オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の慈悲

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、帝国臣民を慈しむ聖女として慕われた慈愛溢れる公爵令嬢でした。

 

今では、自警団を名乗る愚連隊に信服され、困っているだけの美少女にすぎません。

 

ですが、安心して下さい。

 

下級層に属する愚連隊の方達から、上納金を納めさせることなどは、慈愛溢れるこの(わたくし)が決して許さないのだから。

 

 

 

 

あの日、星が降った日。それは、まるで……

 

まるで……夢の景色のように

 

美しい眺めでした。

 

 

 

 

「まさか本当にパーティー会場に隕石が降ってくるだなんて驚きですね。でも被害に遭われた方達にはお気の毒ですが、フリアーネ会長にお怪我がなくて本当に良かったですよ」

 

「モモンガさん、心配してもらいありがとうございます。本当にあの日は幸運でした。実はこの(わたくし)にセクハラをかましてきたクソ虫がいたから、思わず近くの花瓶で反射的に殴ってしまったの」

 

「な、殴ったッ!?」

 

「ええ、そうです。ですが、そのお陰で(わたくし)はパーティー会場を追い出されたので隕石の被害に全く合わずに済みましたわ」

 

「そ、それは本当に幸運でしたね」

 

「そうね。本当に幸いなことに殴った相手も目撃者も全員が隕石でペシャンコだから、警察に通報される心配もないものね」

 

「け、警察ですか。たしかに普通なら今ごろ警察に捕まっていたかもですね。……うん、本当に幸運でした。あんなクソ共のせいでフリアーネ会長が捕まらなくて本当によかった」

 

「あらあら、モモンガさんがそんな事を仰られるなんて。あの方達はそれ程に嫌な方達でしたのかしら?」

 

「……いえ、もう亡くなられた方達なので。それよりも、私がパーティーへの出席を頼んだせいで、フリアーネ会長には余計な危険を負わせてしまい申し訳ありませんでした」

 

「あらあら、自然災害の隕石の事なら誰にも予測など出来ないもの、モモンガさんがお気に病む必要などありませんわ。それでもどうしても気にすると仰るなら、(わたくし)の為、社員の為、何よりもご自身の為に職務をこれまで以上に頑張って頂ければそれでいいですわ」

 

「フリアーネ会長……はい、微力ながら粉骨砕身をもって職務に励んでいきます!」

 

「はい、頑張って下さいね。モモンガさん」

 

 

 

 

「フリアーネ様にセクハラを働くなど、なんて羨ま……じゃなくて万死を与えてもまだ足りないでありんす」

 

フンスフンスと怒りながら、(わたくし)を抱き締めているシャルティア。すっかり力加減が上手くなっているので、力一杯に抱き締めているように見えますが、全く苦しくはありません。

 

「そうだね、あんた(シャルティア)が言うな、とは思うけど、フリアーネ様のお尻を撫でた無礼者を、ただ殺すだけで許してあげるだなんて、フリアーネ様はお優しすぎですよ」

 

(わたくし)に抱きつくシャルティアに呆れた目を向けた後、アウラは仕方ないなぁ、という表情を(わたくし)に向けます。

 

「そうだ! 今からでも蘇生して、あらゆる苦しみを百年間かけて繰り返し繰り返し与えるとか、どうでしょうか?」

 

マーレがいい事を思いついた! という顔で言い出しました。いえいえ、そんな経験値稼ぎにもならないような無駄な事をする趣味はありませんよ。

 

(わたくし)への無礼は、その自らの死と、天使達に空輸便で運ばせた巨石での擬似隕石落下(メテオフォール)の実験の成功。これらにより許します」

 

この子達を放っておくと暴走するかもなので、(わたくし)の明確な言葉でこの一件の終了を宣言しました。

 

 

 

 

経営陣がまとめて天災死(隕石に潰されたそうです。怖いですね)された事が原因で、急速に業績を落とされ経営難に陥った会社を買い取りました。

 

食品会社だったその会社は、クソ不味い加工食品を製造されている会社です。

 

そんな会社など本来なら必要ありませんが、アウラの『ペットショップ・モモンガ』で販売するペットフードを製造する必要が出来たのです

 

そうです。ワンちゃんのご飯問題が勃発したのですわ。

 

ワンちゃんを購入したのは富裕層の方々のみですが、いくら富裕層といってもペットに食べさせるのは安い(クソ不味い)合成肉になります。

 

ワンちゃん達とテレパシーで会話が出来るアウラの下には、それこそ毎食毎に苦情が入っているそうです。

 

食べ物の恨みは恐ろしいとの言葉通り、ビーストテイマーのアウラですらワンちゃん達の不満は抑える事が難しいようです。

 

このままでは、ワンちゃん達がいつ飼い主をご飯にしてしまっても不思議ではないとの事です。

 

「ワンちゃんが飼い主を食べて、ここに戻ってくる。そうしたらまたワンちゃんを販売する。そしてワンちゃんがまた飼い主を食べて戻ってくる。そうしたらまたワンちゃんを販売する。……永遠に儲かる仕組み完成かしら!」

 

「おぉ! 流石はフリアーネ様でありんす!」

 

「僕も素晴らしいお考えだと思います!」

 

「シャルティア……マーレ……あんた達、正気なの?」

 

……どうやら、(わたくし)の冗談が通じたのはアウラだけだったようですね。下手な冗談は控えるようにします。ツッコミがないのは寂しいですし。

 

さて、ワンちゃん達のご飯事情を向上させるために調査したところ。世間一般で流通している合成食料がクソ不味い原因は、製造上の避けられない問題ではなく、ただのコスト削減の所為でした。

 

合成食料に含まれるカロリーと栄養素だけは、労働力維持に直結するためルールが定められていますが、その味付けに関しては無駄な経費だと思われ、各社の経営陣に無視されていました。

 

確かに経営陣は富裕層なので、クソ不味い合成食料など食べないから仕方ない話ですね。といって終われる話ではありません。前世でクソ不味い合成食料を死ぬまで食わされた恨みを思い出したわけではありませんが、ワンちゃんご飯問題を解決しなければなりません。

 

最も解決方法は簡単です。経費がかかる事さえ考慮しなければ、美味しいと感じる味付けをする事など技術的には簡単だからです。

 

流石に商品会社を一から作るのは面倒でしたので、丁度良いタイミングで経営難に陥っていた商品会社を買い取った、というわけですわ。

 

本来ならペットフードだけに味付けをして販売しようと考えていたのですが、どうやら指示をした(わたくし)の言葉足らずだった様で、全ての合成食料に味付けされる事になっていました。

 

「フリアーネ会長ありがとうございます!! 社員一同、心から感謝致します!! これで胸を張って食品会社の、いいえ『グシモンド食品会社』の社員だと名乗れます!!」

 

今まで、クソ不味い合成食料を作っていた会社だと、世間から後ろ指を指されていた社員達から激烈に感謝されてしまいました。

 

この空気の中、「ペット用だけ」などと言い出すのは、慈悲深い公爵令嬢には無理ですわ。

 

それに(わたくし)としては、ワンちゃんご飯問題さえ解決すれば満足ですから『グシモンド食品会社』の利益が多少落ちても問題はありません。

 

細かい話は、新社長のモモンガさんに一任しますわ。うふふ、粉骨砕身にて職務に励んで下さいね。

 

「…………が、頑張ります」

 

 

 

 

なぜか、自警団の名称が『グシモンド親衛隊』に変更されていました。

 

何故でしょう?

 

 

 

 


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