ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第4話 道徳とか思い遣りとか何気ない日常とか

 全員の職業が決まった。

 ほとんど体力を使い果たしてしまったショーンだが、しかしここからが本番だと言っていい。

 職業マスは――予想外な部分はあったものの――まだどんな物か想像がついた。しかしここからは本当に未知の世界。

 えっちな家庭教師のお姉さんと愉快な仲間達はこの先へ踏み出さなければならないのだ。

 

「投げるぜ」

 

 最早これ以上の苦難はないだろう。

 一番最悪な職業を引き当てたであろうえっちな家庭教師のお姉さんはそう思いながら二投目を投げた。

 出た目は6。

 幸いなことに、6マス目はラッキーマスであった。

 

 『仕事が上手くいった。ボーナスとして50ガリオン貰う』

 

 テキストも無難なものだった。

 えっちな家庭教師のお姉さんは少しほっとした。

 

「えっちな家庭教師のお姉さんの仕事が上手くいくって、どんな感じなんだろうね」

「ボーナスってのも怪しいよね」

「凄く不健全な臭いがするわね……」

 

 気にしない。

 周りの戯言は一切気にしない。

 本人もちょっといかがわしいと思ったが、気にしてはいけないのだ。

 

 次はチョウの番だ。

 チョウの手にダイスが渡る。

 その手は震えていた。あまりの震えに手からサイコロが零れ落ちてしまったほどだ。この場合でもサイコロを振ったとカウントされてしまうらしい。チョウは「しまった」という顔をしたが、出た目は10と悪くなかった。

 

 10、歩みを進める。

 大きな前進だ。

 進めば進むほど終わりも早くなる。

 しかしそこはデビルマス。

 チョウは青い顔をしてテキストを読み上げた。

 

 『ヌーの大群に襲われる』

 

 部屋の奥から何か大型の動物達の足音が聞こえてくる。

 ショーンは無言でチョウから距離を取った。チョウとは友達だが、友達の友達が友達とは限らない。少なくともショーンにはヌーと仲良くなる気は一切なかった。

 

「わ、わたし、最上級生なんだよ……?」

「……」

「お姉さんで、カリスマ。私に任せておけばなんとかなる……そういうノリだったじゃない」

「……」

「いやだぁ! いやだよお! いやいやいや!」

「ぶふっ! ちょ、嫌がりすぎ」

「ああああああ! ヌーいやあ! ヌーいやだああああ!!!」

 

 今世界中でヌーの群れを最も欲してないのは間違いなくチョウだろう。

 しかしそんなことは御構い無しにヌーの大群は真っ直ぐチョウに向かって突進した。

 ショーンは生まれも育ちもイギリスである。紳士の国たるここで馬ならともかく、こんなにたくさんのヌーの蹄の音を聞く機会に恵まれるとは思ってもみなかった。北半球に住んでいる人間は、ヌーの大移動を警戒しなくていい幸せをもっと噛み締めるべきだとショーンは思った。

 

 しばらくしてヌーの群れが去るとそこには誰もいなかった。綺麗さっぱり、何もない。まるで初めから何もなかったかのように。もしかすると本当にチョウは最初からいなかったのかもしれない。走り去ったヌーの群れから時折悲鳴が聞こえて来たり手足が見え隠れしていたが、きっと気のせいだろう。鍵をかけずに家を出てしまったと思って引き返すと大抵閉まっているし、ガスの元栓はそれ以上の頻度で閉まっている。そのことから考えるに、チョウがヌーの群れの中にいるのも気のせいである確率が高い。

 

「嫌な事件だったね」

 

 コリンの言葉に返事を返す者はいない。

 目の前であまりにもリアルなサバンナの厳しさを経験したチョウを見て、余裕がある者など最早いないのだ。

 お前それサバンナでも同じこと言えるの? というやつである。

 

