さて、先ず誰を誘おうか……ショーンは一人、考え事をしながら廊下を歩いていた。
ショーンとハーマイオニーは一旦別れて、それぞれ分担して仕事をすることにした。
ショーンの仕事はメンバー集め。
他方ハーマイオニーは競技場の借り出し申請や、練習場の予約等、色々な手続きをしに行っている。そちらについては、ショーンは微塵も心配していなかった。クィディッチ狂いのマクゴナガル先生なら、間違いなく二つ返事で了承するに違いない。
「やっぱり、最初はセドリックだな」
最も親しく、最も頼りになる友人。
加えて、今はホグワーツの代表選手でもある。
この試合はただやるだけではダメなのだ。全生徒に見てもらわなくてはならないし、劇的な勝利を収めなければならない。
セドリックなら実力もあるし、話題性も抜群だ。これほど相応しい人物もいないだろう。
暫く歩くと、中庭の端っこの方でセドリックを見つけた。
幸いな事に、誘おうと思っていたチョウも隣にいる。
しかし不幸な事に、二人はぴったりくっついて耳元で囁き合っていた。この間に割って入るのは、中々勇気がいる。
「やあ、二人とも」
「おっと。やあショーン」
「はーい、ショーン君。今日も元気そうね」
ショーンが話しかけると、セドリックは顔を赤くして頬をかいた。一方、チョウはからかうように微笑んでいる。
「でもショーン君。学校で習わなかった? 恋人同士が仲良くしてる時は、話しかけちゃイケナイのよ」
「悪かったよ」
「うん、よろしい。ちゃんと謝る子は好きだよ、私は」
ショーンは両手を上げて降参のポーズをとった。
チョウは今まで出会って来た女の子の中で誰よりも大人びている。彼女に会うたびに、男の子は女の子に敵わないという普遍の真理をショーンは味合わされた。
「で、どうしたんだいショーン。何か用事があったんだろう?」
「勿論。ちょっと長い話になるんだけど、いいかな、チョウ?」
「どうして私に聞くの? 好きに話せば良いじゃない」
「ああ……うん、そうだな。実は――」
ハリーのために、という部分は伏せて、クラム――もといダームストラング――と試合する事になったことを二人に説明した。
「――というわけで、ホグワーツ・オールスターチームを結成しようと思うんだ」
「それで僕達に声をかけた、と」
セドリックはほとんど間をおかずに、直ぐに笑顔で答えた。
「うん、良いね! ちょうどクィディッチが無いのを残念に感じていた所だし、実は前々からショーンとプレイしたいと思ってたんだ。勿論、僕は参加させて貰うよ」
「私もオーケーよ。喜んで参加させて貰うわ。レイブンクローには沢山タクティクスがあるんだけど……チームワークが無くて、いっつも上手くいかないのよ。オールスターチームでは、是非その辺りをやり遂げたいわね」
「良し! 二人がいれば百人力だ!」
右手でチョウと、左手でセドリックと拍手をする。
「それで。僕たち以外には誰か決まってるの?」
「俺がセドリックとチョウを差し置いて、他の誰かを誘うわけないだろ」
「嬉しい事を言ってくれるね」
セドリックとショーンはハイタッチした後、硬く抱き合った。チョウが横で「男の子のノリねぇ」と笑っている。
「という事は僕とチョウ、ショーンで……後四人か。誰を誘う?」
「ハリー。ハリー・ポッターを誘いましょうよ。あの子は良い選手よ。勿論、貴方の次に、だけどね」
「気が合うな、俺もハリーは誘おうと思ってたんだ」
「これで四人。後三人か……」
三人で誰を誘うか考えていると、チョウが妙案を出した。流石はレイブンクロー生、といったところか。
「人数より、ポジションで考えましょうか。私は元々オールラウンダーだし、無難にチェイサーをやるとして、シーカーは――」
「僕もチェイサーをやるよ。ハリーはシーカーしかやった事がないだろうからね」
「――となると、チェイサーが一人、ビーターが二人、キーパーが一人空いてる事になるわね。ショーン君は、どのポジションにつくの?」
「俺はキーパーだ。ウッドの代わりって事で、この夏ハリーにみっちりシゴかれたからな」
「うん。反射神経のいいショーン君にピッタリだと思うわ。それじゃあ残りはチェイサーだけど、グリフィンドールのアンジェリーナか、スリザリンのロジャーあたりかしら」
「それが鉄板かな。となると、ビーター……。ホグワーツで一番上手いビーターっていうと……」
「まあ、あの二人ね」
「あの二人か……」
「あの二人のコンビネーションは最高だけど――敵にすると最悪だ。でも今回は味方だから――最高だ、うん」
ともかく、ビーターも決まった。後はチェイサーが一人だけだ。
「アンジェリーナかロジャー……甲乙つけ難いわね。審査会でも開く? レイブンクローのキャプテンの私と、ハッフルパフのキャプテンのセドリック。グリフィンドールのキャプテンになる予定のハリーがいるんだから、人はいくらでも狩り出せるわ」
「うん、そうしようか」
簡単な模擬戦のようなものをしてもらう。その成績が優秀だった方がオールスターチームに入る。これなら後腐れ無く選手を選べる、良い案だ。
これで行こう、と意見が固まった時、ショーンが口を開いた。
「――なあ、審査会を開くんだったら、もう一人参加させても良いか?」
「いいけど……あの二人に対抗できる選手なんていた?」
「さあ? ただ……」
「ただ?」
――面白そうな事するんなら、私も混ぜなさいよ!
