戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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39話 観音寺攻略

「いい塩梅で進んでおりますね」

 

 部隊を離れ、久遠の元へと来ていた蘭丸が久遠に話しかける。

 

「うむ。新介や小平太を中心に、蘭丸隊の面々が頑張ってくれたからな」

「ふふ、よろしければ直接お褒めの言葉を。きっと喜びます」

「デアルカ」

「殿。丹羽衆、滝川衆、共に準備整いましてございます。いつでも」

 

 麦穂が陣へと入ってくると久遠へそう報告する。

 

「うむ。では観音寺を迂回し、坂本を拠点に京周辺の露払いをせい」

「御意。洛中については?」

「三好・松永党の動きが読めん。妨害もあるだろうが……余裕があれば京に間者を放ち、情報を集めておけ」

「畏まりました」

 

 そう言って頭を下げた麦穂は蘭丸へと視線を向ける。

 

「蘭ちゃん、行ってきますね」

「はい、麦穂さま、お気をつけて。……ご武運を」

「うふふ、はい。蘭ちゃんこそ」

「蘭ちゃんも武功あげなよー、って不要な心配かー。蘭ちゃんなら雛より強いもんね」

「ふふ、頑張ります。雛もしっかりね」

「へーい。まぁ麦穂さまのことはお任せだよー」

「行ってしまいましたね……」

 

 二人が出て行った後にエーリカが蘭丸に声を掛ける。

 

「えぇ。いよいよ始まりますね」

「……上洛した後、越前に向かい、鬼を駆逐する。……しかしそこに鬼を操る者は居るのでしょうか?」

「分からん。だが越前をそのままにしておく訳にもいかないだろう」

 

 エーリカの言葉に久遠が返す。それとほぼ同時に葵が陣へと入ってくる。

 

「おや、軍議でもされておりましたか?」

「そうでもない。……で?」

「松平衆一同、久遠さまに御指図を頂きたく……」

「ふむ。……葵。観音寺城をどう攻める?」

「そうですね……お許しを頂き、お答え致しますれば」

 

 

 葵、新たに合流した蘭丸隊の面々。それらの策や案などを聞きながら目を閉じていた久遠が蘭丸に向き直る。

 

「お蘭、お前はどう考える」

「……難攻不落であれば、正攻法では無駄に時間を掛ける結果となる、かと」

「ふむ」

 

 久遠の反応から続けるように、と判断した蘭丸は続ける。

 

「そうなれば、私たち蘭丸隊の出番かと。……剣丞さまがうずうずしておられますしね」

「あはは……」

「……久遠さま。今は何よりも重視しなくてはならないことを考えるならば……」

「……分かっておる」

「では、参りましょうか。ひよ、ころ、蘭丸隊出陣です。詩乃、部隊の中から選抜の準備もお願いします」

「御意」

「詩乃は久遠さまの側で鉄砲隊の指揮を。ひよところは足軽たちの指揮をお願いします」

「ら、蘭丸さん、まさか剣丞さまとお二人だけで行くおつもりですか!?」

「そのつもりですが」

「はいはいはーい!それなら鞠も剣丞と蘭丸と一緒に行ってあげるのー!」

「へっ!?」

「ま、鞠?」

 

 元気に手を挙げる鞠に驚く剣丞と蘭丸。だが、それ以上に驚いている者もいた。

 

「ま、鞠さまっ!例え領国を追われたとはいえ、今川家棟梁で在らせられる鞠さまが、素破乱破の真似事をするなど、御身に流れる高貴な血が穢れましょう!」

「……剣丞さま、貴方がどうされるかお決めください」

 

 

「……蘭ちゃん、何かごめん」

「ふふ、構いませんよ。剣丞さまに任せたのは私ですから」

 

 久遠さまに怒られるとすれば私ですから、と蘭丸は微笑む。

 

