「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
「あれ?比企谷じゃん」
「折……も、と」
──俺は、予想外のところで折本と鉢合わせる事になった。
現在、三年生への進学を前にしている俺たち……いや、俺は、一色いろはからの依頼を受けてクリスマス会の会議が行われているコミュニティーセンターへと足を運んでいた。
そして、センターに入る前に忘れ物をした事に気付いた一色が俺の制止を振り切って一人学校へと戻り、それをセンターの入り口で待っていたら──、
──折本と遭遇した。
彼女と会うのは、恐らく半年振りだろう。最後に会ったのは確か林間学校の少し後だ。
久しぶりに見たからか、なんとなく分かるのだが、少し背が伸びたように感じる。
「比企谷ー!」
俺の事を呼びながら数メートルの距離を手を振りつつ小走りでかけてくる。
──正直に言うと、複雑な気分だ。
もちろん、嬉しいのは嬉しい。俺の事を真面目に考えていてくれた奴だ。
だが、嬉しいのと同じくらいに、恐い。……以前の折本と同じ──変わってないのか。という不安。
……俺の事を分かってくれていただけあって、裏切られた時に心に対する打撃が凄そうだ。
そんな事を思いつつ、折本に接する。
「よ、よう……」
「ぷっ!…ちょ、何それっ……くくっ……」
──さして変わっていない様だ。
変わってない事が分かれば、取り敢えずホッとできる。
久しぶりの会話に少し途惑ったが、なかなか楽しめそうだ。
「いやー、久しぶりだね。……一年くらい?」
「おい冗談だろ……」
「うん、冗談。……ふふっ、やっぱ比企谷は比企谷だわ」
「…そりゃそうだろうな」
今の会話のどこから面白い要素を見つけ出したのかは知らないが、相変わらず、である。
俺と休日に会っていた時もこんな感じだった。
折本の振りに俺が応えて、そして笑う。
いつも通りの流れだ。
笑うといっても馬鹿にするような『嗤い』ではないし、折本の笑っている顔は俺も好きだから、別に嫌に思った事はない。
高校に入って互いに成長し、そして会わなくなって、また久しぶりに会った俺たちは、互いに成長しただのなんだのと言う話をする。
──だが、ここであの話を持ち出すのは違う気がして、結局言い出せないまま、俺は折本と別れた。
* * *
その後、戻って来た一色と合流して、二回目の参加となる今回に臨んだのだが……
「じゃあ、今日もこの間のディスカッションの続きからだね」
「やっぱカスタマーサイドで考えないと!」
「うんうん……」
──初っ端から会話が意識高過ぎんだろ……。
何が『うんうん』だ。
「………おい、流石にそろそろ次に進めてかねぇと時間なくなるぞ……」
このままだとずるずるいって何も決まらなさそうなので司会である玉縄に声をかけると、玉縄は、
「そうだね、急いだ方がいいのかもしれない……」
どうやら賛成してくれたようだ。
「……だったらそうしてくれ」
「違うよ、そうじゃない」
俺がいい加減面倒になっているので投げやりに言っていると、さっき賛成したばかりの玉縄から反論が来た。
「確かに、急いだ方がいいのかもしれない。でも、意見が
「……そのアウトは使い方間違ってるだろ…。別に無意味な訳じゃねぇし。……ってか一色」
恐らくセンスが無いと言いたかった玉縄の指摘をして、そのまま一色へと話を振る。
「なんですか?」
「これ、
──そうですよ?それが?
一色はそう答えた。
だが、これではまるで合同ではない。海浜総合主催のイベントに
恐らく一色は分かっているのだろうが、言い出せないのだろう。立場が立場だし、相手も相手だ。
しかし、立場上俺が主導でやるのもマズい。
俺はあくまで一色の手伝いなのだから。
──どうする?
最善は一色が玉縄と一緒にイベントを盛り上げて成功させる事だろう。
だが、それは土台無理な話だ。玉縄があんなだし、そもそも海浜総合の奴ら全体としてそんな雰囲気がある。折本は参加してねぇし。
──となると次はなんだ?
