オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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復活の「F」(フリアーネ)です!
ふと気が向いたので公爵令嬢の続きを書いてみました。たぶん皆様方の想定外ルートだと思います。


公爵令嬢の消失

(わたくし)はフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドと申します。

 

バハルス帝国のグシモンド公爵家の次期当主にして、帝国随一の聖女だと自負しております。

 

そんな(わたくし)が、この度とんでもない災厄に見舞われました。

 

いえ、病気とか事故などではありませんのでその点はご安心下さい。

 

ただ、女の嫉妬を甘く見すぎていただけなのです。

 

あの女──おっぱいの大きな女悪魔が、モモンガさんと(わたくし)との仲を邪推して嫉妬していたことは承知しておりました。

 

それゆえ、もしも刃傷沙汰になってもこの身を守れるようにと護衛もつけておりました。

 

たとえあの女悪魔がどのような悪辣な手段を用いても、この(わたくし)に手出しすることは不可能な筈でした。

 

それがまさかあの様な手段を取られるとは……まさに一生の不覚です。

 

 

〜回想、始まりますわ〜

 

 

公爵家の中庭でお茶を飲んでいた(わたくし)の前に突然転移してきたおっぱいの大きな女悪魔。

 

彼女は隠しきれない憎悪を剥き出しにしておりました。

 

「フリアーネ様――いいえ、ペロロンチーノ様。もしも貴方様が男性として転生されていたのなら、きっとモモンガ様の良きご友人として、私も忠誠を捧げることが出来たのだと思いますわ。ですが、貴方様は女性として生まれてきてしまった。その忌々しい穢れた肉体でモモンガ様を誘惑するなど、たとえモモンガ様が許されてもこの私が許しませんわ。その不浄の身の一片たりともこの世に存在させませんゆえ、どうぞお覚悟をなさいませ」

 

おっぱいの大きな女悪魔の突然の宣戦布告でしたが、(わたくし)には焦りなどは全くありませんでした。

 

もちろん、(わたくし)個人の戦闘能力では彼女に太刀打ちなど出来ませんわ。恐らくは腹パン一発で(わたくし)のぽんぽんは破裂することでしょう。

 

それでも、(わたくし)には余裕がありました。

 

何故なら──

 

「アルベド、あんた正気なわけ?」

 

「お姉ちゃん、もうアルベドは殺しちゃってもいいよね?」

 

「うふふ、フリアーネ様に手出しをしようだなんて、とうとう狂ったでありんすね――この腐れアマがぁ!! その身体をズタズタに切り裂いて豚の餌にしてやるよ!!」

 

── (わたくし)にはとても頼りになる護衛がいるのですから。

 

おっぱいの大きな女悪魔はレベル100という文字通りの化け物ですが、(わたくし)の護衛のお三方も同等の化け物です。

 

いいえ、戦闘力でいうならナザリックの強さランキングNo. 1とNo.2のシャルティアとマーレがこちらにいます。アウラは直接戦闘力こそ劣りますが、ビーストマスターである彼女は群としての戦闘にて他の守護者を圧倒します。

 

それに対して、おっぱいの大きな女悪魔は防御特化です。(わたくし)だけを相手にするなら過剰戦力ですが、護衛の三人を同時に相手できる程ではありません。

 

防御特化ゆえにある程度は持ち堪えることは出来るでしょうが、結局は倒れるまでの時間が長引くだけです。

 

今回の様な護衛を突破して標的を仕留める必要がある場合には意味がありません。

 

彼女は無謀な勝負に出て倒されるだけの愚かな女でしかありません。

 

そのはずです。

 

それなのにどうして──

 

「ウフフ…♪」

 

──彼女は笑えるのでしょうか?

