戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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もう一つの作品が本編完結しましたので、こちらをメインで書いていきます!
お待ちの方(?)はお待たせしました!


5話 ひよ子の友、転子

 蘭丸の言葉に絶句した剣丞をはじめとした蘭丸隊の面々。そんな四人の様子を苦笑いで見る。

 

「もしかして、剣丞さまたちも私のことを女童と思っていたのですか?」

「あー……はい、何かごめん」

 

 剣丞がぺこりと頭を下げる。

 

「ふふ、初めてではありませんので別に構いませんよ。それに、久遠さまのお傍に仕えることになった切欠のひとつでもありますので、私にとっては自慢のようなものです」

「あ、あの、蘭丸さまは本当に男、なんですか?」

 

 新介が恐る恐るたずねる。

 

「えぇ。嘘をついても私に何の利もありません」

 

 剣丞はそう言う蘭丸を見る。確かに男性風な服装ではあるが、小柄な身長、体型もどう見ても女の子にしか見えない。……確かに胸は全くないが。

 

「どこをみてるんですか」

 

 そう言って自分の身体を抱きしめるように隠す蘭丸の姿は誰がどう見ようと女性の仕草だろう。

 

「蘭丸さまが男……」

「どうしたんだよ、新介?」

「女同士でも……と思っていたけど蘭丸さまの美しさで男……!」

 

 なにやらぶつぶつと独り言を言う新介を見た小平太は寒気を覚える。……長い付き合いだが、こんな感じを受けたのは初めてだ。

 

「まぁ、私のことは好きに呼んでください。それで、隊のことですが基本的に剣丞さまには私の代わりに代表として行動していただくことがあります。評定などでは私は久遠さまより意見を伺われない限り、発言することはありませんので隊の意思決定は剣丞さまに一任致します」

「え、蘭ちゃん……あー」

「構いません、続けてください」

「うん、蘭ちゃんがそれでいいのであれば俺はかまわないけど……ひよを連れて行ってもいいかな?」

「評定に、ですか?」

 

 本来、評定にあがるのは御目見得以上の身分である。この場にいる中では小姓である蘭丸や立場上、隊の長代理である剣丞、元々御目見得以上である新介や小平太ならば可能であるが、ひよ子には御目見得以上ではないため本来であれば評定にあがるのは不可能だ。

 

「うん。駄目なの?」

「わ、私は御目見得の身分じゃありませんので!」

「……いえ、分かりました。久遠さまには私のほうからお願いしています」

 

 

「ほう?猿を評定に、か?」

「はい。御目見得の身分ではないのは存じておりますが、剣丞さまはまだ天より降りたばかりで世情には疎く、常識もまた不足しているご様子。私は小姓として参加させていただきたいので、剣丞さまを補佐する者としてひよ……藤吉郎を上げたく」

 

 蘭丸の言葉に頷く久遠。

 

「それに、久遠さまが以前仰っていた身分を越えた意見を集めることが出来る場として評定を使っていく……その第一歩にもなるかと思われます」

「ふむ……流石はお蘭。我を納得させる材料をしっかりと提示するな」

 

 嬉しそうに蘭丸を褒めながら優しく微笑む久遠。

 

「よかろう、我が許す。お蘭は我と共に来い」

「はっ!」

 

 

「まずは状況を整理する。五郎左、言え」

「はっ。……先ほど、墨俣の地に出城を築くべく、現地に出向いていた佐久間様の部隊が壊滅し、敗走してくるという早馬が到着しました」

「ふむ、築城するのはかなりの困難が予想されていたが……」

「はい。まさかこれほどまでに早く、佐久間様の部隊が壊滅するとは……」

 

 ざわつく評定の間。剣丞は何かを思い出したかのように頤に手を当て考えながらちらと蘭丸を見る。他の者たちと違い、特に動揺した様子を見せずに静かに瞑目している。

 

「ひよ、佐久間様って凄いの?」

「凄いなんてものじゃないですよ!森家当主の森可成様と同じく古くから織田に仕えておられる方で、殿を多く務めておられたことで退き佐久間と呼ばれているんですよ!」

「へぇ~……」

 

 ひよ子からの説明を受けて再度考え込む剣丞。

 

「困難なことは分かる。しかし、美濃攻略のためには、是が非でも墨俣に城を築かねばならん」

「しかし殿……」

 

 壬月が久遠へ苦言を呈しようとするが。

 

「言うな。……蝮から託された美濃を、いつまでもあのうつけの龍興に任せておくなど許せんことなのだ」

「佐久間のおばちゃんが失敗したってのは良いけどさー。じゃあ次は誰がやるんだろ?」

 

 犬子が疑問を呈する。それはそうだろう、家臣団の中では森、柴田、丹羽と並ぶ家臣である佐久間が失敗した後を……というのはかなりの重圧だろう。

 