 チョウの次はハリーだ。

 このゲームに参加することに比べれば、ダーズリー家のクリスマス・パーティーにマッドアイ・ムーディーを招待する方がまだマシだと思った。

 ――天国のお父さん、お母さん。どうか僕にラッキーマスを踏ませて下さい。

 ハリーは祈りを込めて、サイコロを振った。

 デビルマスだった。

 天国にいるハリーの両親はベガスにでもバカンスに行ってしまったようだ。

 

 『ブラジルでヘラクレスオオカブトを捕まえてくる』

 

 姿くらましする時のような音が聞こえてハリーが消えた。ハリーがスニッチだけでなく、虫捕りの天才でもある事を祈る他ない。

 ちなみに出目は9である。

 

「……舐めた真似してくれるじゃない」

 

 ジニーの手の中でサイコロがメキメキと嫌な音を立てている。ハリーを害されたことでジニーは少し怒り始めていた。非常に残念ながら、ゴリラは温厚で優しい、という噂は嘘だったようだ。それかもしかすると、ジニー・ウィーズリーは実はゴリラではないのかもしれない。少なくとも霊長類ではあるようだが……はたして何が嘘で何が本当のことなのか、まだ幼いショーンには区別がつかなかった。

 

 ジニーがサイコロを振ると――否、地面に叩きつけるとサイコロが地面に埋まった。出目は5。最早振ってないが、それでもカウントされる様だ。サイコロの基準とかジニーの力の強さとかもうなんか色々とガバガバだがそれでいいのだろうか。ショーンは訝しんだ。

 そしてジニーが止まったのはイベントマスだった。

 

 『次にこのマスに止まった者と決闘する。勝った方は負けた方から100ガリオン貰う』

 

 ――ドキン!

 次の番であるコリンの心臓が飛び跳ねた。

 

(や、やばい。いらだってるジニーと決闘なんかしたら、今度こそ殺されちゃうよ!)

 

 ジニーの第1投目は12、次が5。

 合計で17だ。

 対してコリンの第1投目は5。

 6のゾロ目さえ出さなければ大丈夫。

 そんなことないに決まってる。

 だいじょうぶ、だいじょうぶだから。

 何度も自分に言い聞かせる。

 しかし確率はゼロではないという事実がコリンを不安にさせた。

 

 コロン。

 サイコロが転がる。

 無情にも出た目は12であった。

 お約束の流れであった。

 みんな分かってたことであった。

 

(これでもけっこう成績はいい。修羅場もいくつかくぐり抜けてきた。そういう者だけに働く直感がある)

 

 人は危機的状況に陥った時、所謂第六感的な、超直感が働くという。

 コリンの直感が告げていた。

 

(――僕は今日、ここで死ぬ)

 

 直後、ジニーの拳が降ろされた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 目を回して倒れたコリン、しばらく目を覚ましそうにない。

 ゲームの進行はどうなるのかと思ったが、どうやらコリンの順番はスキップして進むようだ。とはいえ“脱落”扱いになったわけではない。あくまで“スキップ”である。つまりもしコリンが全員がゴールした後で目を覚ましたなら、メンバー全員に見守られながら一人でゲームをすることになる。それはきっと恥ずかしいだろう。

 意外に思われるかもしれないが、ショーンとしてはコリンが恥をかこうが知ったことではない。むしろ積極的に辱めてやろうと今まで生きて来たくらいだ。問題は自分が気絶してしまったとき――否、相手が気絶したとき!

 気がついてしまった裏ルール!

 これはいかに自分が恥をかかないかではなく、いかに相手に恥をかかせるかの戦い!

