戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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超お久しぶりです!

お仕事などが忙しく長い期間放置が続いて申し訳ございません!
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49話 賤ケ岳軍議

「お姉さま!」

「お姉ちゃん!」

 

 蘭丸たちが城門へと近付くと眞琴と市の二人が駆け寄ってきた。だが、その表情はどこか厳しかった。

 

「眞琴、市。……状況を聞こう」

 

 二人の表情に何かしらの異常を察知した久遠は、すぐさま姿勢を改めるとそう問いかけた。

 

「実は先日……」

「越前から江北に、鬼の奴らが群れを成して侵攻してきたの!」

 

 

 二人の説明を要約すると、越前の国境……賤ヶ岳方面から現れた鬼の群れが江北へと入り、周辺の村々を荒らし尽くして越前へと帰っていったということだった。しかも、眞琴たちが救援として向かった途端に方向転換し、まるで完全に統率が取れているようであった、と。

 

「上級の鬼が存在するという確たる証左。そして越前内部がその上級の鬼に仕切られ、戦略を持って動くようになったということでしょう」

「鬼が……知恵を持ったと?」

 

 蘭丸は自分が戦った相手を思い出す。確かに自らの意志を持って考え、戦っていた。もしそんな存在が増えていけば、と。

 

「わかりません。残念ながら私とて鬼の全てを識っている訳ではありませんから……」

「ですが、鬼との戦いがまた一段と難しくなるのは……間違いないでしょうね」

 

 蘭丸の言葉に静まる一同。

 

「……ここが切所、ということか。しかし鬼の力が増した以上、難しい戦いとなるであろうな……」

「違うよ、久遠も蘭ちゃんも。それは考えすぎだ」

「考えすぎ?」

 

 久遠が首を傾げる。それに力強く剣丞が頷く。

 

「鬼が強くなって大変とか、難しいとか。そうじゃないと思うんだ。鬼が強くなってどうのじゃなく……手の届く場所に、倒すべき敵を捉えたって考えようよ」

 

 剣丞の言葉に全員が息を飲む。

 

「どうせ越前に侵攻するのは確定なんだ。ちょっとだけ手強くなっただけで、でも敵はすぐ近く。……そう考えたほうが気楽じゃない?」

「……ふふ、剣丞さまらしいですね」

 

 一番目に蘭丸が剣丞の言葉に表情を和らげる。

 

「なるほど。そう考えれば、知恵が湧いてきますね」

 

 蘭丸に続いて詩乃が同意する。

 

「その鬼を操る某という輩が居ると言うのならば、この蒲生梅、ハニーのために鬼どもを蹴散らし、黒幕とやらのそっ首を刎ね飛ばしてご覧にいれますわ!」

 

 力強い梅の言葉に蘭丸隊の面々が声を上げていく。それを見た久遠もふっと一つ息を吐いて表情を緩める。

 

「確かに剣丞の言う通りかもしれん。……敵が多少強くなろうとやらねばならんのだ。……眞琴よ、ありったけの情報を詳しく教えよ」

 

 

 軍議にて、詳しい情報が再度共有される。五十の鬼で集落三つを壊滅。すでに鬼の首魁は次の手を打ってきているようだ、と。

 

「……これは、俺の推測でしかないんだけど。鬼は俺たちのことをジッと観察しているように思えるんだ」

 

 剣丞の言葉に頷く蘭丸。

 

「しかし、越前を捨て置くことは出来ません。……今も越前の民は鬼に怯え、恐怖に(おのの)いていることでしょう。弱き者たちを守るためにも……」

 

 そう口を開いたのは葵だ。

 

「この日の本を異形の者どもの好きにさせる訳にはいきません。今、越前を討たないと……っ!」

「……久遠さま」

 

 蘭丸が久遠へと視線を向ける。

 

「……変わらん」

「本当にそれでいいんだな?」

 