「しっかし……こりゃすげえな……」

「本当に。……一体いくつの曲輪があるのでしょうね」

「なんと美しい……。緑の海原に浮かぶ真白き箱船のような荘厳さを感じます」

 

 城好きなエーリカは惚れ惚れとした表情で城を眺める。

 

「さすが近江源氏の流れを汲む佐々木氏の居城ですね。水運と陸運、その両方を抑えるに絶好の地を、山麓全体に曲輪を配置して要塞化している姿はまさに天下一の名城」

「山城としては日の本有数の名城ですからね」

 

 詩乃や葵も手放しで褒める。

 

「お城好きな人たちが好き勝手褒めるのはいいんだけど」

「実際、かなり攻めにくそうですね……久遠さま」

「変わらん」

「かしこまりました」

 

 久遠の指示に全く動じることなく応じる蘭丸に苦笑いを浮かべる剣丞。

 

「まぁ、あれぐらい険しい方がやりやすいか」

「そうですね。私も同意見です」

「なぜ、そのようにお考えなのです……?」

 

 そう尋ねてきたのは、先ほどの話し合いで蘭丸たちに葵から渡された……新たな部下である小波だ。明らかに何かの策謀を感じたが蘭丸は特に何も言うこと無く隊に迎え入れていた。

 

「そうですね……剣丞さま」

「うん。堅固であればあるほど、その事実にかまけて人は油断するじゃない?まさか、とか。あるはずがない、とか言ってさ。自分が出来ないことは誰もができない。……人って、ついそう思い込んでしまうものだって、俺は思ってるんだ。で、そんな油断があれば付け入る隙が出来る。……だから堅固な方がやりやすいかなってね」

「それで、剣丞さま。どこから侵入するおつもりです?」

「まずは地図でアタリをつけて、その後、現地で確認って流れかなー。その前に目的地周辺に兵が居るかの確認だけはしておきたい。……詩乃、手配を頼める?」

「ではすぐに草を放ちましょう」

 

 そう言った詩乃が、近くに居た蘭丸隊の隊員に、二言三言何かを告げた。その隊員は小さく頷き、すぐに駆け出していく。

 

「じゃあ探索が完了次第、行動を開始しようと思う。……って、俺が勝手に決めちゃって良かった?」

「構いませんよ。私も同じ判断をしましたから。それでは、ひよところが作ってくれた地図を存分に使わせてもらうとしましょう」

「「はいっ!」」

 

 久遠へと蘭丸が目配せすると静かに頷く。

 

「それで、久遠さま。攻め手は如何致しましょう」

「南だ。鉄砲隊を前列に押し出し、火力によって相手の反撃に圧力を掛けて攻める」

「鉄砲が豊富な織田ならではの攻め方ですね。敵の火力を上回る火力をあてて、反撃を封じ込めて、一気に城門に迫る。……観音寺城相手には最適の方法でしょう」

 

 久遠の言葉に同意して詩乃も言う。

 

「ふむ……では我ら松平衆が久遠さまの露払いを致しましょう」

「それは有り難いが……構わないのか?」

「もちろんでございます。わざわざ三河から出向いていながら、先陣を賜れないのは武門の名折れ。久遠姉さまは後方より、我ら松平衆の力、とくとご観戦あれ」

「んー!腕が鳴るですー!」

「私たちが先陣ですか。……久しぶりに楽しめそうね」

「はいです!綾那、一杯殺ってやるです!」

 

 盛り上がる松平衆を見て少し微笑んだ蘭丸が詩乃へと向き直る。

 

「詩乃、攻め手の流れを踏まえた上で作戦を練ります。手伝ってください」

「御意」

「ひよところは新介と小平太にも伝えてください。……いつも実働隊をお任せしてすみません」

「いえ、いいんですよ~!」

「お任せください!」

「それと……いい機会だと思いますので、松平衆の方々をしっかりと見ているように。三河の強者たちの力を」

 

 

「……」

 

 まもなく侵入というところだろうか。蘭丸は静かに目を閉じ、身体中に気を巡らせていた。

 

