ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第13話 屋敷しもべ妖精と鼻血の帝王

 ヴォルデモートの杖から大量の火が放たれ、フラーの下半身を焼き尽くした。

 支えの無くなった上半身が、ポトリと地面に落ちる。

 

「久しぶりの運動だった故、ついやり過ぎてしまったな。ここまで損傷が激しいと、亡者には使えぬか」

 

 フラー・デラクールは思いの外優秀だった。よく戦ったと言えるだろう。しかしよく戦ったと言っても、学生にしては、という程度だ。学生の頃からフラー以上に優秀であり、更にそこから長い年月をかけて研ぎ澄してきたヴォルデモートとは、大きな差がある。事実、ヴォルデモートの体には傷一つ付いていなかった。

 杖を振り、呪文を打ち合った余波で剥がれた地面を直す。ダンブルドアの目が何処にあるか分からない以上、魔法の痕跡は出来るだけ残したくない。

 ……地面を直す時ふと、ヴォルデモートはセドリックの死体を見た。

 そして――気づく。

 

「……何処からだ?」

 

 ヴォルデモートは一人つぶやいた。

 当然、返事をする者はいない。いないはずである。しかしヴォルデモートはもう一度、今度は吠える様に問いた。

 

「何処からだ!」

 

 やはり、返事はない。

 ヴォルデモートはそれに一層腹を立て、激昂した。

 怒り狂いながら杖を自分のこめかみに向け、呪文を唱える。

 次の瞬間、世界が歪んだ。

 歪みは更に激しくなり、やがて完全に折れ曲がった。

 パリン、と。まるでお気に入りのティーカップが手を擦り抜け、落ちて破れた時の様な音が響く。

 事実、破れたのだ。歪みきった世界が。

 

 世界が歪みから解放された時、目の前にあったのはテーブルと紅茶だった。

 席についているのはハリー・ポッター、セドリック・ディゴリー、ビクトール・クラム、フラー・デラクール。全員無事な姿で、スヤスヤと眠っている。

 

「……流石です。わたくしの魔法に気づくとは」

 

 セドリック・ディゴリーの口から――否、その背後から声が聞こえてくる。

 安らぎを与えてくれる、鈴の様な声が。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

 ヴォルデモートが死の呪いを唱える。

 しかし、杖からは何も出ない。

 ――不発。

 そんな事あり得るだろうか。確かに死の呪いは難易度の高い呪文だが、ヴォルデモートは誰よりもその呪いに精通している。疲労困憊の状態ならともかく、今の様な平時なら失敗する可能性はゼロに近いだろう。

 つまり、ヴォルデモートは呪文を失敗したのではない。

 させられた(・・・・・)のだ。

 

「まあまあ、そう声を荒げずに。この子達が起きてしまいますから」

 

 セドリック・ディゴリーの顔が徐々に変わっていく。

 いや、実際に変化しているわけではない。

 ヴォルデモートの心象が変化しているのだ。

 

「この子達は今、みな同じ夢を見ています。貴方に挑み、知恵と勇気と友情によって打ち勝つ。そんな幸福な夢を」

 

 セドリックの顔は今や、完全に別の物へと変化していた。

 柔らかなブロンドヘアをシニヨンにした、何処か神聖な空気を持つ女性――ヘルガ・ハッフルパフの顔へと。

 

 ――簡単に言えば、今までの事は全てヘルガが見せた夢だったのだ。

 夢、と言ってもただの夢ではない。

 全員の思考、能力を読み取った上で見せた、事実に限りなく近い夢だ。ただし……結末だけは、それぞれ夢を見る人間の理想になる様調整してある。人は自分にとって有利な事は、ほとんど疑わない。例えそれが多少不自然だったり、自分にとって有利に運び過ぎていたとしても。事実、ヴォルデモートも本当に代表選手やダンブルドアを始末したと思っていた。

 違和感に気づいたのは、セドリックの死体を見た時である。

 ヴォルデモートは誰よりも死の呪いについて詳しい。当然、その呪いを受けて死んだ人間も山の様に見てきた。

 反対に、攻撃魔法が使えないヘルガは死の呪いなど使った事さえない。故に、その死体の再現がやや甘かったのだ。

 ヴォルデモートはそのわずかな異変から状況を推理し、自身に非常に強い閉心術をかけたのである。

 

