オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の拠点

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、警護の兵を振り切るのも一苦労な箱入りな公爵令嬢でした。

 

今では、アーコロジー外ではいつでも豪華なドレス姿(防毒マスク付き)の不審者だと、知らない人から後ろ指をさされる薄幸の美少女です。

 

ですが、安心して下さい。

 

アーコロジー内では可憐な素顔が露わとなり、この美貌で大人気な公爵令嬢です。

 

「絵本の中のお姫様が着ているような真っ赤で豪華なドレスを普段着にしているフリアーネさんは確かに近所の小さな子供には大人気ですよね――少し大きな子には『アレはないわー』って目で見られてるけど」

 

うっさいですわよ、モモンガさん。

 

 

 

 

庶民の間で、大根十割の大根飯が大流行しています。合成食品ではなく、自然の恵み百パーセント(ただし魔法成分は考えないものとします)なのですから当然の事ですわ。

 

もちろん大根だけではいつかは飽きられるでしょうから、それを見越して大根以外の農作物もマーレは試行錯誤しながら育成を試してくれています。

 

「えへへ、もうすぐジャガイモが成功しそうなんです。ジャガイモは主食にもなれる食材だから成功すればとんでもない利益になりますよぉ」

 

「うふふ、マーレは本当に凄い子ですわ。成功する日が待ち遠しいですわね。でもあまり無理をして体を壊したりしてはダメよ」

 

「僕の体の心配までして下さるなんてフリアーネ様はお優しすぎです。僕はフリアーネ様の方こそ心配です。フリアーネ様はもっと思うがままに振る舞っても良いと思います!」

 

「そうかしら? けっこう自由に振る舞っているつもりよ」

 

「そんなことありません! フリアーネはもっともっと我儘になってもいいと思います!」

 

「我儘と言われても別に我慢していることは……ハッ!? もしかしてお姉様の入浴中に突撃しても――」

 

「いえ、それは普通に嫌われるのでお止めになった方がいいと思います」

 

「やっぱりそうよね、まだ好感度が足りないわよね。でもそうなると他には別にないわ」

 

「そんなことありません! 絶対にあります!」

 

「そ、そうかしら? 例えばどんなことかしら?」

 

「はいっ、例えばですね。ビギナーズラックで奇跡的に当たりを引いた、毎日錠剤に解毒魔法を込めることしか脳の無い無能な吸血鬼に新しい事業の一つでも成功するまで帰ってくるなと我が家からほっぽりだすとかはどうでしょうか!」

 

満面の笑顔のマーレ。

 

(わたくし)は迷わずに言いました。

 

「アウラ、後はよろしくね」

 

「はい、姉としてきっちりと分からせます。マーレ、こっちに来な!」

 

「ちょっと、お姉ちゃん!? 引っ張らないでよ。まだフリアーネ様とのお話が終わってないよー!」

 

「黙ってくる! これはフリアーネ様もご承知のことだからね!」

 

「えぇっ!?……分かったよ、お姉ちゃん」

 

(わたくし)がアウラの言葉に頷くと、マーレは諦めて素直にアウラについて行きました。

 

「マーレはあの焼きもち焼きなところが玉にキズね。シャルティアがいなくて良かったわ」

 

シャルティアは何か思うところがあったのでしょう。最近は製薬会社の研究室に詰めて色々と研究をしています。

 

シャルティアはああ見えてやれば出来る子です。必ずアッと驚くような事をやってくれるでしょう。今は静かに見守っていてあげましょう。

 

うふふ、我ながら良い主人っぷりですわ。

 

 

 

 

出生率の低下が止まりません。

 

低下は外街だけではなく、アーコロジー内でも同じです。

 

アーコロジー内でグシモンドグループの影響力が強まったお陰で、多種多様なデータが自由に閲覧できるようになりました。

 

その結果、判明したのが深刻な出生率の低下ですわ。以前より(わたくし)も懸念はしていましたが、現実は想像よりも深刻な事態になっています。

 

このペースで出生率が低下し続ければ、後わずか三世代後には、現在の社会体制を維持出来ない程に人口は減ることになります。

 

苦肉の策として、他のアーコロジーとの合併という手段はありますが、他のアーコロジーなど政治的には敵性国家といえるほど関係性は劣悪です。

 

合併の際には酷い主導権争いは当然起こるでしょうし、合併後の混乱も考えれば実現は不可能に近いでしょう。

 

合併が不可能なら地道に出生率の向上を目指すしかありません。

 

