オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の友情

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、裕福な公爵家で、蝶よ花よと何不自由なく育てられた深窓の公爵令嬢でした。

 

それが今では、中小企業を見事に采配する敏腕経営者にまで身を落としてしまいました。

 

忙しく働く中、何もせずとも労働者達から搾取できたかつての自分が恋しくて、枕を涙で濡らす夜もあります。

 

ですが、心配はいりません。

 

汚泥に咲く花もある。その言葉通り、(わたくし)はこの様な過酷な環境でも、美しく大輪の花を咲かせているのですから。

 

 

 

 

爆乳問題が発生しました。

 

いえ、冗談を言っているわけではありません。

 

マーレが開発した豊胸薬が効きすぎたのです。

 

治験薬段階では問題はありませんでした。ですが、実際に発売された豊胸薬を使用された女性達(一部、男性含む)が爆乳になられたのです。

 

爆乳なら問題ないだろって、思われるかもしれませんが、巨乳ではなく爆乳なのです。

 

アニメの中なら自分の頭より大きな爆乳の持ち主など、それこそ掃いて捨てるほどおります。

 

ですが、現実世界ではそこまでの爆乳の持ち主などごく僅かです。今、世間ではデモ行進が起っても不思議ではない程の騒動となっています。

 

「うぅ、申し訳ありません。フリアーネ様……」

 

豊胸薬を開発したマーレが青い顔で土下座をしています。問題発生当初は自害をして赦しを請おうとしたので心配です。

 

「マーレ、(わたくし)は怒ってなどいませんわ。治験では問題はなかったのですから、この様な事態が起こるなど(わたくし)ですら予想さえ出来なかったもの」

 

「そうだよ、マーレ。フリアーネ様はお許しになられたんだからね。いつまでもそんな感じだと逆にフリアーネ様に不敬だよ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「そうね、マーレにしたら頑張った方なのだから仕方ないでありんす。治験薬を投与した被験者が薬への抵抗力が強い吸血鬼だけだった。というのは、流石におマヌケが過ぎると思うでありんすが、そこはマーレがお子様特有の視野狭窄だったと諦めて、これからの未来に期待を込めて許してあげんしょう」

 

「シャルティアッ!!」

 

「うわーん!! ごめんなさいフリアーネ様ーッ!!」

 

そうなのです。言い方は感心しませんが、シャルティアが言ったとおり、吸血鬼相手に治験を繰り返して完成させた豊胸薬は、人間相手では効果が高すぎました。

 

「フリアーネさん! 爆乳になったせいで胸に合うブラジャーが無くなったという苦情が止まらないです! どうしたら良いのでしょうか!?」

 

マーレ以上に青い顔になっているのは、社長であり、そしてクレーム対応の責任者でもあるモモンガさんです。

 

まったく、これで社長だというのだから頼りになりませんね。ここは会長である(わたくし)の出番のようです。

 

 

「おーほほほほ、この程度で騒ぐだなんてお里が知れますわよ。全てはこの(わたくし)に任せておきなさい。速攻で片をつけて差し上げますわ」

 

バシッと言い放つ(わたくし)に尊敬の眼差しを向ける(わたくし)の可愛い子達。

 

そして、それに反して、一人だけ疑いの眼差しを向けてくるモモンガさん。

 

うふふ、そのような眼差しを向けたこと、きっと後悔しますわよ、モモンガさん。

 

 

 

 

前世では、お姉様が演られているエロゲー関係には関わらないようにしていました。

 

ですが、今世では血の繋がりはないわけです。

 

つまり、お姉様のエロゲー関係に手を出しても合法です。

 

いいえ、売上協力だと思えばむしろ手を出しまくる事がお姉様の為になります。

 

要するに、お姉様のエロい◯ぎ声を……(わたくし)は、聞いても良いのでしょうか?

