グリフィンドール談話室。
ショーン、ジニー、ハーマイオニーというちょっと珍しいメンバーが集まっていた。
ショーンはなんでもないという風にソファーで新聞を読んでいる。ハーマイオニーはその横で死ぬほど不機嫌そうに本を読みながら、時折何かを羊皮紙に書き込んでいた。
一方、ジニーはというと――
「あー、もう! むかつくむかつくむかつくむかつく! むかつくぅ!」
クッションを振り回して、暴れ回っていた。
ジニーが腹を立てている理由……それは以下の通りだ。
ダームストラングからはビクトール・クラム、ボーバトンからはフラー・デラクール、ホグワーツからはセドリック・ディゴリー……先日、ついに三大魔法学校対抗試合の代表選手が選ばれた。
そこまでは良い。
問題はここからだ。
実はもう一人、代表選手に選ばれた生徒がいた。
そう――何を隠そう――ハリー・ポッターである。
彼は未成年であるにも関わらず、というかそもそも既にホグワーツからもう代表選手が出ているのに、どうしてか炎のゴブレットから名前が出て来たのだ。
そして炎のゴブレットから名前が出た以上、対抗試合に出場するほかない。
「僕は炎のゴブレットに名前を入れてない!」
ハリーはそう強く主張したが、大半の生徒は信じていなかった。それどころか、多くの生徒――特にスリザリンとハッフルパフ――が「目立ちたがり屋だ」とハリーを蔑んだのだ。
自他共に認めるハリーファンのジニーとしては、まったくもって面白くない。
ちなみに同じくハリーファンでもコリンは「誰も年齢線を越える方法を思い浮かばなかったのに、やっぱりポッターさんは凄い!」と息巻いていた。
どうやら同じハリーファンでも、ハリーがダンブルドア校長を出し抜いた派とハリーを信じる派、それぞれ派閥がある様だ。
それに、問題はもう一つある。
「ロンは、ハリーがこっそり自分でゴブレットに名前を入れたと思ってるのよ」
ハーマイオニーは熱く語った。
「勿論、ダンブルドア先生が書いた年齢線を越えることがどれほど難しい事か、懇切丁寧に説明したわ。ハリーではそれが不可能なことも。でも、知らんぷり。貴方以外の男の子って、どうしてああ意固地なの?」
「さあ? でもハーマイオニー、その辺の男の子より、正直君の方が意固地だと思うぜ」
ハーマイオニーは少し顔を赤くした。
「でも、何とか出来ないかしら? 勿論、本当は私が取り持つべきなんでしょうけど……一応、二人の親友ですから。だけど――」
「今まで友達がいなかったから、どうしていいか分からない?」
「……うん。まあ、そうね。ねえ、もう少しオブラートに包んで下さらない?」
「あー……君、シャンプー変えた?」
「変えてません」
ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「ショーン。あんた何か、上手い事考えなさいよ。ロンの馬鹿との仲はどうでもいいけど、ハリーが他の生徒から卑怯者呼ばわりされてるのは、心の底からむかつくわ」
「そんな事言われてもなあ……」
ショーンはちょっと頭をひねって考えてみた。
問題は二つ。
親友であるロンとハリーが喧嘩していること。
周りの人間がハリーを卑怯者だと蔑んでいること。
この二つの問題の根幹は、似ている様で違うところにある。
確かに、ハーマイオニーは理路整然とロンに説明したのだろうが……それじゃあダメだ。彼も本当は、頭では分かってるに違いない。ただ、心が追いついていないのだろう。
昔――行き場を無くした頃――ショーンもそういう状態になって、ヤケを起こした事がある。もしハーマイオニーに、自分が意固地じゃない理由を説明するとしたら、それを捨てる必要があったから、と言うだろう。理屈じゃない、要は心のありようの問題だ。
一方で、ハリーを卑怯者と罵っている者達の場合。
これは実際、大半の者達がお祭り気分で騒いでるだけだろう。
三大魔法対抗試合という特大のお祭り。浮き足立っている所に、ハリーの代表選手入りという燃料が投下されたのだ。燃え上がらないわけがないし、鎮火する術もないだろう。
解決するには、三大魔法学校対抗試合と同じくらい話題になる事で話題をそらすしかしかない。
サラザールに言ってもう二、三匹バジリスクを連れて来てもらって、それをハリーとロンに退治させる。
二つの問題を一遍に解決するには、このくらいしか思い浮かばなかった。
