戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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仕事が忙しく更新頻度が激低下してますので本編を早めに進めていきます!


金ヶ崎の退口
48話 小谷への道


 二条館を襲った、鬼と化した三好衆との戦いから幾日かが経過した。戦いの傷も癒え、英気もそれなりに養えたと判断した久遠は、小谷、そして越前侵攻の下知を下した。

 

「上洛し、足利公方との合流も果たした!次は鬼に支配されし越前の解放に向かう!各々、存分に手柄を立てよ!」

 

 足利公方……一葉を味方に引き込んだということは、大きな大義名分を掲げることができるということだ。それはすなわち今後の動きへの大きな足がかりでもある。

 

 久遠の宣言を受け、一行は近江路を小谷に向けて進発した。

 

 

「あわわ……本当にいいんですか、蘭丸さん!?」

 

 先日の戦いにおける勲功一番と言われた蘭丸隊は、進軍の先頭に立つという名誉を受けて織田・松平連合軍の一番前を行軍しているのだ。それに動揺しているのはひよ子だ。

 

「ふふ、大丈夫ですよ。実際に私たちの活躍が認められたのですから、ひよも自信を持っていいんですよ」

「あはは……ひよが緊張しちゃう気持ち少しは分かるけどね」

 

 蘭丸、剣丞はそういうと後ろを振り返る。ずらっとはるか遠方までひしめく兵たちの姿が見えて誇らしい気分になるが、同時にひよ子の言う緊張も感じる。

 

「蘭丸さま、もうすぐ小谷が見える今浜に到着します。ですが……」

 

 新介が馬を寄せ、蘭丸に報告するが少し訝しげな様子だ。

 

「何か気になることでも?」

「いえ、それが……」

「新介ー!あ、蘭丸さま!えっと、前方に織田木瓜(おだもっこう)の旗が見えるんですよ!」

「旗が……?」

 

 小平太の言葉を聞いて、蘭丸たちも視線を前方に向ける。

 

「……本当ですね」

「えっ!?何も見えないんだけど!」

「あはは、剣丞さま目が悪いんですねぇ」

「えぇっ!?これでも一般人の中では、それなりにいいほうなんだけど」

「ふふ、剣丞さま、前方の曲がり道のところに植えられた松の下辺りですよ」

 

 蘭丸が微笑みながらそう剣丞に伝える。

 

「うーん……あ、あれか。よく見えるね」

「ですが、あれは……」

 

 蘭丸も不思議そうな表情を浮かべ、何かに気づきはっとする。

 

「っ!剣丞さま!すぐに久遠さまに伝達を!結菜さまがいらっしゃいます!」

「えぇっ!?」

 

 

「久しぶりね、蘭ちゃん。元気にしてた?」

「結菜さまっ!?どうしてこんなところに……」

「久遠に呼ばれたのよ。兵と小荷駄を率いて、今浜で待っていろってね」

「久遠さまに……?私は何も伺っていないのですが……」

「ふふ、きっと蘭ちゃんを驚かせようと思ったんでしょうね」

 

 そう言って、結菜は懐を探り一通の書状を取り出した。

 

「……確かに久遠さまの花押(かおう)も押されてますね。それに久遠さまの字。……ですが、どうして久遠さまは今結菜さまをお呼びになったのでしょう?」

 

 朝倉との決戦が近いときに……そう思った蘭丸だったが、まさかという考えに行き着く。

 

「たぶん今蘭ちゃんが考えていることであってると思うわ。……戦のために私を呼んだんでしょ」

「えぇっ!?結菜さまが、ですかっ!?」

 

 驚く新介。

 

「……結菜さまのお強さは私も知っています。ですが、私は反対です!結菜さまにそんな危険なこと、させられませんっ!」

「ちょっと蘭ちゃん、何処行くの?」

「久遠さまに直接お話をさせていただきます」

「待ちなさい、蘭ちゃん」

 

 結菜の言葉と同時に蘭丸の周囲に気が充満する。

 

「なっ、結菜さまっ!?」

雷閃胡蝶(らいせんこちょう)!!」

 

 気が蝶の形と為り、それが雷となって爆発する。

 

「どう?私の腕、なまってるかしら?」

「……いえ。ですが、結菜さまも私の大切な方です。危険な場所にお連れしたくないという蘭の気持ちは分かってください」

 

 しぶしぶといった形で認める蘭丸を笑顔で抱きしめる結菜。

 

「ありがと、蘭ちゃん。でも、私だって蘭ちゃんと一緒にいたいんだからね?」

「……は、はい」

 

 

 結菜が満足して蘭丸を開放した後。

 

「そういえば、蘭ちゃん。今嫁は何人くらいいるのかしら?」

「えっ!?」

「蘭ちゃんの嫁か。……久遠が第一夫人……正室、だっけ?で、一葉が第二夫人だっけ」

「剣丞さまっ!?お二人目は結菜さまですっ!」

「はぁ、剣丞そういうところ直さないともてないわよ。で?」

「三番目が一葉さま……足利義輝さまで、次いで足利義秋さま……双葉ですね。正式に決まっているのは以上です」

「ふぅん……で、他の子たちは?」

 

 そう言って蘭丸隊の面々を見渡す結菜。

 

「はは……蘭ちゃん頑張って」

 

 剣丞はそういうとすすーっと離れていく。

 

「ちょ、剣丞さまっ!?……こほん、ですが私の今の立場でそういうことを決めてしまってもいいのか分かりませんし……」

「別に構わんぞ」

「久遠!」

 

 そう言って現れたのは久遠だ。

 