「約束したんだ、親友と」
◇◇◇◇◇
「練習場が使えない?」
「ええ、そうなの。試合当日は何とか融通を利かせて貰ったのだけど……練習まではって。私もマクゴナガル先生も必死で説得したんだけど、どうしても無理なんですって。本当にごめんなさい……」
「ハーマイオニー、君が謝る事じゃない」
「ショーン、でも――」
「いや、いい。俺が何とかする」
――そうは言ったものの、今回ばかりはちょっとお手上げだった。
規則で定められている為詳しくは話せないが、クィディッチ競技場は三大魔法学校対抗試合に使うらしい。
今はそのための“下地”を魔法でしている最中で、試合当日の一日だけならともかく、何日も借りる……という事は難しいそうだ。
オールスターチームとはいえ、今のところチームワークはほぼ皆無。練習しなくては話にならない。
さて、本当にどうしたものか……。ショーンはハーマイオニーと別れて、一人散歩をしながら考えた。
「ごほん、ごほん」
禁じられた森の上に輪っかを浮かして、擬似的な競技場を作るか?
意外と悪くない気がする。
ただ、森の更に上に作るため、標高が高過ぎて空気が薄くなりそうだ。
「えふん、えふん」
あるいは、湖の上ならどうだろうか。
箒の操作を誤った瞬間、巨大イカや
「おほん、おほん!」
他には――
「ちょっと、無視しないで下さいよ!」
「ああ、まだいたの」
「ずっと居ますよ! それこそ、貴方の産まれた時から!」
ロウェナは腰に手を当てて、ぶんすかと怒っていた。
「で、どうした?」
「ありますよ、クィディッチ競技場」
「それが使えないから困ってるんだろ、アホか」
「辛辣過ぎる!?」
一旦、ロウェナはシクシクと泣きながらイジケ出した。相変わらず表情豊かな死人だ。
「悪かったよ。本当は頼りにしてる。案があるんだろ? 聞かせてくれないか」
「ねえ、聞きたいですか? ねえ聞きたいですか!?」
今度は子犬のようにはしゃいでいる。頭に手刀を落とすと「うー」と涙目で頭をこすりながら、質問に答え出した。
「サラザールが遺した秘密の部屋ですが……実は! この私も、同じ様に部屋を遺していたのです!」
「「「!?」」」
他の創設者達が驚愕する中、ロウェナはこれ以上ないほどのドヤ顔で語った。
「その名も「必要の部屋」! これは本当に自信作ですよ! 床、壁、天井、扉――ありとあらゆる場所に魔法をかけました。貴方が「これが必要だ」と思った物は何でも! その部屋が提供してくれます。ええ、何でもです。例えばそう、クィディッチの競技場でも」
「――マジで?」
「マジです」
「ロウェナ、結婚しよう」
「謹んでお断りします。だって私……死んでますから」
ロウェナとショーンは笑いあった。
その後ろで、ヘルガが拳を握りしめていた。
さようなら、ロウェナ。ショーンはそっと別れを告げた。
良し、これで競技場は手に入れた。
そして最高のメンバーも。
後は……。
「久しぶりだな、相棒」
いつの間にか、ショーンは目的地にたどり着いていた。
そこはホグワーツの隅にある、寂れた物置きの前。
一年と半年ぶりに会う相棒は、早速ショーンのひたいを叩いた。
◇◇◇◇◇
ハーマイオニー・グレンジャーは、自分の情け無さを痛感していた。
自分の親友二人、彼らを仲直りさせてる為に、全力で奔走してくれている一つ下の後輩。
一方、自分は何の役に立っているだろうか?