 剣丞が確認を取るように再度言うと久遠は頷く。そんな久遠に若干の迷いを感じた蘭丸はそっと傍へと寄る。そんな蘭丸に微笑みを向けた後、小さくうなずく。

 

「葵。眞琴。我に力を貸せ」

「この日の本から鬼を駆逐するために」

「人が異形の者に蹂躙されることのない……あるがままの日の本を取り戻すために」

 

 眞琴と葵が答える。それに満足気に頷いた久遠。

 

「……壬月!」

「はっ!」

「越前討ち入りへの準備を進めぃ!」

「御意!」

 

 久遠の言葉に続けて葵が声を上げる。

 

「悠季。歌夜。松平衆を」

「はっ!」

「御意に」

 

 歌夜と悠季が返事とともに行動を開始する。

 

「まこっちゃん!市たちも頑張ろうね!」

「もちろんだ!」

 

 気合を入れる小谷衆。

 

「共々!次の戦は異形の者との戦いである!……今宵は無礼講を差し許す。英気を養い、この日の本のために全力を尽くせ!」

 

 おぉ!と上がる雄たけびの声。

 

「……何故でしょう」

 

 ぼそりと呟く蘭丸。

 

「胸騒ぎが止まりません。……ですが、私のやることは一つ。日の本の、久遠さまの未来のために」

 

 

 ……夜。

 

「あれからどれほど経ったのだろう?何時間?それとも何十時間……?何故私が再び当世にて目覚めたのか。……巡り巡った外史は、何処へ向かっているのか……」

 

 エーリカが月を見上げながら呟く。

 

「此度もまた……鬼の世は止まらず……最早、猶予はないのかもしれぬ……」

 

 その呟きに答えるものはなく、闇に吸い込まれていった。

 

 

 次の日、久遠の号令にて出発した一同。先陣を進むのは蘭丸隊である。物見や、戦前に露払いなどの役割のためだ。

 

「蘭丸ーっ!剣丞さまぁーっ!」

 

 剣丞や蘭丸が指示を出しながら進んでいると、後方から足音とともに見知った顔が現れた。

 

「あれ、綾那?松平衆の指揮はしなくていいのか?」

 

 剣丞が驚いて声をかける。

 

「綾那が先頭に行きたいって、聞かなくて……」

 

 困った風に言う歌夜に苦笑いを浮かべる蘭丸。

 

「えへへー、行軍するなら、やっぱり先頭が一番楽しいのです」

「それじゃ、ちょっとお話でもしよっか。指示も終わったしあとは仲間に任せようと思ってたからさ」

 

 ちらっと視線を蘭丸に向ける剣丞。それにこくりと頷くと蘭丸も話に加わる。それから少しした後。

 

「綾那、歌夜。剣丞様と蘭丸のお邪魔をしてはいけませんよ」

 

 そう言って現れたのは葵だ。

 

「いやいや。全然邪魔なんかじゃないよ。久しぶりに二人と話ができて、楽しい時間を過ごさせてもらってる」

「それは重畳です」

 

 ふふっ、と柔らかく笑いながら、葵は馬を並べる。

 

「葵さまとこのようにお話をするのは久しぶりかもしれませんね」

 

 蘭丸が微笑みながら言うと同じように葵も微笑みを返す。

 

「そうね。上洛が決まってから、慌ただしい日々だったから」

 

 言葉を交わした後、一時二人の間に沈黙が流れる。

 

「……この国はこれから先、どのようになっていくのでしょうか……」

「……正直、わかりません。ですが」

 

 ちらと少し前方で綾那と楽しそうに話している剣丞を見ながら蘭丸が言う。

 

「今回の戦、剣丞さまには何か思うところがあるらしく、いつも以上に小荷駄を増やしているんです。……私としては少しそこが気になります」

「ふむ……では我々三河衆も念には念を入れておくわ」

「そうしてください。私はもしもの時は久遠さまのお傍につきます。ですから」

「えぇ。剣丞様は私たちに任せて。綾那も懐いてるようだし」

 

 

