ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第3話 人生を賭けた戦い

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 ショーンは拳を握りしめた。

 子供の頃、ヒーローがいると思っていた。

 世界征服を目論む敵がいて、邪悪なる企みを阻止するヒーローがいると本気で思っていたのだ。

 しかし現実の世界はそう単純なものではない。

 世界の争いのほとんどは正義と、また別の正義が戦っている。

 誰が悪いわけでもないのに争いは無くならないのだ。

 今回のことは正にそれだった。

 

 視線の先で。

 泣きながらチョウがブラジルの伝統的な踊りを踊っている。

 ハリーは死にそうな顔で送られてくるフィッシュ&チップスにパセリを振りかけていた。

 また別のところではハーマイオニーが死んだ魚のような目で裁判官をしている。

 裁判にかけられているのはジニーとコリンだ。二人は離婚裁判の真っ只中である。

 その向こうではルーナがパンを焼いていた。食べたい。

 どれもこれもちょっとやそっとでは解決出来ない問題だが、最大の問題はそこではない。

 ショーンは教会にいた。

 神父がお祝いの言葉を述べると、鐘が鳴り、ヴァージンロードが花開く。

 

 結論から言おう。

 ショーンは結婚してしまった。

 

 何故こんなことになってしまったのか?

 あれはそう、つい3時間ほど前……。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ショーンは一人、久しぶりに部屋でゆっくりした時間を過ごしていた。というのは建前で幽霊達と話しているだけだ。

 

「最近、私は思ったんですよ」

「へえ、そりゃ凄い」

「まだ何も話してません! 出鼻をくじかないで下さい!」

「だってロウェナの話、面白くないじゃん」

「がーん! お、面白くない……」

 

 相変わらず擬音を自分で言いながら、ロウェナは分かりやすくショックを受けていた。

 ただ今回は割と本気で落ち込んでいるようだ。

 床に体育座りして地面に幾何学模様を書いていた。

 

「ヘルガ、何か若い頃の話をしてくれよ」

「ええ、構いませんよ」

「ええっ!? 普通ここは優しく慰めてくれる所じゃないんですか!?」

 

 驚愕したロウェナはちょっと声色を変えて、一人二役で話し始めた。

 

「ごめん、ロウェナ。言いすぎたよ。許してくれるか?

 はい、もちろんです。

 あんなこと言った俺を許してくれるなんて……ロウェナはいい奴だな。

 そう、ですかね。でも私はいつも、ついあなたを甘やかしてしまう気がします。どうしてですかね?

 さあ? でも、悪いことじゃないと思う。

 ――みたいな会話をする所でしょう、ねえ! なのになんでヘルガと話しちゃいます!?」

「長い」

「逆にショーンは短すぎます! もっと会話を楽しみましょうよ!」

「だからロウェナの話は面白くないんだって」

「がびーん!」

 

 今度のロウェナは、床に突っ伏した。

 手足をジタバタさせて「もっと構ってくれないと嫌です!」と駄々をこねている。

 親代わりの人間が目の前で駄々をこねてる姿は中々に“きた”。

 

「おい、ショーン。さっさとちょっと付き合って、満足させてやれ」

「えー」

「でないと多分、夜中ずっとこの調子だぞ」

「まあ、そうだろうね。この間なんか、ショーンは寝てたけど、ロウェナはずっと起きてベッドの周りをうろちょろしてたよ」

 

 ショーンは頭が痛くなるのを感じた。

 進んでも面倒くさい、戻っても面倒くさい。

 ならば進もう。

 結局ショーンはロウェナに話しかけた。

 さっきまでの落ち込みようが嘘のように、ロウェナがぴょんと跳ねる。

 

「こほん! さっきは少し情けない所を見せましたが、本題に戻るとしましょう!」

「少し……?」

「うるさいですよ、サラザール。私とショーンの邪魔をしないで下さいね」

 

 付き合いきれない、とばかりにサラザールは両手を挙げた。

 

「最近、私は思ったんです。そろそろ私の髪飾りを見つけてもいい頃なのでは、と」

「あー、そんなのもあったな」

「“そんなの”扱いされた事にはこの際目を瞑りますが、あるんですよ。いや、ないんですよ! なんか失われちゃってるんですよ! そもそもなんなんですか『失われたロウェナ・レイブンクローの髪飾り』って名称! 私失ってませんから。あれは娘に預けただけなんで。私が持ってた頃は失われてませんから!」