「子供達を起こさないよう願いますわ。ヴォルデモート卿」

 

 ヘルガはニッコリと微笑んだ。

 ヴォルデモートの様な、演技の笑顔ではない。

 彼女は本気で、ヴォルデモートにお願いする様に笑ったのだ。

 

「貴様……」

 

 ヴォルデモートは人の心を読むことに長けている。故に、彼はヘルガが今、自分をどう思っているか察知していた。

 ヘルガ・ハッフルパフは――ヴォルデモート卿を愛していた。

 それこそ、恋人や娘といった、近しい者とそう変わらないほどに。その上で、ヘルガ・ハッフルパフはヴォルデモートを――殺そうとしているのだ。

 

 ヘルガ・ハッフルパフは全てを愛す。

 故に、彼女にとって全ての者は平等である。

 ヘルガ・ハッフルパフは全てを愛す。

 故に、彼女にとっては生者も死者も変わらず隣人である。

 

「ぐっ……ぬぅ………!」

 

 ヴォルデモートは何かしらの呪文でヘルガを攻撃しようとした。

 しかし、思考が纏まらない。

 先ほど、ヴォルデモートが死の呪文を放とうとした時と同じだ。死の呪文には、高度な技術の他に、強い殺意が必要になる。守護霊の呪文と同種、と言えば分かりやすいだろうか。

 開心術に長けたヘルガ・ハッフルパフは――その思考を取り除く事ができる。更に本気を出せば、思考の一切を奪うことすら可能だ。事実彼女の呪文は益々強くなり、ヴォルデモートは今や普通の呪文ですら唱えられなくなっていた。

 ヘルガは攻撃魔法の類を一切使う事が出来ない。ヘルガには一切『敵意』の類が無いからだ。しかし彼女もまた、他の創設者と同じく一千年前の激動を戦い抜いた一人である。

 

「貴方……分霊の呪文をなされていますね? その様な脆い心では、わたくしの魔法は防げませんよ」

 

 ヘルガの魔法が、また一層強くヴォルデモートの心を縛る。

 呪文を唱えるどころではない。

 体が完全に動かなくなった。

 脳と体を分離させられたのだ。

 

「無理をして呪文を唱える事はおよしなさい。頭が耐えきれなくなって死にますよ。そも、この世界が本当の世界だという保証がどこに? 貴方の目の前にいるわたくしは、本当のわたくしではないかもしれませんよ」

 

 ヴォルデモートを心配する様に、ヘルガは投げかけた。

 そして一歩近づき、ヴォルデモートの顔に自分の手を添える。

 

「ショーンと結びつきが強く、また非常に模範的なハッフルパフ生であるセドリック・ディゴリーの体を使っているとはいえ、長くあの子の体から離れる事はショーンにとって負担になります。今頃は体力の限界を迎え、床に伏している事でしょう。早く戻らねばなりません。なので……終わらせましょう」

 

 ヘルガはそっと、ヴォルデモートの体を抱きしめた。

 そして優しく、耳元で囁く。

 

「最後に、何か遺言はございますか?」

「――ヘルガ・ハッフルパフ。いや、貴様だけではない。共にいる創設者達よ」

「はい。なんでございましょう」

「かつて、俺様は貴様等に憧れた。ホグワーツを築いた偉大な魔法使いだと、心から尊敬していたのだ」

 

 その言葉は、ヴォルデモートの本心からの言葉だった。

 誰であろう、心を読めるヘルガがこそが証人だ。

 そしてヴォルデモートは、こう続けた。

 

 ――それがなんだ、この有様は。

 

 ヴォルデモート――というよりもこの時はトム・リドルだが――はかつて、創設者達を誰よりも尊敬していた。それこそ、かのアルバス・ダンブルドアよりも。

 トム・リドルが『死』を克服しようとした時、彼はありとあらゆる死因への対抗策を考えた。その時、ふと思ったのだ。何故あれほど偉大と謳われた創設者達は、死んだのか。その死因を調べ、克服する事は非常に大切なのではないか、と。