 ちなみにハーマイオニーは普通にラッキーマスに止まって、極々普通に昇進していた。特に面白くないので割愛。

 

 ちらりとジニーを見る。

 完全に目が合った。

 平和にやろうぜ、ショーンはにっこり笑った。

 ええそうね、ジニーもまた笑って返す。

 お互いの意気完璧というところ。

 

「(さて、どうやってあいつを気絶させてやるかな。不意をついて絞め技で落とすのが速いか)」

「(コリンにカメラのやり方を聞いておけばよかったわね。せっかく恥ずかしい写真を撮って脅すチャンスなのに)」

「「(それにしても……俺(私)の狙いも知らないでマヌケなやつ! ぷーくすくすっ!)」」

 

 くけけけけけっ! 四苦八苦する相手、それをゴールの先で嘲笑う自分。愉快な想像を膨らませて、二人は悪魔のような笑い方をしていた。

 本当に意気ぴったりである。

 意気ぴったりの悪者である。

 模範的なスリザリン生である。

 最低のグリフィンドール生である。

 四年前の組み方に疑惑の判定説が出てしまうのも致し方ないことだった。

 特にショーンの場合、剣を出しただけで組み分け帽子には何も言われていないので大分グレーである。今改めて組み分けを行なったら元気よく「アズカバーーーーンッ!」と告げられてしまうかもしれない。そうなったらこまってしまう。アズカバンはもう経験済みなので、ショーンとしてはヌルメンガードを希望したいのだ。

 

「ショーンの番だよ」

「ああ、ありがとう」

 

 ハーマイオニーが『仕事を真面目にこなす。上司からの信頼が厚くなる』というびっくりするくらい何も起きないマスをこなしたところで、ショーンの番となった。

 握ったサイコロに念を込める。

 自分にいい出目を。そしてあの赤毛のアホ女に出来る限りの苦しみを、この世の全ての不幸を集めて下さい……と。これでよし。願いは神に届けられたはずだ。聖人のように清らかな自分の、儚く美しい願いはきっと叶えられるだろう。少なくとも世界で最も広まっている本にはそう書いてある。

 

 サイコロを回し、出た目の数だけ進む。

 止まったマスには『ヌルヌル触手と禁じ手なしのレスリング』と書かれていた。

 ヌルヌル触手と禁じ手なしのレスリング!

 ヌルヌル触手と禁じ手なしのレスリング! それはつまり、ショーン(えっちな家庭教師のお姉さん)が謎の液体で表面をコーティングしたピンク色の触手とぐんずほぐれつするということである!

 慈悲はない!

 神は死んだのだ!

 大体ぜんぶゴドリックが悪い!

 

 ショーンの周りに蟻地獄の様な穴が生まれた。壁からはヌルヌルのローションが絶えず吹き出しており、いかに抜群の運動神経を誇るショーンとて抜け出す術はない。

 蟻地獄の中心にいるのは勿論ヌルヌル触手。

 落ちてくる獲物を捕食しようと、軟体動物特有の動きを披露している。

 

「馬鹿なあああああああああっ! どうしてこの俺が!」

 

 悪役丸出しの叫び声を上げながらズルズルと落ちていくショーン。このままではヌルヌル触手の餌食にされてしまう!

 しかし!

 そこに颯爽と駆けつけた友がいた!

 その名もジニー・ウィーズリー!

 そうだ! 彼には仲間がいたんだ!

 

「あははははっ! ざまあみなさい!」

 

 違った。

 敵だった。

 

「なんだとコラ! 赤毛のバカ女ァ! チョコ・ミント・アイス鼻に詰めるぞ、あ゛あん!?」

「はっ! やってみなさいよ。そこから出れたら、の話ですけどぉ? あーっと! ごめんなさいね。出れないんだったわね。精々かわいい同居人とのアバンチュールを楽しんでちょうだい。あっはっはっ! 妬けるわねえ、このこの〜!」

 

 もう敵ですらなかった。

 怨敵と書いて宿敵。

 いや、邪智暴虐の体現者である。

 

「おまえ後で覚えておけよ、マジで。首なしニックの仲間入りさせてやる。むしろ首だけジニーにしてやるからな!」

「そんな怖いことをいう奴には……ほーら、上から塩かけてやるわ」

「なんで塩を常備してるんだよ! しょっぱ! ぺっ、ぺっ! やめろ、下味が付くだろ! ――あっ」

 

