戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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小谷城 - 上洛へ
31話 小谷城のおしどり夫婦


 京での情報収集、将軍との繋ぎを得た蘭丸たち一行は一路小谷……浅井の居城へと歩を進めていた。

 

「市ちゃん、元気かしらね」

「ふふ、お市さまのことですからきっとお元気でしょう」

「であるな。市のやつもお蘭に会いたがっていたぞ」

「私に、ですか?ふふ、手合わせの準備をしておかなくてはいけないかもしれませんね」

 

 そう笑う蘭丸を見て転子がひよ子に耳打ちする。

 

「ねぇ、ひよ。本当にお市さまってそんなに強いの?」

「もー、ころちゃん信じてないのー?お市さまは壬月さまと修行してたんだよ?」

「ぜ、絶世の美女と謳われているお市の方がそんな方と思えるわけないじゃん……」

「久遠さまー!蘭丸さーん!」

「どうした、ひよ」

「小谷にはどれほどご滞在されるお考えですかー?」

「五日ほどを考えているが……何かあるのか?」

「えへへ、お市さまにお会いするの、久しぶりですから楽しみだなーって」

「そういえば市はひよのことを可愛がっていたな」

「はい!たくさん良くして頂きました!だからですねー……」

 

 そういって荷物をあさり始めるひよ子。

 

「じゃーん!京でお土産を買ってきましたー!」

「……なんだそれは?」

「闘具……ですか?」

 

 ひよ子の取り出したものを不思議そうに見る久遠に蘭丸が答える。

 

「そうなんですよ~!お市さまがいつも使っていた闘具の、京物の最新版をお届けするのですー♪」

「ふふ、確かにお市さまなら喜ばれそうですね」

「さ、さらに分からなくなってきた」

 

 蘭丸とひよ子の言葉に頭を抱える転子。

 

「まぁ、市ちゃんのこと知らないから仕方ないわよねぇ」

「そんなにお強い方なのですか?」

 

 エーリカも興味を持ったようで結菜と話をしている。そんな賑やかな一同は進んでいく。

 

 

「蘭丸さま、小谷が見えてきましたよ」

「本当ですね」

 

 ちらと久遠の表情を見て嬉しそうに微笑む蘭丸。

 

「美しい……山々を覆う鮮やかな緑の中、慎ましげに姿を見せる城館は、まるで海に浮かぶ小舟のような……」

「山の斜面をうまく使い、曲輪同士の連携も取りやすくなっていますね。それに死角も少なくなっている。まさに戦乱の申し子のような堅城。無骨ながらも、どこか匂い立つ美しさがありますね……」

 

 エーリカと詩乃の感想を聞いて蘭丸が微笑みをむける。

 

「ふふ、詩乃は詩人ですね」

「ら、蘭丸さま。……城とは軍略の粋を極めた芸術品ですから」

「分かります。大自然が生み出した芸術的な曲線を持つ山容と、その山容を理解したうえで曲輪を配置し、連携を上げているところなど、感動的で……はぁ~……美しすぎて、もはや言葉も出せません」

「エーリカさんもとても気に入られたようですね」

 

 目をキラキラと輝かせながらため息をつくエーリカに蘭丸が言う。

 

「さて、ひよ、ころ」

「「はいっ!」」

「小谷へ先触れに向かってください。……私たちはゆっくりと向かいますので。ひよ、お市さまのお相手もしっかりとお願いしますね」

 

 

 嬉しそうに先に向かったひよ子たちを見送った後、周囲の景色を見ながら馬を進める。

 

「久遠さま、結菜さま。寒くはありませんか?」

「ふふ、大丈夫だ」

「私も大丈夫よ。そういう蘭ちゃんは?」

「大丈夫です。鍛えてますから」

 

 楽しそうに話す三人を遠目に見る詩乃とエーリカ。

 

「あの……あの三方はいつもあのような感じなのですか?」

「そうですね。概ねはそうかと」

 