 しかし、予想外に創設者達の死因を特定する事は困難だった。

 何故か、その死因を記した書がほとんどないのだ。それどころか、それぞれのメンバーが同じ様に死んだのか、あるいは全く別の時期に死んだのか。それさえ分からない。事が起きたのは今から一千年も前。記述が少なくて当たり前なのだが、それにしても少な過ぎる。生前の逸話が数多く残っているだけに、益々不自然だ。誰かが意図的に隠しているとしか思えない。

 真実は意外な所に落ちていた。

 ロウェナの娘、灰色の淑女(ヘレナ・レイブンクロー)である。

 トム・リドルがホグワーツの教師になりたいと直談判しに行った際、彼は親しかったヘレナに聞いた。母であるロウェナの、そしてその盟友である創設者達の死因を。

 ヘレナはトム・リドルに教えた。あれほど強力だった創設者達がどうやって死んだのか――いやどうやって殺されたのか(・・・・・・・・・・・)を。

 そしてその先も――つまり『今』も。

 創設者達の真実を、ヴォルデモート卿は知っていた。

 故にこそ、ヘルガはヴォルデモートを殺すために、わざわざリスクを冒してまでここに来たのだ。

 

「貴様等はその醜い内をひた隠しにし、たった一人の少年に擦り寄っているが……あの小僧――名をショーンと言ったか。いつか絶望するだろう。貴様等が一体どの様な存在なのか、何故あの小僧にまとわりついているのか、それを知った時が見ものだ」

「そうはなりませんよ。わたくし達は永遠に、あの子と共にあります」

 

 ヘルガはヴォルデモートの頬に添えた手を、少しずつ下へ……首まで来たところで、グッと力を込めた。

 いかに魔法使いとして優れていようと、体は人間のそれである。

 ゴキリ、と。呆気ないほど簡単に、ヴォルデモートの首はへし折れた。

 

「おっと。悪い子です」

 

 ヴォルデモートの体から、次なる分霊箱(身体)へ逃げようと魂が飛び出してくる。

 ヘルガはそれをキャッチすると、押し潰して完全に消した。

 

「身体の方は――埋めてしまいましょうか。植物の栄養になるでしょうし……なりますよね?」

 

 ヘルガはスコップを魔法で作ると、丁寧に穴を掘ってヴォルデモートの遺体を埋めた。

 その後、魔法使い式でヴォルデモートの葬式を執り行った。

 

「さて、そろそろ本当に帰らねばなりませんね。ここも大変居心地の良い場所だったので、離れるのは大変心苦しいのですが……」

 

 トム・リドル・シニアの墓を「大変居心地の良い場所」と言ったのは、ヘルガが最初にして最後だろう。

 

「……んぅ………」

 

 子供達の方から身じろぎする様な声が聞こえた。

 そろそろ夢から醒める時期だろう。

 彼らは、夢を見ていた。夢の中で、彼らは知恵を出し合い、そして友情と勇気によってヴォルデモートに打ち勝った。実際にヴォルデモートが倒れ、その場にいた者の記憶が揃っているなら、それは真実となる。

 

「昔はよく、こうしてゴドリックとロウェナの尻拭いをしたものですね」

 

 戦争をしていた頃、ゴドリックとロウェナは辺り構わず強力な魔法をぶっ放しまくっていた。その度に、ヘルガがマグルの記憶を消し、サラザールが辻褄を合わせていた。余談だが、魔法省の『魔法事故惨事部』はこれが元になったと言われている。

 

「アクシオ、優勝トロフィー」

 

 四人が目覚めたタイミングで、優勝トロフィーを呼び寄せて触らせる。

 いとも簡単に、四人と1ゴーストは夜の墓地を後にした。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 校長室にて、代表選手四人は説明した。

 優勝トロフィーがトム・リドルの墓場直通便になっていたこと。

 ヴォルデモートが何故かハリーの血を持っていて、彼が復活したこと。

 なんやかんやあって四人で逆にヴォルデモートをやっつけたこと。

 

