かつては、帝国有数の大貴族の娘として贅沢三昧な生活をしていた華麗な公爵令嬢でした。
今では、お小遣いで遊んでいるゲームに細々と課金する庶民的な美少女でしかありません。
ですが、安心して下さい。
「へぇ、これがギルド拠点の設定ですか……プレイヤーの拠点に直接乗り込めないシステムなんて、あの運営がよく許可をしましたね」
「お金の力は偉大ですわ」
「……今までにいくら使ったんですか?」
「うふふ、聞きたいですか?」
「……怖いので止めときます」
「実はですね――」
「わーわーわー、聞きたくないー」
*
「大丈夫ですか、お嬢さん」
「はい! 危ないところを助けて頂き本当にありがとうございます!」
「いえ、誰かが困っていれば助けるのは当たり前ですから」
街でのショッピング中に珍しい場面に遭遇しました。悪質なナンパをされていた女性を通りかかった正義感の強い男性が助けたのです。
多少は治安が良くなったとはいえ、面識のない他人を無償で助ける人間を見かけるなど稀ですわ。珍しいものが見れました。
うふふ、今日は運が良い日みたいですね。
「ウググ、よくもやりやがったなッ! ブッ殺してやるッ!」
男性にのされて倒れていた悪質ナンパ男が、突然立ち上がりナイフを取り出しました。どうやら男性の手加減が過ぎたようですね。
今日は気分がいいので助けて上げましょう。
「えいっ」
「アグッ……(バタン)」
白目を剥いて倒れる悪質ナンパ男。文句なしのノックアウトですわ。
「あーと、お嬢さん」
「あら、お礼なら結構ですわ」
助けた男性が気まずそうに話しかけてきます。それは気まずいでしょうね。女性を助けたヒーローの立場から、自分のミスでか弱い女性に助けられた立場に変わってしまったのですから。
うふふ、珍しいものを見せてもらったお礼ですから気にされなくて構いませんわ。
「いや、去らせる訳にはいかない。申し訳ないが、君を傷害罪で逮捕する」
「えっ?」
──ガチャン
*
警察署の裏口から高級車に乗って帰りました。
「あの野郎ッ! 俺だけじゃなくフリアーネ会長まで逮捕しやがって、今度こそぶっ殺してやる!」
サブリーダーさんは軽く頷かれると、リーダーさんの背後に回り込み腰辺りに両腕を回して持ち上げられると一気にジャーマンスープレックホールドを華麗に決められました。
わん、つー、すりー、かんかんかんかんかん。
サブリーダーさんの勝利ですわ!
「な、何しやがるッ!? てめぇからぶっ殺されてぇかッ!」
フラフラと立ち上がったリーダーさん。サブリーダーさんは激昂するリーダーさんを前にしても冷静に彼を諭します。
「リーダー、フリアーネ会長の前で乱暴な言葉は慎んで下さい」
「ハッ! 申し訳ありません、フリアーネ会長!」
サブリーダーさんの言葉で正気に戻られたリーダーさんが頭を下げます。
「いいえ、構いませんよ。でも次から気をつけて下さいね」
「お許し頂きありがとうございます。もう二度とこのような醜態を見せない事をお約束致します」
リーダーさんの全く信用できない約束はどうでもいいですが、どうやら以前にリーダーさんが服役された際に逮捕していたのが、今回の警察官だったようですね。
「はい、そうです。前に私を逮捕したのがあの男でした。逮捕された後、いつもの様に証拠不十分で釈放という命令を無視したあの男は独断で捜査を行い、私を起訴にまで持っていきました」
裁判で有罪でも禁錮一ヶ月程度だったので、社会活動中に暴力を振るってしまったという反省もあり、リーダーさんは素直に刑に服することを選んだそうです。
なるほど、リーダーさんが服役された理由がようやく分かりました。彼が出所された際にも疑問に思いましたが、その時は聞きそびれてしまいそのまま忘れていました。
それにしても、彼は正義感が強いのでしょうけど、上からの命令を無視までして捜査を進めるだなんて随分と無茶をする方ですね。そういう命令が出る時点で厄ネタだと分かるでしょうに。
なにか深い理由などがあるのでしょうか?
いいえ、たとえどのような理由があるとしても、
そう考えているとサブリーダーさんが口を開きました。
「私は同じ町内なので幼い頃から彼を知っていますが、あいつは小さい頃から正義のヒーローが好きな奴でした。特に特撮物の大ファンでして、その手の話になると止まらなくて大変でした。警察官になったときも、俺は正義の味方になるぞって騒いでいましたね」
ただのヒーロー好きでした。なるほど、そういうタイプなら眷属にするのではなく、警察の少年科に異動してもらえばいいですね。
将来に希望を持てずに非行に走った少年達の問題は対応が難しいですからね。熱血な方なら向いている気がします。眷属にすると人間味がなくなるのでこの手の問題には適しません。きっと正義感の強い彼には適した場所ですわ。
「うーん、そうか? 俺にはアイツが生意気なガキ共と殴り合っている姿が目に浮かぶんだが?」
「リーダー、フリアーネ会長が『いいこと思いついた!』というお顔をされているのですから野暮な事は言わないでおきましょう。それにあの男が現場からいなくなるのならそれでいいではありませんか」
「それもそうか。うん、そう考えれば悪くないな。流石はフリアーネ会長だ!」
「しかし悪質なナンパから女性を助けるために相手の男を殴り倒す正義の味方の警察官か……特撮ヒーローとしてなら有りなんだろうけど現実の警察官としてはどうなんだ? しかも同じことをしたフリアーネ会長は問答無用で逮捕するし……ふふ、こんな考えも野暮ってやつだな、て事にしておくか」
*
やまいこ様に続き、餡ころもっちもち様への支援を行いました。とはいっても、餡ころもっちもち様の御実家はそれなりの資産家ですので経済的な支援ではなく、身辺警護の方に重点を置きました。
つまり、『ペットショップ・モモンガ』のワンちゃんを三匹ほどプレゼントしました。
三匹ともレベル70を超えていますので、たとえ餡ころもっちもち様が完全武装の一個小隊クラスの暴漢に襲われようとも撃退は容易でしょう。
仮に三匹のワンちゃんが勝てない相手だったとしても、ワンちゃん達はアウラと繋がっていますのですぐに助けを呼べます。
今回は餡ころもっちもち様にとても喜んでもらえました。
うふふ、大成功ですわ。
*
ワンちゃん達を返品されました。
とても悲しいです。
餡ころもっちもち様に理由を聞きました。
ワンちゃん達の食費が途轍もなく掛かったそうです。
納得の理由でした。
代わりにチュンチュン(八咫烏、レベル60)を十匹ほど、こっそりと餡ころもっちもち様の護衛として派遣しました。
チュンチュンは野鳥なので、餡ころもっちもち様が食費を負担する必要はありません。
我ながらナイスアイデアです。
数日後、餡ころもっちもち様から『私、狙われてるかも!?』と、相談を受けました。
なんでもこの数日間ずっと誰かの視線を感じるそうです。恐らくストーカーですね。
チュンチュンに気づかれずにストーカー行為に及ぶとは恐ろしい変態です。
相談を受けた
餡ころもっちもち様をストーカーする変態など許せません。
全力の24時間体制で見守りますわ。
そう誓いました。