「久しいな、結菜。息災であったか?」

「お蔭様でね。久遠はどう?ちゃんとご飯食べてた?ちゃんと寝れてた?……あ。あなたちょっと痩せちゃってるじゃない!ご飯食べられてないんでしょ!」

 

 矢継ぎ早に言葉を繋いだ結菜が、久遠の身体を抱きしめてあちこち触る。

 

「こ、こら!そんなこと、今はどうだっていい!」

「よくないです!(よくないわ!)」

 

 久遠の言葉に蘭丸と結菜が同じ答えを返す。

 

「久遠さまはご自身のお身体を大事にしなさすぎです!私がついていないときなど食事を取られてなかったのですか!?ご飯を食べ、しっかりと睡眠をとって。休息を取っておかないと駄目ではありませんか!」

「蘭ちゃんの言うとおりよ!あなたはもうちょっと自分自身を大切にしなくちゃダメ!」

 

 二人がかりで叱られてたじたじの久遠。

 

「で、話を戻すけど」

「うむ。もしお蘭のために。日の本のために鬼と戦うというのなら、誰にでもその資格はある」

「いいのね?」

「……あぁ。我は既に納得している。お蘭」

「久遠さまがお決めになられたことです。私も心は決めております」

 

 その言葉を聞いた蘭丸隊の面々。

 

「ふむ、ならば私は手を挙げましょう」

 

 挙手の姿勢で詩乃が進み出る。

 

「私も!私も手を挙げちゃいます!」

「わ、私だって!」

「ボクたちもだよね、新介!」

「も、勿論!」

「ハニーの嫁はこの私と決まっておりますわぁ!」

 

 わいわいと盛り上がる蘭丸隊の面々と少し驚いた様子の蘭丸。

 

「……ちょっと待って久遠。これはちゃんと奥を取り仕切らないとマズイことになるわよ」

「反対はせんのか?」

「久遠が考えてること、よく分かるもの。それが最良の一手だってこともよーく理解してる。私たちの中での得心がいってるのも分かるけど、それとこれとは別問題。奥の乱れは家中の乱れに繋がるんだから、しっかり宰領しておかないと」

「うむ、だから結菜を呼んだのだ」

「こ、このために呼びつけたの!?はぁ、もう仕方ないわね」

 

 全く!と怒りながらも少し嬉しそうな結菜である。

 

 

「皆が愛妾、ですか」

「蘭丸さま、お嫌……ですか?」

 

 詩乃が少し不安そうにそう尋ねてくる。

 

「いいえ。詩乃も皆も、私のことを支えてくれる仲間だと思っていますし、可愛い子たちだと思っていますよ」

 

 蘭丸に可愛いといわれ、頬を染める蘭丸隊(剣丞除く)。

 

「……そうですね、私もしっかりと覚悟を決めないと。詩乃、私にとって最も大切なのは久遠さまです」

「存じ上げております。私たちもそれは分かった上で蘭丸さまと添い遂げたいと思っているのですよ」

「ありがとう、詩乃。私は皆に会えてとても幸せですよ」

「私たちだって!蘭丸さんと出会えて、触れ合えて……すっごく幸せです!」

「そうです!蘭丸さんは私たちのことを幸せにしてくれてるんです!だから、あの……」

「ほら、新介も!」

「ら、蘭丸さま!ずっとお慕いしておりましたっ!!」

「ですから、私たち愛妾のことも正室、側室の皆様と同じくらいしっかりと可愛がってください」

「約束ですわよ、ハニー?」

 

 

 蘭丸隊での会話が終わった後、越前の話へと変わる。

 

「久遠さま、越前の件ですが」

「……うむ。眞琴からの書状によると何度か越前に向けて草を放っているらしいのだが……」

「帰ってきていないの?」

「誰一人、な」

 

 久遠の言葉に思案する詩乃。

 

「なるほど。……なかなかの難国のようですね」

「しかし情報は戦において大きな武器となりますわ。何とかして情報を手に入れないとなりませんわね」

「そうだなぁ……久遠」

「ダメだ」

 

 剣丞が何かを言おうとしたのを久遠が遮るように否定する。

 

「……まだ何も言ってないんだけど」

「剣丞さま、どうせご自身で見に行くなどとおっしゃるつもりだったんでしょう?」

「う」

「剣丞さまのお立場はとても大切なものだと何度お話すれば……」

 

 蘭丸から叱られている剣丞を見て苦笑いの一同。

 

「剣丞さまが動けないのでしたら、姫路衆から物見を出しましょうか?」

「いや、余計な被害を出したくはない」

 

 雫の提案に久遠は首を横に振る。

 

「では、自分が行きましょう」

「ダメだ。小波一人じゃ危険すぎる」

 

 蘭丸に叱られていた剣丞が小波をとめる。

 

「し、しかしこれが自分の仕事でもありますから……」

「確かに小波の仕事ですが、今回ばかりは危険すぎます。剣丞さまのおっしゃるとおり、今の状況では一人で行かせられません」

「この身をそこまで……分かりました」

「はーい。考えるのはここまでにしましょう。今は早く眞琴たちと合流するべきよ」

「うむ。では蘭丸隊、先導を頼むぞ」

「はいっ!」

 

 

 小谷城の全景が見えてきた頃、陣は組んでいないものの浅井の御旗である三つ盛亀甲が見えた。

 

「あのような場所に出てきているとは……久遠さま、何かあったと見るべきでしょうか?」

「うむ、合流してみねば分からぬが可能性はあるな。お蘭」

「はっ、ひよ、ころ。先触れを」

「「了解!!」」


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