「なるほど、そんな事が……」

 

 話を聞いたショーンがつぶやいた。

 

「ショーンの方も、大変だったみたいだね。倒れたって聞いて、心配したよ。呪いか何か?」

「いや、何の魔法的問題もない。多分、昨日食べたハーマイオニーの料理のせいだな。墓場にあのキノコスパゲティを持って行ってヴォルデモートと一緒に鍋に放り込んでれば、もっと楽に倒せただろうよ」

「えっと、つまり、ただの食あたりってこと?」

「ただの食あたりじゃない。弩級の食あたりだ。あるいは今世紀最高の食あたりとか、近年で最高の食あたりと言い換えてもいい」

「何処のボジョレー・ヌーボよ」

 

 すかさずジニーがツッコミを入れた。

 ハーマイオニーはボディーブローを入れた。

 

 代表選手四人は、当然ながら墓地から帰った後説明を求められた。

 各校の校長とミネルバとシリウス、そしてスネイプ――ハリーはヴォルデモートについての情報をスネイプに言うのを、歯医者に行きたくない子供の様に嫌がったが、ダンブルドアが説得した――が集まり、さあ説明しようと言うところで、マダム・ポンフリーが転がり込んで来たのだ。ハーツが目覚めましたよ、と。

 もしかしたらショーンも呪いをかけられていたのかもしれない。ヴォルデモートが倒されたから、今起き上がったのでないだろうか。そんな意見が浮かび上がった。

 生徒に言う事を渋る者もいたが、結局知れ渡るから、とダンブルドアが全員を説得した。

 ショーンについて来たジニー、ハーマイオニー、ロン。この四名を迎え、トム・リドルの墓探検ツアーのプラン説明が行われ、そして今に至る。

 

「ところでダンブルドア校長」

「何かね、ミスター・ハーツ。君とハグリッドがたびたび開いている素敵な夜会に、ついに私を誘ってくれるのかの?」

「あー……それはまたの機会に。それより、今杖はお持ちですか?」

「もちろんだとも」

「良かった。それじゃあ言いますが、この場に裏切り者がいます。というかシリウスが裏切り者です。捕まえて下さい」

「ほお」

 

 その場にいた人間の動きは速かった。

 先ず動いたのは、シリウスだ。ある程度こうなる事を予想していたのだろう。杖を取り出しながら、猛スピードで扉へと駆けた。

 次に動いたのはダンブルドア――ではなく、スネイプだった。彼のニックネームがビリー・ザ・キッドではないのが不思議な程の早撃ちで、シリウスの背中を撃ち抜いた。

 しかし、シリウスもまた負けてはいない。即座に対応し、盾呪文を貼る。

 だが、それでいいのだ。一瞬の時間さえあれば。この部屋には、今世紀最高の魔法使いがいる。彼が杖を抜く一瞬の時間さえあれば、全てのことは上手くいく。

 

「ヒュウー」

 

 ゴドリックが感心した声を出した。

 彼が褒める程に、ダンブルドアの呪文捌きは上手かった。あっという間に、それも無傷でシリウスを捕らえた。

 

「状況から見て、ブラック教授が裏切り者なのは明白じゃ。しかし、この哀れな老いぼれと、周りの者に説明してくれるかな。何故彼が裏切り者だと分かったのじゃ?」

「先ず言っておきます。外見はシリウス・ブラックかもしれませんが、中身はきっとシリウスじゃない」

 

 それを聞いて、ロンとハーマイオニー、そして顔面蒼白のハリーはハッとした。

 ――ポリジュース薬。

 かつて三人が使い、痛い目を見た薬だ。それを使えば、大体の人間を欺ける。

 

「シリウスは僕と二人でいる時、必ずある呼び名で僕を呼びます。ですが、ここ最近は一切呼びませんでした。最初は教師になった責任感からかと思っていましたが、シリウスはそんな事を気にする性格だろうか、と不思議に思っていました。なので確証を得たのはついさっきです。ヴォルデモートは何故かハリーの血を持っていた――一緒に住んでいた人間なら、その位簡単に出来るだろうな、と。心当たりはあるか、ハリー」