 すぽん。

 ショーンの身体がヌルヌル触手の中に飲み込まれた。

 ヌルヌル触手は蕾のように閉じると、ショーンを連れて地面の中に引っ込んでしまった。

 

 ぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃぐちゅぐちゅ。

 

 地面の中から気持ちの悪い水音がしてくる。

 

「やめっ、やめろおおおおおおおお! そこに触るな! んっくぅ! ……クソがッ、ぶっ殺してやる――!」

 

 叫び声も聞こえて来た。

 それを聞いてジニーはにんまりと口を裂いて笑った。もちろん周りはドン引きである。

 

「…………」

 

 しかしその悲鳴も、五分が経過した所で何も聞こえなくなってしまった。

 ……不気味な沈黙、とでも言えばいいのだろうか。

 そこにはぽっかりと空いた穴だけが残っていた。

 

「ねえ、本当に不味いんじゃない?」

「うん。誰か助けてに行った方がいいかも」

「誰が……?」

「……」

 

 それから更に時間が経ち、そろそろマジでだれか様子を見て来た方がいいんじゃないか? という空気が流れ出した時……穴から何かが打ち上げられた。

 ヒューン、ビチャ!

 飛び出して来たナニカが汚い水音を立てて転がる。近寄って見てみると、それはあのヌルヌル触手であった。

 ということは、

 

「勝ったぜ」

「うっそぉ……」

 

 続いてショーンが穴から生還する。

 ヌルヌル触手VSえっちな家庭教師のお姉さんは、まさかのえっちな家庭教師のお姉さんの勝ちだった。

 そこだけお約束の流れではなかった。

 あまりにも惜しまれる勝利であった。

 しかしそんな中、一人の少女が近づいてくる。彼女はまるで聖女の様な――否、そこまで神々しいモノではないのかもしれない。だけど見るものをほんの少しだけ幸せにしてくれる様な柔らかい笑顔を浮かべていた。

 

「勝ったのね、おめでとう」

「ああ、ありがとう」

 

 素直な賞賛の言葉。

 なんだか気恥ずかしくてショーンは顔を背けてしまった。背けたついでに相手から見えないよう杖を抜いたが、他意はない。

 

「流石はえっちな家庭教師のお姉さんね」

「恵まれたよ、ほんと。日頃の行いってやつかな」

「くすっ。そうかもね」

「ははっ」

 

 お互い笑い合う。

 笑い声を上げながら小さく「インセンディオ」を唱えて杖を加熱したが、他意はない。

 他意はない。

 

「ところでさ」

「なあに?」

「ひとつ、いいかな」

「いいわよ。なんでも言ってちょうだい」

「――死に晒せやあ!」

「――もう一度穴の中に叩き込んでやるわよ!」

 

 二人の呪文が激突した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 卵の中の雛はいつか飛び立つことを夢見ている。

 その夢はきっと強烈なのだろう。

 そうでなければ、硬い殻を未熟な身体で壊すことなど出来るはずがない。

 『夢』が……『願望』が生命を強くするのだ。

 

 ショーンの杖に込められた炎が解放される。

 まるで不死鳥の羽化。

 それはどんな雛の誕生よりも力強く、破壊的だった。『ジニー・ウィーズリーをこの世から消し去りたい』という純粋な要求がそうさせたのだ。

 

「あっ、ついわね! この!」

 

 拳を一閃。

 繰り出した拳圧が突風となり、炎を薙ぐ。しかし全てを消火、とはいかない。それだけショーンの怨念が強いのだ。どうしてもいくつかの火球が風の防御壁をすり抜けてしまう。とはいえジニーの拳は二つある。

 もう一度同じことをすればいいだけの話――が。

 

「オラァ!」

「――ッ! ハァ!」

 

 炎の中からショーンが飛び出してくる。

 狙いは脚ね!