「そういうわけで、【結婚相談所・モモンガ】を設立しました。我がグシモンドグループの社員にも未婚者が多いですから、社員割引が利く様にしときました」

 

「…………はい、いつもの如く聞いていなかった話ですが、未婚者の事は私も気になっていた件なので理解できます。社会情勢も少しずつ良くなっていますし、今まで無かった結婚相談所の設立は時流に乗った良い案だと思います」

 

「結婚相談所設立は案ではなく、もう登記も済ませて明日から営業が始まりますわ。事務所などの手配は(わたくし)の方で行いました。人員採用とその教育は、最初に一人だけ雇用した方が副所長として頑張って下さいましたけど、『所長はどこにいる!』と非常に立腹されているそうですわ。なんだか短気な方みたいですね。モモンガさんは所長ですからちゃんとその辺りも指導して下さいね」

 

「うぅ……どう聞いても酷い話のはずなのに、いつもよりお膳立てがきちんされているから今回は楽だな、と喜んでいる自分が滅茶苦茶悔しい。って言ってる場合じゃ無い! すぐに事務所に向かわなくちゃ!」

 

「はい、いってらっしゃい。帰る前には連絡をして下さいね、美味しい夕ご飯を作って待っていますからね、モモンガさん」

 

「くそうっ、やっぱり喜んでしまう自分が悔しいッ! とにかく行きます、夕ご飯は楽しみにしてます。じゃあ、行ってきます!」

 

飛ぶように事務所へと向かっていくモモンガさん。その後ろ姿は経営者というよりも社畜という言葉が良く似合いました。

 

 

 

 

現在、【公爵令嬢と煉獄の七姉妹】のギルド拠点を製作中です。

 

ナザリック大地下墳墓を再びギルド拠点にと考えもしましたが、あそこはやはり【アインズ・ウール・ゴウン】のギルド拠点です。【公爵令嬢と煉獄の七姉妹】のギルド拠点にするのは違うと考え直しました。

 

(わたくし)達の【公爵令嬢と煉獄の七姉妹】に相応しいギルド拠点は新しく製作する事にしました。

 

最初は外観を王城の様にしようかと考えましたが、公爵令嬢と王女は別物です。公爵令嬢が城に住むのはなんだか違います。

 

公爵令嬢が居住するのはやはり豪華な屋敷です。いわゆる豪邸です。城にしか見えない豪邸ですが、それでも城ではありません。

 

豪邸だけでは寂しいので、周囲には領民が住まう街も作ります。街を覆う様に壁も作ります。城塞都市というやつですね。城がなくても城塞都市と呼ぶのでしょうか?

 

ギルド間の争いが起こった時のため、城壁には砲台を設けましょう。見た目が格好良いです。

 

無人の街は物悲しいのでNPCを配置します。公爵令嬢が天使で堕天使なドラゴン娘のバードマンなので、住民も均等に四種族にしておきます。レベルは60から70にします。それぞれに家族を設定して配置しました。とても疲れました。

 

屋敷内には召使い達を配置します。執事にメイド、料理人に庭師、御者に下人などグシモンド公爵邸で働いていた者達を思い出しながら配置しました。レベルは70から80にします。執事長とメイド長はレベル100にしました。

 

ギルド防衛の主戦力としては、大きく分けて公爵令嬢を守る女性親衛隊、屋敷を守護する衛兵隊。街を守護する警邏隊。外敵と直接戦う領軍の四つに分けました。レベルは80から90です。隊長クラス以上にはレベル100を混ぜました。制服はそれぞれでデザインを変えました。どれも見た目が非常に格好良いです。女性親衛隊はエロ可愛いです。

 

NPCの外観などはイメージを伝えて、一流のプロにお願いして製作してもらいました。数が多すぎて過労死しかけましたが、追加料金を払ったら喜んでいました。

 

街を歩けば多種多様な人々が歩いています。職業も設定しているのでそれぞれのお店で働いています。子供の姿も見えますわ。

 

屋敷の者達も個性のある姿をしています。(わたくし)が記憶している現実の使用人達の姿形のイメージを伝えたので、どことなく見覚えのある者達が多くいます。完全に同じではないのが少し寂しいですけど、(わたくし)には絵心がありませんから仕方ないですね。

 

女性親衛隊は、(わたくし)の護衛をしていた男性の騎士達をTSさせました。騎士達は美形揃いだったので美女だらけになりました。

 

NPCに持たせる装備も準備します。ですが、かつての様に自分でヒイコラ言いながら素材集めなどはしません。無ければ買えば良いのです。

 