「で、それを見つけたいと」

「はい! サラザールはバジリスク、ゴドリックは剣、ヘルガはカップ。みんなそれぞれ遺物が出てきているのに、私だけないなんてどう考えても不公平です」

「胸は並行なのにな」

「む、胸は関係ないでしょう、胸は!」

「でもさ。髪飾り見つけろって言われても、なんの手がかりもないし見つかったとしても使い道ないんだけど」

「そ、それは! ……たしかに」

 

 ショーンの髪はそこまで短い方ではないが、長い方でもない。

 一般的な男の子くらいだろう。

 髪飾りをつけるには少し足りない。

 

「髪飾りに拘らなくても、なんか他の遺物はないのか?」

「他の、ですか。でも、う〜ん……髪飾り………」

 

 どうやらロウェナにとって、髪飾りには譲れない何かがあるらしい。

 伝承によれば、その髪飾りをつけた者は頭が冴え渡るという。そんな魔法他に聞いたことがないので、もしかするとロウェナにしか使えない特殊な魔法がかかっているのかもしれない。

 それに当時のロウェナを知るショーンからすると、髪飾りを着ける様な性格には思えなかった。何かショーンも知らない特別な由来があるのかもしれない。

 しかし見つける手段がないのと、見つけても着けたくないのも本当だった。

 

「あっ! そういえば昔、ヘルガ達と作った遊具を丸々必要の部屋に移しましたね。あれなら思い入れもありますし、ショーンでも楽しめると思いますよ」

「き、貴様。あれをまだとっといていたのか……」

 

 サラザールが白い顔を青くさせた。

 

「僕は好きだったけどな」

「それは貴様がいつも勝つからだろう。私は嫌いだ、あんなもの」

「わたくしは好きでしたよ。厄災マスに止まった時のサラザールといったら、もう」

 

 ショーンはちょっと心配になったが、どうやらサラザールの運が殊更なかっただけらしい。

 

「で、なんなんだ。その遊具ってのは」

「ああ、えっと。今の言い方だとなんと言うのでしょう」

 

 ロウェナはちょっと考えてから、閃いた。

 

「人生ゲームです」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ロウェナの魔法が込められたその人生ゲームは、他の人生ゲームとは一線を画す。

 先ず当然の様に止まったマスに書かれたことが実際に起きる。

 『雷が落ちて痺れた。一回休み』

 『地面を掘ったら宝石がざっくざっく! 2000ガリオン入手』

 など。

 とにかくあらゆる出来事が現実になる。

 

 マスは『ラッキーマス』、『デビルマス』、『イベントマス』の三つに大きく分類される。

 『ラッキーマス』を超えた『スーパーラッキーマス』などもあるが、とにかく基本はその三つだ。

 ちなみに全てのマスに書いてあるテキストは創設者達がそれぞれ考えて書いたものである。

 

 1000年前に造られた人生ゲームが現代でも通用するかという疑問もあるが、そこは心配いらない。

 この人生ゲームは時代によって進化する人生ゲームである。

 例えば昔『水汲みの仕事に就いた』と書かれていたところが、今だと『水道管理局に入社した』という風に、テキストが自動で書き換わる。

 

 ルールはオーソドックスに、全員がゴールした後で総資産が一番多かった者が勝ち。

 

「――と、言うわけだ。質問があるやつは?」

 

 誰の手も上がらなかった。

 ショーンは頷き、第1投を投げるためにダイスを握る。

 

 人生ゲームの話を聞いたショーンは、早速みんなとやってみることにした。

 みんなというのは普段それなりに交流のある八人のことだ。

 同級生のジニー、コリン、ルーナの三人。

 一つ上のハリー、ロン、ハーマイオニー。

 そして最上級生のチョウ。

 そこにショーンを足した八人で、人生ゲームを遊ぶ。

 

「最初はイベントマスばっかりみたいだね」

「職業マスなんじゃないかしら。とりあえず仕事を決めるのが、人生ゲームの鉄板よね」

 

 そのマスがどの種類のマスかは分かるが実際に止まってみないとテキストは分からない。

 しかしハーマイオニーの言う通り、最初は職業を決めるマスだろうというのが大方の予想だった。

 

「じゃあ、投げるぜ」

 

 手の中にある二つのダイスを放る。

 一つは『5』、もう一つは『3』と出た。

 8マス、ショーンが進む。

 マスを踏むと、早速テキストが浮き上がってきた。

 一体何て書いてあるのか。

 他のみんなは知らないがこれを作ったのはよく知る創設者達だ。彼らが昔どんな風に遊んでいたのか、興味がある。

 ショーンは期待して読み上げた。

 

 『えっちな家庭教師のお姉さん』

 

 最悪だった。

 

「ゴドリィィィィィック!」

 

 これを書いたであろう製作者に向かって叫ぶ。

 “えっちな”とか“お姉さん”とか、どう考えてもいらないだろ! “家庭教師”だけでいいじゃん!