 即座に見抜いたジニーは急遽打撃の軌道を変え、地面へと叩きつけた。膨大なエネルギーが地面の中を荒れ狂う。

 地形すらも変える一撃。だが決定打とはならず、ほんの少しの足止めにしかならなかった。

 しかしほんの少しの猶予がジニーには必要だったのだ。即ち、必殺の右ストレートを撃つ為の“溜め”の時間が。

 

「脳髄をぶちまけなさい!」

 

 三度拳が振り下ろされる。

 それは勝敗を決める一撃――になるはずだった。

 

「あめえっ!」

 

 水平に払われた裏拳がジニーの肘を撃つ。大きな川が小さな石によって流れを変えるように、ジニーのパンチも軌道を変えられショーンの左頬を掠めるだけに終わってしまった。体制を崩したジニーに向けて放たれる鋭いカウンター、それを間一髪かわす。

 体制が崩れた所にショーンが追撃をしてくる!

 負けず劣らずジニーも向かい撃つ!

 

 左ジャブ!

 かわしてローキック!

 ダッキング!

 失神呪文、もう一発続けて失神呪文!

 よろけた所に飛び蹴り!

 ワン・ツー! ……を囮に金的!

 

 二人の攻防は数多くされたものの、しかしどれも決定打にならない。相手を殺すに至らない。地獄に叩き落とせない。

 時間だけが過ぎ――遂に最初にショーンが唱えた火炎呪文が二人に降り注いだ。

 吹き荒れる炎の暴風雨。

 しかし二人はそよ風ほども意に返さない。

 豪炎の中を踊るようにかわしながら戦い続けている。

 

「死ね!」

「もげろ!」

 

 おおよそ一年生の頃からの友達にかける言葉ではない。しかし二人はこれ以上に友を呼ぶに相応しい言葉を知らなかった。

 早い話が性格が悪いのである。

 

「なんか年々、あの二人の取っ組み合いってレベルが上がってきてないかしら」

「取っ組み合い……?

  馬鹿言うなよハーマイオニー。あれを取っ組み合いって言うのは、スネイプを気のいい奴っていうくらい無理があるぜ。

 それより見ろよあれ。僕の妹なんだぜ、信じられるか?」

「あなたなんかまだいいじゃない。自分で選んだわけじゃないんですから。私なんてあれがボーイ・フレンドよ」

「今はガール・フレンドだけどね」

「ああ、そうだった……」

 

 ハーマイオニーは額に手を当てた。

 一体何をどうすればここまで酷い状況になるのか。両親に「今年のホグワーツはどうだった?」と聞かれるのが今から怖い。上手に説明できる気がしないし、上手に説明すると頭がおかしくなったと思われそうだ。

 それでもまあ……これ以上は酷くはならないでしょうけど、とハーマイオニーは思った。

 ちなみにこのターン、ハーマイオニーが踏んだマスは『新しい資格取得に向けて勉強する』だった。あまりにも面白くなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 それからも色んなことがあった。

 ジニーが大量のワニに襲われたり――五分後には全部ワニ皮と化した――ショーンが海賊に貞操を奪われそうになったり、ブラジルから帰って来たハリーの肌がすっかり小麦色に焼けていたり、うっかりロナルドさんが無職になったり、チョウがダンサーとして覚醒したり、コリンがジニーにまたボコボコにさせられたり、ルーナのパン屋さんが大反響になったりだ。

 ハーマイオニー?

 彼女には特に面白いことは起きなかった。全部ロウェナが面白くないのが悪い。

 

 そうこうしている間にまた順番が一巡してショーンの番になった。

 順位的にはショーンが一番だ。最初順調だったハリーはブラジルが効いて最下位付近にいる。

 サイコロを転がして先に進むと、今まで見たことないピンク色のマスに止まった。

 

「えーっと、なになに……『次にこのマスに止まった異性と結婚する』」

 

 ……ゑ?

 

 ちょっと待ってほしい。

 今のショーンはえっちな家庭教師のお姉さんだ。

 えっちな家庭教師のお姉さんということは、つまり女ということだ。

 女ということは奥さんになるということだ。

 

 ……ゑ?

