ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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エピローグ

 食堂に、生徒が一堂に会していた。

 ダンブルドアが一連の事件に関して説明しようと集めたのだ。

 ボーバトン、ダームストラング、ホグワーツ。三つの学校の全生徒が集結しているというのに、食堂は非常に静かだった。全員が話を聞くのに必死なのだろう。

 三大魔法学校対抗試合は、全校生徒が注目を集めていたイベントだ。それが今年は三人ではなく四人、その上四人共が同時ゴール。加えて、あの闇の帝王と最後に戦った、というのだ。気にならない方がおかしい。

 

「さて。真実を明らかにする前に――みなが気になる、もう一つの真実を明らかにしよう。ミスター・クリービー、何故君の髪型はアフロになっているのかね?」

「はい、校長先生。ホグワーツは素晴らしい学校だと思いますが、たった一つだけ足りない物があります。それは床屋です。生徒間で髪を切り合うこの風習を、僕は悪だと断じます」

「貴重な意見をありがとう、ミスター・クリービー。わしはてっきり、その髪型が若者の流行りなのかと……」

「こほん、校長」

「失礼ミネルバ」

 

 クスクスと、周りから笑い声が起こった。

 コリンの髪は控え目に言ってアフロ、大袈裟に言ってアフロであった。ヒップホップ生まれのヒップホップ育ち、本物のリリックがここにはある。その隣にいるのは、全身黒焦げのショーンとバツの悪そうな顔をしているジニー。

 普段はショーンがコリンの髪を切っているのだが、今は腕の骨が折れているので、ジニーがコリンの髪の毛を切る事になった。ただ切るだけじゃ面白くないわね、魔法でやりましょうか。髪を切るのに面白さなんていらないよ、普通に切って。お願いだから。そんなやり取りの末、何故かパーマもかけようという事になり、火の魔法を使った結果、そこには本物のリリックが産まれた。芸術とはこういう事なのだろう。

 

 軽い前置きで空気が柔らかくなったところで、ダンブルドアは最後の試練で起きた事について説明した。

 シリウスが裏切り者ではなく、ヴォルデモートに連れ去られた、という風になっていたが、それ以外の部分についてダンブルドアの説明は驚く程正確だった。

 

 ――ヴォルデモートが復活した。

 

 小さくない衝撃――というと完全に過小表現だが――が生徒達に走った。

 マグル生まれの人間はイマイチピンと来ていない様だが、魔法界で育った者はそうはいかなかった。失神する者や呆然とする者、発狂寸前の状態になった者までいたくらいだ。少なくとも、コリンのアフロよりは驚く生徒が多かった事は確かだ。

 

「『例のあの人』が戻ったなんて、そんな、信じられるもんか!」

 

 生徒の誰かが叫んだ。

 

「何故かね?」

「何故って……だって、ハリー・ポッターが『例のあの人』を滅ぼしたんだろ!」

「そこにいるハリーが今よりもずっと幼い頃、ヴォルデモートを倒したというニュースは信じられたのに、今やホグワーツの代表選手として立派に成長したハリーの言葉は信じられないのかね。あれほど真摯に戦った代表選手達の言葉が虚言であると、誰が言えようか。無論、わしにも不可能じゃ」

 

 誰も、何も言えなくなった。

 

「良いかね? 一つの行動は、千の言葉に勝る。わしや魔法省がどれだけ言葉を並べようとも、代表選手達が勇敢で素晴らしい行いをしたという事実は曲げられないのじゃ。ヴォルデモートが復活した事に絶望するのではなく、復活したヴォルデモートを退けた者達に賞賛を! そーれ拍手!」

 

 万雷の拍手、とは行かなかった。

 行かなかったが……拍手の音がチラホラと聞こえて来た。拍手していない者も、先程と比べると、いくらかマシになった様に思える。

 

「言葉より行動とか言ってんのに、結局言葉で納得させてんじゃねえか」

「ショーン、校長先生のお話は黙って聞きましょう」

 

 ロウェナがやんわりと、ショーンに注意する。

 他の生徒は全員、ダンブルドアの話に夢中な様だった。だから珍しく、人前で――もちろん小声ではあるが――幽霊と話す。

 

「嫌だ」

 