 そういう意味を込めてショーンは叫んだ。

 今再びショーンの手元に逆転時計があれば、1015年くらい前に飛んでゴドリックを去勢していただろう。

 

 叫ぶショーンは気がつかない。

 しかし、周りの者は気がついていた。

 その叫び声が野太い男の声から、甲高い女の子の物へと変化していることに。

 

 最後にコルクが抜ける様な音がして女になってしまった。

 ショーンは、女になってしまった。

 えっちな家庭教師のお姉さんになってしまったのだ。

 

 それを見た者は、全員爆笑していた。

 幽霊も生きてる人間達も揃って、みんな笑っている。

 笑顔が世界を平和にするなんていう話は嘘だとショーンは思った。

 

「笑うなバカ!」

「だ、大丈夫。かわいいわよ!」

 

 涙を拭きながら息も絶え絶えにジニーがそう言った。

 しかしジニーのフォローはまったく的外れだった。

 

「かわいいっていうか、綺麗系だよね」

「モデルさんみたいだなって」

「ショーン! こっち向いて。写真撮るから」

「やめろ! ちょっと、本当にやめてくれ!」

 

 今日ほどコリンに恐怖を感じた日はなかった。

 

「いいからもう、次!」

 

 ショーンの発言を聞いて、他の生徒達は思った。

 ――これ、自分もああなる可能があるんじゃね?

 少なくとも8を出せば『えっちな家庭教師のお姉さん』になってしまう事は確かだ。

 

「じゃあ、僕達帰るから」

「おい!」

 

 ショーンを見捨てて帰ろう。

 全員の意見が一致した。

 先頭に立つハリーが扉を開けようとする。

 ……開かない。

 扉は固く閉ざされていた。

 ハーマイオニーがアラホモーラを唱えてもビクともしない。

 

「ちょっと退きなさい」

 

 人をかき分けて、ジニーが扉の前に立った。

 腰を落として、力を溜める。

 

「ふぅーーー……」

 

 一つ、深呼吸を。

 ジニーがしたのはたったそれだけの動作だった。

 だというのにピンと空気が張り詰め、全員が押し黙る。

 緊迫した空気の中で。誰がしたのか、あるいは全員がしたのか。唾を飲み込む音が聞こえた。

 

 ――瞬間、ジニーが力を解き放つ。

 

 人間相手には決して出さない本気の拳が扉に思いっきり叩きつけられた。

 行きの列車でクラップを殴った時とは比べ物にならない、強烈な破壊音が響く。

 

(ジニーに逆らうのはもうやめよう)

 

 目の前の光景を見て、ロンは決意した。

 ロンにそう決意させるほどの威力。が――しかし、扉はうんともすんとも言わなかった。

 

「ダメね」

 

 絶望だった。

 エジプトも真っ青な地雷原だらけのこの人生ゲームを終わらせなければ、ここからは出られない。

 

「みんな、任せなさい」

 

 チョウが言った。

 彼女は、このメンバーの中なら一番しっかりしている。

 そうだ。

 なんでもそつなくこなすチョウなら、この人生ゲームも上手く終わらせてくれるかもしれない。

 

「頑張って、チョウ!」

「絶対行けるよ!」

「あなたって今世紀最高のアジア人だわ!」

「ええ。お姉さんに任せておきなさいな」

 

 自信ありげに、チョウが自分の胸を叩いた。

 全員の期待が高まる中、チョウが第1投目を投げる。

 出目は6。

 

『悲観的なブラジリアンダンサー』

 

 テキストを読み上げたチョウは、その場に倒れ伏した。

 

「嫌な、事件だったね」

 

 コリンの言葉に、返事を返す者はいない。

 目の前で泣きながら伝統的なブラジルの民芸衣装を着ているチョウを見て、余裕のある者など最早いないのだ。

 

「次は、ハリー……あなたね」

「うん」

 

 『生き残った男の子』ハリー・ポッター。

 ヴォルデモートを何度も退けて来た彼だが、今度は生き残れる気がしなかった。

 どうしてもサイコロを振る手が鈍ってしまう。

 

「でも、ハリーはクィディッチが上手いじゃないか」

「えっ?」

 

