戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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非常に長らくお待たせしました!
結構間は開きましたが失踪はしてません!


43話 二条館防衛準備

「蘭丸さん!蘭丸隊出陣準備完了しましたよ!」

 

 久遠の元から少し頬を染めて帰ってきた蘭丸に、ひよ子がそう報告する。

 

「あれ、蘭丸さん、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。……それで、陣容はどうなっています?」

 

 ひよ子に軽く微笑みかけて視線を仲間たちに向ける。

 

「連れてきた蘭丸隊のうち、半分の百名と明智衆からの寄騎、鎧を外し、軽装にて待機しております」

「そのうち、鉄砲隊は五十ほどで、明智衆鉄砲隊の寄騎を入れて、合計で六十人となりますわ」

「他に長柄が三十、荷駄が十、工作組が十となります。荷駄はご命令通り、ほぼ玉薬となりますが……本当に良いんでしょうか?」

 

 詩乃、梅、転子の順にそう報告してくるのを聞いて、最後に質問を混ぜた転子の言葉に頷く。

 

「えぇ、それで大丈夫ですよ。二条館にも食料はあるでしょうし……それにあの幽さんがお金がない程度でその辺りをぬかっているとは考えられないですから」

 

 そんな蘭丸の言葉に幽のことを知っている者は納得したように頷く。

 

「それに、少数での防衛戦になるでしょうから、食料以上に火力が重要になります。そういう意味でも鉄砲隊という選択が一番であろうと判断しました。……剣丞さまもその意見に賛同しています」

 

 蘭丸の言葉に頷いた剣丞が全員を見て。

 

「だからまぁ……お腹が空いたら我慢ってことで。ご飯ってのも士気を上げる最強アイテムのひとつなんだろうけど」

「へぅ~……頑張りますぅ」

「では、今回の差配を剣丞さまに」

「わかった。……今回、長柄組はころ、鉄砲隊は梅に指揮を頼もうと思う。二人ともやれるかい?」

「お任せあれ!」

「これはハニーの期待に応える好機ですわね!勿論、喜んでお受けしますわ!」

 

 力強く応える転子と、何故か剣丞ではなく蘭丸に熱い視線を送りながらいう梅。そんな梅の様子に全員が苦笑いを浮かべる。

 

「はは、頑張り過ぎないようにね?……明智衆の指揮はエーリカに任せるとして。後は小波、先行して手薄な道を見つけておいてくれ」

「承知」

 

 そう応えた小波。ちらっと蘭丸と視線を交わし蘭丸が微笑んで頷くのを見、そのまま姿を消す。

 

「よし、これで何とかなりそうかな。……じゃあみんな準備は良い?」

 

 剣丞の言葉に応えるひよ子と転子、静かに頷く詩乃。皆、心なしか声が震えているのに蘭丸は気づく。それは、声をかけた剣丞もそうだ。

 今から向かうのは敵の真っ只中。これまでにもそういった経験のある蘭丸でない以上、仕方のないことなのかもしれない。

 敵は三千人の三好兵。その真っ只中に潜入し、その標的でもある二条館を防衛する。しかもこちらは寡勢という状況だ。

 

「不安ですか?」

 

 やさしく微笑んだ蘭丸が全員に声をかける。

 

「ですが、この任務をやり遂げることができれば、未来が見えてきます。久遠さまの未来も近づきます。勿論危険ですが……皆で頑張りましょう」

 

 蘭丸の言葉が届いたのだろうか、全員ただ黙って、しかし力強く頷く。

 

「出陣します!」

 

 

「蘭丸さま。ただいま小波が句伝無量(くでんむりょう)にて、潜入路を確保できたとの報告がありました」

 

 詩乃が蘭丸にそう声をかける。

 

「わかりました。道順はわかりますか?」

「小波が先導してくれるそうです」

「そっか。なら安心だ。かなりキツイ行軍になるけど、二条館まで一気に駆け抜けよう!」

 