高レベルの装備やアイテムを無尽蔵の課金で爆買いします。課金ガチャで手に入る希少なアイテムなども忘れずに手に入れます。

 

着々と装備が充実していくNPC達。街に住む領民にも装備をさせて領民全員で領地を守る体制を整えます。

 

うふふ、(わたくし)が領地を歩くと領民達の視線を感じます。公爵邸ではメイド達が傅きます。傍には執事が控えています。

 

どこに行くにも女性親衛隊が付き従います。かつては鬱陶しく思ったものですが、今ではなんだか嬉しいですわ。

 

ここでふと思い出した事があります。ナザリック大地下墳墓を1500人規模で襲撃された事をです。NPCの数とレベルだけは課金によってかつてのナザリック大地下墳墓に匹敵……いいえ、超えていると自負しますが、いかんせんプレイヤーの人数が違います。NPCで対抗するにも限界があります。

 

グシモンド公爵領(ギルド拠点名ですわ)を1500人のプレイヤーに襲われれば陥落する恐れが非常に高いです。

 

(わたくし)は思案した結果、閃きました。そう、勝てなければ撤退すればいいのです。

 

戦略的撤退は決して恥ではありません。領主にとっての恥とは領民を守れない事です。

 

そこで(わたくし)は、グシモンド公爵領を飛行出来る様にしました。地面が抉れて半球体になりその上部に城塞都市が乗っかる形です。半球体の下半分にはイタチの最後っ屁をイメージして、多数の砲台がせり出し砲撃が出来るようにしました。砲台がせり出す際の振動で土が剥がれ落ちると下半分を覆う防御力の高いダークメタリックに輝く金属が露出します。無数の砲台が並ぶ見た目はSFチックで激烈に格好良いです。

 

上半分への攻撃も注意が必要です。半透明のドームがグシモンド公爵領を覆うようにしました。その結果、まん丸になりました。こちらは防御力重視です。半透明のドームは太陽光を反射して白銀に輝きます。猛烈に格好良いです。

 

ここで対空兵器がない事に気がつきました。NPCは全員が飛べるので盲点でしたね。戦略的撤退時にはNPC達を外に出しておくのは危険です。一目散に撤退しなければならない状況下だと回収する時間がないと予想されます。

 

公爵領から魔法を放てばいいだけでは? などという野暮な事は言わないで下さいね。おと……女には浪漫が必要なんです。

 

まん丸になった公爵領の周囲に七つの攻撃衛星を浮かべる事にしました。そうです、煉獄の七姉妹の居城を兼ねた攻撃衛星です。普段は銀色の球体の衛星ですが、戦闘時は巨大な砲台がせり出て針鼠のようになります。

 

本星である公爵領に侵入する為には、順番に煉獄の七姉妹が住まう攻撃衛星を攻略する必要があります。七姉妹は倒される寸前に本星に転移するシステムにします。公爵領攻略の最後は本星で公爵令嬢と煉獄の七姉妹の全員が待ち受けているわけです。攻撃衛星を無視して、本星にいきなり侵入しようとすれば謎の力で吹き飛ばされます。

 

これらのシステムを組むのは課金だけでは不可能だったので、株主優待の特典を使いました。拝金主義のクソ運営万歳ですわ。

 

おまけの機能で、本星の上部に巨大な(わたくし)の立体映像が現れるようにしました。本星にあるステージに立った(わたくし)の動きをリアルタイムでトレースしてくれます。音声もつきます。当然ですがスカートの中を覗こうとしても謎の光で見えませんよ。

 

 

 

 

ふよふよと大空を漂うグシモンド公爵領。周囲には七つの衛星が周っています。大空に愛された(わたくし)に相応しいギルド拠点ですわ。

 

「フリアーネ、あなた本当の本当に正気なの!?」

 

「…………(ショックで白目を剥いた)」

 

「姉さん、餡ころもっちもちさんが気絶しました!」

 

「ふ、フリアーネさん、お金は大丈夫なの? 破産とかしない?」

 

「流石はフリアーネ様でありんす。公爵邸などは本物そっくりでありんすね」

 

「大空に浮かぶ公爵領だなんてフリアーネ様にピッタリですね!」

 

「すごいです! フリアーネ様の拠点にこれ以上のものは考えられません!」

 

サプライズのため、ギルドメンバーには内緒で製作していたギルド拠点をお披露目しました。

 

うふふ、全員がとても驚いてくれました。サプライズ大成功です。

 

ぶいっ! ですわ。

 

 

 

 


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