「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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早く終わったので早速予備日である土曜日に更新します。
この話から数話の間少し折本から離れますが、ストーリー上そうなってしまっているので、もう少しお待ち下さい。出来るだけ早めに戻します。


06

 * * *

 

 

 

「さみぃ………」

 

 朝。完全防寒装備をして自転車に跨がり、キコキコと音を鳴らしながら漕ぐ。流石に十二月だけあって、それ相応の寒さが俺の身体を蝕む。

 

 今日は木曜日だから、今日と明日さえ乗り切れば土日が待っている。──それが分かっていても気分が上がる事は無い。それ程に寒い朝だ。

 

 しばらく漕ぎ続けていると、見慣れた建物が視界に入る。

 

 その建物を認識し、それに向かって漕ぎ続けて行く。

 

 近くなるに連れて増えていく俺と同じような格好をした総武高生達は、いつものように喋りながら歩いたり、あるいは自転車を走らせながら話したりと、こんな寒い日でもいつもと変わらない毎日を送っている。

 

 俺もその中の一人──とは、少し言い難い。

 

 

 なぜなら、それは今朝の自室に遡る──

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ヴヴヴヴヴッ

 

 携帯がその時刻になった事を知らせる目覚まし用のバイブを起動させる。

 

 それによって起きている俺は、今日もいつもと同じように目を覚ました訳だが──

 

 

「6:46?……なんでだ?」

 

 

 いつもより十五分程早い時間だ。普段はこの時刻に携帯が鳴る事はない。だが、実際問題として携帯は小刻みに震えている。

 

 少し疑問に思ったが、取り敢えず携帯を布団に入ったままの姿勢で取り、確認すると──

 

 

 《着信一件》

 

 

 成る程。どうやら俺が目を覚ましたこのバイブは、設定した目覚ましではなく、どうやら着信を知らせるバイブだったらしい。──こんな時間に送ってくる奴も大概だが、それで起きてしまう俺も大概だった。

 

 とにかく起きてしまったし、着信も確認してしまったのでそのメールの中身を確認する。

 

 

 《subject:おはようっ!

  text:おはよう比企谷。昨日は楽しかったよ。恋人の話の時の比企谷がめっちゃ驚いててちょっとウケたw》

 

 

 ……朝からそんな事を知らせるために送ってきたのかよ……。

 

 内容のNASAにびっくりした。

 

 俺は、適当に返事を考えて送信しつつ、布団から出ようとしたのだが布団の魔力が予想外に強く、炬燵といい勝負をしそうなほどの強さを持っている布団と十分ほど格闘する羽目になった。

 

 

 その後自力で布団に打ち勝ち、冷え切った世界に身を投じた俺は、すぐさまあったまるべく、一階に出来るだけ速いスピードでおりて、炬燵を目指した。

 

 炬燵に着き、布団をめくって中に足を突っ込むと、中から「ン゛ニ゛ャッ」という断末魔のような悲鳴が聞こえたと思ったら、直後、俺の足に激痛が走った。──悲鳴こそあげなかったものの、しばらく悶絶した。

 

 結果としては俺がカマクラを追い出し、カマクラはソファの座布団に落ち着いた。なかなかに引き際の分かる奴である。ちなみに炬燵だが、親が朝軽く使った程度だったようで、想像ほど暖かくなかった。チクショウ。

 

 そのままいつもの時間まで過ごし、俺が朝飯を用意している間に起きて来た小町と一緒に朝食を食べて、そして学校に登校するために家を出て、寒さの中自転車を漕いでいた訳だが──

 

 

 ──そこで、偶然にも津久井と会った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あれ?比企谷君?」

 

「ん?……津久井か」

 

 学校と我が家の間の丁度半ば位の距離まで来て、信号待ちをしていたら、後ろから声をかけられたので振り返ると、そこには最近話すことが多くなった津久井がいた。

 

「比企谷君も家こっちの方なんですか?」

 

「ああ。中学の頃は学区の端の方だったからな。どっちかって言うと多分隣の中学のが近いんじゃねぇか?」

 

 実家は、俺や折本の通っていた学校の学区の本当に端の方だったので、入学後数ヶ月は学区を恨んでいた覚えがある。ちなみに、比企谷家からそれなりに近い折本の家は比企谷家よりは学校に近かったものの、やはり遠いことに変わりはなかった。

 

 そんな事を話しつつ、学校へ向かう。

 

 部活の話になった時に津久井がテニス部と言うところから体育が今日ある事を思い出して、このクソ寒い中で外に出てやるという事実を思い出してしまった俺は更に気を滅入らせた。

 

 

 

 学校が近くなって来て人が増えてくると、俺と違って友達のいる津久井はその友達を見つけたらしく、俺から離れて行った。

 

 なのでいつも通り一人で校門をくぐり自転車小屋に向かい、そして校舎に入るという流れをこなす。

 

「はあ……」

 

 特に意味もなく吐いた溜め息は白く、冬である事をこれでもかというほど知らせてくる。

 

 靴を履き替えて階段を登ると、階段の壁に付いている掲示板の貼り紙に目が行く。

 

(呼びかけか……)

 

 その貼り紙には、クリスマスイベントの紹介みたいな内容が書いてあった。これを作ったのは生徒会なのだろうが、なかなかの完成度だった。

 