 

「なに笑ってんのさ。あんた本気で狂ってんの?」

 

笑い続ける彼女にアウラが怪訝そうに問いかけます。

 

「あらあら、私は正気よ。単に邪魔者が消え去ることが嬉しいだけだもの」

 

ドス黒い光が宿った瞳が(わたくし)を見つめています。彼女から叩きつけられる邪気で呼吸が止まりそうになります。

 

これは非常に不味いです。

 

本気でチビりそうですわ。

 

「消え去るのはお前だっ!! このクソビッチ!!」

 

(わたくし)が乙女としての窮地に陥っていると護衛のシャルティアが動いてくれました。

 

おっぱいの大きな女悪魔に突撃するシャルティアは、変な形の槍を手にしています。なんだか見覚えがありますが、流石に前世でのゲームの記憶は詳細が曖昧になっています。

 

(わたくし)がシャルティアに作ってあげた武器だったはずですが、その名前が出てきません。

 

「シャルティア、いいのかしら? 貴女の大事な人から離れたりして。どうなっても知らないわよ」

 

「なんだと!?」

 

おっぱいの大きな女悪魔の言葉にシャルティアは一旦距離を取ると、一瞬だけアウラに視線を向けました。

 

「アウラ!!」

 

「分かっているわ!」

 

シャルティアの言葉にすぐさま答えたアウラは、(わたくし)の身を抱えるとその場を大きく飛び退きました。そして着地と同時に多数の魔獣を召喚すると周囲を警戒させます。

 

マーレは(わたくし)達全員を視界に収められる場所に移動しています。きっと何か起こっても対応できる様にしているのでしょう。

 

「何を考えている、大口ゴリラ!!」

 

距離をとったシャルティアがおっぱいの大きな女悪魔に怒鳴ります。

 

「残念ね、シャルティア。先ほどのタイミングで攻撃をし続ければ押し切れたかも知れなかったわ……これで、私の勝ちよ――《星に願いを/ウィッシュ・アポン・ア・スター》モモンガ様を誘惑する毒婦を異世界へと排除せよ。さようなら、ペロロンチーノ様。モモンガ様の一番のご親友でもあらせられる貴女様の異世界での幸せを願っております」

 

「それは流れ星の指輪(シューティングスター)! しまっ…!?」

 

おっぱいの大きな女悪魔の指にはめられた指輪から虹色の光が放たれました。その光が(わたくし)の身体を包み込むように纏わり付いてきます。

 

「フリアーネ様!!」

 

そばにいるアウラに抱きしめられます。アウラはその身から魔力を噴出して力任せに虹色の光を弾こうとしてくれますが、虹色の光の力が強く拮抗すら出来ないようです。

 

「フリアーネ様!! お姉ちゃん!!」

 

そこにマーレが加わってくれました。僅かにですが虹色の光の輝きが弱まった気がします。

 

「フリアーネ様を飛ばさせはしません!!」

 

アウラとマーレに続いてシャルティアも参戦です。虹色の光を押し返せそうです。ガンバレ、ガンバレですわ!

 

「フフ、守護者が三人揃えば、超位魔法すら跳ね返せる可能性があるのね。良い情報を得ることが出来ました。あなた方無き後のナザリック防衛にも役立つ事でしょう。では、皆様さようなら。モモンガ様の事は私に任せて異世界への団体旅行をお楽しみ下さいませ――《星に願いを/ウィッシュ・アポン・ア・スター》毒婦と共に愉快な三人組も異世界への追放を……本当に元気でね。三人ともフリアーネ様を守って差し上げるのよ」

 

「アルベド、あんたねー!!」

 

「身体が消えていくよ、お姉ちゃん!?」

 

「この大口ゴリラーッ!! この次会ったら必ずブチ殺してやるわー!!」

 

おっぱいの大きな女悪魔の指輪から二度目の魔法が放たれました。

 

流石の護衛の三人もこれには抵抗を諦めたようです。(わたくし)を中心にして離れ離れにならないように抱き合いました。

 

おっぱいの大きな女悪魔の願いが本当に叶うのなら、(わたくし)達は異世界へと飛ばされるのでしょう。

 

異世界転生した上で、異世界転移までする羽目になるなんて我ながら波乱万丈すぎる第2の人生ですわ。

 

虹色の光に包まれて消えていく身体に恐怖を感じないでもありませんが、周囲に護衛の三人がいるお陰で安心感もあります。

 

この三人がいれば異世界でも何とか生きていけるでしょう。そう思わせてくれるだけの力を持つ三人ですもの。

 

ところで、アウラが召喚した魔獣達も周囲で虹色の光に包まれているのですが、彼らも一緒に異世界転移するのでしょうか?

