オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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公爵令嬢の野望

 

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

かつては、強大な帝国にて、自由気ままに権力を行使できた麗しの公爵令嬢でした。

 

盛者必衰の理とは言いますが、今ではささやかな零細企業で、ワンマン経営が精一杯な無力な小娘にまで落ちぶれてしまいました。

 

けれど、心配などはいりませんわ。

 

たとえこの身が汚泥に塗れようとも、(わたくし)は《ノブレス・オブリージュ》を魂に刻まれた誇り高き公爵令嬢なのですから。

 

 

 

 

グシモンド製薬会社を設立しました。

 

当然ながらトップの会長は、この(わたくし)ですわ。

 

社長には、私の可愛い子達(シャルティア、アウラ、マーレ)ではなく、超ブラック企業で教育された使い勝手のいい社チ…ではなく、意外と優秀な会社員のモモンガさんを大抜擢しました。

 

超ブラック企業に乗り込んで、モモンガさんの上司さん(眷属化済み)に、この(わたくし)自らの手で、バーンと退職届を叩きつけてあげた時のモモンガさんの顔はとても愉快そうでしたわ。

 

グシモンド製薬会社の将来性は抜群ですからね。勧誘した当初こそは渋っていたモモンガさんですが、会社説明をきいた途端、逆に社長就任に怖気ついた程でしたわ。

 

大丈夫ですよ、モモンガさん。

 

異世界とはいえモモンガさんは魔王を見事に務められたのです。未来の大企業の社長なんて楽勝ですわ。

 

もっとも、骨のモモンガさんではなく、人のモモンガさんはまだまだお若いので、それ相応の苦労はあるかもですが。

 

まあ、モモンガさんなら何とかしてくれると信じています。

 

うふふ、信じるって、良い言葉ですわよね。

 

それに、(わたくし)以外の普通の人間は、モモンガさんしかいませんからね。

 

アンデッドのシャルティアは当然として、人間種とはいえダークエルフのアウラとマーレも個人としては目立たない方が無難です。

 

なんと言っても、今期のネット売上ナンバーワンの大注目企業ですからね。

 

それに製薬会社として正式認可を受けるときにも、シャルティアが眷属にした関係者達が強引な真似をして目立ってしまいました。

 

現時点で、これ以上目立つのは危険だと考えます。モモンガさんを数に含めてもまだ総勢五名(眷属を含めたら約二千人)の弱小勢力です。雌伏の時ですわ。

 

「とはいえ、この世界に(わたくし)の名を刻むための記念すべき第一歩ですわ。さあ、(わたくし)の可愛い貴方達、遠慮せずに称賛してもよろしくてよ」

 

「あぁ、フリアーネ様のドヤ顔はいつ見ても蕩けそうになるでありんす」

 

「えっと、お姉ちゃん、フリアーネ様が弱小勢力って、何かの暗喩なのかな?」

 

「うーん、そうだね。多分だけど、フリアーネ様は暴力による支配はする気はないって事を明言されているんだと思うよ。えーと、確かケイザイ力と仰っていたかな? つまりお金による支配をされる気なんだと思うよ。お金だけで考えればまだまだこの世界では弱小勢力なんだろうね」

 

「お金……シャルティアが作っている薬が売れているから、お金がいっぱい手に入ったんだよね」

 

「そうだね。シャルティアが稼いだお金で会社が設立できるって、フリアーネ様がお喜びになられていたわよね。だから会社での立場は、あたし達よりシャルティアの方が上にしてもらえるって、シャルティアの奴ウザいほど自慢してたよね」

 

「うー、僕も薬を作る!」

 

「あはは、そう言うと思ったよ。それで、何の薬を作るつもりなの?」

 

「豊胸薬!!」

 

「ぷッ、あはははッ!! それいいよね! それでお金を稼いだらシャルティアを見返せるよね!」

 

「うん! あの運が良かっただけの有頂天の絶壁のペッタンに、誰が一番フリアーネ様の役に立つが思い知らせてあげるよ!!」

 

「えっと、マーレ? 少し口が悪くなってない? シャルティアも調子に乗っているかもだけど大事な仲間だからね?」

 

「うん、分かっているよお姉ちゃん。シャルティアが素直に負けを認めれば、完成した豊胸薬を分けてあげるつもりだからね!」

 

「……ホントに分かってる?」

 

 

 

 

 

「フリアーネさん、いつも応援ありがとうございます。そして、本日は御食事のご招待ありがとうございます」

 

「うふふ、そのような堅苦しい話し方はおやめになって欲しいですわ。(わたくし)にとって貴女は憧れの人なのですから、そう、もっとざっくばらんな感じでお願いしたいですわ。そうですわね、例えるなら実のオトウ……いえ、実の妹を相手にしているような感じが理想的ですわね」