やり方を考えたのも、メンバーを集めたのも、練習場を見つけてきたのも彼だ。
――胸の一つくらい、触らせてあげるべきかしら?
そんな馬鹿な事を考えるくらいには、ハーマイオニーは悩んでいた。
何が出来るだろうか――出来れば胸を触らせる事以外で――ハーマイオニーは考える。
考えたハーマイオニーは、とりあえず図書館に来ていた。
とりあえず図書館。
それが彼女のライフワークである。
「やあ、ハーマイオニーちゃん。悩んでるみたいだね」
「チャン先輩……」
「チョウで良いよ。イギリス人には発音し辛いでしょ?」
図書館には、羊皮紙と睨めっこするチョウ・チャンの姿があった。
話した事はなかったが、ショーンの知り合いだという事で、お互い存在を知ってはいた。
彼女は「隣、座りなよ」とハーマイオニーを誘った。
断る理由はない。
ハーマイオニーは素直に隣に座った。
チョウはちょっと微笑んだ後で、再び羊皮紙に目を落とした。羊皮紙にはびっしりと、チョウが書いたと思われる図や文字が書いてある。
「……一体何をしてらっしゃるんですか?」
「んー? クィディッチのタクティクスだよ。他はともかく、ビクトール・クラムは本当に強い。正直、ウチのビーターだけじゃ開始五分でスニッチを取られちゃう。さて、どうしたものかねえー」
良く見ると、チョウの目の下には隈が出ていた。
いつもメイクをバッチリ決めて、爪の先までスキが無いチョウらしく無い。
練習と作戦考案――チョウは、ずっと戦っているのだろう。
来る日も来る日も厳しい練習が続いていると、ショーンやハリーが言っていた。
「私にも、」
羨ましい、と。
そう思った。
肩を並べて戦えることが羨ましい。
だから、ハーマイオニーは言った。
「私にも作戦を考えさせて下さい!」
「……ん、いいよ。というより、喜んで、かな? 君の優秀さはかねがね聞いてる。実は隣に座ってって言ったのも、これを狙ってだったりするんだ」
チョウはイタズラっぽく笑った。
ああ、この人には敵わない。ハーマイオニーは強く思った。
◇◇◇◇◇
――そして試合当日。
選手達は控え室に集まっていた。
全員――選手では無いハーマイオニーも含めて――マクゴナガル先生が特注してくれた、背中にホグワーツの校章が入ったユニフォームを着ている。
「――ここ最近、練習を通じて思った事があるんだ」
静まり返る控え室の中、セドリックがポツリと呟いた。
「僕ら四寮は、正直言ってそこまで仲が良いわけじゃ無い。クィディッチトーナメントに寮杯。僕らはいつも競い合って来た。競い合うどころか、時には憎み合った事さえある。だろ?」
これには一同、即座に同意した。
「だけど、組み分け帽子は言った。敵が来たときは、ホグワーツ一丸となって立ち向かえって。ここ最近、いつも感じてたよ。ライバルとして、敵として戦ってたみんなが仲間になると、こんなに頼もしいんだって。今なら分かる。僕らはハッフルパフでも、グリフィンドールでも、スリザリンでも、レイブンクローでもない。ホグワーツなんだ!」
セドリックの言葉に、みんなが大きな声で同調した。同時に、外から雄叫びのような叫び声が聞こえて来る。どうやら、ダームストラングの選手達の入場が始まったようだ。
何だか生徒全員がセドリックの言葉に同調した様で、縁起が良い。
「にしても、スゲエ声だな」
「ダームストラング、ボーバトン、ホグワーツ。三校のほぼ全員の生徒が集まってるんじゃないのか?」
ビーターの二人が言った。
それとまったく同じタイミングで、控え室の扉が勢い良く開く。
「僕とルーナが必死にPRしたからね」
「コリン、ルーナ!?」
「ヤッホー、ショーン。それからみんなも」
入って来たのは、コリンとルーナだった。
いつの間に撮ったのか、手にはオールスターチームの写真が握られていた。写真の中のショーンが変顔している。
「次に何かやるんなら、僕も誘えって前に言っただろ。まったく、君は酷い友人だ。だから今回は、自分で参加したよ」
コリンはやれやれといった顔で、ショーンに拳を差し出した。
――ごつん!
