オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の栄光

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、バハルス帝国にて最高位の魔法詠唱者として君臨していた公爵令嬢です。

 

今では、第十位階魔法という魔道の極みに到達した、真の最高位の魔法詠唱者ですわ。

 

ですが、安心して下さい。

 

超位魔法を習得していない事に気付き、愕然としている(わたくし)に慢心する余裕などないのだから。……ぐすん、ですわ。

 

 

 

 

帰宅しました。誰も怪我なく無事ですわ。

 

そして、遂に第十位階魔法にも届きました。

 

けれど、それは喜ばしいのですが、超位魔法を習得する方法がない事に気づいてしまいました。

 

考えてもみれば、ユグドラシル時代はクラス・レベル等に応じて覚えられる魔法から選択して覚える簡単な方式です。超位魔法などの一部の魔法は習得条件を満たせば覚えられました。

 

それに対して、公爵令嬢の(わたくし)は、真面目に魔法理論を学び、魔力制御の修行を行い、呪文を覚え習熟して初めて魔法を使えるわけです。(その魔法に必要なレベルに達している事が魔法を使える条件です)

 

第十位階魔法までの魔法書は、幸いにも(骨の)モモンガさんに再会できたお陰で、ナザリック大地下墳墓の図書館から借りて学べました。(召喚魔法の魔法書だけは別の方法で手に入れていました)

 

超位魔法についての魔法書は図書館には置いていなかったのか、若しくは高位の魔法書を閲覧する事は、ある種の危険を伴いますから、当時の(わたくし)のレベルでは無理だと判断されて渡されなかったかの、どちらかなのでしょう。

 

はぁ、現在のユグドラシルは唯のゲームなので、本物の魔法書を手に入れることは出来ません。アバターで超位魔法を覚えても現実の(わたくし)は覚えられません。

 

残念ですが、(わたくし)が超位魔法を覚えることは不可能のようです。僅かな望みとしては、超位魔法を自分で開発することですが、それには魔法研究に生涯を捧げる覚悟がいるでしょう。

 

どこかの魔法狂いのジジイではあるまいし、そんな気にはなりませんわ。

 

(わたくし)には、魔法研究よりも優先する大切な事がありますもの。

 

 

 

 

お姉様の公認ファンクラブを結成しました。当然ですが、ファンクラブ会長はこの(わたくし)ですわ。

 

会員ナンバーは、栄光の1番です。

 

2番から4番までは、やまいこ様達ですわ。

 

5番以降は、会長であるこの(わたくし)が認めた者だけが入会できる安心なシステムです。

 

現在の会員数は、100名程です。もっと増やしたいところですが、いきなり大人数よりも徐々に会員数が増えていく方が、お姉様を応援していく上でより効果的だと判断しました。

 

だって、ファンクラブ結成直後にメンバーが大勢いたら、その大半がサクラだと思われて嫌ですもの。

 

今日は、お姉様とメンバー達とのファンクラブ結成記念交流会ですわ。

 

「あの……公認した記憶がないんだけど?」

 

お姉様の困惑した顔もチャーミングですわ。

 

「うふふ、ちゃんとお姉様が所属している声優事務所の社長に了承をいただいておりますわ。くんかくんか」

 

「え、そうなんだ……(あの社長(バカ)、勝手に了承しないでよ)」

 

社長さんはとても良い方でした。

 

万が一、その立場を利用して、お姉様に不埒な真似をする様なお方でしたら排除する予定でした。

 

ですが、実際には自分の声優事務所を大きくしたいという夢を持つだけの無害な方でした。

 

こんな世界でも夢を持てるというのは素晴らしいことです。しかもその夢が、お姉様の歩む道の一助になりそうな夢です。お姉様を応援するついでに援助をしても良いかもしれませんね。

 

「フリアーネさん、あの、その……」

 

「どうされました? くんかくんか」

 

「えっと、その、ね……」

 

「はい、なんでしょうか? くんかくんか」

 

「ど、どうして、その……私に抱きついて匂いを嗅いでいるの?」

 

どうして匂いを嗅ぐのか、ですか? なにか哲学的な答えを求められているのでしょうか? よく分かりませんのでシンプルに答えるとします。

 

「ここにお姉様がいるから、ですわ。くんかくんか」

 

