オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の商社

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、華々しい社交界で持て囃された麗しの公爵令嬢でした。

 

今では、魑魅魍魎が蠢く経済界で孤軍奮闘する健気な美少女です。

 

ですが、安心して下さい。

 

(わたくし)には、世論という頼りになるのか、それともならないのか、よく分からない味方がいるのだから。

 

 

 

 

以前に嫌がらせをしてきた有力者の一人(警察の立入調査を仕掛けてきた方達の一人ですわ)が軍門に降りました。

 

この方が経営されていたのは、主に庶民向けの民生品を扱うお店です。

 

ですので、いつの間にか庶民に圧倒的な人気を誇るようになったグシモンドグループに敵対行為を行った。という噂は、その業績に多大な悪影響を及ぼしたのです。

 

凋落の兆しを見せた者を見逃すほど、この世界の有力者達は甘くはありません。

 

それまでは盟友とすら思っていた相手からも容赦なく攻められ、トップを誇っていた業界シェアを瞬く間に奪われていきます。

 

当然ながらグシモンドグループもその波に乗りますわ。グループ内の優秀な人間を集めて【グシモンド総合商社】の起業です。

 

件の有力者は、売上が低迷した分の損失を製品を製造していた会社に押し付けるため、その製品の仕入れ価格を非常識なほどに叩こうとしました。

 

製造会社は困りますが、アーコロジー内の固定化された市場では、製品を卸せる相手は他にいません。会社が傾きかねない値引きとなりますが、取引を中止をすれば確実に倒産します。

 

進むも地獄退くも地獄の状況下、颯爽と天使と見紛う美少女が現れたのです。

 

その美少女こそ誰あろうグシモンド総合商社会長であるこの(わたくし)ですわ。

 

突如として現れた天使な美少女にビックリ仰天な製造会社ですが、(わたくし)の話を聞いて再びビックリ仰天します。

 

なんと継続的に商品を卸して欲しいと言うのです。しかもその取引量は、卑劣な値引きを要求してきたクソ会社と同等量でした。

 

新規取引先の爆誕です。しかも、その相手は良い評判しか聞かないグシモンドグループなのですわ。

 

その製造会社は喜び勇んで了承しました。その勢いでクソ会社には取引中止を通告します。

 

そんなことを、幾つかの製造会社と繰り返しました。

 

ふと気付くと、クソ会社の倉庫は商品がほぼ空っぽ状態となっていました。

 

後日、クソ会社の経営者(眷属化済み)が、(わたくし)に頭を下げていても誰も不思議には思いませんでした。

 

めでたし、めでたしですわ。

 

 

 

 

グシモンド総合商社が全商品を提供している【雑貨店・モモンガ】(総合商社と同時期に設立した会社ですわ)は、非常に忙しいみたいですが、社長のモモンガさんが精力的に働いています。

 

アーコロジー内外を問わずに店舗展開をしているので人手不足気味ですが、どこかのクソ会社からヘッドハンティングをしているので少しずつマシになると思います。

 

それまで頑張って下さいね、モモンガさん。

 

 

 

 

ギルド名がやっと決まりました。

 

その名も【公爵令嬢と煉獄の七姉妹】です。

 

ギルドメンバーは、(わたくし)、お姉様、やまいこ様、餡ころもっちもち様、あけみちゃん、シャルティア、アウラ、マーレの総勢八名ですわ。

 

うふふ、そうです。とうとうお姉様がユグドラシルを始めました。それに伴いシャルティア達も参加ですわ。

 

あぁ、心配はいりませんよ。

 

ゲーム中の(わたくし)の体は、アウラのもふもふ軍団が守護しておりますわ。

 

ゲームインする時も、シャルティアを一番最初にインさせています。ゲームアウトの時は逆に一番最後ですわ。

 

イタズラ防止対策はバッチリです。

 

シャルティア達のアバターは、現実との違和感がない様にとそのままの設定で作成しました。

 

これは(骨の)モモンガさんが、ユグドラシル最終日に異世界転移した事を踏まえての処置ですわ。

 

この世界はパラレルワールドですから、同じように異世界転移するとは思えませんが、万が一の事を考えました。

 

それなら(わたくし)のアバターも普通の人間にした方が良いのでしょうけど、そこは特別性のアバターを使いたい(わたくし)の我儘ですね。

 

この件については、シャルティア達三人が誰も反対をされなかったので良しとします。

 

「フリアーネ様、マーレは男ですけど七姉妹で良いのでありんすか?」

 

「【公爵令嬢と煉獄の六姉妹、それと男の娘】では語呂が良くないので仕方ないですわ」

 

「も、申し訳ありません。フリアーネ様にお気を使わせてしまいました!」

 

「マーレ、こんな事で謝らなくてもよろしくてよ。(わたくし)は何も気にしていないもの」

 

「ほら、フリアーネ様がこう仰っているのよ。シャッキとしなさい」

 

「うん、ごめんね。お姉ちゃん」

 

「マーレは世話の焼ける子よね。私の真似をしてもいいからもう少ししっかりするでありんすよ」

 

「「「えっ?」」」

 

「えっ?」

 

 

 

 

普通の大根が目の前にあります。

 

そうです。なんとっ、マーレが汚染させた大地で普通の大根を育てたのですわ!!

 

これは農業における偉業ですわ。

 

「マーレ、良くやりましたね。(わたくし)はあなたを誇りに思いますわ」

 

「えらいよっ、マーレ! フリアーネ様に誇りに思うとまで言っていただけるだなんて、お姉ちゃん嬉しくて涙でてきちゃうよー!」

 

「フリアーネ様! 僕なんかに過分なお言葉を下さり本当にありがとうございます! お姉ちゃーん、僕うれしいよー!」

 

「マーレ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「あぁ、麗しい姉弟愛ですわ」

 

ヒシッと抱きしめ合う二人の姿に(わたくし)までもらい泣きしそうですわ。

 

「あのー、たかが大根でなにゆえにそこまで盛り上がれるでありんすか?」

 

「シャルティアは分かんないの!?」

 

「えぇと、普通の大根でありんしょう?」

 

「そうだよ、普通の大根なんだよ!」

 

「普通の?」

 

「そうっ、普通の!」

 

「……ちょっと失礼して――ボリボリ。ふむ、食べてみてもやっぱり普通の大根でありんす」

 

「そうよ、マーレが作ったのは普通の大根よ!」

 

「おチビ……フリアーネさま、降参でありんす」

 

「うふふ、アンデッドのシャルティアには理解しにくいでしょうけど、汚染された大地で普通の大根を収穫できるというのは凄い価値があるわ」

 

「これからは汚染されて放置されていた土地を使って普通に食べれる生の大根が作れるんだよ。これはシャルティアの『解毒の錠剤』並み、ううん食材だから薬の錠剤以上にバカ売れ間違いなしよ!」

 

「いゃゃゃやややあああああーーっ!?」

 

「どしたのシャルティア!?」

 

「わ、わたわたわたしの解毒の錠剤がッ、わたしのアイデンティティがぁぁぁあああッ!!……ガクッ」

 

「シャルティアが白目剥いて泡吹きながら倒れたー!?」

 

「お姉ちゃん、この負け犬は汚染されたドブ川に捨ててきたらいいかなぁ?」

 

「なに言ってんの、マーレ!?」

 

解毒の錠剤が、ここまでシャルティアの中で重要な存在になっていたとは思いませんでした。

 

ビックリですわ。

 

 

 

 


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