戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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40話 新たな出会い

「つまらんっ!!」

 

 城が落ちると同時に桐琴が大声で怒鳴る。

 

「テメェらもっと殺る気だせよ!あぁん!?」

 

 小夜叉も武器を投げ出した兵に対して怒鳴りつけるが怒鳴られた方は怖がってがたがたと震えている。

 

「チッ……ガキィ!陣に戻るぞ!酒だ酒!」

「おうよ母ぁ!……お蘭はどうする?」

「私は事後処理もありますので。姉さま、母さまをお願いしますね」

「お蘭もいつも面倒な役回りだなー。ま、任せるぞー」

 

 ひらひらと手を振りながら去っていく小夜叉を見送った蘭丸は、近くにいた足軽に指示を飛ばし戦後処理を始める。それから少しして久遠が蘭丸の元へとやってきた。

 

「お蘭!無事であったか」

「久遠さま。勿論で御座います。この程度の相手では物の数でもないです。……母さまと姉さまは不満そうでしたが」

「であるな。桐琴の奴、早速陣に戻って酒を呑んでおったぞ」

「すみません」

「ははっ!構わん。アレがそういう性質なのは知っておるからな」

 

 笑いながら手を振る久遠に蘭丸が状況を報告する。

 

「ふむ……六角義賢どの、逃散したとのことです」

「逃げた?」

「はい。詳しいことはエーリカさんが調べておりますが、池田丸が落ちたときに近習数名と共に落ちたとのことです」

「デアルカ」

 

 やれやれといった表情で久遠は肩の力を抜く。

 

「現時点ではエーリカさんには情報の収集を、そのほかの者には城内の掃討を指示しております。明朝までの寝ずの番も準備しております。後、森一家の者たちには残党の捜索もしております。……よろしかったでしょうか?」

「うむ。それが最もいい選択だろう。さすがであるな、お蘭」

「いえ。……後は壬月さま、麦穂さまの報せを待ってから……ですね」

 

 

 久遠の元を辞してから蘭丸隊へと戻った蘭丸に気付いたひよ子と転子がいち早く駆け寄ってくる。

 

「蘭丸さーん!お帰りなさーい!」

「ご無事で何よりですー!」

 

 蘭丸に駆け寄った二人はそのままの勢いで蘭丸に飛びつく。

 

「おっと。ふふ、ただいまです、お二人とも。……戦はどうでした?ちゃんと久遠さまのお役に立てましたか?」

「はいっ!詩乃ちゃんが指揮してくれましたから!」

「いえいえ。私の指示を二人が忠実に実践してくれたからこそ、良い働きとなったのですよ」

 

 そう言いながら静かに蘭丸に寄ってくる詩乃の頭も優しく撫でる。

 

「それに、労いならば剣丞さまと新介、小平太にお願いします。あの三人のおかげで被害を極限まで減らすことができました」

「はは、俺はそこまでだよ。それよりも二人を褒めてあげてよ」

「け、剣丞さま!?」

「へへ~!蘭丸さま、ボク頑張ったよ!」

 

 驚く新介と褒めてと催促する犬のような反応を見せる小平太。微笑んだ蘭丸が二人へと近づくと詩乃と同じように頭を撫でる。

 

「~っ!」

「へへ~」

 

 嬉しそうな様子の二人に優しく微笑む詩乃。

 

「それに、剣丞さまもあまり謙遜されるのは相手に対しても失礼に当たりますよ。ですから、自らの力は誇ってください」

「……あぁ、分かったよ」

「ふふ、では剣丞さまも」

 

 すっと背伸びをして蘭丸が剣丞の頭も撫でる。

 

「ちょ!お、俺はいいって!」

「ふふ、照れちゃって」

「そ、そんな年じゃないよ、俺!」

 

 わいわいと盛り上がる一同であったが。

 

「ねぇ、剣丞ー。あの子、どうするのー?」

「……あ」

「あぁ、そういえば剣丞さまが女の子を拉致したと伺いましたが」

「い、言い方酷くない?」

「まだ気絶してるのですか?」

「うんとね、さっき起きたの!」

 

 鞠の言葉と同時に大声が聞こえてくる。

 

「ちょっとそこのあなた!このわたくしを穢した責任、どう取ってくださるのですっ!」

 

 真っ赤な装束に身を包んだ女の子が剣丞を指差しながら現れる。

 