「……確かに、家にいた時、チョコレートの食べ過ぎで鼻血を出しちゃった事がある。チョコレートを持ってきたのは、シリウスだった……。だけど、でも、それはおかしいよ。だってシリウスは、最初はシリウスだったんだ。いつ入れ替わったって言うの? 僕はずっと一緒にいたよ」

「ふむ。それはわしが答えられそうじゃ、ハリー」

 

 ダンブルドアはシリウスのポケットに素早く手を入れた。

 取り出したのは――ロケットだ。

 見事な装飾がなされた、蛇の紋章が刻まれたロケット。

 

「あれは私のだ」

 

 サラザールが呆れた様に言った。

 物持ちの良い彼にとって、自分の物をあんな形で使われるのは心外なのだろう。

 

「これには非常に強い呪いがかけられておる。それ以前に、品自体が高価で希少性が高い物じゃ。先ず普通にしていては手に入らんじゃろう。心当たりはないかね、ハリー」

「えっと、良く覚えてます。シリウスの家は、凄く荒れてました。それで片付けよう、って事になったのですが、シリウスの家にいた屋敷しもべ妖精が死んでしまっていて……僕達が自分の手でやる事になりました。その時、シリウスがそのロケットを見つけたんです。凄く気に入ったって言ってて、肌身離さず持っていました」

「ブラック教授は非常に強い魔法使いじゃ。しかし、これ程に強い呪いを持った品を持ち続ければ、心は壊れ、闇の者が入り込む隙を作るじゃろう。のう、トム・リドルや?」

「まったくその通りです、先生」

 

 返事をしたのはシリウス――否、シリウスの中の誰かだった。

 

「付け加えさせていただければ、強い魔法使いだからこそ、より上質な餌になります。シリウスの持つ魔法力と魂は強く、僕の力を強くしてくれた。ブラック家というのもいい。血統が近いからか、この体は良く馴染む。見てください。僕とこれだけ密接なのに、シリウスの体はクィレルの様にまったく綻びてない」

 

 秘密の部屋で対峙した声より大人びていて、そして墓場であった彼よりも若い声。

 魂を切り裂き、分霊箱に入れた時期の闇の帝王――つまり全盛期のヴォルデモート卿がそこにいた。

 無論、力はほとんど取り戻して居らず、シリウス・ブラックの体を依り代に辛うじて存在している程度だが、その場にいる全員を黙らせる『圧』があった。対抗出来るのは、精々ダンブルドアくらいのものだろう。

 

「あー、少し質問してもいいか?」

 

 いや、もう一人いた。

 もちろん、ショーンである。

 この程度の『圧』は、生まれた時から受けていた。

 

「自分の復活の為に、ハリーの血を採取したんだよな、鼻血を。自分の復活に鼻血を使うのってどうなんだ? だって、鼻血だぞ。鼻水とか、ハナクソとか混ざってる。嫌じゃないのか。ハナクソで出来た闇の帝王だぞ」

「もちろん、嫌だよ。でも僕はちょっとした理由でハリーを傷つけられないし、傷つけたらダンブルドア校長にバレてしまうからね。鼻血を使った事は、あっちの僕には内緒にしといてくれると嬉しいよ」

「う〜む。わしはクリスマスプレゼントには、厚手のウール靴下が欲しかったのじゃが、君達の会話を録音したレコードでも良いかもしれんの」

「だったら俺はハリーとスネイプ教授の会話ディスクに一票」

「それなら僕はマクゴナガル先生とロン・ウィーズリー君に一票」

 

 空気が緩む。

 あまりにも緩み過ぎるとそれはそれで問題だが、先程の張り詰め過ぎた空気よりはいい。でないと、不意をつかれたとき何も出来なくなってしまう。

 うっかり会話に乗り、こちらに不利な状況を作ってしまったかな。トムはそう考える。ショーンがそれを意識的にか、それとも無意識的にやったのかは分からないが。ともかく、時間はトムの味方ではない様だ。

 