 剣丞の声に応える応、という声。洛外に待機していた蘭丸たちは、小波の連絡を受けて隠れていた場所から飛び出した。

 そのまま小波の先導を頼りに蘭丸隊は一塊となって京の町を駆け抜ける。途中で三好衆に遭遇することもせずに二条館に到着した。

 

 

 先導した小波は、周囲を探ってくると言い残してそのまま再び夜の町へと消えていった。

 

「ふふ、まだ私たちに馴染んではくれていないみたいですね」

「はぁ、ちょっと悲しいな」

 

 苦笑いをする蘭丸に剣丞もそういう。そんな話をしながら進んだ先に二条館の門が見えてくる。そこにはすでに一人の女性が待ち構えていた。

 

「蘭丸どの、剣丞どの!良くぞお越しくださいましたな!」

「幽さんお久しぶりです。お元気でしたか?」

「はは、久しぶり」

「三好衆の動きを自ら偵察しに行くぐらいには、そこそこ元気でしたな」

 

 さらりとそんなことをのたまう幽。

 

「ふふ、そのように危険なことは、あまりしないほうがいいと思いますが。幕府の柱石が動いては……」

「それがしぐらいしか、大物見ができるものがおりませんからなー。致し方なし」

「……言っていいのかわからないけど、本当に人材不足なんだな」

 

 蘭丸の言葉にそう返した幽に苦笑いで剣丞が言う。

 

「ははは、否定はしませぬよ。……それはそうと、良い時機でのお越し。よくぞ無事に来られましたな」

「そうだなー。前に来たときよりも俺たちを助けてくれる仲間も増えたしね」

「ふむふむ。着実に力をお付けなさっているようで。さすが人蕩しのお二人、と申し上げておきましょう」

「ふふ、剣丞さまとご一緒とは……喜んでいいのでしょうか?」

「ちょ、蘭ちゃんひどくない!?」

 

 少しだけ場の空気が緩くなる。それを待っていたかのように蘭丸が幽にたずねる。

 

「それで、話は変わりますが一葉さまはどちらに?」

「ただいま寝所に在らせられますが、いつもと同じであるならば、まだご就寝されてはいないでしょうな」

「……もしかして眠れてないの?」

「案外と」

 

 幽の言葉に剣丞が心配そうに聞いたのに幽は応える。

 

「それだけ事態が差し迫っているということですよ、剣丞さま」

「然り。三好衆の動きが活発になり、楽観してもいられなくなりましたからな」

「城内の守備は……百、いえ二百程度でしょうか?」

「流石ですなぁ。最近は、まるで沈没する船から逃げ出す鼠のように、兵も侍も逃げ出す始末でして……」

 

 幽の言葉に蘭丸は眉をひそめる。人としては仕方がないとも思えるが、少なくとも蘭丸からしてみれば主君を……久遠を置いて逃げることなど許せる話ではないのだろう。そんな蘭丸に気づいてか剣丞が口を開く。

 

「そっか。……じゃあ二条館を守るのは、俺たちの連れてきた兵と合わせて、三百ってところだな」

 

 人数としては圧倒的に不足した状況。そんな中、三好衆の攻撃を防ぎ、久遠たち本隊が到着するまでの時間稼ぎをしなくてはならないのだ。

 少しだけ憤慨とした表情だった蘭丸はすでに調子を取り戻したようで。

 

「ひよ、ころ、梅」

「はいっ!」

「ただいま!」

「どうしましたのハニー?」

 

 集まってきた三人を見て蘭丸は口を開く。

 

「三人には、今回の二条館防衛の布陣をお任せします。敵が来るとしたら……」

「南。桂川を越えて二条館に至る道が王道でしょうな」

 

 蘭丸の言葉をついで幽がそう言う。

 