 えっちな家庭教師のお姉さんの言葉をハリーは上手く飲み込めなかった。

 クィディッチと人生ゲームには、なんの関連性もない気がしたからだ。

 しかしみんなは違ったらしい。

 

「確かに。ハリーはクィディッチが上手いよな」

「クィディッチが上手いならなんとかなるよ」

「シーカーなんだもん。きっと上手く行くって思うな」

「ただのシーカーじゃない。君は100年ぶりの最年少シーカーだぜ」

 

 そう言われてくると、なんだかやれそうな気がしてくる。

 ハリーは天才的なシーカーである。

 おまけに乗ってる箒も最高だ。

 なんだかいけそうな気がしてきた。

 気合いを入れて、サイコロを振る。

 

『勤勉な工場職員』

 

 人生ゲームに、少しもクィディッチは関係なかった。

 

「ま、まだマシな方かな?」

 

 ちなみに出目は10。

 これで一番ゴールに近いのは、暫定ハリーということになった。

 

「次は私ね」

 

 ジニーは呆気なく、サイコロを振った。

 一切躊躇しないその姿は、あまりに漢らしかった。

 そんなジニーの漢らしさを賭博の神様が気に入ったのか、出目は12。

 最も大きな出目だ。

 

『過去最高の魔法省大臣』

 

 テキストも、明らかに最高のものだった。

 死ねよ。

 えっちな家庭教師のお姉さんはそう思った。

 

 ジニーの次はコリンである。

 えっちな家庭教師のお姉さん、チョウ、ハリー、そしてジニー。後になればなるほど、出目も職業もよくなって来ている。

 出来ればこの流れに乗りたい。

 

「い、意外と緊張するね、これ」

「いいから早くやりなさいよ。コリンのことなんて、みんな興味ないから」

「興味ないってなんだよ!? もうちょっと僕に優しくしてもいいんじゃないの?」

「嫌よ。みんなも興味ないわよね?」

「そんなことないよ!」

 

 コリンは全員の顔を見渡した。

 さっと全員が顔を下に向ける。

 

「誰か目を合わせてよ! もういいよ! 見てなよ。みんなをあっと笑わせてみせるからね!」

 

 気合いを入れて、サイコロを投げる。

 しかし、コリンが出した出目は5だった。

 パッとしない数だが、それより肝心なのは職業だ。

 

『陽気なノマドワーカー』

 

 思わず、コリンはテキストを三回も読んだ。

 

「陽気な、えっ、なに? ノマドワーカーってなに?」

 

 よく分からなさ過ぎて誰もリアクションが取れなかった。

 他の人達のように服装や見た目が変わることもない。

 本当に何も分からなかった。

 

 頭の上にクエスチョンマークを抱えたまま、コリンが次の人にサイコロを渡す。

 次はロンの番だった。

 

 ロンがサイコロを投げる。

 出目は9。

 数字的には、良くも悪くもないと言ったところか。

 まあ僕の立ち位置だったらこんなところかな。

 ロンはマスを歩き始めた。

 進んでいく時、8のマスに止まってるショーンとすれ違う。

 

「ロナルドさん! 頑張って下さいね!」

「う、うん」

 

 いつものように自分を慕ってくるショーンに、ロンはちょっとドキリとした。

 家事全般に強く、手先が器用で、美人なのにユーモアがある。女の子のショーンがホグワーツにいたらきっと少なくないファンが付いたことだろう。

 ショーンとジニーはどう考えても産まれてくる性別を間違えていた。

 

 そんなことはさておいて、今は人生ゲームの真っ最中である。

 ロンは止まったマスのテキストを読んだ。

 

『高貴なるハガキ職人』

 

 ロンの服装が、学生服からドレスローブへと変わる。

 手にはハガキと羽ペンがしっかりと握られていた。

 言わなくても、全員が察した。

 どう考えても地雷職である。

 

「高貴なのにハガキ職人って……凄いミスマッチを感じるわね」

「どんなハガキを書くんだろ」

「『ご機嫌麗しゅう、諸君。本日は少しばかり気が向き、此度の懸賞に応募させていただいた』とかじゃないか?」

「それ、懸賞通るの?」

「さあ」

 

 このテキストを書いたのは絶対サラザールだろうな。

 えっちな家庭教師のお姉さんはそう思った。

 

「次は私だね」

 

 次はルーナだった。

 この惨劇を見ても、ルーナだけは平常運転だ。

 いつもと同じく楽しそうに、サイコロを振っている。

 出た目の合計は7だった。

 

『優しそうなパン屋さん』

 