「さて。そろそろお暇させていただくとしようか。ダンブルドア先生が物凄い勢いで僕を拘束してる呪文を強めてるからね、これ以上は流石にちょっと良くない」

 

 その場にいた全員が、杖を構える。

 もちろん、トムよりも強いダンブルドアも。

 しかし、トムの余裕は消えない。

 

「この学校にいる間に、何匹か躾けておいたんだ」

 

 『姿現し』により、二十人近い屋敷しもべ妖精が姿を表す。

 フレッドとジョージは、シリウスと仲が良かった。そして、双子は屋敷しもべ妖精が何処にいるかを良く知っていた。

 

 ――屋敷しもべ妖精が一斉に『悪霊の火』を出した。

 

 『悪霊の火』を出すのは、そう難しいことではない。トム・リドルの様な非常に優秀な魔法使いからマンツーマンで教えを受ければ、直ぐに出せる様になるだろう。

 しかし、『悪霊の火』はだからこそ禁術なのだ。

 出すのは簡単だが、使いこなすのは非常に難しい。ましてや人間ではない屋敷しもべ妖精が無理矢理出したのなら……。

 

 自らの身を焼きながら、屋敷しもべ妖精達は『悪霊の火』を出し続けた。

 

 彼らは恐怖によって支配されているのではない。

 トム・リドルという甘い毒に唆され、彼に心から忠誠を捧げているのだ。

 暴走する『悪霊の火』。

 いかな教師陣と言えど、そう簡単に対処出来る物ではない。ましてや生徒を守りながらでは、余計にだろう。唯一なんとか出来そうなダンブルドアも、屋敷しもべ妖精を犠牲にして良いならいくらでも手立てを思いついていたが、彼の良心がそれを許さない。

 トム・リドルは、火の中を屋敷しもべ妖精の『姿くらまし』で抜け出そうとしていた。

 

「トム・リドル! シリウスの体を返せ!」

 

 そんな中、ハリーだけが持ち前の動体能力を駆使し『悪霊の火』の間を走り抜けて行く。

 間に合うか、間に合わないか……ダンブルドアでさえ判断が難しい。

 そしてどちらの方が良いのかは、ハッキリしていた。ハリーが間に合わない方が、明らかに好手だ。トム・リドルに追いついたところで、共に『姿くらまし』するだけ。その先に何があるのか、まったく分からない。

 追いつけなかった時――ハリーは『悪霊の火』の中心で孤立する。だが、トム・リドルと二人で行き先不明の旅行に行くよりかは救いがあるだろう。

 それを分かっているからこそ、トム・リドルは待つ。

 慌ててるフリをして、もたついてるフリをして、ハリーを待つ。

 

「やれやれ、だ」

 

 ゴドリックがショーンの体に乗り移る。

 ――刹那。

 その場にいた誰もが視認出来ない速度で、ハリーに追いつく。そのまま襟を掴み、床が壊れる程の脚力で跳躍。天井を突き抜け、一気に屋外へと出た。ハリーが何がなんだか分かってない間に、ハリーのローブを屋外の装飾に結びつけ、また一瞬でもといた位置に戻る。

 明らかにショーンの身体能力を超えた動き。筋肉痛にして一ヶ月くらいか。天井も素手で破壊してしまったので、うっかり骨も折れてしまったが、それはまあご愛嬌。ついでにヘルガが魔力を使いすぎてるせいで栄養失調とかにもなってしまうかもしれないが、まあ誤差の範囲内だ。

 

「流石だね」

 

 ただ一人、ヴォルデモートだけがショーンを見ながら、微笑んでいた。

 次の瞬間、ヴォルデモートは『姿くらまし』によって姿を消した。












みなさんお久しぶりです。
これからは出来る限り、投稿スピードを元に戻そうと思っているのですが、途轍もない問題が発生しております。
それは「次の章のタイトルが思いつかない」です。昔もこんなようなこと言ってた気がしますね、はい。でも思い浮かばない物はしょうがない。内容はもう全部決まってるんですけどね。具体的に言うとドローレスでアンブリッジな感じです。章タイトルもドローレスでアンブリッジな感じにしようかな、もう。

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