 

そんなことを考えていた(わたくし)の意識は輝きを増していく虹色の光に溶けて消えていきました。

 

 

〜回想、終わりですわ〜

 

 

まったく、酷い目に合いました。

 

せっかく公爵家の次期当主にまでなっていたのに異世界転移させられるなんて最悪です。

 

異世界転移させられて最初に目を覚ましたのは(わたくし)のようですわね。

 

周りには(わたくし)にしがみついて気を失っている三人組がいます。その周囲にはモフモフ達が折り重なっております。全員、怪我などは無いようですね。

 

(わたくし)達が倒れているのは室内のようですね。床はフローリングになっています。天井には照明器具がついていますね。他にはタンスやベッドなどの家具が備えつけられています。

 

それにしても随分と狭い部屋ですね。(わたくし)達四人とモフモフ達でぎゅうぎゅう詰めですわ。

 

「なんとなく……懐かしい気がするわね」

 

この部屋の雰囲気は、何故か前世を思い出させます。

 

もしや、前世での(わたくし)の部屋に飛ばされたのかと思ったほどです。けれど流石にそれはないようですね。

 

朧げな記憶ですが、前世の(わたくし)の部屋とは明らかに差異がありますわ。

 

ぱっと見たところ、(わたくし)の趣味で集めた逸品の数々も見当たりませんしね。

 

ところで、この部屋の住人はどこにいるのでしょうか?

 

これほどの不法侵入者がいて気づかないとは思えないのですけど。まさか衛兵の類いを呼びに行っているのでしょうか?

 

それなら早く護衛の三人を起こして対策を練る必要がありますね。

 

急いで皆さんを起こしましょう。

 

えい、ツンツン。

 

「う、うーん。ふ、フリアーネ様…?」

 

アウラが目をこすりながら起きてくれました。

 

「フリアーネ様、ご無事ですか!」

 

目覚めたとたん(わたくし)の身を心配してくれる優しいアウラです。怪我などはないので安心して下さいね。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

マーレも起きたようですね。

 

「くんか、くんか」

 

シャルティアはいつもの様に(わたくし)の匂いを嗅ぎ出しました。彼女も起きたようですね。この状況で目覚めとたん(わたくし)の匂いを嗅ぎだすなんて、彼女にはアウラの爪の垢を煎じて飲ませる必要がありますね。

 

周囲のモフモフ達も起き出したようです。狭い部屋の中がモフモフ達の息遣いで圧迫されるようです。

 

「ここだとこいつら邪魔ですよね。ちょっと、あんた達は戻ってていいよ」

 

アウラがモフモフ達を送還しました。ここは異世界なのですが、モフモフ達はどこに送還されたのでしょうか?

 

もしも送還魔法でナザリックに送ったのなら(わたくし)達も帰れるかもしれません。

 

(わたくし)は期待を込めてアウラに尋ねてみます。ですが、彼女の答えは無理とのことでした。

 

どうやらモフモフ達は、アウラが作った謎時空にいるそうです。つまり、アウラがテイムしているモフモフ専用のアイテムボックスがあるわけですね。

 

ちなみに普通の召喚魔法の場合は、別の場所から召喚をしているのではなく、魔法で作り出した存在を使役しているそうです。なので送還時も本当に送還しているのではなく、魔力に戻して散らしているだけとのことです。

 