 

「ざ、ざっくばらんな話し方ですか? そう仰っているフリアーネさんの方が丁寧な話し方だと思いますよ」

 

「あら、ごめんなさいね。(わたくし)の場合は育成上の制約がありますから、この話し方がデフォルトになりますの。それに(わたくし)のこの外見で今どきの若い娘のような話し方だと違和感を感じませんか?」

 

「確かにフリアーネさんは見るからに上流階級のお嬢様ですよね。そんなフリアーネさんが若者言葉で喋られたら違和感ありまくりですね。(育成上の制約って何かな?)」

 

「うふふ、そうでしょう。まあ、話し方のことは追々ということで良いとして、早速レストランに向かいましょう」

 

「あの、わざわざ自宅まで迎えに来ていただいて本当にありがとうございます」

 

「いえいえ、ただのファンである(わたくし)と食事を共にしていただけるのだから迎えぐらい当然ですわ。さあ、お乗りになって下さいまし」

 

「……恐縮です」

 

そこそこに、社会的成功を収めつつある(わたくし)は、日頃からのファン活動が功を奏し、ついに念願であった(前世での)お姉様との食事の約束を取り付ける事に成功致しました。

 

眷属が経営するタクシー会社が持つ高級車(運転手も眷属ですわ)で、お姉様の自宅(前世での我が家です。懐かしくて目が潤みそうですわ)に迎えに来ました。

 

不思議とお姉様の方も緊張気味ですが、これからが勝負時なので(わたくし)も緊張しています。

 

さあ、これよりお姉様攻略作戦の始まりですわ!!

 

この攻略作戦には、アウラとマーレも全面的に賛成してくれています。

 

作成会議における意気込みは(わたくし)以上でした。……シャルティアは余り興味がないのか、いつもの如く(わたくし)に抱きついてクンカクンカしていましたが。

 

「うふふ、今日はたっぷりと楽しんでもらえるように色々と考えてきましたから期待していて下さいね」

 

「い、色々ですか? す、少し怖い……い、いえ、

それは楽しみですね」

 

お姉様の手を握りながら車に乗り込みます。その際に近付いたお姉様からふわりと良い香りが漂ってきました。

 

……シャルティアの気持ちが分かります。今すぐにも抱きついてクンカクンカしたいですわ。

 

ですが、それはダメです。

 

今はまだ好感度が足りません。

 

ここはゲーム世界ではなく現実の世界なのです。選択肢に失敗したからといってやり直し(ゲームロード)は出来ません。

 

前世では喧嘩の絶えない姉弟ではありましたが、死ぬまで仲が良い姉弟でもありました。

 

願わくば、今世でも仲良くありたいと思います。ククク、いつか仲良し姉妹としてキャッキャウフフ出来る日が待ち遠しいですわ。

 

あら、繋いだお姉様の手が微かに震えているのは何故でしょう? もしかしてお寒いのかしら?

 

ハッ!?

 

これは合法的に抱き締められるチャンス!?

 

お姉様!! (わたくし)が抱き締めて暖めて差し上げますわ!!

 

 

 

 

モモンガさんがユグドラシルをお辞めになってしまいました。

 

なんでも社長業が忙しくて時間の都合がつかないそうです。

 

まったく、この(わたくし)は立派に会長業をこなしながらもユグドラシルを楽しんでいるというのに、モモンガさんはダメダメな殿方ですね。

 

「いや本当に忙しんですよ! そりゃあ、私だってユグドラシルは続けたかったですよ。でも会長のフリアーネさんは遊んでばっかだし、シャルティアさん達は新薬開発以外は興味無さげだし、何故か関係会社や当局の担当者達が不気味なほど協力的だから何とかなっていますけどね。本当に限界ギリギリでやっているんですってば!」

 

まったく、男の言い訳は見苦しいですわね。

 

アインズ・ウール・ゴウンの結成すらしない内にギルドマスターが引退だなんて笑い話にもなりませんわ。

 

ふむ、こうなったらいっそのこと、この(わたくし)がギルドマスターになって新たなギルドを結成しようかしら?

 

やまいこ様達を誘って、折角だから女性だけのギルドとか作れば面白そうですわ。

 

ギルド名は、《公爵令嬢と百合の花》などは如何かしら? 一度集まって相談をする必要がありますね。

 

……この機会にお姉様もユグドラシルに誘おうかしら?

 

 

 

 

ギルド名、《公爵令嬢と百合の花》は却下されました。

 

非常に残念です。

 

 

 

 

 

 


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