「でしたら、重点的に南からの侵攻に備えておいてください。私は剣丞さまと一葉さまにお会いしてきます」

「分かりましたわハニー。いってらっしゃいませ」

「ううー、緊張しますねー……」

「何を言ってますのひよ子さん。こういう逆境こそ、武士の妙聞を稼ぐ格好の機会ではありませんか」

「武士の妙聞!?うー!ひよ頑張っちゃいます!」

 

 きゃいきゃいと盛り上がる蘭丸隊をやさしく微笑んでみると視線を別の場所へと向ける。

 

「それでは、詩乃、エーリカさん、あと鞠は……あら、鞠は?」

「まだ眠っておりますが……起こしましょうか?」

 

 蘭丸の言葉に詩乃が答える。

 

「いや、俺が起こすよ。……おーい、鞠ー。二条館についたから起きろー」

「ん、ん~……ふぁぁぁぁ~……あふぅ」

「おはよう鞠。良く眠れたか?」

「んとー……あれぇ?剣丞、ここどこぉ?」

「二条館ですよ。今から一葉さまに会いに行くのですが、鞠も一緒に行きますよね?」

「一葉ちゃんっ!?鞠も行くの!」

 

 蘭丸がたずねるとうれしそうに鞠が飛び起きる。荷駄からピョンッと飛び降り、鞠はトトトッと剣丞に駆け寄るとしがみつく。

 

「ふふ、それでは話が終わるまで剣丞さまと一緒におとなしくしておいてくださいね?……ではころ、いってくるので頼みますね」

「はいっ!いってらっしゃいませ!」

 

 

 館に戻った信綱だったが、まもなく来るであろう織田の軍の受け入れなどもあり動けない幽に代わって町を見回っていた。そのときに突然感じた気配。

 

「……草か?一体どこの手の者か」

 

 先に見つけたものの、敵かどうかの判断はまだつかない。相手がこちらに気づいた後の動きを確認してからでも遅くないだろう。……とはいえ、状況としてはそんなことをしている余裕はないのだが。そんなことを考えている間に、どうやらあちらも気づいたらしい。警戒しながらも少しずつ距離をつめていくる気配に感心する信綱。

 

「だが……まだ甘い」

 

 こちらに近づく者に短剣を投げつける。とはいえ、殺す気はなく威嚇程度のものではあるが。そして、気づいた忍はこちらに対しての警戒を強めながらもさらに気配を薄くする。

 

「よい腕だ。その辺りの忍の守りであれば抜けられるかもしれんが……私の前では……」

 

 

 強い。恐らくは私では敵わない相手だろう。そんなことを感じながらも小波は何故かあの相手に襲い掛かるしかない、そんな風に感じていた。普段であればもっと冷静な行動をとっただろうが、蘭丸や剣丞の自分に対する態度を見て心に不思議なわだかまりがあったことも原因だろう。目の前の相手を倒さなければならないと感じてしまったのだ。

 

「……」

 

 明らかにこちらを見ているその女性が投げてきた短剣は威嚇のものだったのだろう。それでも明らかに並の腕ではない。敵か味方か見極めなければ。そんなことを思いながらも警戒して近づく。その瞬間だった。

 

「悪手だぞ」

「っ!?」

 

 突如目前に現れた女性に刀を突きつけられる。まったく見えなかった。その事に驚愕を隠せない小波。

 

「とはいえ……ふむ、一葉の敵といった感じではないな。三好の者であればもっと薄汚い気配の筈だ」

「まさか……お味方……ですか?」

 

 刀を突きつけられた状態ではあるが敵ではなさそうということに少しの安堵を覚える。……もしこんな強さの相手が敵だとすれば二条館の防衛は一層困難になるだろう。

 

「お前の味方かどうかは分からないが……蘭丸……織田の関係者であればそうだろう。そして織田の草がいるとなれば……」

 

 刀を鞘に収めながらいう女性。

 

「蘭丸は無事二条館についたというわけだな?」

「……」

 

 答えない小波に女性が納得したように頷く。

 

 

「そう言えば名乗っていなかったな。私は上泉信綱。蘭丸の師にあたる者だ」


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