戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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遅くなりました!

そして短めです!


幕間6 蘭丸隊の一日~残留組~その弐

「最近さ」

 

 隊の荷物を運びながら小平太が呟く。

 

「何よ」

「剣丞さま帰ってこないなーって」

「あぁ。森のお二人に連れられて鬼退治しているって三若の方々に聞いたわよ」

「え……剣丞さま生きて帰ってくるかなぁ」

「大丈夫でしょ。蘭丸さまが剣丞さまのことを認めている以上、森のお二人も死ぬようなことはしないでしょ」

「……でもさ、森だよ」

「……」

 

 無言で荷物を置いた新介。一抹の不安が過ぎったが。

 

「悔しいけど私たちよりも剣丞さまのほうが強いんだから私たちも修練しないとね」

「う~ん、正直面倒だけどそうだよなぁ。ボクたちもしっかり蘭丸さまの手伝いできるようにならないとなぁ」

「そうね、ってことで」

 

 小平太に対して袋竹刀を放り投げる。

 

「っと。これって蘭丸さまが提案してたんだよね?」

「そうよ。厳密には蘭丸さまのお師匠さまの上泉さまらしいけど」

「……って、蘭丸さま凄い方に教えてもらってるよなぁ」

 

 天下にその名が轟く剣豪、上泉信綱に師事することなど普通ならば夢のまた夢だろう。蘭丸も偶然出会い、なにやら気に入られたと言っていたが。

 

「私たちはそんな蘭丸さまの部下として仕えることが出来ているのだから、しっかりと腕を磨かないと!」

「それには賛成だけどさ。……あれだよね、新介ってホント蘭丸さま命って感じだよね」

「そ、そんなことないわよ!?」

「違うの?だって仕えてるのって殿じゃなくって蘭丸さまって言っちゃってたけど……いて!」

 

 そんなことを言う小平太の頭を軽く袋竹刀で打つ新介。

 

「いいからかかってきなさい!」

「わ、分かったよ。そんなに怒らなくてもいいじゃんか……」

 

 ブツブツモンクを言いながらも構える小平太。

 

「でもさ、新介。黒母衣に迎え入れるって言われてたの断ってまで蘭丸さまの部隊に来たんだよね」

「う……そうだけど?」

「ボクもさ、元々馬廻りだったところからこっちに来てるから人のことは言えないんだけど……さ!」

 

 二人の竹刀が交差する。

 

「これって出世なのかな」

「どうかしら、ね!」

 

 竹刀を強く押し返し互いに距離を取る。

 

「でも、私は出世だと思うわよ。蘭丸の家中や他の場での評価を考えてみて」

「殿の小姓で、殿の自慢するもの、森の麒麟児で戦姫……そして剣聖と謳われる上泉元綱の弟子……うわ、凄いなぁ」

「でしょ。しかも殿と婚姻を結ぶって言ってたでしょ。ということは」

「蘭丸さまが織田家の?」

「まぁ、そうなる可能性もあるってこと、よ!」

 

 

「はぁはぁ……」

「んだよ、剣丞もうバテたのか?」

「す、少し休ませてくれ……」

「そんなんでお蘭守れんのかよ~」

「はっはっはっ!クソガキ、少し休ませてやれ!獲物を譲らんでいいってことだからな!」

「むぅ、だけどよぉ」

「クソガキは孺子がお気に入りのようだな」

「ばっ、そんなんじゃねぇよ!殺すぞ!」

 

 そんな殺伐とした会話をする親子を見ながら剣丞は息を整える。

 

「(でも……本当に強いな、あの二人。もしかしたら姉さんたちレベルかも……。特にあの御家流とか言う奴は凄い。壬月さんたちもやばかったけど……)」

「ん、何を見ておる孺子」

「あ、いや、御家流って凄いなって思って」

「んだよ、そんなもん自分で作ればいいだけだろ?」

「はは、そんな簡単に出来たら苦労しないって」

「孺子の言うとおりでもあるが、ガキの言う通りでもある」

「え……?」

「御家流、御留流といわれるものには種類がある。血筋でしか使えぬもの、個人でしか使えぬもの。そして修練で身につけられるもの」

 

 槍の手入れをしながら桐琴が言う。

 

「修練で……」

「忍術などの一部、剣技と呼ばれるものの一部はそれだ。お蘭は御家流や御留流を複数使えるのもそれが理由だ」

「まー、お蘭は別格だからなー」

 

 小夜叉もそう言うと剣丞に手入れ道具を投げ渡す。

 

「まぁでもオレたちからは剣丞に御家流は教えられねぇなぁ」

「だな。習うにしろ、倣うにしろ……お蘭に聞くのが一番だろうな。ワシもガキも刀の技は知らんからな。だが」

 