 一刀両断。

 完全にロウェナの方が正しいのだが、ショーンは何故か強気に言った。自分が正しいのだから、強く言い返せばいいのに、何故かたじろぐロウェナ。それを見かねたヘルガが、ため息をつくように言う。

 

「ショーン」

「……はあ。分かったよ、ヘルガ」

「ちょっと! なんですかこの扱いの差は!」

「まあ、ロウェナだし」

「ロウェナだからな」

「ゴドリック、サラザール……貴方達ねえ! いいでしょう、誰が四強で最も優れた者なのか、貴方方にご教授して差し上げます! 今! ここで!」

 

 ロウェナがワナワナと怒りに震えながら、手を高く突き上げた。

 ここにショーン以外に幽霊が見える人間がいれば、なおかつその人間が高い技量を持つ魔法使いだったら、感激の涙を流していただろう。その位ロウェナが練り上げた魔法は無駄がなく、かつ美しい物だった。

 対してゴドリックは、そこらにあったフォークとナイフで武装。

 サラザールに至ってはチョコクッキーを武器にした。

 完全におちょくっている。

 ロウェナは激昂し、二人に襲いかかった。

 校長先生の話、お前らの戦闘音で聞こえねえよ。ショーンは白けた目で三人を見た。

 

「ここに座らせていただいても、よろしいでしょうか?」

「もちろん」

 

 そう提案したのはヘルガだ。

 今更ながらに、ヘルガ・ハッフルパフは幽霊である。いかにホグワーツの屋敷しもべ妖精が精鋭揃いだとしても、幽霊の席を用意した屋敷しもべ妖精は居なかったようだ。

 ヘルガはショーンが座っている席に、背中合わせになる形で座った。

 

「ごめんなさい、ショーン。急にいなくなったりして。とても取り乱していた、と聞きました」

「まあ、な。正直言って寂しかったし、傷ついたよ」

 

 ショーンは正直に言った。

 ヘルガは嘘をつかない。また、見栄も張らない。何処までも素直な言葉を、ショーンに投げかけてくる。だからショーンも、ヘルガの前では素直だ。

 

「でも、許すよ。こうやって帰って来てくれたんだし」

「いつだって最後には、貴方の隣にいますよ。わたくしだけではなく、ゴドリックもサラザールもロウェナも」

 

 ヘルガが向けた視線の先。

 そこには素手の取っ組み合いをする三人がいた。先ほどの見事な魔法は何処へ行ったのだろうか。

 

「そういえば、何処へ行ってたんだ?」

「ラスベガスで休暇を取っていました」

「そりゃいい。お土産はないのか」

「ロゴ入りTシャツとご当地キティちゃんを差し上げましょう」

「アメリカ人は何処へ行ってもTシャツだな」

 

 ショーンが肩を竦めたと同時に、ダンブルドアの話が終わった。

 いよいよこれからメインイベント、食事会だ。三大魔法学校対抗試合あとという事で、今日の夕飯はとびきり豪華だ。周りの目をあるという事で、ショーンは会話を切り上げた。

 

「まさか、チョコクッキーにそんな使い方があったなんて……」

「今回ばかりはやられたよ、まったく」

「はあ、はあ……ふっ。また勝利してしまった」

 

 視界の端では、チョコクッキーを巧みに使ったサラザールが勝者になっていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ――時は流れ。

 遂に、ボーバトンとダームストラングの生徒達が帰る日になった。

 最後の夕食の時、デザートを食べていると、向こうの席からクラムがやって来た。既に涙ぐんでいる。

 

「……寂しくなります」

「俺もだよ」

 

 ショーンも立ち上がり、クラムと熱い抱擁を交わす。

 

「最初、僕はここに来たくありませんでした。気候や言語が違うし、愛する学校の敷地ではないからです。でも、とても楽しい日々を送らせてもらいました。代表選手として手強いライバルと戦い……とても楽しいクィディッチの試合をさせてもらいました。ありがとう」

「俺の方こそ、ありがとう。最初はいけすかない筋肉とか呼んでたしな」

「次からはクィディッチが出来る筋肉と呼んで下さい」

「それでいいのか、お前」

「構いません。君に覚えてもらえるなら」

 

 あの試合は、普段クラムがプレイしているナショナルリーグと比べれば、ほんのお遊びの様な物だっただろう。

 しかし、誰もが『勝ち』に真剣だった。

 ナショナル・リーグでは――実際クラムが最近した様に――負けると分かっていても、点差が広がる前にあえてスニッチを取って試合を終わらせる事がある。何故ならその一試合だけではなく、その次にも試合があり、総合得点で勝負しているからだ。