「……動きましたね」

 

 そう呟くと立ち上がる蘭丸。武の心得があるものが見れば咄嗟に身構えるほどの気を漲らせた蘭丸が剣丞へと近づいていく。

 

「そろそろ私たちの出番ですね」

「蘭ちゃん……き、気合は十分見たいですね」

「えぇ。母さまと姉さまも動いたようです。そろそろ行くとしましょう。……小波」

「お側に」

「うわっ!?い、いつの間に!」

「?……何か?」

「いつも突然現れるからびっくりしてさ」

「失礼致しました。……これからは、音を出すように意識して参上仕ります」

「あ、いや、そこまでしなくてもいいよ。……っていうか、蘭ちゃんは気付いてたんだ」

「?……はい。一応私も暗殺などを目論まれることもありますから、自衛できる程度には」

 

 蘭丸の言葉に一瞬唖然とした表情を浮かべる剣丞だったが、なにやら納得したように頷く。

 

「そっか。蘭ちゃんは桐琴さんの子だったね、忘れてた」

「……私は母さまのようでありたいと思っているのですが……まだまだということですね」

 

 何故か少し拗ねたように言う蘭丸に剣丞は戸惑う。

 

「いいです、もっと頑張るだけですので。……それで、侵入は……六人、といったところでしょうか」

「ろ、六人で潜入ですか?……それはさすがに少なすぎる気がします……」

「剣丞さまの案を採用した以上、必要最低限の人員しか割けませんから。……最悪、私が陽動で動くことも考えていますから」

 

 

「流石は剣丞さまのし掛け、といったところでしょうか」

 

 潜入した六人は更に分担して各所に剣丞の作った仕掛けを設置して回った。時間差で爆発を起こしたそれによって城内は一気にあわただしくなる。

 

「さて、後は小波に伝達を頼むだけですね」

 

 そう呟いて小波に念を飛ばす。

 

「小波、こちらは終わりました。……え、剣丞さまが女の子を捕縛した……?」

 

 小波と服部家御家流句伝無量で連絡を取ると、剣丞が女の子を捕縛しそのままにもしておけないと一旦退却するという報せだった。

 

「……分かりました。私以外の者は全て一時撤退させてください。……私ですか?ふふ、大丈夫ですよ。少し確認をしたいことがあるだけですので」

 

 そう言って本丸を睨み付けるように見る蘭丸。

 

「……この感じ、間違いでなければいいのですが」

 

 遠方で聞こえてくる怒号を微かに聞き、城門が突破されたのを察知する。

 

「流石は母さまと姉さま。……ですが、やはりこれは」

 

 大将、もしくは部隊を指揮するものがいない状況。幾度となく戦場を見てきたからこそ感じる違和感。

 

「……ふむ。久遠さまの前に恐れをなした、ということですか。上に立つ器ではないという噂は間違いではなかったということですか。……では、引導を渡すのも我ら久遠さまに仕える武士としての運命でしょうか」

 

 再び句伝無量で現状を伝えると刀を抜き放つ。すぐ側まで来ている愛する家族から放たれる殺気を身に受け微笑む。

 

「久々に、母さまたちと共に駆けるのも悪くはないでしょう」

 

 

「おらぁ!森一家が引導を渡してやらぁ!さっさと生きんの諦めろやぁ!」

「一振り二十七頸!坊主の生き血を吸ったこの人間無骨で、てめぇらの極楽往生を約束してやんよぉ!おらぁ、頸出せ頸ぃ!」

「ふふっ、やっぱり母さまも姉さまも楽しそう」

 

 ……思わず耳を塞ぎたくなるような罵声を撒き散らす桐琴と小夜叉の言葉を嬉しそうに聴く蘭丸。そんな圧倒的な暴力の前にその迫力を受け、六角氏の足軽たちは皆、あっという間に戦意を失くす。

 

 

 それから僅かの時間で観音寺城は陥落した。


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