「剣丞さま……一体何をなさったのですか?」

「ちょ、蘭ちゃん誤解だって!って、ひよやころたちも距離置かないで!?」

「……まさか、剣丞さま……無意識に少女を手籠めに……?」

「詩乃!?」

「ちょ、わたくしのことを無視しないでくださいますっ!?」

「ふふ、ごめんなさいね。……それで、剣丞さまは私の部下にあたるのですが一体何をされたというのですか?」

「わたくしを気絶させ、いやらしい手つきで……」

 

 ぺらぺらと流れ出る話に剣丞も唖然としているが、蘭丸はそれをにこにこと微笑みながら聞いている。

 

「それで?」

「え?」

「それで、貴女が穢されたという証拠は何処にあるのです?宜しければ証拠を見せていただけませんか?それがあるのならば私がしっかりと剣丞さまに責任を取らせましょう」

「そ、それは……」

「まさか、記憶にない部分を好き勝手に捏造して話をされているわけではありませんよね?そんなことをなさっていたとすれば……私の部下を貶めようとしていたとすれば……」

 

 微笑んでいるのに、周囲の温度が少し冷えたように感じる。

 

「……ふふ」

「う……」

「さぁ、出してもらえますか?」

「ね、ねぇ新介」

「な、何よ」

「もしかして蘭丸さま、怒ってる?」

「怒ってますよねぇ」

「蘭丸さんって、仲間とかに対して優しいですからねぇ」

 

 蘭丸隊の面々がこそこそと話をしている途中。

 

「それに、まずは互いに名乗りあうべきなのではありませんか?」

「むっ。確かに正論ですわね。……しかし、そう仰るのでしたら、まずは貴女から名乗るのが礼儀でしょう」

「そうですね。私の名は森蘭丸成利。お見知りおきを」

「……え」

 

 何故か硬直した少女に首を傾げる蘭丸。

 

「聞こえませんでしたか?私は……」

「森蘭丸成利……どの?」

「はい」

「織田上総介さまの側近中の側近であらせられる?」

「側近……私はただの小姓ですよ」

「織田上総介さまの最も近くに侍り、最も信頼されるお方」

「お蘭、どうしたのだ?」

「あ、久遠さま。実は……」

 

 久遠も蘭丸に用事があったのか、訪れた久遠に蘭丸が軽く概要を説明する。それが終わると同時に、放心していた少女はびくりと身体を震わせて。

 

「わ、わ、わ!我が名は蒲生忠三郎梅賦秀!六角家家蒲生賢秀が三女でございます!織田上総介さまにおきましてはご機嫌麗しゅう!」

 

 先ほどまでの態度が嘘のようにずささっ!と地面に膝を突き、まるで神様でも拝むようにうっとりと頬を赤らめ、一気にまくし立てる。

 

「蒲生?蒲生とは六角家の大黒柱と呼ばれる、あの蒲生か?」

「はっ!三女でございますれば、跡取りではなく部屋住みでございますが……!」

「(久遠さま、蒲生氏と言えば六角氏の中核にあたる方。織田家中に招き入れれば、江南の人身掌握に役立つかと思われます)」

 

 蘭丸が久遠に耳打ちする。それに軽く頷いた久遠が、跪く梅の手を引いて立ち上がらせる。

 

「梅とやら」

「は、はひぅ!」

「処女を散らされたという貴様の言は、状況から見れば貴様の勘違いだと思うのだ。我はこやつのことを良く知っておる。それに、お蘭の部下である者の中にそのように無理やり手籠めにするような乱暴な輩はおらぬ。それに、こやつは田楽狭間の」

「田楽狭間の天上人っ!?こいつがっ!?」

「そうだ。梅がここにいるのは何故なのか、事の次第を説明してやれ、剣丞。貴様のほうがお蘭より詳しかろう」

「うん、分かったよ」

 

 

「か、勘違いですのね。……良かった。じゃあまだわたくしは処女なのですね」

「うん、大丈夫。梅はまだ処女だよ」

 

 剣丞がさらっと言うと同時に梅が剣丞の頭をはたく。

 