モフモフ達がいなくなり多少はスペースに余裕が出来ました。

 

(わたくし)は部屋の中を漁ってみます。

 

シャルティアは相変わらず引っ付いたままクンカクンカしていますが、もう慣れていますので気にしません。

 

「えらく狭い部屋だよね」

 

「そうだね、お姉ちゃん。でも見たことのない品物が置いてあるね」

 

アウラとマーレも色々と漁っています。二人にとっては珍しいものが多いでしょうね。

 

(わたくし)も懐かしくてノスタルジックな気分になりそうですが、一番のお目当があるので感傷にふけるのは後回しです。

 

それでは、かちゃっとな。

 

(わたくし)は、部屋の片隅に置かれた冷蔵庫の扉を開けました。

 

ああ、何ということでしょうか!

 

そこには、(わたくし)がもう二度と口にする事は出来ないと諦めていた健康に悪そうな炭酸飲料水が鎮座していました。

 

合成食料はクソ不味いので食べる気にはなりませんが、この炭酸飲料水は妙にクセになる味なんです……もしかしたらヤバい添加物が入っているのかしら?

 

カチャっとフタを開けてみます。

 

それをアウラに近づけます。

 

「何ですか? これを飲めばいいんですか?」

 

コクリと頷きます。

 

「分かりました。それでは……あの、コレって毒反応があるんですけど本当に飲む必要がありますか? あたしは毒無効があるから平気だけど、妙な匂いもするからできれば飲みたくないんですが」

 

やっぱりなアウラの言葉だった。

 

(わたくし)はアウラに謝ると炭酸飲料を捨てることにしました。本当に残念です。

 

なお、合成食料の方も毒物反応があったそうです。嫌な世界ですね、ここは。

 

まあ、食べ物に関してはアウラ達のアイテムボックスに “魔法のピッチャー” や “魔法の食料袋” などの無限に新鮮な食料や飲料水を生み出す魔法アイテムが入っているから問題はありません。

 

……本当に色々と心配性なモモンガさんのお陰ですね。こんな世紀末っぽい異世界でもなんとか生活出来そうですわ。

 

などと、食べ物事情に気を取られていた(わたくし)はすっかり忘れていました。

 

この部屋の住人のことを。

 

──ガチャ。

 

「えっ、外国の女の子…?」

 

部屋の扉を開けて入ってきたのは若い男性でした。

 

「あら、モモンガさん。お邪魔してますわ」

 

「あ、はい。どうも……あの、どちら様でしたっけ? モモンガってことはユグドラシルでの知り合いの方ですよね?」

 

なんと部屋に入ってきたのはモモンガさんでした。いえ、正確には鈴木悟さんですね。

 

どうやらここは(わたくし)の前世の世界で間違いないようですね。

 

あら…?

 

ここに悟さんがいるってことは、先ほどまでいた世界のモモンガさんはどうなったのでしょうか?

 

もしかしてここは悟さんが異世界転移する前の世界なのでしょうか?

 

それとも平行世界などと呼ばれるパラレルワールドといったものでしょうか?

 

どうやらややこしい事態になっているようですわね。でも大丈夫ですわ。

 

うふふ、一度は死を経験して異世界転生をした(わたくし)です。今さらこの程度の事は気にしませんよ。

 

ですが、悟さん。

 

(わたくし)のおっぱいを凝視するその視線は気になりますわ。

 

申し訳ありませんが、(わたくし)は殿方に興味はありませんの。その目を抉られたくなければ逸らす事をお勧めしますわよ。

 

「ご、誤解ですよ!? 私は見てないですから!!」

 

男はみんなそう言うんです。

 

ねっ、悟さん。

 

「だから本当に見てませんって!!」

 

うふふ、どうやら生活拠点も確保できそうですね。

 

ところでシャルティア、そろそろ匂いを嗅ぐのを止めませんか?




何とか路頭に迷わずに済みそうな公爵令嬢です。

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