「森様!新田様!佐々様より伝令!本陣は賤ケ岳に布陣を決めたとのこと!蘭丸隊はそのまま先行して、本陣設営の準備をせよ、とのお達しです!」

「はいよー!やっとくよー。……賤ケ岳かぁ」

 

 剣丞が何やら考え込む。

 

「賤ケ岳から、ひとまずの目標である敦賀城(つるがじょう)まで、一両日の距離。そこで最後の軍議を開くのでしょう」

「いよいよということですね」

「我ら松平衆は、敦賀ではなく手筒山城(てづつやまじょう)を攻めることになりましょうが、敦賀城攻めには浅井衆も居ります。まずまず心配はございませんよ」

「そうかもしれないけど……やっぱ緊張するよ」

 

 そう言った剣丞に微笑み葵は続ける。

 

「ふふっ……ならば我ら松平衆は、一刻も早く手筒山城を落とし、剣丞さまをお助けするべく参上致しましょう」

「頼りにしてます」

「葵さま、ご武運を」

「えぇ、蘭丸も」

 

 

「軍議を始める」

 

 壬月の凛とした声が響く。決戦が近いこともあり、ほどよい緊張感が場に走る。

 

「越前に侵入した我らの最終目的地は、義景のいる一乗谷だ。しかしその一乗谷を落とすためには、各所に築かれた城を叩いておかねばならん」

 

 久遠の言葉に壬月が続ける。

 

「ひとまずの目標は、一乗谷の門番を務める敦賀城と、その出城の手筒山城の突破になります」

「攻城戦の最中、本陣は妙顕寺(みょうけんじ)に置き、手筒山城攻略は松平衆に任せる」

「御意にござります」

「織田家は柴田、丹羽の衆を中心に敦賀を攻めることとなる。母衣衆は殿の下知に従え」

「はーい!」「へーい」「ほーい」

 

 壬月の言葉に三若が答える。

 

「浅井衆も敦賀城攻めに加わっていただきたいのですが……ご異存は?」

「特にないよ。お姉さまの要請に従うつもりだ」

 

 壬月に眞琴は迷うことなく答える。

 

「ありがとうございます。……では部署は以上となる。ともども、依存はあるか?」

 

 締めようとする壬月に声を上げるのは勿論桐琴だ。

 

「おおいにあり!」

「……森の。言いたいことはわかる。……先鋒を寄越せと言うのだな?」

「わかっているなら話が早い。柴田や丹羽の軟弱者どもに敦賀城攻めの先鋒なんぞ務まるはずもなかろうが」

「さすが母!やっぱ先鋒はオレら森一家の出番だもんなー!」

 

 小夜叉も賛同する。

 

「まぁ確かにな。織田衆一の強さを誇る森一家には、まさにうってつけではあるが……だがな、森の」

「なんじゃ?」

「森一家こそ、我ら織田衆の切り札だ。その切り札を前菜である敦賀城の攻略如きで使っていては主菜である一乗谷を堪能することは出来んであろう?」

「……ふむ、一理あるな」

 

 壬月の言葉に納得したように桐琴が答える。

 

「一乗谷への一番乗りは森一家に任せよう。その代わり敦賀城については、我らに任せておけ。……どうだ?」

「……壬月よ。口が上手くなったものだ」

 

 ニヤリと口角を上げて桐琴が言う。それに平然と壬月は答える。

 

「事実を言ったまでだが。……で、どうする?」

「良いだろう。その案、乗ってやろう!」

「うむ。ならば森一家は蘭丸隊の護衛を頼む」

「応よ。お蘭、孺子!大船に乗ったつもりでいろや!」

「はい!母さまと一緒は久々ですね!」

「はは、心強いよ。よろしく桐琴さん。それに小夜叉もよろしくな」

「へへっ、しゃーねーなぁ。剣丞はこのオレ様が守ってやらぁ!」

 

 剣丞と仲良く会話をする小夜叉を見て蘭丸はさらに嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「ではこれで部署はすべて決まったな。……殿」