「――無理だな」
「まあ、そうよね……」
ジニーががっかりした風に言った。
きっと彼女も、噂を鎮火させようと色々やって、結局無理だったのだろう。
「さて、ショーン。何か気がつかないかしら?」
「シャンプー変えたか?」
「だから、変えてないわよ! そうじゃなくて、お勉強の時間よ。今日は魔法史と呪文ね」
「ハーマイオニー。君ってあんまりジョークを言わないけど、たまに言うときは抜群に冴えてるよな」
ハーマイオニーがにっこり笑った。
ショーンも笑った。
ジニーだって笑った。
「え、嘘だろ? だって三大魔法学校対抗試合が始まってるんだぜ?」
「授業だって始まってるわ。さあ、図書館に行きましょう」
ハーマイオニーはショーンの首根っこを掴んだ。
ショーンは上目遣いでジニーを見た。
「……なに?」
「子犬の様な顔」
「言っておくけど、全然助けたくならないわよ。むしろ若干頭にきたわ」
ロウェナとサラザールは大体これで行けるのに……やっぱり二人ともグリフィンドール生だな。ハーマイオニーに引きずられながら、ショーンはそう思った。
◇◇◇◇◇
「――ロウェナ・レイブンクローは、知恵者であったと共に、非常に冷酷な人間だったとしても知られている」
「ぶっ!」
思わずショーンは吹き出した。
「どうしたの?」
「いや、ロウェナ・レイブンクローはさぞかし冷酷だったんだろうな、と思ってね」
「? 続けるわね――例えば彼女には娘がいたとされているが、育児を放棄し、親友であったヘルガ・ハッフルパフに託したという逸話がある」
「んふっ」
「今度はなに?」
「ごめん、本当に何でもないんだ」
「……はあ。集中出来てないみたいだから、一旦休憩するわね」
「やったぜ」
ハーマイオニーとショーンは、図書館で勉強していた。
分厚い教科書の中から、テストに出そうな所をハーマイオニーが選んで、ショーンがそれをメモする。
それが終わった後は、それをひたすら暗記して、ハーマイオニーの作ったミニテストを受ける。合格点が取れるまで、それの繰り返しだ。
「……なあハーマイオニー」
「なに?」
「君、ダームストラング生にも勉強を強要してるのか?」
「してません」
ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「じゃあ、あれは何だよ?」
ショーンが目で指した先。
そこには、分厚い本を読んでいる
ハーマイオニーがそちらをチラリと見る。一瞬目が合うと、クラムは顔を赤くして目をそらした。
「もうなにも言わなくて良い。大体事情はわかった」
「そ、そう」
「相当恨まれてるみたいだな」
「何も分かってない!?」
「む。じゃあどう言う事なんだ?」
「だから彼が私の事を――」
そこまで言うと、ハーマイオニーは顔を赤くした。
それを見てショーンが意地悪く笑う。
ハーマイオニーは魔法史の教科書でショーンを叩いた。
「……」
「……」
見ている。
クラムが物凄くこっちを見ている。
もう本を読む
「君が魔法省大臣になった時のボディーガードは決まったな。あの調子じゃ、アリ一匹見逃さないぜ」
「時給が大変な事になるでしょうね。彼、ナショナルチームのエースだし」
「賭けてもいい。タダでも喜んでやると思うね。もしスニッチに後少しで届くって所でも、文字通り飛んでくるぜ」
「ファイアボルトで?」
「ファイアボルトで」
「ファイアボルトといえば、ハリーは残念だったわね」
「あー。シリウスにファイアボルトを買ってもらったんだっけ? セドリックへのリベンジ用に。でも今年はクィディッチが……な………い……」
「……ショーン?」
ショーンは顎に手を当てて、何かを考え始めた。
ハーマイオニーが心配そうに覗き込んだ瞬間、ショーンはバッと顔を上げた。
「思いついたぜ」
「何を? 私としては、魔法史の素晴らしさを希望するのだけど」
「いや、そんな下らない事じゃあない。ハリーとロナルドさんを仲直りさせつつ、学校中の生徒をハリーの味方にするたった一つの冴えたやり方さ」
「本当に!? それで、どうするの?」
「ああ、先ずは……」
「先ずは?」
ショーンは溜めてから、ゆっくりと言葉を発した。
「ハーマイオニー、君のおっぱいをこの場で揉む」
それを聞いたハーマイオニーは即座に答えた。
「分かりました。法廷で会いましょう」