 

 よくわからない。

 何を言ってるかわからない。

 なんだろう、この文字は本当に英語なんだろうか。

 

「ぶははははははっ! よ、よかったじゃないショーン! ヌルヌル触手に海賊にくすぐりマシーンの次は結婚ですって! ねえいくら? ご祝儀はいくら欲しいの?」

「はい殺すー。お前後で殺すー。ご祝儀お前の命で決定ー」

「あら、ウェディングドレス姿で殺すの?」

「血のウェディングにしてやる。B級映画のタイトルみたいな惨劇にしてやるからな、お前」

「えーっやだあ、こっわーい。きゃん!」

 

 キレッキレのポーズを決めながら星が出そうなほどのウィンク。二度とウィンクが出来ないように瞼を永久粘着呪文でくっつけてやろうかとショーンは思った。

 

「さっ、次は私の番ね」

 

 コロン。

 サイコロが回る。

 『次にこのマスと止まった異性と結婚する』。

 

「ぎゃははははははっ! バーカ、バーカ! 同じことしてやんの! えっ、さっきまで散々煽っておいてこの結果って恥ずかしくないんですか? は・ず・か・し・く・な・い・ん・で・す・か?」

「きぃー! このクソガキがぁ!」

「いや、俺の方が1000ほど歳上だから」

「はっ! そういやそうだったわね。あんた羊水が腐ってるんじゃないの?」

「はあ? 見ろこのピチピチなお肌を。水弾きまくりだわ。洪水まで跳ね返すレベルだわ。元気な子供を20人は育てられるね。お前の方こそ腹筋で子供締め殺すだろ」

「なーに言ってんのよ。あんたバカなの? 私のはインナーマッスルなのよ。程よいのよ。むしろ赤ちゃんめっちゃ守ってるから。こちとら母性本能むき出しなのよ」

「むき出しなのは母性本能じゃなくて闘争本能だろ」

「あ?」

「あ゛あん??」

「おおお゛ん???」

 

 ガッ!

 襟を掴みあう音。

 バゴォ!

 殴り合う音。

 ドグシャア!

 倒れる音。

 見事なデュエットを奏でた二人はピクリとも動かなくなった。

 

「……はあ。あの二人は無視してゲームを進めましょう」

 

 頭痛がする頭を抑えながら言ったハーマイオニーの言葉を否定する者はいない。

 あの二人は放っておこう。

 そんな共通意識が出来始めていた。

 

 チョウがサイコロを回す。

 無事結婚マスを通り抜けて――デビルマスに止まり、純血の家系100覚えるまで永遠に“くすぐり呪文”を掛けられる刑に処された。

 今までの中では極めて平和的である。

 この程度で済んでよかった、とチョウは胸を撫で下ろした。

 

 続いてハリー。

 まだ結婚マスとは程遠く、どれだけいい目を出しても届かない。

 そんなハリーはラッキーマスに止まり、危なげなく賞金を手にした。

 続くコリンもまた出目は控えめであり……結婚マスの少し前で止まった。

 

「次は僕か」

 

 さあ、次はロナルドさんの番だ。

 サイコロを回す。

 止まったマスは結婚マスだった。

 えっちな家庭教師のお姉さんと結婚だった。

 

 地面から教会が生えてくる。

 ロナルドさんのは黒いタキシードに、気絶しているショーンはウェディングドレス姿に変わった。

 

「嘘だろ……」

「……んぅ?」

 

 慌ただしい物音でショーンが目を覚ました。

 慌てて駆け寄ってことのあらましを説明する。説明を受けたショーンは即座に頷いた。

 

「なるほど、分かりました。嫁に入ります」

「決断が早い! それでいいの!?」

「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

 ロナルドさんはかなり動揺した。

 マスに止まった以上避けれないことは確かなのだが、ショーンがその気になればどうにかひっくり返してくれると思っていたのだ。

 しかし冷静に思い返してみるとそう悪いことでもない。

 基本的にショーンは器用だし、今は見た目もいい。

 

「君、収入は?」

「二人で暮らしていく程度にはあります」

「家事は?」

「基本的にはなんでも」

「僕のことは愛してる?」

「崇拝してます」

 

 完璧だった。

 こうして二人は結婚したのである。

 Congratulation! ウィーズリー夫妻!