「雛は築城とか、あんまり得意じゃないから無理ー」

「築城、となれば麦穂さまの出番だけどなぁ」

 

 攻めであれば森と柴田、守りの丹羽、退きの佐久間。本来であれば麦穂が適任ではあるのだが。

 

「いや、麦穂は出せん。未だ膠着状態にある今川や小うるさい長島にも備えんとならんからな」

「ですよねぇ。じゃあ他に誰が?」

「和奏がやれば?」

「ボクが出来る訳ないだろー!」

 

 犬子の言葉に和奏が即否定する。

 

「あー……あのさ。ちょっといい?」

「どうした、剣丞。何か意見があるのか?」

 

 恐る恐る手を上げた剣丞に久遠がたずねる。

 

「意見っつーかなんつーか。……その墨俣の城、俺が……俺たちがやってみようか?」

「……ほぅ?」

「阿呆。素人が何をぬかす。貴様が考えているよりも、遥かに困難な任務なのだぞ?」

 

 壬月が少し呆れ顔で言う。それはそうだろう、築城というのは一日二日の知識で出来るものではないし、刻一刻と変化する状況に適応していかなくてはいけない。

 

「……お蘭よ、意見を聞かせろ」

「はっ。……剣丞さまのお考えは分かりませぬが……浅学非才の身ではありますが、私も築城の心得は御座います。他に手を挙げられる方がいらっしゃらないのであれば、久遠さまの為に蘭は墨俣の城を建てられるよう全力を尽くさせて頂きます」

 

 蘭丸の言葉に満足そうに頷く久遠。

 

「デアルカ。ならばお蘭、剣丞よ。見事、墨俣の地に城を築け」

「はっ」

「了解。頑張るよ」

 

 

 評定の場を出た蘭丸と剣丞、ひよ子は早速城下町へと出て軽い打ち合わせを始める。

 

「それで、剣丞さまのご意見から伺いましょうか」

「うん、えっと。ひよに質問なんだけど、墨俣周辺の地理に詳しい知り合いとかいるんじゃない?」

 

 剣丞の言葉にひよ子はう~んと考え込む。

 

「あ!一人います、幼なじみなんですけど」

「名前はなんていうの?」

「蜂須賀小六正勝。通称は転子っていいます。野武士を率いて尾張と美濃の小競り合いに横入りして、陣稼ぎをしている子です」

 

 ひよ子の言葉に剣丞が納得したかのように頷く。

 

「よし……んじゃ、その子に協力を要請……していいかな?」

 

 そこまで言って剣丞は蘭丸にたずねる。

 

「そう、ですね。まずは私も会ってみて、話をしてみないことにはなんとも。ひよの友であれば無条件で認めたい気持ちもあるのですが、今回は一つの失敗も出来ませんので」

「だね。っていうわけだから、一応要請する方向でいいかな?」

「構いません。どちらにせよ、人では必要になると思うので。……剣丞さま、織田の兵を使わない方向で進める、ということでよろしいですね?」

 

 蘭丸の言葉に剣丞は少し驚いた表情を浮かべる。

 

「よく分かったね」

「いえ、久遠さまが多くの草を美濃に放っておりますので、それはお互いであろうと」

「はは……蘭ちゃんなら見つけて始末してしまいそうだけど」

「……あまりに久遠さまに近づきすぎなければ始末はしません。逆に警戒をさせてしまいますので」

 

 蘭丸の言葉に、あ、やっぱり始末するのね……と呟きながら剣丞はひよ子に向き直る。

 

「あれ、どうしたのひよ?」

「いえ、どうして剣丞さまは私ところちゃんが知り合いだって知ってたんです?」

「ふふ、それは内緒」

 

 剣丞の言葉に首を傾げる蘭丸とひよ子であった。

 

 

 転子のところへと向かっている最中、少し前方で楽しそうに会話をしている剣丞とひよ子を見ながら蘭丸は考える。

 

「……剣丞さまは何かを知っている……?それが天の知識で、久遠さまが欲した力……?」

 

 底が見えない。初めて現れたときの出現もそうだが、壬月の一撃を避けたり今回のように何故知っているか分からないような知識など……あらゆる事柄に満遍なく知識があるところが不思議でならない。

 

「今のところは大丈夫ですが、何かあれば……」

 

 心の中で再度覚悟を決めなおした蘭丸はひよ子の友人である転子の元へと到着するのであった。

 

 

「ふぅ~……」

 

 薪割りをしていた少女がため息をつきながら薪の数を指折り数える。

 

「はぁ、最近稼ぎが悪いから薪も残り少ないなぁ……戦がないから稼ぎも悪いし……。やっぱりどこかに仕官しないとマズイかなぁ。でも堅苦しいのはいやだし……」

「ころちゃーーーーん!!」

 