「……そっか、そうだね。ここに私がいるから匂いが嗅げるんだもんね。うん、その通りだよね」

 

「うふふ、変なお姉様ですわ。くんかくんか」

 

「えへへ、そうだね。私が……変なの?」

 

──ぽかり。

 

「痛いですわ、やまいこ様。くんかくんか」

 

「君が悪いの! いくら大ファンだからって会うなり抱きついたまま、ずっと匂いを嗅ぎ続けるだなんて失礼すぎるだろ!」

 

「これは親愛表現ですわ。お姉様も嫌がってはいませんもの。ねっ、お姉様。くんかくんか」

 

「もういい加減に離れるんだ! うわッ!? 細いのに力が強いな!」

 

「いーやー、お姉様から引き離さないくださいー」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました」

 

「いや、こちらこそフリアーネが迷惑をかけて申し訳ないね。この子も根は悪い子じゃないんだ。できれば悪く思わないであげて欲しい」

 

「あ、はい。フリアーネさんが良い人なのは分かっていますから大丈夫ですよ。単にスキンシップが激しいだけですよね」

 

「うふふ、お姉様とのスキンシップが激しくなるのは仕方ない事ですわ」

 

「うんうん、その通りだね。姉妹はイチャイチャすべきだと思う」

 

「あけみちゃんとは気が合いますわ!」

 

「うんうん、フリアーネはもっと積極的でもいいと思う」

 

「そうですわよね! 自分でも思っていましたの、今までの(わたくし)は消極的すぎたかもって!」

 

「うんうん、頑張れ」

 

「はいっ、頑張りますわ!」

 

「こらっ、あけみは適当なこと言わないの! フリアーネも納得しない! それにあなた達は本当の姉妹じゃないよね!」

 

「お姉様とは魂の姉妹ですわ。その証に逢瀬を重ねるたびに魂の繋がりが強まっていくのを感じます。最早前世がどうとかは関係ありません。公爵令嬢な(わたくし)とお姉様は互いに求め合う比翼の鳥。無くてはならない連理の枝なのですわ」

 

「そ、そうなんだ。もう設定がよく分かんないけど。とにかく合意は必要だからね。無理矢理はただのセクハラだからね!」

 

「うふふ、大丈夫ですわ。(わたくし)達は相思相愛ですもの。ねっ、お姉様!」

 

「あ、あはは……そ、相思相愛はちょっと言い過ぎかなって、思うよ……なんてね」

 

 

 

 

「よかったー、フリアーネ様達があんなに楽しそうにされてるわ」

 

「フリアーネ様とぶくぶく茶釜様がこのまま仲を深められたら、僕達ともいつかお会いして下さるよね」

 

「うんうん、そうだね。お会いできたらいっぱいお話ししようね」

 

「うん、お姉ちゃん!」

 

「ねぇ、あなた達……ぶくぶく茶釜様といっても、この世界のあの方は、あなた方の創造主であらせられるぶくぶく茶釜様とは……その……」

 

「分かってるわよ、シャルティア。あの方が私達の知っているぶくぶく茶釜様とは別存在のぶくぶく茶釜様だってことはね」

 

「アウラ……」

 

「僕も分かっているよ。でも、それでもやっぱりこの世界のあの方にも……強く惹かれる……それに別存在だとしても、やっぱりあの方はぶくぶく茶釜様だもん。幸せになってほしい、です」

 

「マーレ……そうでありんすね、その気持ちは痛いほど分かりんす……」

 

「もう、シャルティア! そんな辛気臭い顔はやめてよね。あんたにそんな顔をされたら調子が狂っちゃうよ」

 

「おチビ……こほん、たしかにらしくなかったでありんす。ふふ、あなた達が心配しなくてもこの世界のぶくぶく茶釜様は幸せでありんすよ。なにしろ、フリアーネ様の寵愛を受けているんでありんすから!」

 

「そうだね。ほらフリアーネ様がまたぶくぶく茶釜様に抱きつかれた!」

 

「あっ!? またやまいこ様に殴られたよ!」

 

「大丈夫、餡ころもっちもち様が取りなして下さっているわ!」

 

 

「ふふ、たとえ世界は違えど、至高の御方達の仲良しな姿を拝見できて……わらわ達は本当に幸せ者でありんす」

 

 

 


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