 

 ……ちなみにジニーはコリンと結婚することになった。

 ブチギレたジニーにコリンは殴られ、煽ったウィーズリー夫人もまたぶん殴られた。

 

 

 ロナルドさんは現在、無職である。

 よってショーンの収入によって暮らしていかなければならなかった。質素な生活だが……それでも幸せそうだ。

 一方ハーマイオニーはどうだろうか。

 順調に出世を重ねて何一つ不自由のない生活を送っている。送っているのだが……なにかもやっとした物が心に残る。

 この気持ちに名前をつけることは出来なさそうだが、両親に「今年のホグワーツはどうだった?」と聞かれた時の答えは決まった。

 

 

 道徳とか思い遣りとか何気ない日常が大事なんだなって。







【オマケ・ショーンとジニーが絶対にやってはいけないことリスト】
第81条 確かにホグワーツには運動不足の生徒がいますが、廊下を時速30kmで動くようにしたのは完全にやり過ぎです。
第82条 ホグワーツは、あなた方が教授の名前を騙り、保護者の方に「進路相談の結果、お子さんの進路はアズカバンか死喰い人になりそうです」という手紙を送ったことを許す気はありません。
第83条 校内や授業の説明をする際、新入生が楽しめるよう脚色して話す必要はありません。特に「ハグリッドの授業は毎年少なくとも五、六人の死者が出る」と言ったのは少し言い過ぎです。
第84条 「誰かが退学処分になってからが最高のパーティーの始まり」というフレーズを発してはならない。
第85条 ダンブルドア校長にこれ以上の悪影響を及ぼすのを止めて下さい。
第86条 廊下でスネイプ教授に説教された際「なによ! 昨日はあんなに優しくしてくれたのに!」と叫んではならない。スネイプ教授がジニー・ウィーズリーに優しくしたという事実は、一切ありません。
第87条 貴方の部屋を訪ねてきた者に「やっぱり俺の体が忘れられなかったのか?」と言ってはならない。
第88条 ただし、ハーマイオニー・グレンジャー女史が訪ねてきた場合はその限りではない。
第89条 「bird(女の子)」というスラングはイギリス人にのみ通じるのであって、同じ英語圏でもアメリカ人にとっては「鳥」です。
第90条 フィルチ管理人が足を引きずっているのは「ホグワーツのバリアフリー化に熱心だから」ではありません。
第91条 「安全にホグワーツを歩くためのガイド」なる小冊子の配布を即刻中止して下さい。既に82名の新入生が行方不明になりました。
第92条 図書館の本に下品なルビを振ってはならない(どうか私をフ◯ックしてくれ)
第93条 トレローニー教授が「聖マンゴ」に入院する必要性について論理立てて証明してはならない。
第94条 全生徒の目覚まし時計の音を「子守唄」にしてはならない。
第95条 全女子生徒の容姿をA〜Fでランク付けしてはならない。
第96条 Fランクの下に「エロイーズ・ミジョン・ランク」を作ったのは、正に悪魔的発想と言えるでしょう。
第97条 あなた方が授業をズル休みすることは「風紀活動」にはなりません。
第98条 確かにホグワーツではクラブ活動が認められていますが、何故「ストリップ・クラブ」の設営が認められると思ったのですか?
第99条 どうしてかまったく分かりませんが、確かにあなた方は後輩から絶大な人気があります。ですが恋愛相談を受けるのはもう止めて下さい。「愛の妙薬」と「錯乱呪文」の被害者は増える一方です。
第100条 このリストが3桁に達したことは祝うべきことではありません。


※破るった瞬間セドリックの服が弾け飛びます。

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