「あたーっ!?」

「な、何を無礼なことを言うのです!さいってーですわあなたって!」

「えぇっ!?俺は言ってることを肯定しただけで……」

「今のは剣丞さまが悪いです」

「肯定の仕方が間違えてるんですよ」

「剣丞さまって時々、無神経になるよねー」

「……そこを許容してくれるのは身内だけだと重々承知するべきかと」

「私も最低だと思います」

「剣丞さま、ダメダメだなぁ」

 

 蘭丸隊の面々に否定されて剣丞が少し落ち込む。

 

「ぐぬぬ……」

「馬鹿の戯言は置け。……梅よ」

「は、はいっ!」

「貴様さえ良ければ、織田の者にならんか」

「なります!」

 

 即答した梅に蘭丸も驚いて目を丸くする。

 

「そ、即答ですか」

「今の、久遠の言葉に半分被ってたよね」

「ちょっとそこの無神経な方、五月蝿いですわよ」

「わたくし、ずっと織田家に。いいえ、久遠さまに憧れていましたの。この乱世に舞い降りた、革命の戦士。古き慣習に縛られず、どんなことにも次々と挑戦していくその姿は、まさに英雄!」

 

 梅の言葉にうんうんと満足そうに頷く蘭丸。

 

「墨俣に一夜で城を築いた方法など、因循な年寄りたちには思いつくことさえできなかったでしょう!」

 

 それは剣丞の案なのだが……と言おうかと思った蘭丸であったが、話の腰を折るのも流れを変えるので思いとどまる。

 

「その憧れの久遠さま直々に、ご勧誘されるなんて!この蒲生梅、命を賭して久遠さまにお仕え致しますわ!」

「我らは貴様を歓迎しよう。梅。励め」

「はっ!有り難き幸せ!」

「うむ。……お蘭、剣丞!こやつの世話をせい」

「かしこまりました」

「「えーっ!?」」

 

 既にこのようになるであろうと予想していた蘭丸と、予想外といった反応の剣丞と梅。

 

「……蘭丸隊で面倒を見てやれ」

 

 

 京を少し離れた村を訪れた信綱。そこから不穏な気配を感じ興味本位で来たのだが。

 

「……厄介なことになっているようだな」

 

 信綱は目の前に広がる光景に顔を顰める。周囲に散乱する、恐らく人であったであろう肉塊。明らかに人の手ではない破壊の傷跡。

 

「鬼か。……しかし京に近いこのような場所まで来ているというのか?」

「ぐるる……」

 

 唸り声と共に母屋から数匹の鬼が姿を現す。そして、その母屋の中から悲痛な叫びやくぐもった声も聞こえてくる。

 

「鬼が人を捕らえ……まさか」

 

 警戒している鬼に無造作に近づいていく。鬼が攻撃をしようと動くが既にその行動は遅く、身体が斜めに斬られ落ちる最中であった。信綱が母屋の戸をくぐる。中からむわっとした血の臭いや獣の臭い。そして。

 

「……っ!」

 

 微かに息をしている女性や、既に息絶えた女性。その多くは無惨な姿をしている。それは、女性であれば目を背けたくなる光景である。

 

「鬼ども……」

 

 まだ母屋の中に残っていた鬼が信綱めがけて襲いかかる。だが、外の鬼と同じく時既に遅し。一刀の元に切り捨てられる。

 

「……」

 

 信綱はまだ息のある女性の側へと近寄る。静かに側に膝を突き女性の瞳を覗いて悲痛な表情で目を閉じる。

 

「……今、楽にしてやる」

 

 

 母屋から出た信綱の前に更に現れる鬼の群れ。

 

「……私は今、虫の居所が悪い。元より容赦するつもりはないが……せめてもの手向けだ。出来得る限りの苦痛と恐怖を知れ。愚かな鬼共よ」

 

 信綱から視認できるほどの気が立ち上る。その前に立ちはだかる小さめの鬼。まだ全身を血に染めていることから信綱は一つの事実に気付く。

 

「……鬼を産まされた、か。……ますます貴様らの存在を赦しては置けぬな」

 

 一刻ほどの時間で、鬼の群れは殲滅される。そして、信綱の手によって村人らしき者たちは全て埋葬される。

 

「一体、日の本に何が起こっているのだ?……一葉や蘭丸は一体何と戦っている……?」

 

 まだ再会していない自らの弟子を思い出しながら空を見上げる信綱。

 

 彼女にとっても強大な敵が迫りつつあることをまだ誰も知らない。


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