戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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12話 武田家の面々

「ここが躑躅ヶ崎館でやがります」

 

 夕霧に案内されたのは躑躅ヶ崎館の表側だろうか、まだ少し距離があるが誰かが待ち構えているのが見える。近づいてきて見えた女性は只者ではない風格を放っていた。桃色の鮮やかな髪を頭頂部で結んでおり、手には煙管を持っている。

 

「……何者でしょうか……あの雰囲気は名のある将でしょうが……」

「おぉ、春日でやがりますか!」

「典厩さま、お戻りをお待ちしておりましたぞ」

 

 春日と呼ばれた女性は夕霧に対して丁寧に礼をすると視線を蘭丸たちに向ける。

 

「ようこそいらっしゃいました、織田家のお二方。拙は馬場信房、通称は春日と申す者」

「貴女が不死身の鬼美濃と名高い……私は」

「存じ上げておりますぞ。織田三郎殿の懐刀、森家の戦姫……森成利どのでありますな。それと最近成利どのの部隊に所属された蜂須賀正勝どの……合っておりますかな?それと拙のことは通称の春日で構いませぬ」

「ふふ、よく見える目とよく聞こえる耳をお持ちのようで。私は蘭丸とお呼びください、春日どの」

「わ、私も転子と呼んでください!」

「ふふ、それでは宜しく頼みますぞ、蘭丸どの、転子どの」

 

 

「それにしても、まさか武田信繁どのだったとは……」

「すまんでやがります。流石に初めから教えてはいけないと姉上に言われてたでやがりますよ」

「姉上……というと晴信公ですか」

「そうでやがります。姉上も蘭丸どのが来るのを楽しみにしてやがりましたよ。既に姉上には報告が行っているでやがりますから、すぐに会う準備は出来るでやがります」

 

 そんな話をしながら夕霧が案内してくれた部屋に入る。

 

「準備が出来次第人を寄越すでやがりますからそれまでゆっくり休むでやがりますよ」

 

 

「晴信公、ですか。あの、蘭丸さん。私もお会いするんですか?」

「そうですね……ころはこれからも私と一緒に行動することが多くなると思いますから、少しでもこういった場に慣れて貰いたいとは思いますが……晴信公の判断になりますね」

 

 部屋で待っている間、転子と状況の確認や部屋の中の確認、蘭丸は部屋を見張る忍の位置なども調べながら時間をつぶしていた。

 

「……まさか、忍が部屋を見張っていないとは思いませんでした」

「そ、そうなんですか?信頼されているのか……」

「それとも、自信があるのか、ですね」

 

 恐らく後者だろうと蘭丸も転子も考える。仮に蘭丸や転子が何かを仕掛けたとしても止めるだけの自信があると。

 

「まだお会いしたのは鬼美濃……春日どのだけですが、間違いなく壬月さまや麦穂さまと同等か……そのくらいの力をお持ちのようですね」

「武田といえば四天王……春日どのと同じくらいの方が四人も居るってことですか……うぅ、言葉で聞くのと直接見るのとでは違いますね」

「ふふ、今は敵ではなく私たちは使者として来ているのですから落ち着いてください。……ころ、一つお願いしておきたいことがあります」

 

 

 結果として、武田晴信と会うのは蘭丸だけとなった。

 

「……」

 

 時間にしてどれくらいだろうか、このように長い時間を待つことは使者として幾度と無く蘭丸は経験していた。相手を待たせることで立場の違いを理解させる……一つの通過儀礼のようなものになっている。待っている間は瞑想するように静かに目を閉じている蘭丸を周囲の武田の家臣は興味深く眺めていた。

 

「へぇ……ここ、あいつ中々いい気を放ってるんだぜ!」

「こなちゃん、静かにしないと春日さんに怒られちゃうよ?でも、本当に綺麗な雰囲気だね」

「兎々はどう思うんだぜ?」

「それは兎々じゃなくてお屋形さまがきめるのら」

「……ふ。思った以上の人材のようだな。これほど澄んだ気をこのような場でも放つことが出来るとは」

 

 武田が誇る四天王は総じて蘭丸を内心高く評価する。そのほかの家臣からは間逆の視線も少なくは無いが。

 

「者共、控えい!お屋形様のおなりである!」

 

 春日の凛とした声が響き、蘭丸を含め間の全員が頭を下げる。静かに入ってきた晴信の声が間に響く。

 

「皆の者、顔を上げなさい」

 

 何処か優しさを感じさせるその声に蘭丸は顔を上げる。目の前に座る少女は蘭丸とそう年齢も離れていないだろうか、表情などに威厳を蘭丸は感じた。

 

「森成利どの、よく参られました。私が武田家棟梁、武田晴信です」

「お初にお目にかかります。私は織田家当主織田信長の名代としてまいりました、森成利と申します」

「それで、織田どのからの文があるとお聞きしていますが」

「はい。……ですが、その前に不躾ながらご質問をよろしいでしょうか?」

 

 蘭丸の言葉に一瞬のざわつきと鋭い視線が向けられる。

 

「静まりなさい。……なんでしょう?」

「……本当の(・・・)晴信どのにお会いしたいのですが」

「「!!!」」

 

 驚いた様子の武田衆を見て蘭丸は微笑む。

 

「先ほどから晴信どの……とお呼びしておきますが、入ってこられた場所から覗いている方がいらっしゃいますよね?……それに、武田家の棟梁としては、些か優しそうに感じましたので」

「……」

「薫、もういい」

「お姉ちゃん……」

 

