オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の親心

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、庶民らの尊敬の眼差しを一身に浴びる、高貴なる公爵令嬢でした。

 

今では、成り上がり者と蔑みの眼差しを向けられる、憐れで成金な美少女です。

 

ですが、安心して下さい。

 

(わたくし)は、ユグドラシルのオークションでワールドアイテムを手に入れて超ご機嫌だからです。

 

「フリアーネ会長ッ!! 会社の資金をユグドラシルにつぎ込むのはやめて下さいッ!!」

 

「うるさいですよ、モモンガさん」

 

 

 

 

グシモンド製薬会社を守る自警団が出来ました。

 

いえいえ、グシモンド製薬会社とは資金的に無関係な団体ですわ。

 

それというのも、グシモンド製薬会社の主力製品は、下級層でも買える良心的な値段設定である毒治癒の錠剤です。その為、グシモンド製薬会社自体の認知度も高かったそうです。

 

そして今回の襲撃犯は下級層の方でした。これまでは下級層に配慮していたグシモンド製薬会社の方針が変更されたしても不思議ではない出来事でしょう。

 

ここで立ち上がったのが、グシモンド製薬会社に好意を持っていた下級層の男です。彼がリーダーとなり、今回のような襲撃を防止する為の自警団を結成したそうです。

 

実際にそのような素人集団の自警団が必要かと問われれば、決して必要だとは答えられませんが、庶民の好意を無下には出来ない公爵令嬢な(わたくし)です。

 

一応、自警団のリーダーさんには御礼を言っておきました。いわゆる厨二病チックな言動をされる方でしたね。なんでも最近、《ランジェリーショップ・モモンガ》で働き始めたそうです。モモンガさんとは気が合いそうな方ですね。……どこかで見たような容貌だったのですが、思い出せないです。他人の空似でしょうか?

 

一応、襲撃事件の事はこれで良しとします。あとは……ワンちゃん問題が残っています。

 

大きなワンちゃんが、(わたくし)を襲った犯人を咥えてブンブンと振り回す姿は可愛らしかったです。

 

目撃者達の悲鳴が良いBGMでしたわ。

 

警察には即座に箝口令を敷いたので問題はありません。ですが……

 

ハァ、まさか噂を聞きつけた富裕層から、大きくて可愛いワンちゃんをペットとして販売して欲しい。などという要望が殺到するだなんて思いもしませんでした。

 

幸いにも、ワンちゃんは番いでアウラの配下となられていたので、アウラにはブリーダーとして活躍してもらいましょう。

 

それにしても、ワンちゃんをペットとして欲しいですか……あのワンちゃん。見た目は可愛いですけど、種族はフェンリルですよ。

 

富裕層の方達は、普通の人間なのに怖くはないのでしょうか?

 

普通に人肉を食べますよ?

 

 

 

 

やまいこ様達とのオフ会は、月一ペースで開催しております。

 

ユグドラシルでは毎日のように会っていますが、リアルでまで毎日会うのは難しいです。

 

いえ、(わたくし)なら毎日でも大丈夫なのですが、やまいこ様達にはお仕事があり時間がないそうです。

 

全く、社会人は大変ですね。

 

毎日が日曜日な(わたくし)としては、日々忙しく労働に勤しむ方々には尊敬の念を抱くばかりですわ。

 

ビバ! 自宅警備員な(わたくし)

 

「フリアーネ会長、寝言は寝てから言って下さい。まったく、日常業務をしてほしいとは(もう諦めたので)言いませんが、せめて取引先の偉いさんとの付き合いはお願い出来ませんか?」

 

「この(わたくし)に、たかが民間企業の幹部如き下郎の面倒をみろと言われるのですか、モモンガさん?」

 

「げ、下郎って、リアルでそんな言葉初めて聞きましたよ」

 

「おーほほほほ、いと尊き血統を誇る公爵令嬢な(わたくし)にとっては、世界に遍く庶民などその全てが見下ろす存在ですわ」

 

「はいはい、それでは来週に予定されているパーティーはお任せしますよ。私ではとてもではありませんが、マナー的にも無理がありますからね」

 