 にやりと笑う桐琴。

 

「死地を味わい、経験を積めば少しは近づくだろうて」

「……え」

 

 

 それから数日後、壬月たちに呼び出された蘭丸隊残留組。剣丞は身体中が痛そうにしてはいたが、しっかりと登城した。

 

「森の相手苦労、とでも殿であれば言うか?」

「あはは……久遠なら言いそうだね」

 

頭を軽く抑えながら書類らしきものに向かっている壬月の言葉に苦笑いで剣丞は答える。

 

「あぁ、すまんな。書類仕事ばかりでな。……でだ、今日呼び出したのには理由と、仕事を頼もうと思ってな」

「うん、俺たちに出来ることなら何でも言って」

「ふふ、剣丞さまも大分蘭ちゃんの代理が板についてきましたね」

 

 剣丞の返答に笑顔で麦穂が言う。

 

「……俺はまだまだ武でも知識でも蘭ちゃんの代わりなんて務まらないよ。でも、出来ることを全力でやろうって決めたんだ」

「剣丞さま……」

 

 新介と小平太も少し驚いたような表情を浮かべる。剣丞の言葉は以前にも聞いたが、それとは何か違う強さを感じたのだ。

 

「……ふ、森を任せたのも正解だったのかもしれんな。……本題に入るぞ。蘭丸の計画通りに各方面への調略に動いているが……それによって尾張の地の防衛に少し難があってな。……鬼の出現に対処仕切れていないという話なのだ」

「鬼……!」

「我らは殿がいつ戻るかも分からん以上、動くことは出来ん。美濃の周辺は森が一掃しておるから大丈夫なのだが……」

「それで俺たちが、ってこと?」

「はい。勿論、森の方々はこちらに残ってもらうことになります。ですから……」

「私たちなら大丈夫です!」

「ボクたちも頑張って鍛えてますから!」

「ふふ、新介も小平太も頑張っているのは報告でも聞いています。……だからこそ、今回のことを蘭丸隊にお願いすることにしました」

「勿論、お前たちだけで行かせるわけではない。……森の各務が名乗り出てな。この辺りは桐琴と小夜叉で十分だから私が行く、とな」

 

 

「ももも、森家の各務さんといえばあの伝説の夜襲事件……」

「森一家を裏で統率する影の支配者……」

「え、春香さんってそんな噂あるの?」

「う、噂じゃなくって事実だって、剣丞さま!」

「あら、剣丞どのに新介どの、小平太どの」

「春香さん」

「春香さん!……あれ春香さん……各務……さん……!?」

 

 小平太が固まる。

 

「……え、もしかして小平太、知らなかった?」

「……あわわ」

「あれ、新介も?」

「?どうかされました?」

「あはは……な、何でもないよ」

 

 首を傾げる春香に剣丞が苦笑いで返す。

 

「それならいいのですが。……それで、尾張のほうへと戻られるということでしたので、私も剣丞どのの護衛を兼ねて共に参ります」

「護衛、ですか?」

「はい。蘭ちゃんや桐琴さん、小夜叉ちゃんも気に入っている方、田楽狭間に降り立った天人という立場は重いのですよ?」

 

 微笑みながら言う春香。

 

「はは、俺にそんな価値があるとは思えないけど。……」

 

 じっと春香を見る剣丞。

 

「どうかされましたか?」

「春香さんって……蘭ちゃんの師匠、でもあるんですよね?」

「師匠というほどではないと思いますが……信綱どのの前に刀を教えたという意味では私になるかもしれませんね」

「春香さん!」

 

 突然地面に手を付く剣丞。

 

「え?」

「俺に、俺に剣を教えてくださいっ!!」

 

 

「……そういうことですか」

「これから先にも戦いがある以上、俺にも力が必要だと思うんだ」

「……蘭丸隊はからめ手を重要視した部隊なのでは?」

「うん。きっと俺に皆が求めているのとは違う方向なのかも知れない。でも」

「あ、あの!」

 

 剣丞の言葉をさえぎるように新介が声を上げる。

 

「私も、剣丞さまの意見に賛成です!」

「新介どの……」

「ぼ、ボクも!」

「私たちには力が足りないんです!蘭丸さまを守るために……私たちは守られるだけじゃダメなんです!」

「ボクらが強くなってひよや詩乃を守ってやんなくちゃいけないんです!だからっ!」

「新介、小平太……」

 

 剣丞も二人の言葉に驚く。

 

「……ふぅ、分かりました」

「春香さん?」

「不肖ながら私がお三方に刀を教えましょう。ですが……それなりの覚悟はしていただきますよ?」

 

 ふっと笑う春香。

 

「私の修行は……厳しいですよ?」


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