 間に入ってきたのは覗いていた少女……目の前にいる晴信と瓜二つであるが、少し年齢は上だろうか。

 

「……武田晴信。通称は光璃」

「晴信どの、よろしくお願い……」

「光璃」

「……は?」

「光璃でいい。妹の薫」

 

 自分のことを通称で呼べという光璃は蘭丸の言葉を待たずに隣に座る妹……影武者をしていた薫を紹介する。

 

「さっきはごめんなさい。私は武田信廉っていいます。通称はお姉ちゃんがいったとおり薫です」

 

 先ほどまでとは変わって笑顔で自己紹介をする薫に微笑を返す。

 

「宜しくお願いします、光璃どの、薫どの」

「全く、影武者をしている薫を会ったことのない蘭丸どのが見破るとはどういうことでやがりますか?」

「ふふ、私は久遠さまの懐刀ですよ?」

「分かるような、分からないような……。で、姉上。こうなった以上この場は一度解散してもいいでやがりますか?」

「……任せる」

「了解でやがります。……春日、粉雪、心、兎々は残り他は解散するでやがります!」

 

 

「……蘭丸、でいい?」

「はい。構いませんよ」

「……春日たちも」

「はっ!……拙はご存知かとは思いますが今一度。馬場信房、通称は春日と申す者。……次、粉雪!」

「おう!あたいは山県昌景!通称は粉雪だぜ!ヨロシクなんだぜ!」

「次、心!」

「はいっ!私は内藤昌秀、通称は心と言います。よろしくお願いします、蘭丸さん」

「次、兎々!」

「はいなのら!兎々は高坂昌信、通称は兎々なのら!」

 

 武田が誇る四天王の自己紹介が終わり、蘭丸は光璃に文を渡す。久遠と葵、二人から預かった分だ。

 

「……確かに受け取った。返答は後日。今日はゆっくりするといい」

「宴の準備もしてるから、夜になったら誰かが呼びに行くと思うからあけておいてね!」

 

 光璃の言葉に続けて薫が満面の笑みで伝えてくる。

 

「はい。……ふふ、それにしても薫さんは今の話し方が普通なんですね?」

「そうだよ!……おかしい、かな?」

「いえ、とても似合っていると思います」

 

 そんな会話をしている蘭丸と薫を見ながら夕霧は苦笑いを浮かべる。

 

「薫は蘭丸どののことを気に入ったようでやがりますね」

「……夕霧は?」

「……嫌いではないでやがりますよ。織田との関係がどうなるのか分からない以上……」

「……大丈夫。薫も武家の人間。……それに、織田と敵対はしない」

「そうでやがりますか?」

「……予定」

「今回、織田と松平の両家が送ってきた文次第、といったところですな」

 

 光璃と夕霧の会話に春日が呟く。それを聞いて頷く光璃。

 

「……田楽狭間に降り立った天人、その天人を部隊に加えた蘭丸。……後は、鬼の出現」

「……織田の周囲を中心に広がりつつあるという異形の者、でしたか」

「まだ、知っている者は少ない。でも、時間の問題。恐らく、もう少しすれば美空も勘付く」

「アレは獣の嗅覚を持っているでやがりますからなぁ」

「……出来ることなら、蘭丸が長尾に行くのは防ぐように」

「ふむ……越後の龍がどんな手に出るか分からないですからな。……拙らが何とか出来るようにやってみましょう」

 

 

「ら、蘭丸さん、それじゃあ影武者見破っちゃったんですか」

「えぇ。まぁ、明らかに私を試しているようだったので。夜に宴の準備をしてくださっているようなので、そのときに会うことになりますよ」

 

 緊張するなぁ、と少し戸惑う転子に微笑みかける。その後少し話をしたあたりで。

 

「蘭丸ちゃん!入っていいかな?」

 

 部屋の外から薫の声が聞こえる。

 

「構いませんよ」

 

 そういって入ってきたのは薫と心の二人だった。

 

「お邪魔するね。……あ、蜂須賀さん……だっけ?」

「転子で構いません!えっと」

「あ、私も薫でいいよ!」

「薫さん?」

「うん!」

「私も心で構いませんよ」

「心さん……ですね」

 

 確認するように言う転子に頷く心。

 

「……それで、どうされたんですか?」

「蘭丸ちゃんにいくつか聞いておきたいことがあって……心ちゃんと来ちゃったの」

「蘭丸さん、お料理できるなら……尾張の料理を教えてもらえませんか?」

 

 

「蘭丸ちゃん、料理も出来るんだ」

「えぇ。森家では料理を出来るのは私と各務さんだけでしたから」

「そ、それは大変そうですね」

「ふふ、母さまや姉さまに任せると丸焼きしか出てきませんから。時々生ですし」

「す、凄いお母さんだね」

 

 流石の薫も心も苦笑いで蘭丸の言葉を聞く。

 

「ですが、私の部隊には料理が私以上に上手な方がいるんですよ」

「もしかして……」

 

 薫と心の視線が転子に集まる。

 

「わ、私ですかっ!?」

「そうですよ。ひよもころちゃんの料理は最高だって言ってたじゃありませんか」

「そ、それはひよが!」

「それに、私もころの料理、好きですよ?」

「っ!」

 

 顔を真っ赤にする転子を優しい表情で見守る三人。

 

「それじゃあ、転子先生お願いします!」

「ちょ、心さん!?」

「ふふふ、お願いしますね、転子先生」




出来る限り早く更新はしていきますが一週間が難しい場合が出てきました……。

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