 遠目に知らないものが見れば仲の良い姉妹にしか見えないだろう。

 

「涼やかな風……もうすぐ秋ね~」

「そうですね。……ふふ、もうすぐ久遠さまのお好きな季節ですね」

「我の?……あぁ!もすすぐか!」

「えぇ。今年もいい出来だといいですね」

「何の話をしているのでしょう?」

「よく分かりませんが、久遠さまの好物の話などではありませんか?」

 

 

 そして、小谷の城の門が見えてきたところで門前に待つ二つの影が見える。

 

「お姉様!」

「お姉ちゃ~ん!」

「うむ。二人とも出迎え苦労」

「結菜姉さまも蘭丸さんもお久しぶりです!」

「結菜お姉ちゃんも元気そうでよかったよー!蘭ちゃん……うわー!また可愛くなってる!すごーい!」

「ふふ、眞琴さま、お市様。お久しぶりです」

「久しいな、市。元気にしていたか?」

「うん♪お姉ちゃんも元気そうで何よりだよ!」[

「うむ。お陰様でな」

「眞琴ちゃんも元気そうね」

「はい!」

 

 楽しそうに語らう久遠と市、結菜と眞琴を見て少し離れる蘭丸。

 

「蘭丸さま?」

「ふふ、久遠さまも結菜さまも楽しそうですからね。少し……」

「蘭丸さーん!」

「いらっしゃいませー!」

 

 ひよ子と転子が笑顔で蘭丸のもとへと駆け寄ってくる。

 

「ひよ、ころ。先触れご苦労様です」

「へへー♪」

「ご機嫌ですね、ひよ」

「はい!お先にお市さまとお話させて頂きましたからー♪」

「ふふ、闘具は渡せましたか?」

「はい!喜んでいただけましたー!」

 

 蘭丸たちも久遠たちから距離を置いて歓談していると。

 

「お蘭!こちらに来てくれ!」

 

 手招きする久遠に蘭丸が駆け寄っていく。

 

「手紙では伝えていたな。お蘭は我の夫となる。二人ともよいな?」

「あははっ!お姉ちゃんに押し負けたのかな?でも相変わらず仲良さそうでよかったよ、蘭ちゃん!」

「ふふ、お市さまも本当にお元気そうで私も嬉しくなります」

「ほんと!?あれ、でも蘭ちゃんがお姉ちゃんと結婚したら蘭ちゃんがお兄ちゃんってこと?それともお姉ちゃん?」

「えっ……そ、そう、なんでしょうか?というかお姉ちゃん……?」

「はは!好きに呼んでよいと思うぞ」

「く、久遠さまっ!?」

「ふふ、蘭ちゃんは蘭ちゃんだからねぇ」

「結菜さままで!」

「あははっ、ほんとに相変わらず仲がいいんだね♪で、そっちの髪の長い子が詩乃かな?」

「……私のこともご存知で?」

「ひよところから聞いたよ!自己紹介しておくね!市は市だよ!お姉ちゃんの妹で浅井家当主、長政さまの奥さんなの!」

「あ、僕がその長政です。詩乃どの、よろしくお願いします」

 

 少し小声で言う眞琴にクスクスと笑う蘭丸。その様子はいつものことなのだろうか。

 

「はいまこっちゃん、もっと元気出してー!大きな声で挨拶だよー!」

「えぇ!?ぼ、僕、長政って言います!通称は眞琴!」

「お市さま、詩乃にそこまで畏まった挨拶をせずとも……」

 

 笑いを堪えながら珍しく蘭丸が言う。

 

「いいんだよ、蘭ちゃん!よーしよしよし!元気一杯に出来たね~、まこっちゃん♪」

「う、うん!僕、頑張れたよ、市!」

「うん!さっすが市のまこっちゃんだよぉ♪」

「ふふ、お市さまと眞琴さまは相変わらず仲良しですね」

「当たり前だよっ!それじゃ、立ち話もなんだし、まこっちゃんがお部屋に案内するね。お姉ちゃんお茶飲むでしょ?」

「うむ、所望しよう」

「了解!おーい、ひよー!手伝ってー!」

「はいっ!」

「あ、ひよ!私もお手伝いするわ!」

 