 

「そこはどう思われます? やまいこ様」

 

「ダメに決まっているだろ。君はまだ未成年なんだから」

 

「未成年……そんな概念がまだ残っているのかしら?」

 

「残っているよ! 誰がなんと言おうと残っているんだ! 未成年は守られるべき存在なんだよ!」

 

「うふふ、流石は教師というべきですね。……ところで、女教師物なら合法でしょうか?」

 

「うんうん、そっか。フリアーネは鉄拳制裁を受けたいようだね」

 

「じょ、冗談ですわ。お嬢様ジョークというやつですわ」

 

「そんな冗談を言うお嬢様って嫌なんだけど」

 

「うふふ、現在のお嬢様界ではエロトークがトレンドでしてよ」

 

「いや、絶対ウソだろ」

 

 

 

 

お店を買いました。

 

お店の経営者だった店長さん(もちろん、眷属化済みですわ)は、そのまま店員さんになりました。

 

「おーほほほほ、新装開店直後から満員御礼でしてよ。ほらほら、マーレ達も手伝いに行きなさい」

 

「はいッ、フリアーネ様! 行くよ、マーレ!」

 

「うん、お姉ちゃん。それじゃあ、行ってきます、フリアーネ様!」

 

「それでは私も手伝いに行きんしょう」

 

「……いえ、シャルティアまで行っては寂しいので、シャルティアはこのまま(わたくし)に侍っていなさい」

 

「あぁ、そのお言葉嬉しいでありんす!」

 

短気なシャルティアに接客をさせる勇気は出ません。嫌な客の暴言にカッとなったシャルティアが、その客をボンッとする未来が見えてしまいます。

 

あぁ、許して下さい、シャルティア。(わたくし)の言葉を素直に受け取ってニコニコ顔でクンカクンカしてくるシャルティアの姿に(わたくし)の良心がズキズキと……あら、痛みませんね。

 

「フリアーネさん……いえ、フリアーネ会長。今回は助かりました。引っ切りなしにあったクレームが急激に減りました。この分なら数日中には完全に収まりそうです」

 

「うふふ、モモンガさん。礼など不要ですわ。モモンガさんは確かに社長ですが、(わたくし)は会長ですもの。会社の問題は(わたくし)の問題でもあります」

 

「ふ、フリアーネ会長! わ、私は会長の事を誤解していました! 毎日毎日遊び倒す事しか興味がないダメ人間だってずっと誤解を…」

 

「モモンガさんの目にはその様に映っていたのですね。少し残念ですわ。(わたくし)は一見遊んでいたように見えたかも知れませんが、市場調査を行っていたのですよ」

 

「し、市場調査ですか?」

 

「現在の固定化された市場で、ずっと働いていたモモンガさんには分かりにくいでしょうが、客が求めるものは本来は流動的なものですわ」

 

「そうなんですか?」

 

「限られた物資しか流通しないアーコロジーの外街では不要な考え方でしたが、これからは違いますよ。(わたくし)の……いえ、モモンガさんの会社がこれからは様々な商品を販売致します」

 

「俺の会社が……」

 

「今回は爆乳になられて困られていた大勢の客のニーズを捉えて、お洒落で可愛い爆乳専用ブラジャーの製造販売を行いました。つまり、市場調査により客のニーズを的確に捉えて、それを商機へと繋げたわけです」

 

「あの、客のニーズといっても爆乳問題はうちの会社が発生させ…」

 

(わたくし)のお小遣いで買ったお店とは関係ない話をしないで下さい。(わたくし)のお店『ランジェリーショップ・モモンガ』は、グシモンド製薬会社とは資本関係のない清廉潔白なお店ですわ」

 

「ランジェリーショップモモンガッ!? そんなの聞いてないんですけどッ!?」

 

「おーほほほほ、今回の件で『ランジェリーショップ・モモンガ』の売上が前年比1000%を超えそうな勢いですわ。頑張って下さいね、新店長のモモンガさん」

 

「新店長って、それも初耳なんですけどーッ!?」

 

この(わたくし)に無礼な目を向けた報復が、優良店の新店長の座なのですから泣いて喜んでもよろしくてよ、モモンガさん。

 

おーほほほほ、我ながら優しすぎですわよね。

 

でも、前世からの親友ですからね。これぐらいは良しと致しますわ。

 

ねっ、モモンガさん。

 

 


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