戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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非常に長くお待たせしました!

体調不良からある程度回復し、自宅療養期間に入りましたので復帰します!


14話 川中島の戦い?

 兎々の案内によって連れて行かれた庭には既に武田の主要な面々が揃っていた。中にはなにやら興味深そうに蘭丸と転子を見る女性と、眼帯をつけた少女もいる。

 

「お屋形様!お連れしたのら!」

「苦労。……今朝方、長尾に送っていた草から文が届いた」

 

 ザワリと緊張が走る。武田からすれば宿敵とも言える長尾に潜んでいる草からの文だ。これだけの人数が集められているのだから緊張が走るのも仕方の無いことだろう。

 

「静まれっ!」

 

 春日の一喝で場は静まり、光璃は続ける。

 

「結論から言う。長尾が飯山城へ兵を集結させる動きを見せている。武田はこれより信濃を守るべく出陣する」

 

 そこまで言って光璃はじっと蘭丸を見つめる。

 

「……一緒に来て」

「私も、ですか」

 

 確かに現状では長尾に久遠からの文を届けることは困難であろう。既に幾度か川中島にて対峙した両軍ではあるが、今回も同じように痛みわけで澄むのかどうかも予想は出来ない。

 

「美空に確実に会う好機。……あわせたくはないけど」

「ふふ、分かりました」

「ら、蘭丸さん!いいんですか!?」

 

 慌てた様子で転子が蘭丸にたずねる。

 

「悩みどころではありますが……久遠さまからの命である文を渡すのであれば確実に会えるところに向かうというのはおかしなことではありませんよね?」

「いや、おかしいですって!戦場の真ん中で文を渡すとか聞いたことありませんよ!?」

「……大丈夫。暴れていたら美空のほうから近づいてくる」

「ま、まさかの戦闘狂!?」

「大丈夫でやがりますよ。いつもどおりであれば何度か衝突すれば互いに引き下がることになりやがりますから。それに……」

「今回は、拙ら四天王に加え一二三と湖衣も出るとあれば安全は増すだろう」

 

 そう言う春日の視線の先には蘭丸たちの知らない二人が立っている。

 

「あの方が?」

「はじめまして、織田の懐刀森成利どの。私は武藤昌幸、通称は一二三。よろしくお願いするよ」

「私は山本晴幸、通称は湖衣と申します。以後お見知りおきを」

 

 互いに軽く自己紹介を交わす。

 

「……蘭丸と転子は夕霧、一二三、湖衣の三人と臨機応変に部隊を動かしてもらいたい」

「ふむ、承りました。お屋形さま、『好きに』してよろしいのですな?」

「……任せる」

 

 

 それから十日ほど後。蘭丸たちは海津城に陣を張り長尾勢と対峙していた。武田勢一万五千。対する長尾勢は八千。通常であれば武田に軍配が上がると思われるだろうが。

 

「御家流、ですか」

「お屋形さまの御家流も凄いですけど、景虎どのの尾家流もかなり……」

 

 蘭丸と湖衣が言葉を交わしているのを見て一二三が何か感心するような態度を見せる。

 

「どうかされました?」

 

 それに気付いた転子が一二三にたずねる。

 

「いやいや、ああ見えて湖衣は人見知りが激しくてね。特に男性に対しては極端なほどに拒否反応を見せるのだけれど……」

「あはは……蘭丸さんは下手な女子よりも女子らしいですからね」

「おや、そんなことを言ってもいいのかい?」

「蘭丸さんは気にしていませんよ。それどころか、久遠さまのお傍に仕えることが出来るのなら迷わず女子になってしまいそうで」

「……意外と難儀な性格をしているんだね」

 

 他愛ない話をしながらも四人は地図に目を落とす。これ以上の睨み合いは軍全体の士気に関わってくる。光璃はそう判断し、長尾攻めの作戦立案をするように指示を出してきたのだ。

 

「私は客将の身分ですので……まずは湖衣さんの意見をお聞きしたいです」

「はい。……まずは部隊を大きく二つにわけ、一つは妻女山を攻める部隊、もう一つは山の麓……平野部に潜ませる本隊」

「つまりは、山を攻める部隊が勝っても負けても平野部に降りてくることを見越しての挟撃作戦……ということですか」

 

 蘭丸の言葉に湖衣は頷く。

 