俺がすべき事は一色の手伝いとイベントの成功への助力。余裕があればもう一つの件も片付けておきたい。
優先的には一色の手伝いだ。
なら──
「──先輩、聞いてますか?……先輩?」
「うおっ!?」
「きゃっ!?……もー、急に動かないで下さいよ」
……どうやら、考えに没頭し過ぎて周りの音が聞こえてなかったらしい。
気付けば一色を残して他全員はいなくなっていた。
「……先輩、行きますよ。…ってか明かり消すんで早く出て下さい」
「へいへい……」
俺は流すように返事をしつつ、マフラーを巻き直して、一色を待って外へ出る。
「さっみ……」
「寒いですね~」
すぐさまポケットに手を突っ込むと、ポケット内で震えるものが指にぶつかる。
取り出して見ると、どうやら滅多に鳴らない俺のスマホに着信があったようだ。
送信者は──、
──折本かおり。
「交換したの数時間前だぞ……」
結局、言い出せないままに終わってしまった一色を待っている間の折本との会話時に、折本が急に言ってきたので、流れで交換する事になったメアドと電話番号を、早速使ってきていた。
俺は画面を軽く操作しながら一色に、
「悪い、電話だ。先帰っててくれ」
と言うと、そのまま一色から離れ、スマホを耳へと持っていく。
「もしもし……」
『あ、比企谷?』
「おう。……どうした?」
『いや、なんか解散する時に話しかけたんだけど反応してくんないから……。もしかして怒ってた?』
どうやら、俺がどうすべきが考えていた時に話しかけてくれていたらしい。全く気付かなかった。
「別に怒ってた訳じゃない」
『じゃあなにしてたの?私の事脳内であれやこれやしてたの?』
「するか!!……お前、それもし本当だったら俺は真剣な顔で妄想してた末期症状の奴になっちまうんだが?」
『いいんじゃない?それも。比企谷が自分を自分らしく思える自分で居られれば』
自分を自分らしく思える自分、か──。
「自分らしさ、ね。……お前、いい事言ってんのにその前の振りで全部台無しになってるからな?」
『分かってるって。……ってか結局、何を考えてたの?』
話が逸れ始めたところで、再び話を戻してくる折本。
『──また、碌でもない事を考えてる訳じゃ……ない、よね?』
そこで、一気に声が変わる。
おふざけ混じりだった声が、途端に静かに、そして少し暗くなる。
「ああ……」
『ホントに?……自己犠牲とか、ウケないから』
「…………ああ」
──折本に、嘘をつく事になってしまった。
本当は、会わなくなってすぐ後の文化祭で、盛大にやらかしているというのに。
「自己犠牲はしないように気をつけるよ……」
『《気をつける》じゃなくて《しない》。絶対に。……守ってよ?』
「分かった……」
『なら、よし!』
「おい、まだ俺の話してねぇだろ」
『そうだったね』
口調と声色が元に戻り、雰囲気が明るくなる。
──やっぱり、折本には明るい雰囲気が似合う。
そして俺は、考えていた事と一旦の結論を折本に言った。
* * *
『なるほどねー。……まあ確かに司会がアレじゃね……』
「ああ。一色もマズいのは分かってんだろうけどな……」
玉縄がなぜか司会確定していたし、俺が入って最初の時は本当に会議か疑った。
『それさ、私も手伝おうか?』
と、ここで折本から提案があった。
『大丈夫、策はあるよ。比企谷は合わせてくれれば……』
──というわけで、折本主導で玉縄をどうにかする作戦が決まった。
そして、次の会議。
いつも通りに座る出席者。海浜総合の一部では既にあれやこれやを軽く話し合っている奴らもいる。
それらを見回した玉縄は、
「じゃあ、今日もディ「ちょっといいかな?玉縄君」……折本さん、どうしたんだい?」
玉縄のいつもの開始の合図に割り込むように折本がそう言い放つと、
「いい加減、次に進めようよ」
ストレートに、そう言った。だが──、
「うーん、でもまだ出てない意見があるかもしれないじゃないか。僕は、そう言った意見を──」
「おい、玉縄」
今度は俺が玉縄の言葉を遮る。
「司会できないなら降りろよ、そこ」
少し強めの口調で言う。
「だいたい、こう言う場合で『意見が全部確実に出切る』なんてあると思ってんのか。考えれば幾らでも浮かぶぞ、そんなん」
「終わりの無いものの終わりを探すんなら他所でやれ」
──この言葉こそが、折本の作戦の芯だった。
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また、今回の流れで分かるように、一部ストーリーが改変されています。ご了承下さい。