 これは間違いなくヘルガが書いたものだろう。

 えっちな家庭教師のお姉さんは確信した。

 それにルーナとパン屋はどう考えても相性がいい。きっと繁盛するだろう。

 実際ルーナも今から、新商品をあれやこれやと考えているようだ。

 自分の職業と真正面から向き合える様な精神状態でいられたのは、ルーナだけだった。

 久しぶりに“当たり”だ、とみんなは思った。

 

 トリを務めるのはハーマイオニーである。

 流石にここまで来ると、みんな状況を受け入れつつあった。

 ハーマイオニーも、特に気負った様子もなくサイコロを振る。

 出した目は2だ。

 進みは遅いが最高の出目を出したジニーの職業が良かったせいか、最低の出目も良いのではないか、と期待が高まる。

 ハーマイオニーがマスを踏むと、みんなと同じ様にテキストが浮かび上がった。

 

『真面目な裁判官』

 

 あっ、そう。

 それを読んで、全員がそんな顔をした。

 

「……」

 

 長い沈黙が訪れた。

 さっきのコリンのように、職業が分からない、というわけでもないのに。

 誰も何も言わなかった。

 

 無難だ。

 恐ろしいまでに無難だった。

 ここまで来たんだから、トリはとんでもなく面白い職業が来たら良かったのに。

 みんなそんな顔をしていた。

 当のハーマイオニーも含めて。

 

 とにかく、これで全員の職業が決まった。

 逆に言えばまだそれだけだ。

 最初の一歩を踏み出しただけ。

 ここからゴールまで駆け抜けなくてはならない。

 人生(を賭けた)ゲームはまだ始まったばかりである。







【オマケ・ショーンとジニーが絶対にやってはいけないことリスト】
第61条 「コンフリンゴ」は万能の解決策ではありません。
第62条 クソ爆弾に自分で歩くよう魔法をかけたのは、率直に言って最悪のアイディアです。
第63条 マクゴナガル教授の名を語り、新入生に退学通知を送るのは、もう面白くありません。
第64条 手をまったく使わずに下着のみを脱ぐ特技は素晴らしいかもしれませんが、スカートを穿いている時は謹んで下さい。
第65条 「我々はジニーとショーンという公害から他の生徒を守っている」という理由を元にあなた方に加点をしろ、という要請は五時間に及ぶ議論の末却下されました。理由は「防衛能力が十分とは言えないから」です。
第66条 「草むしり」の罰則時に火炎呪文・ドラゴン・悪霊の火の使用申請が通ることはありません。
第67条 『秘密の部屋』でパーティーを開いてはならない。
第68条 「『秘密の部屋』脱出ゲーム」は相手の許可を取った上で行なって下さい。大広間付近のパイプに横たわるコリン・クリービーを発見するまで、約18時間かかりました。
第69条 「チョコ・ミント・アイス」にそんな使い方があったのは驚愕すべきことですが、もう二度とやらないでください。
第70条 一体「チョコ・ミント・アイス」の何があなた方をそこまで惹きつけるのか分かりませんが、今後一切「チョコ・ミント・アイス」を使った遊びは禁止とします。
第71条 確かに「チョコ・ミント・アイス」を普通に食べることは禁止しませんでしたが、それも禁止しなければならないようです。
第72条 「でも盛り上がっただろう(でしょう)?」はスネイプ教授の私室をふっ飛ばした言い訳にはなりません。
第73条 何度も繰り返しますが、エロイーズ・ミジョンは「肥大呪文(エンゴージオ)」を掛けられているわけではありません。
第74条 ダンブルドア校長が闇の勢力への注意を喚起した後、「『例のあの人』はフィクションです。実在する団体や人物とは関係ありません」というテロップを流してはならない。
第75条 水中人(マー・ピープル)はショーン・ハーツに対し「遺憾の意」を表明しました。
第76条 このリストは「絶対にしてはいけないことリスト」であり「まだ禁止されてないことを明確化してくれたリスト」ではありません。
第77条 いかにピンズ教授の授業が面白くないと言っても、ゲリラライブは「ちょっとした眠気覚まし」としてはやりすぎです。
第78条 魔法薬学の教室で「何らかの薬品の空き瓶」を片手に床で居眠りすることは、重大な誤解を招く危険性があります。
第79条 ホグワーツの天気を「晴れ。所によってショーン」にしてはならない。
第80条 道徳上の観点から「ジニッチ Ⅱ」の販売を即刻中止して下さい。



※破ると新入生の組み分け、スラグホーン教授の着任、スネイプ教授の闇の魔術に対する防衛術就任イベントが消えます。

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