「ちょ――待て、待て。いやマジで、本当にそれで全部解決するんだって」
「それじゃあ弁明を聞きましょうか、被告人」
「せめて案と言ってくれ、検察官殿」
――そしてショーンは説明した。
何故自分がハーマイオニーのおっぱいを揉むことが、ハリーとロンを仲直りさせる事になり、あまつさえ全生徒がハリーの味方をする事になるのか。じっくり、ねっとり、そして時に熱く、説明した。
「――なるほど……」
ハーマイオニーはポツリと呟いた。
認めたくないが、確かにショーンの案はハリーとロンを仲直りさせ、全生徒がハリーの味方になるたった一つの冴えたやり方だった。
「理解してくれたようだな。それじゃあ早速――」
「待って、ちょっと待って!」
ハーマイオニーは手をブンブン振った。
ショーンは手をワキワキ動かした。
「あの、ちょっとよいですか?」
二人がじゃれ合っていると、遠くからこっちを見ていたビクトール・クラムが話しかけてきた。
その瞬間、ハーマイオニーは素早くショーンと肩を組んだ。反対に、ショーンはつまらなさそうだ。
「何かしら?」
「イキナリごめんなさい。でも、どうしても聞きたいことがあったのです。お二人は、付き合ってるんですか?」
「いいえ。まあ仲は良いわ」
「あー、まあそんな感じだ」
「そうですか。付き合ってるわけではないのですね」
「ええ、付き合ってはないわね」
ハーマイオニーはそう言うと、クラムの耳に顔を近づけ、囁くように言った。
「でも、少し気になってるのよね。彼、とってもクィディッチが上手いのよ。クィディッチが上手い人って、セクシーだわ」
クラムが顔を白黒させた。
「ヴォクもクィディッチ上手です」
「ホント?」
「ホントです」
「それじゃあ――そうね、彼と試合したら勝てる?」
「勿論です。絶対に勝ちます」
「ですって。どう思う?」
「良し、望むところだ。二週間後、ホグワーツとダームストラングで試合をしようじゃないか。親善試合、という形をとれば先生方も納得するだろう。三大魔法学校対抗試合の本当の目的は、国際交流な訳だしな」
「……分かりました。その試合受けます。待ってて下さいね、ハーム・オウン・ニニー」
そう言うと、クラムはノッシノッシと歩いて図書館を出て行った。
……ショーンの考えた作戦はこうだ。
最近、ショーンとハーマイオニーはクィディッチ・ワールドカップを見に行った。その時、正直クィディッチに興味がなかった二人でさえ、クラムのプレイに惹かれ、ファンになった。会場にいた多くの人間が、きっと同じ思いを抱いた事だろう。
それと同じ事を、ハリーにやって貰えばいい。ショーンはそう考えた。
しかし今年はクィディッチ・トーナメントがない。
ではどうするか?
クィディッチ・トーナメントはないが、ビクトール・クラムはいる。ワールドカップ経験者である彼と、ただの学生であるハリーが戦えば、間違いなく生徒達の関心を集められるに違いない。ショーンはそう推測した。
問題は、どうやってクラムに試合の約束をさせるか。
そしてショーンは言った。
――ハーマイオニーのおっぱいを揉む、と。
ハーマイオニーに惹かれている彼なら、絶対にそれで釣られる。
実際にはそうなる前に、向こうの方から声をかけてきたわけだが。
「――冷静になって考えてみたら、明らかに胸を触らせる必要はないわね。今回は挑発したみたいな形になっちゃったけど、普通にお願いすればよかったわ」
「まったく、ハーマイオニーはそそっかしいな」
ハーマイオニーは再びショーンを本で叩いた。
「それで、どうするのよ」
「何が?」
「クラムと戦う約束は取り付けられたけど、ただ試合をしたんじゃ意味がないわ。勝つか、最悪でも惜敗しなくちゃならないわよ」
そう、目的はあくまで、ハリーの味方を増やすこと。
ハリーがクラムにぺしゃんこにされたのでは「やっぱりクラムすげー」という事にしかならない。
「集めるさ」
「え?」
「クラムと――ダームストラングと戦えるメンバーを、ホグワーツ中から集める」
先ずは勿論、ハリー・ポッター。
そして友人であるセドリック・ディゴリー。
その恋人であり、バイト仲間であるチョウ・チャン。
他にも色々……寮という枠を外せば、様々な選手がホグワーツにはいる。
「結成しようぜ、ホグワーツ・オールスターチーム」
ショーンは心から楽しそうに笑った。