「確かに効果的な作戦のように感じますね。このまま膠着状態が続いてもどうしようもありませんし……」

 

 転子も湖衣の作戦に賛成のようだが、一二三がなにやら考え込むような様子を見せる。

 

「一二三さん?」

「……ふむ、湖衣の作戦は非常に素晴らしいと思うよ。ただ、あの越後の龍がこの策を見破る可能性を考えなくてはいけない。もし全兵力を本隊に対して向けられた場合……耐え切れるように何か追加で策を練らなければ、ね」

「後の先をつかれた場合を考える、ということですか。……それであれば、私に案が」

 

 ニコリと微笑む蘭丸の口から出た言葉に一二三と湖衣、転子はきょとんとした顔を浮かべ、一二三は笑い出す。

 

「あはは、まさか蘭丸どのからそんな言葉が飛び出すとは思いもしなかったよ。いやぁ、流石はあの森の戦姫といったところか」

「ちょ、ちょっと一二三ちゃん!?笑い事じゃないよ!」

「そ、そうですよ!蘭丸さんも自分が何を言っているのか分かってるんですか!?」

「勿論ですよ、ころ。……これも久遠さまの御為となるのであれば私も……」

 

 

「本気を出せます」

 

 

「何、海津城に動き?」

「はっ。炊煙が多く立ち上っている、と」

 

 報告を受けた長尾景虎……美空は訝しげな表情を浮かべる。

 

「あの光璃がそんなに分かりやすいことをするかしら。……とはいえ」

「御大将!そろそろ出撃っすか!?」

「柘榴も我慢の限界っぽいしねぇ。……ふふ、なら乗ってあげようじゃない。松葉!本陣は任せるわ。誰が来るのか分からないけど足止めしておきなさい」

「了解。絶対に通さない」

「秋子は部隊の指示。柘榴は私と来なさい!」

「了解っす!」

「ちょ、ちょっと御大将!?まさかとは思いますが……」

「えぇ、そのまさかよ。たぶん明日あいつらが動くからちょーっと挨拶してくるわ」

 

 

 翌日。春日と兎々を中心とした奇襲部隊が長尾本陣を攻め込んでいる頃、本隊に突撃してくる部隊があった。

 

「あっはっはっ!!吹き飛べっす!!」

 

 長尾家の特攻隊長、柿崎景家、柘榴である。槍を振るたびに周囲の足軽が吹き飛んでいく。

 

「ちょ、あんなところに何で柿崎がいるんだぜ!?」

「こなちゃん、とにかく止めないと!!」

「おう!!」

 

 柘榴に向かって粉雪が突撃する。

 

「あ、山県っす」

「あたいが相手だぜーっ!!」

 

 二人が衝突するのと同時に一陣の白風が間を縫うように走る。

 

「ま、まさかっ!?」

 

 心が驚くのも無理はない。……そう、本陣に突撃してきたのは長尾景虎本人だったのだから。

 

 

「ま、まさか読まれていたなんて……」

「ここは流石は軍神と言っておくべきだろうね。……さて湖衣、こうなった以上次なる一手を考えなくてはいけないね。……転子どのはどうお考えで?」

「わ、私ですかっ!?……そうですね、とにかく混乱する部隊を纏めて山から引き返してくる春日どのと挟撃をする……しかないのでは?」

「そうだね。とはいえ、本陣のお屋形さまが無事なことが前提になるけれど……転子どのの主はどれほどの強さなのかな?」

「えっと……これは剣丞さま……副将を務められている方から聞いた話になるんですけど」

 

 

「あ?お蘭の強さじゃと?」

 

 昼間から相変わらず酒を飲んでいる桐琴に剣丞はたずねていた。

 

「うん。まぁ間違いなく俺よりも強いのは分かってるんだけど……結構不透明だなって思って」

「ふん、孺子。お蘭とワシやガキはどちらが強いと思う?」

「う~ん……桐琴さんたちのほうが強い、かな?」

「そうじゃな。『槍』での戦いであればワシらのほうが強い。じゃが、ワシらの次には強いだろう」

 

 桐琴の言葉に首を傾げる。

 

「お蘭はワシらよりも『刀』での戦いであれば強かろう。『斧』で戦わせてもまぁ壬月の次程度には強かろうて。『弓』を使わせれば家中では一番だろうがな」

「……それって」

 