 手を振りながら駆け寄ってくるひよ子を見て驚きの表情を浮かべるころちゃんと呼ばれた少女。どうやら彼女がひよ子の幼なじみである蜂須賀小六正勝であるらしい。

 

「ひよ!?うわーっ、久しぶりー!」

「えへへー!調子はどう?風邪とか引いてない?」

 

 喜びながら手を取り合う二人を蘭丸は微笑ましく見ている。少し前にいる剣丞も同じような反応だ。

 

「大丈夫!健康そのもの、何だけどねぇ」

「ほぇ?元気ないねぇ。どうしたの?」

 

 ひよ子の言葉にはぁとため息をつき。

 

「最近、稼ぎが少なくて……はぁ、織田も斉藤も、もっと派手に戦してくれれば良いのに」

「あはは……」

 

 とり方によっては不敬ともとられる言葉ではあるが、野武士としては当たり前の考えだろう。ちらっと剣丞が蘭丸を見たのは、その言葉で気分を害していないかを確認したのだろうか。

 

「それで、ひよは今何してるの?」

「今は清洲の織田さまにお仕えしてるの!昔、言ってた夢……武士になって功を立てて、おっかあたちを養うって夢が少しだけ実現できたんだよ!」

「そうなのっ!?すごいじゃん!」

「へへー……♪」

 

 嬉しそうに笑うひよ子に転子が微笑みかけた後、視線を蘭丸と剣丞へと移す。

 

「で、そちらの方々は同僚さん?」

「違うよ!あのね、こちらは私のお頭で、織田上総介さまの小姓……ううん、懐刀として有名な森成利さまと、田楽狭間に現れた天人の新田剣丞さまだよ!」

 

 ひよ子の言葉に蘭丸たちを見ていた転子の表情が固まる。

 

「……え?」

「あれ、聞こえなかった?」

「えーーーーっ!?」

 

 近くにいたひよ子がビクリと身体を跳ねさせるほどの大音量で転子が叫ぶ。

 

「うわっ!びっくりしたぁ!」

「びびび、びっくりしたのはこっちだよ、ひよ!?」

 

 そう言って地面に跪こうとする転子。

 

「ちょ、いや別にそんなことしなくて良いよ!?」

「し、しかし……!」

 

 剣丞の言葉に転子は困ったような表情を蘭丸に向ける。

 

「私も構いませんよ。ひよの友ということですし、私のことは通称である蘭丸で呼んでください」

「うん、俺も同じだよ。ただひよの上司で蘭ちゃんの代理を務めるってだけだし……」

「は、はぁ……」

「えへへ。蘭丸さんも剣丞さまもすっごくお優しい方なんだよ!」

「や、優しいというか……変わってるように感じるんだけど……って!!」

 

 剣丞を見て驚愕する。

 

「で、田楽狭間で織田に勝利をもたらすため、天が織田に贈ったと言われる、田楽狭間の天人!ご無礼致しました!私、この辺りを仕切っている、蜂須賀小六転子正勝と申します!」

 

 まくし立てるように転子が言うのを見て剣丞が慌てる。それを見て蘭丸がクスクスと笑う。

 

「ちょ、ちょっと蘭ちゃん!?笑ってるんじゃなくて止めるのを手伝って!!」

「ふふ、はい」

 

 

 なんとか転子を宥め、落ち着かせた一同は墨俣の築城に関して協力を仰ぐことにする。

 

「手伝う、ですか?」

「そう。これから墨俣に城を築くことになったんだけど……その手伝いをして欲しくてね」

 

 剣丞の言葉に転子の目がきらりと光る。

 

「……なるほど。野武士を纏めている私の力が必要、そういうことですね」

「流石は川並衆のまとめ役。戦略上重要な土地はしっかりと調べがついているようですね」

 

 蘭丸が満足そうに頷く。これならば協力を仰いでも大丈夫と安心したのだろう。

 

「お待ちを。ここで立ち話をするような案件ではありません。荒ら屋ではございますが、どうぞ中へ……」

 

 四人は家の中へと入っていく。

 

「さて、二人は大丈夫かしら……」

 

 家に入る寸前に蘭丸は背後……遠方にあるであろう墨俣方面へと視線を向ける。蘭丸の指示を受けて、既に下調べを始めている新介と小平太の無事を願いながら……。




ぎりぎり一週間以内に更新できました!計画通り(ぉぃ

こちらの作品では新介や小平太などをはじめ、原作で陰の薄かった子たちも
どんどんだしていきたいです!

もう一作品では松平中心だったので、違った楽しみ方が出来るように頑張ります!

感想、お気に入りなどお待ちしております!

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