 だが、あの試合は一度きり。

 たった一回。

 点差が広がる前に、とか。

 出来るだけ点数を稼いでおこう、とか。

 そんなことを考える余地はなかった。

 昔はみんな、全部の試合に本気だった。それがいつからか、次の試合や個人成績の事を考えて、純粋なプレイが出来なくなっていた。

 クラムにはあの試合がたまらなく懐かしくて、楽しかったのだ。

 

「私もお呼ばれしたかったわ」

 

 やって来たのは、フラー・デラクールだ。

 横には、妹のガブリエールが付いて来ていた。フラーはいつも通り優雅だが、ガブリエールは顔がぐしゃぐしゃになるくらい泣きじゃくっている。

 

「私だって、クィディッチには多少の覚えがあるのよ。ボーバトンだって試合をしたかったわ」

「勝手にやってくれ」

「嫌よ! 貴方、私のマネージャーでしょ。ちゃんとセッティングしてよね」

「誰がマネージャーだよ!」

「じゃあギタリスト?」

「よーしいい度胸だ。コリン、俺のギター持ってこい」

「受けて立ちましょう。ガブリエール、マイクを」

「あ゛い゛、お゛姉゛様゛!」

 

 泣きながら、ガブリエールがマイクを持って来る。

 フラーはマイクを受け……取らず、ガブリエールの顔をハンカチで拭った。

 

「ガブリエール。貴女に淑女として一つ、大事な事を教えます」

「……」

「悲しい時こそ笑いなさい。楽しい時こそ憂いなさい。貴女を放っておく人間はいなくなるでしょう。そして涙は、一筋だけ静かに流す物です。分かりましたね?」

 

 ガブリエールは涙を拭きながら、力強く頷いた。

 

「ではガブリエール、貴女にもう一度命じます。私にマイクを」

「はい、お姉様」

 

 まるで王冠を女王に渡す従者の様に……

 

「合格です」

「ありがとうございます」

 

 そしてフラーもまた、気高き女王の様に。

 

「準備はいいですね、ショーン」

「ここが茶化す所じゃないくらい、流石の俺も分かるさ」

 

 言葉は要らなかった。

 これが最後の別れだと、全員が理解していた。

 ショーンがゆっくりとイントロを弾き始める。

 フラーは大きく息を吸い……たった一筋の涙を静かに流した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「音楽とは、どんな魔法にも勝る素晴らしい魔法じゃ」

 

 演奏が終わると、大きな拍手をしながらダンブルドアがやって来た。

 テーブルクロスの様な大きなハンカチで、何度も涙を拭っている。

 

「君達は魔法界の誇りじゃ。最初、わしは三つの魔法学校が力を合わせるなど、無理だと思っておった。そうあれと願いながら、またそうあれと言いながら、何処かで無理だと思っておった。この哀れで醜い老人を笑っておくれ。君達は、わしの予想を遥かに超えていった」

 

 ショーン、クラム、フラー、セドリック、ハリー、ジニー、コリン、ルーナ、ハーマイオニー、ロン、ガブリエール、チョウ。

 中心にいる十二人に向けて、ダンブルドアは語りかける。

 

「どうかこの老いぼれに、君たちを写真に撮る名誉を任せてはくれんかの」

「喜んで、校長」

「ありがとう、ミスター・クリービー」

 

 コリンが愛用のカメラを渡す。

 コリンは、あのカメラを本当に大切にしていた。他の人――ショーンやジニー、ルーナにさえ――触らせた事がない。

 ダンブルドアは老人だと思えないほど、ピンと張った背筋でカメラを構えた。

 

「3――2――」

 

 1を数え切る前に、カメラが光った。

 ダンブルドアが不思議そうにカメラを見つめた。

 

「ふぅむ。どうやら、今の一枚でネガが切れてしまったようじゃの」

「はぁ!?」

「ちょっと、私絶対半目だったわ! 撮り直しよ、撮り直し!」

「オォ! ホグワーツの校長は写真一枚上手に撮れないデスカ!」

「お姉様、昔の英語が出てますよ」

「私はバッチリキメ顔だったからそれでいいわ」

「流石チョウだね……」

「私もだよー」

「ルーナってキメ顔とか、そういう概念あったんだね」

「老いぼれめ……」

「コラ、ショーン!」

「殴るなよハーマイオニー!」

 

 ――カシャ!