 その掲示板を過ぎ、自分の学年の廊下に辿り着くと、そのまま止まらずに教室に入る。

 

「おお……」

 

 教室には暖房が入っていたらしく、それまでの寒さと、この教室の暖かさによる温度差に少し驚いて、尚且つ暖かい事に感動して小さく声を出してしまう。

 

 教室ではいつものようにトップカーストの連中がワイワイやっているのを中心に、いろんなところで少人数がグループになって騒いでいる。

 

 それをうっとおしく思いつつも、気にしないようにして机に突っ伏す。朝の教室ではこれが一番だ。もちろん、イヤホンは装着済みである。

 

 そしてその状態でしばらく過ごしていると、誰かに肩を叩かれた。

 

 イヤホンを片耳とって振り向くと、そこにいたのは満面の笑みによって周囲が明るく照らされていて眩しいほど輝いている戸塚がいた。レンブラント光ヤバい。

 

「おはよっ、八幡」

 

 ……ヤバい、浄化されそう。いや、アンデットじゃないけど。

 

「戸塚、毎朝味噌し……なんでも無い」

 

 あっぶねえ。

 

 危うく戸塚に告白して瞬殺されるところだったわ。

 

 戸塚は本当にヤバいと思う。何がってそりゃ全てが。性別なんか戸塚だし、神ってるならぬ戸塚ってる。……若干ごろが悪いな。

 

 

 ──という普通の日課を過ごしていると、暴力教師が教室に入って来た。

 

「席につけー、出欠とるぞ」

 

 やる気なさげでそう言った平塚先生は、順番通りに生徒の名前を言っていく。

 

 全員呼び終わったところで、連絡事項に入った。

 

「今日は、変則日課で現国が潰れる事になる。ちょっと私に用が入ってな。かわりに、進んでないらしい体育を入れておいた。隣と合同らしいぞ」

 

 

 ──全員、絶句。

 

 

 そんな勝手が通るのか……。とか思ったが、あの人ならなんとか通してしまう気がしてきた。その年齢にものを言わせて……

 

 ──ゾワッ

 

 

 これ以上考えるのはやめよう。うん。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 二時間目にあった現国が潰れて体育になったため、一時間目が終わった現在、着替えている。

 

 こんな寒さで外でやるとかアホかと思ったが、テニスらしいので、戸塚を見られるからよしとした。

 

「八幡、早く行こ?」

 

「おう」

 

 戸塚に誘われ、既に着替え終わっていた俺は、特に待つ奴もいないのでそのまま戸塚と外に出た。

 

「寒いね……」

 

「ああ……」

 

 やっぱり寒かった。

 

 その後、続々と後から出てくるうちのクラスと、隣のクラスの連中が揃うと、それぞれのクラスで個別に準備運動をした後、先生のところに集合した訳なのだが──

 

 

「今日は、折角だし男女混合のクラス混合で──そうだな、テニスやるか。よし、好きな奴らで四人グループ組めー」

 

 

 ──貴方は、そんなに俺を殺したいのだろうか。ぼっちに四人集められる訳がな──

 

「八幡、一緒にやろ?」

「ヒッキー!」

「比企谷君、一緒にやってもいい…かな?」

 

 

 四人集まった。

 

 十秒かからなかった。

 

 

「………お、おう。いいぞ」

 

 ──と言うわけで、俺、戸塚、由比ヶ浜、津久井の四人でテニスをする事が決まった。

 

 

「チーム分けどうしよっか」

 

 由比ヶ浜のその声で、四人が唸る。

 

「うーん、僕と津久井さんはテニス部だから、分かれた方がいいよね」

 

「うん。となると……由比ヶ浜さんは戸塚君と私のどっちがいいの?」

 

「えーと、彩ちゃんのがいいかな」

 

「おいおい、そしたら俺と戸塚で組めなくなっちゃうだろ……」

 

「あはは……」

 

 

 ……………

 ………

 …

 

 結局、チーム分けは男女混合チームという事とテニス部を分けるという事で、戸塚&由比ヶ浜VS津久井&俺となった。……由比ヶ浜が羨ましい。

 

 そして、先生にチームを報告してコートを借りる。

 

 そのコートは何の因果か、あの日──三浦と対戦したコートと同じ場所だった。

 

 

 

「八幡っ!」

 

「おうっ!」

 

「えいっ!」

 

「戸塚君!」

 

 

 ボールは規則正しく俺たち四人の中を回っていた。今回はあくまで授業だし、試合ではないからテニス部二人が手加減してくれているのは目に見えているが。

 

「はいっ!」

 

 戸塚が返したボールが逆サイドにいる俺のところにくる。そしてボールを見て構え直し、ラケットを握り直す。

 

 ネットを越えたボールは少し軌道を右にカーブさせながらこっちに向かって来ているが、このまま行けば俺の予測地点に到達する。

 

 ワンバウンドして、ボールの軌道が更に変わる。

 

「……………」

 

 それを一瞬で修正して、もう握り直しながら後ろに振りかぶった。

 

 

 ──パコーンッ!

 

 

 

 ドサッ──




テニスの球を打った時の擬音が分からない……。激しい感じのやつです。

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