 剣丞の顔を汗が流れる。それを見て桐琴はニヤリと笑う。

 

「家中においてお蘭より『何かの分野に関して』強いものは居る。だが総合的に見ればお蘭にかなうものは居らんだろうて」

「ん、お蘭の話か?」

 

 返り血を浴びている小夜叉が帰ってくる。剣丞は既に慣れたもので特にそれに対して反応をしない。

 

「おう、孺子がお蘭の強さを知りたいと言ってな」

「あー、お蘭なぁ。お蘭はすげぇぞ、各務の次くらいに家中を纏めるのうめぇしな」

「そうじゃな。困ったときはお蘭と各務に丸投げしておけば大抵安泰だしな」

 

 かっかっかっ、と笑いながら酒を煽る桐琴。

 

「そういや、お蘭が森家の御家流覚えたのっていつだっけ?」

「ん、確か……五つくらいの頃じゃな」

「……え、御家流ってそんな年で覚えるものなの?」

「馬鹿いえ。クソガキに限ってはまだ使えんぞ」

「う、うるせぇ!オレは自分の御家流あるからいいんだよ!!」

「はっ!お蘭に教えて覚えられた癖によく言うわ!!」

「あぁっ!?やんのか!?」

「おう、買ってやるわ、その喧嘩!!」

 

 いつものように死合をはじめる二人を苦笑いで見る剣丞。

 

「……蘭ちゃんって凄いんだなぁ」

 

 そんな言葉を呟きながら目の前の喧嘩をどうやって止めるかを思案するのであった。

 

 

「な、なんなのよコイツ!?」

 

 動揺する美空。それはそうだろう、美空について来ていた兵は悉くが現在地に伏している。

 

「安心してください、峰打ちです」

 

 ニコリと美空に微笑みかける蘭丸。

 

「アンタ、武田の将じゃないわね?」

「はい。私は織田久遠信長さまに仕える森成利と申します。長尾景虎どのとお見受けしますが」

「……そうよ。てか、よく戦場で自己紹介する余裕があるわね」

「景虎どのであればお話を聞いてくださると思っておりましたので」

「……ふん。それで織田の将が何の用かしら?私たちと戦でもしたいのかしら?」

「いえ。久遠さまからの文を届けるために参加させていただきました」

「……は?」

 

 蘭丸の言葉に驚く美空。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。アンタもしかして私に文を渡す為だけにこの戦に参戦したってこと!?」

「はい」

 

 まるで当たり前といった様子の蘭丸を見て肩を震わせる美空。

 

「っ、あははっ!!面白いじゃない!その胆力立派なものね!私は長尾景虎、通称は美空。特別に美空と呼ぶことを許可してあげる」

「ありがとうございます。私は蘭丸と申します」

「そう。なら蘭丸、手紙を受け取ることはやぶさかではないわ。でもその前に」

 

 刀を抜き蘭丸に向ける。

 

「光璃を出しなさい」

「もう居る」

 

 すっと現れた光璃を見て顔をしかめる美空。

 

「アンタ、この子を私とあわせないようにしようとしてたでしょ」

「……知らない」

「この期に及んでばれてないとでも思っているのかしら?」

「……美空は信用ならない」

「っ!アンタねぇ!?」

 

 突然言い合いをはじめる二人を見て蘭丸が笑う。

 

「ふふ、お二人は仲がいいんですね」

「「よくない(わよ!)」」

 

 光璃と美空の言葉が重なる。

 

「はぁ、もう気が抜けたわ。今回は退いてあげる。本当なら一人か二人、首とってかえるつもりだったんだけれど」

「それはこっちの台詞」

「それで、蘭丸文というのは?」

「はい、こちらになります」

 

 文を手渡す蘭丸。……一応ではあるが、此処は矢の飛び交う戦場でありまだ二人の指示がないため兵たちは戦っている中である。

 

「……へぇ」

 

 呟いた後、ちらりと蘭丸を見てその視線をそのまま光璃に向ける。

 

「やっぱりアンタ、私に会わせないようにしてたでしょ」

 

 無視する光璃にため息をつきながら美空は文をたたむ。

 

「……分かったわ。返答の文は織田に送るわ」

「ありがとうございます。……それはそうと」

 

 周囲を見渡した蘭丸は目の前の二人に伝える。

 

「……戦を止めなくてよろしいのですか?」




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