 全員が言い合っていると、またカメラの音が鳴った。

 

「今度こそ、最後の一枚じゃ。君達らしくて、大変よろしい」

 

 にっこり、ダンブルドアが笑った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ひっどい写真ねえ」

 

 帰りの電車で。

 現像された写真を見ながら、ジニーがボヤいた。

 

「ま、一番酷いのはあんただけどね」

「ほっとけ。お前だって半目になってるぞ」

 

 ハーマイオニーに立ち位置を指示されてるショーンと、半目で微妙なピースをしているジニー。どっちが悪いかと言われると、どっこいどっこいだろう。

 

 四人の代表選手達が真ん中でトロフィーを持ち上げ、それを囲むように他の人間が立っている一枚の写真。

 チョウとフラー、セドリック以外は全員まともな顔をしていない。

 もう一枚は更にひどい。全員が言い合いをしていて、もうグチャグチャだ。魔法で動く写真にすると、更に酷い。ボージン・アンド・バークスに置いてある呪われた品のようだ。

 

「でもさ、今年は楽しかったよね」

「そうだねー。毎年楽しいけど、今年はもっと楽しかったって思うな」

「来年は、ボーバトンもダームストラングもいないなんて、信じられないよ」

「うん。寂しいな」

「しみったれてるわねえ、あんた達。来年になったら来年になったで、また新しい楽しみが見つかるわよ」

「コリン以外はな」

「なんで僕だけ例外!?」

「むしろ、来年もホグワーツに入れるか怪しいわね」

「むしろ除外!?」

「ばいばいコリン」

「ルーナ、それは冗談で言ってるんだよね? 僕を除け者にしようと思ってるんじゃないよね?」

「あははははは」

「笑って誤魔化さないでよ!」

「コリン、うるさい」

「誰のせいだよ!」

「あんたのご両親」

「それじゃあもうどうしようもないな!」

 

 騒がしくする三人を眺めながら、ショーンはクラムとフラー、ガブリエールとの別れを思い出していた。

 また試合をしよう、と約束したクラム。

 次会う時までごきげんよう、と笑ったフラー。

 きっとまた会えますよね、と涙を溜めながら言ったガブリエール。

 

「お前達に大事な事を二つ、言っておこう。

 一つ、友情は永遠に。

 二つ、一つ目に言ったことは本心だ」

 

 そう言って別れた。

 だがきっと、もう二度と会う事はないだろう。

 いや運良く会えたとしても、本物のプロであるクラムと試合出来るなんて事はありえない。

 フラーとステージで歌うことも、怒るフラーをガブリエールと慰める事もないのだ。

 今年は楽しかった、とコリンが言っていた。

 ジニーの言う通り、来年も今年と同じくらい楽しめるだろうか……。

 

「きっと楽しめますよ」

「ロウェナ……」

「そうとも。なんたって、僕達が作ったホグワーツだからね」

「まあ、お前達と意見が合うのは癪だが。ホグワーツは素晴らしい学校だ、それは間違いない」

「でも、いくらホグワーツが素晴らしくても、ただ立っているだけでは面白くありませんよ。結局は貴方の気の持ちようです」

「……そうだな」

 

 ありがとう。

 心の中でそう呟いてから、ジニー達の話に加わる。

 来年への憂鬱な心を吹っ飛ばすくらい、今から遊ぼう。

 そう考えるショーンを乗せて、ホグワーツ特急はキングス・クロス駅へと向かっていった。












このキャラどんな口調なんだっけなあーとか思って過去の話を読み直していたのですが、初期ジニーの性格が優し過ぎてやばい。なんだこの可愛い女の子は(驚愕)。
そしてコリンが不憫になり過ぎてヤバい。こんなに不憫なコリンが見れるのはこのssだけ! ……まあ、コリンが出てくるssってほとんどないし、元々不人気キャラだけど……。
ルーナは――変わらないね。うん。話す事なし!

まあ、というわけで、第3章は終わりです。クラムとフラー、ガブリエルとはお別れ。結構好きなキャラだったので、彼らを動かせなくなるのは残念です。
それでは、また次の章でお会いしましょう。

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