二人の拳がぶつかり合う。「痛ぁ……」コリンは拳を抱えてその場に倒れ込んだ。
「コリン。動く魔法の写真、出来る様になったんだね」
「ポッターさん! 覚えて……覚えて、くれて――!」
コリンは何故か泣き出してしまった。
大袈裟なやつだ。ショーンは肩を竦めた。
「さて、私の素敵なボーイフレンドであるセドリックが素敵なスピーチをしてくれたわけだけど、キャプテンであるショーン君から素敵なお言葉はないのかな?」
「え? 待って、チョウとセドリックって付き合って――」
「ハリー。今は黙って」
「はい」
「――たった今ここで、一つの青春が崩れたわけだが……」
ショーンはそう前置きした。
ハリー以外は笑った。
「俺たちの青春は一つじゃない。ここ二週間ほど、四寮力を合わせて練習をした。そこにも青春があったと、俺は思う。きっと、きっと……ホグワーツ創設者達も、こんな風に笑いあっていたさ」
ショーンの言葉には、不思議な説得力があった。
選手達はお互いの顔を見て、少し笑い合った。
「――それではいよいよ、我らがホグワーツ・オールスターチームの選手紹介に移りたいと思います!」
外からリーの実況が聞こえてくる。
「時間だ……」誰ともなく呟いた。
「チームの頭脳にして紅一点! レイブンクロー寮所属、チョウ・チャン! ポジションはチェイサー!」
「あら。レディー・ファーストなんて、気が利いてるわね」
まるでチョコレートを食べに行くかの様な気軽さで、チョウはピッチへと向かっていった。
「去年度ホグワーツ・クィディッチトーナメントMVPとの呼び声も高いハンサム男! ハッフルパフ寮所属、セドリック・ディゴリー! ポジションは同じくチェイサー! ちなみに、チョウ選手のボーイフレンドでもあります」
「ショーン。君だな? 紹介文に余計な一文を足したのは」
相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべながら、セドリックはピッチへと向かっていった。
「アンジェリーナとロジャーを下し、見事にチーム入りを果たした期待のスーパー・ルーキー! グリフィンドール寮所属、ジニー・ウィーズリー! ポジションは同じくチェイサー!」
「……私もいるのに、何でチョウが「紅一点」なわけ?」
ショーンをいつもの様に睨みながら、ジニーがピッチへと向かっていった。
「やはり、この二人は同時に紹介するのがいいでしょう! グリフィンドール寮所属! フレッド・アンド・ジョージ・ウィーズリー! 二人は俺の親友だ! お前ら、頑張れよ! ポジションはビーター!」
「「その紹介じゃどっちがフレッドでどっちがジョージが分からないじゃないか」」
足並みを揃えて、フレッドとジョージはピッチへと向かっていった。
「トライ・ウィザードトーナメント、まさかのフォースチルドレン! 今ホグワーツで最も注目されている生徒と言っても過言ではないでしょう! 百年ぶりの一年生シーカー! グリフィンドール寮所属、ハリー・ポッター! ポジションはシーカー!」
「……ロンは、この試合観てるかな?」
「……もし観ておられなかったら、君は戦わないのか?」
ちょっと驚いた顔をした後、微笑みながら、ハリーはピッチへと向かっていった。
「……チョウに聞いたぜ。徹夜で作戦考えてくれたんだってな」
「ただの徹夜じゃないわ。三徹よ」
「どうりであんなクレイジーな作戦が出来るわけだ。深夜のノリって奴だな」
「今回ばっかりは認めるわ。マトモなら、あんなの思い浮かばないもの」
「違いない」
二人は静かに笑い合った。
――一瞬の後、静寂が訪れる。
「……なあハーマイオニー」
「……なあに?」
「勝ったら……もし勝ったら――」
――おっぱい触らせてくれないか?
「え? これをマジで読むの? 本人の強い要望? あー……こほん。ロナルド・ウィーズリーさんの後輩! グリフィンドール寮所属、キャプテンのショーン・ハーツ! ポジションはキーパーです!」
「台無しよ! 色々と!」
ハーマイオニーの叫び声を聞きながら、ショーンはピッチへと向かっていった。
グラウンドでは、仲間達と――そして、ビクトール・クラムが待ち構えていた。
「キャプテン同士、握手して下さい」
主審のマダム・フーチの合図で、ショーンとクラムはゆっくりと、そして驚くほど優しく握手をした。
「……そんなオンボロな箒でやるんですか?」
「ああ。相棒なんでな」
「ダームストラングでそんな箒を持ってたら、みんなに笑われます」
「かもな。でもそんな箒の奴に負けたプロ選手がいたら、一生笑われるだろうぜ」
笛が鳴り、選手達が宙に浮かんだ。
――試合開始だ。
カリスマが溢れすぎてるチョウ・チャン。
今のところリドルさんとツートップをはれるレベルのカリスマ。
これはハリーが惚れるのも納得。