 

 そこまで沈黙を続けていた一葉が待ったをかける。

 

「待て、鬼柴田よ。余らはどうするのだ?まさか後ろで戦見物をしてろとでも?」

「前へ出るには人数が足らんではないか」

 

 壬月では返しづらいと思ったのか、久遠が口を出す。

 

「足利衆は総勢、百に満たない数。八咫烏隊が居るため、火力はそこそこありますが、その陣容で公方さまを前に出す訳には参りません」

「ははは、一葉。言われておるぞ」

 

 信綱が笑いながら言う。

 

「いや、お前も同じなのだぞ。……ならば蘭丸隊と合流すれば人数は足りるぞ!」

「……で、蘭丸隊にも前に出ろっていうつもり?」

 

 剣丞が苦笑いで尋ねる。

 

「うむ♪」

 

 満面の笑みで頷く一葉。

 

「却下」

「なぜだーっ!?」

「うちは敵と正面衝突できるほど、武闘派揃いって訳じゃない。どっちかっていうと搦め手専門の部隊なんだから、後方に居たほうがいいんだよ」

 

 剣丞の正論に言い返せない一葉。

 

「そこはほれ。余のお家流でドカンと一発……」

「却下だってば」

 

 ごねる一葉をなだめる剣丞に蘭丸が助け舟を出す。

 

「一葉さまは私にとっても、日の本にとってもとても大切な方です。今のこの国の状況に責任を感じ、なんとかしようとする気高い心は私にもしっかりと伝わってきました。ですが、一人でできることには限界が御座います。ですから、今は皆の力を信じてほしいと私は思います。……駄目ですか?」

 

 少し上目遣いに蘭丸に言われた一葉はうっ、と言葉に詰まる。

 

「……蘭丸がそこまで言うのであれば、仕方がない。料簡(りょうけん)してやろうではないか」

「やれやれ。蘭丸どのに心を言い当てられて嬉しかったくせに、素直ではありませんなぁ」

「……ふんっ。そんなことはないぞ。多分な!」

「ははは!相変わらず面白いな、一葉は。私としては別に鬼を斬りたいわけではないから別に構わん。久遠よ、私の力が必要なら声をかけろ」

「うむ。その時は頼む」

「で、織田殿よ。私はどうすれば良い?」

 

 次に声を上げたのは白百合だ。

 

「……貴様はどうしたい?」

「上方の武士は腰が砕けているのが常。……正直、鬼と正面から戦うのは避けたいところであるな」

「そして我らが弱ったところを見計らって、裏切って見せるのか?」

 

 そう言ってにやりと笑う久遠に高笑いを上げる白百合。

 

「くははっ!当然である。主に力無くば取って代わる。それこそが下克上の妙味であろう?」

「ほざきおる」

「しかし、日の本の未来に眼を転じてみれば、この危機を乗り越えられる英雄は日の本広しといえどごく僅か。織田殿の他には、甲斐の武田、三河松平のみ……というのが我の見立てだ。今はおとなしく臣従しておこう」

「事々に理屈が多いの、貴様は」

 

 嫌そうに一葉が言う。

 

「理と利こそが乱世を生き抜く基準であろう?……それでどこにおれば良い?」

「中軍で壬月たちを助けよ。……怖くなったら逃げても構わんぞ」

「ふっ。分かった」

「金柑!」

「はっ……」

「森が力の切り札とすれば、知の切り札は貴様だ。……本陣に属し、戦況を分析せい」

「御意。……」

 

 どこか、いつもと違う雰囲気のエーリカに蘭丸は少し目を細める。

 

「ではこれにて軍議を終了する」

「共々!この一戦こそ、日の本の未来を占う一戦となろう!命を惜しむな!名を惜しみ、思う存分武功を上げよ!」

 

 久遠の言葉に力強く応と答える一同。

 

 

 運命の決戦は目の前まで来ていた。




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