「あらあら、このような粗野な文明圏の方々でもパーティーのような華やかな文化をお持ちでしたのね」

 

「はいはい、そうですね。私もビックリですよ。それでですね、パーティーの出席者はこの粗野で乱暴な文明圏出身者の名に相応しい馬鹿者が多いですが、ちょっとぐらいの事で切れて暴言を吐いたりしないで下さいね」

 

「まあまあ、(わたくし)のような絵に描いたような大和撫子を捕まえてその様な心配は徒労でしてよ。そのような心配をされるぐらいでしたら、明日、太陽が落ちてこないか? とかを心配された方がまだ現実的ですわ」

 

「はいはい、そうですね。それでは明日は流星群が降ってこないかの心配でもしておきます。フリアーネ会長は心置きなくパーティーを楽しんで来て下さい」

 

「うふふ、仕方ありませんね。それでは、かつてはパーティー会場の『鮮血の薔薇』とまで呼ばれ恐怖されたこの(わたくし)の艶姿を、憐れな下郎共に恵んで来て上げますわ」

 

「はいはい、そうですね。フリアーネ会長が好む赤いドレスはパーティー会場でも目立つ……え? 鮮血ってえらく不穏な響きを感じるんですけど?」

 

「おーほほほほ、安心して下さい。我が身を彩る鮮血は全て返り血ですわ。この(わたくし)の玉のお肌には傷ひとつ付けさせた事はありませんわよ」

 

「何を安心すればいいのか分からないッ!?」

 

「あらあら、心配症なんですね、モモンガさん」

 

 

 

 

「フリアーネ様、こんなに産まれましたよ!」

 

「へえ、ワンちゃんって、一度に赤ちゃんをこんなにたくさん産むのね」

 

「えへへー、餌と環境をちょっと工夫して普通より数を増やしているんですよー」

 

「まあ、アウラは勉強家で努力家なのね。えらいわねー、うりうりー」

 

「きゃー、髪の毛がくしゃくしゃになっちゃいますー」

 

ほわー、アウラと戯れるのが一番心が安らぎますわ。

 

いえいえ、他の子達も可愛いですよ?

 

だけど、ふと目を向けたとき、瞳の奥に狂気の光を宿している時があるマーレ。そして、ふと目を逸らした隙に、周囲を灰燼と化しそうなシャルティア。そんな子達と比べたら、いつもニコニコなアウラの癒し度は桁違いですわ。

 

もっとも、妖刀や魔剣の類いが持つ魅力と、モフモフが持つ癒しの魅力を比べているようなものです。意味のない比較ですね。

 

それに、もしも(わたくし)が男でしたら、嫁にするのはアウラではなく、間違いなくシャルティアでした。

 

だけど、残念ながら今の(わたくし)は女の子なので、シャルティアと結ばれることはありません。ええ、決して身を許すことはありませんわ。

 

……だって、色々と開発はされたくはありませんもの。(シャルティアの性癖は酷すぎます。責任者出てこい! と、言いたいレベルですわ)

 

さて、このような話よりもワンちゃんです。

 

アウラのブリーダーとしての実力は確かなものですわ。これなら『ペットショップ・モモンガ』を開店できますね。

 

うふふ、これで、シャルティアの『グシモンド製薬会社』、マーレが看板(男の)娘として繁盛させている『ランジェリーショップ・モモンガ』、そして、アウラがブリーダーを務める『ペットショップ・モモンガ』の三社が揃ったわけですね。

 

(わたくし)の可愛い子達が、立派に社会人として働いているのを見られるだなんて感無量ですわ。

 

親の背を見て子は育つと言いますが、(わたくし)という偉大すぎる親の背のプレッシャーに負けずに、可愛いあの子達が頑張ってくれていて本当に嬉しいですわ。

 

きっと、(わたくし)の教育の賜物ですわね。

 

「おーほほほほ、モモンガさんも将来、人の親になられたときには、(わたくし)を手本としてもよろしくてよ」

 

「フリアーネ会長、だから寝言は寝てから……ちょっと待って下さい!? 『ペットショップ・モモンガ』って何なんですかーッ!!」

 

 

 

 


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