 ひよ子と転子が市と共に離れた後、眞琴が蘭丸たちに向き直る。

 

「それでは僕がお部屋にご案内します。……ようこそ、浅井が誇る堅城、小谷城へ!」

 

 

 部屋へと案内される間も雑談が続く。

 

「それにしても、蘭丸さんがお姉さまと婚儀を結ばれるとは思ってもみませんでした」

「そ、そうですよね。私と久遠さまとでは釣り合いが……」

「あぁ、そういう意味ではなくて。お二人……結菜姉さまもあわせると三人ですけど、夫婦というよりは……家族といった感じでしたし」

「ふふ、眞琴の言うことも分からなくもないわね」

「ゆ、結菜さま!?ま、まぁそう思っていただけるのは嬉しいですが」

「我もそう思ってもらえていたのなら嬉しい限りだな」

「久遠さま……」

 

 

 眞琴の先導で通された部屋で、蘭丸たちは思い思いの場所に腰を下ろす。

 

「それにしても此度の来訪、お姉様にしては珍しいご同行者ですね」

「奇縁があってな。……皆を紹介しよう」

 

 久遠の視線を受け、エーリカが頭を下げる。

 

「お初にお目に掛かります。私はルイス・エーリカ・フロイス。……とある目的のため、この日の本にまかり越しました」

「わっ!?……い、異人さんの割には言葉がお上手なんですね~」

「エーリカさんのお母様は、美濃土岐源氏が末流、明智庄の住人・明智家の娘なのだそうです」

 

 エーリカの言葉に驚く眞琴に代わりに答える詩乃。

 

「ほお。明智の。……先代の光安さまは、武略に優れ、お人柄も良く、領民に慕われていたとか。その明智の流れを汲む方なのですね」

「はっ。日の本の名は明智十兵衛と申します。浅井さま、以後、お見知りおきくださいませ」

「眞琴でいい。僕の方こそよろしくね。……で、あなたが稲葉山城乗っ取りで有名な竹中どのですね」

「どの程度、有名なのかは分かりませんが、その竹中と思って頂ければ。今は織田家中にて、蘭丸さまに忠誠を尽くす身。……以後、お見知りおきを」

「うん、こちらこそ。……ふふ、蘭丸さんの部隊にいるという噂の天人さまも気になるところですけど」

「剣丞さま、ですか?……面白い方ですよ」

 

 そういった蘭丸に眞琴は微笑むとその場にいる全員を見てなにやら考え込む。

 

「……我の来た意味を考えているのか」

「そうですね……お姉様は意味のないことをされない方。今回の来訪に、果たしてどのような意味があるのかな?と気になってしまって……」

 

 久遠の問いかけに答え、再び沈思の姿勢をとる眞琴。

 

「そういえば、エーリカ殿とは一体、どこでお知り合いになられたのです?」

「堺だ。南蛮商人と繋ぎを持ちたくてな。その折に、な」

「エーリカさんの目的と久遠さまの目的が一致したので、公方さまにお会いしたり……」

「えぇ!?公方さまに会ったんですか!……それはまた……その……ええと……良いなぁ」

「ふふ、眞琴さまはそういえば公方さまに憧れてるって仰ってましたっけ?」

「??貴様も行けば良いではないか。小谷からなら京は近い。いつでも行けるだろう」

「うーん、今の状況だとなかなかそうも行かなくて」

「ふむ。六角が五月蝿いのか」

「それもあるんですけど、最近は領内に少し不穏な空気があるんですよ」

「不穏?坊主か?」

 

 久遠の問いに首を振る眞琴。そして、眞琴の口から放たれた言葉に全員が固まる。

 

「いえ、鬼です」


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