも問題だが、なによりの問題はそれが常に御立派であることだろう。ナニをするにもこの状態では不便どころか通報ものだ。朝の早い時間帯で、全速力で駆けてきた時とは違うのだ。なにより学校に着いてほむらを問い詰めれば治ると思っていただけに、授業や下校については考えていなかった。

 

「…」

「…」

「…腐る、かも」

「へっ?」

「そ、その状態だと血が循環しないから、海綿体に溜まった血が留まり続けるから……24時間以上経つと、腐ってくる、かも」

「う、嘘っ!?」

 

 耳年増な処女、暁美ほむら。見たことも触ったこともなかったものだが、そういった知識だけは人一倍なのだ。彼女が持っている辞書は『ペ』がつくページや『セ』がつくページだけ折れ目が入っていたりする。

 

「…ん」

「へ?」

「ん」

 

 すいっとさやかに差し出されたのは、今まさにほむらが脱いだばかりの黒いレギンス。ほかほかのそれを手に握らせ、備え付けのトイレを指さすほむら。さやかは少しの思案の後、ナニを言われたのか理解して目の前の少女に拳骨を落とした。

 

「~~っ!? …なにするのよ」

「なにさせるつもりなんだよっ!」

「だって、出さないと、その……おさまらないでしょう」

「だからって今のはないだろ!」

 

 勘違いすべきではないのが、ほむらにとって先ほどの行動は善意からのものでしかないということだ。彼女も大概天然なので、偶に非常識なことをやってのける時がある。魔法少女であった時も、何か良い武器がないかと探した末にヤクザの家へ忍び込んで銃を盗んでくるのが彼女である。

 

「で、でも学校に、そういうのに役立つものはないでしょう? ネット環境もきっちり制限されてるのだから」

「う…」

 

 先進的で近未来的をコンセプトにしたこの学校は、携帯やスマートフォンを禁止していない。しかし学校内部ではアダルトコンテンツとそれに準ずるものをアクセスできないようにしているのだ。

 

 オカズ無しに飯は食えぬ。女子であるほむらにだってそのくらいは解るというものだ。だからこそ羞恥心を我慢して、真っ赤になりながらも勇気をふり絞ってレギンスを渡したのだから。一応ライバル的な関係の彼女が、御立派になり続けた結果バナナが熟し過ぎて腐り落ち、敗血症にでもなって死んでしまったら色んな意味で悲しすぎる。

 

「レ、レギンスなんかで興奮できるか!」

「あ……う…」

 

 女性である自分が、同性のレギンスをオカズにできるわけないだろう。さやかはそういう意味で言い放った言葉だったが、ほむらはそう捉えられなかった。『その程度で興奮できるわけないだろう、もっと実用的なものをよこせ』と深読みしてしまったのだ。

 

「こ、ここ、これ、で…」

「なっ、ちょ、あんた――」

 

 もはや原色の絵具よりも赤いのではないかと疑うほど顔を朱に染めたほむらは、下半身を布団で隠しながらごそごそと何かを脱いで『それ』を手渡した。冷静に考えて彼女がここまでする理由は一切ないが、彼女は朝気絶してから今の今まで本当の意味で冷静にはなっていない。ずっとパニクっているのだ。あくまでも悪魔を主張しているが、淫魔の素養は欠片もないようである。

 

「う、うぅ…」

「泣きたいのはこっちだっつーの! なんで私が無理やり脱がしたみたいになってんの!?」

 

 羞恥が極度に達したほむらは、もはや枯れ果てたと思っていた涙を溢した。絵面を見れば、完全にいじめ現場のそれである。もしくはガチ百合の無理強いに見えないこともない。

 

「う、うぷっ」

「なんで吐きそうになってんだよ!? 繊細ないじめられっ子かお前は!」

 

 素のほむらはまさにその通りである。極度のあがり症やパニック障害を患っていると、体調の急激な変化が訪れることもよくあることだ。えずきだしたほむらを見て仕方なしに再度抱きかかえてトイレに連れていくさやか。朝食を食べていないのか、胃液だけを絞り出すほむらの背中を優しく摩り落ちつかせる。

 

「ほら、大丈夫?」

「うぅ…」

 

 吐き出すものが無くなった様子を見て、洗面台で口を濯がせるさやか。なんでここまでしてやってるんだろうと自嘲し、ようやく落ち着いてきたほむらの頭を見下ろし――頭を上げてさやかを見上げた彼女と目が合い、動揺した。

 

 胡乱げな目でこちらを見上げ、口元をびしょびしょに濡らした少女。レギンスは剝ぎ取られ、その上の聖域すら今は守られてはいないことにさやかは気付いた。むしろ彼女の乙女を守護していた装具は自分のポケットに突っ込んだままだ。

 

「う、あ…」

「んぅ…?」

 

 保健の教員は、まだ来ない




原作終了→ほむら「キュゥべえはまだまだ何か企んでるし、まどかは本当に幸せなのか?」→本来なら魔女になる前に円環の理に導かれるけど、キュゥべえを利用して魔女化する→偽の世界を作って、その中でまどかの本音を聞いてやはり幸せではないと判断→助けにきたまどか(円環の理)に感動の対面……と思いきや、貰ったぜぇーー! とばかりに神の力を奪って世界の改変→世界は変わって、まどかはただの少女に。その力と記憶を一時預かってたさやかだけ、前の世界の記憶を残してる(少しだけ)

さやかは神の力をまどかに取り戻してほしいのでほむらに敵対している感じ。

記憶が結構残ってるのはこの作品の解釈なので、勘違いしいようにお気を付けください。

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