「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
* * *
──比企谷八幡サイド──
「…送ってくれてありがとね、比企谷君」
「気にすんな」
駅まで着き、そんな会話が自然と漏れる。
「じゃあ──」
「あー、それなんだがな…」
仲町さんの言葉を遮る様に言い始める。
「…実は、妹からのお達しでな。…その、家まで送ってけってよ。んで、送んねぇと俺が死ぬんだわ。…だから、その、悪いが付き合ってくんねぇか?」
そう言いながら、スマホで受信した小町からのメールを仲町さんに見せる。
「…そ、そうなんだ。大変だね…。…まぁ、私は別にいいよ?」
「助かる」
「ううん。助かるのはこっちだよ。…痴漢とかに遭う可能性とか、ない訳じゃないもんね」
どうやら仲町さんは理解が早いらしい。俺があんまり説明をしてないのに状況を察してくれた。
「それじゃあ行こうか。…お金大丈夫?」
「ああ。往復で八駅分位ならあるからな」
そんなやり取りをしつつも、同じ駅まで買う。
「仲町さん、定期じゃないのか?…学生なら定期使った方が安いだろ」
「あはは…。…実は今日定期を家に置いて来ちゃって…」
先週も一回やっちゃったんだよねー、と付け足しで説明を入れる。
そしてそのまま、ホームで電車を待って居ると、不意に仲町さんが、
「…そう言えば、さっき言った事だけどね?…比企谷君はどうなの?」
──さっき言った事?
「ほら、津久井さんの家に行って、その後直ぐに…」
「ああ…。…“アレ”か」
「うん。…比企谷君は、本当に──」
と、そのタイミングで向かい側に電車が入る。
「──────」
「──────」
「──────」
そして直ぐにこっちにも電車が来た。
「……そっか。…うん、分かった。…じゃあ、比企谷君はもう…」
「……………」
「…取り敢えず電車乗っちゃおうか」
「…………ああ」
そんな短いやり取り。
でも、中に込められた意味はそんな少ないものではなく、もっと多く、そしていろんなもの。
「──比企谷君がこれからどうするか。それを決めるのは比企谷君だよ?…だから、私は何も言えないし、何も言わない。結果がかおりを傷付けるとしても」
「……………」
「…私の考えだけど、もう十分に理解したんじゃない?」
「…そうかもな」
こうして、俺は仲町さんを家まで送り、その後帰路に着いた。
* * *
──仲町さんは、俺にとある質問をした。
それは俺にとって衝撃的なものだったし、納得出来るものでもあった。
…俺は、一歩を──たった一歩を踏み出せなかったのだ。
まだ折本や津久井をそこまで理解していないと、言い訳を言い続ける事でそれを正当化しながら。
いや、最初は言い訳じゃなく本心だった。
だけど、そのうちにそれに落ち着こうと、無意識に思っていたのだろう。
──あの入院の件。
学校を休んでまで俺の看病をし、先生と協力してまで授業の代わりにとプリントを用意してくれて。
…そこまでしてくれる彼女達は、俺にとっては本当に太陽だった。
持ち前の明るさとその陽気な性格で、あの状況でも笑顔を見せてくれていた折本。
何か出来る事は無いかと常に俺の事を考えてくれて、献身的に、一生懸命に看病してくれた津久井。
この二人に、俺は何度も救われた。
なら、俺も何らかの形でそれを返すべきだろう。…いや、これも言い訳か。
──何に理由を求めるでもなく、ただ俺が考えぬいて決めた事を。
つまりはそれが本当にすべき事で、“結果として”それが彼女達への恩返しにもなる。
なら、そうすべきだ。
──だから、俺は早速メールを打った。
《To:折本・津久井
Sub:話がある
Text:二人に話がある。今週の土曜日を開けておいてくれ。場所はカラオケでいいか?そこで《返事》をしようと思う》
あえて、何の返事かは書かなかった。
停滞し、落ち着こうとしているこの状況下でさえ、二人にそこまで言う必要は無いと思ったから。
──そして、俺は送信ボタンを押した。
* * *
今週の土曜日まで後三日ばかりの、あのメールを送信した今日。
家に帰ると、早速小町に迎えられた。
「お兄ちゃん」
「おう、お兄ちゃんだ。…悪いが疲れてるんで寝かせて──」
「ひゃっはろー、比企谷君♪」
「……………」
「あー、ひっどーい。比企谷君無視したー」
…何故か玄関には、我が妹と共に大魔王がご降臨していた。
* * *
「…それで?何の用ですか?雪ノ下さん…。…確か昼間も学校に居ましたよね?」
「うん。それであの後奉仕部寄って、いろはちゃんに訊いたら『先輩?帰っちゃいましたよ…』って言ってたから遊びに来た!」
「………あの、俺──」
「…ところで、最近周りが忙しくない?」
「…は?」
「あんまり奉仕部を開けちゃダメだよ。三人揃って奉仕部だもん。…それとも、他の女の子に手を出す方が比企谷君的には楽しいのかな?」
「…な、何を言って……」
「何って、そりゃあ比企谷君の最近だよ?…確か、折本さんと津久井さんだっけ?…その二人とよく一緒に居るじゃない」
「もー、浮気はダメだぞ!…比企谷君は、雪乃ちゃんの夫になるんだからね?…分かってる?」
「本気でもないのにそんな事…。それに雪ノ下も望んでませんよ」
「……本当に、そう思ってる?」
「え…?」
「私は、割りと本気だよ?雪乃ちゃんには親に縛られずに自由に生きて欲しいと思ってるし、比企谷君にはそれが出来ると思ってる」
「だから、私は結構真面目に考えてるんだけどなー」
「……………」
口調こそ軽いものの、雪ノ下さんの目は本物だった。
──この人は、本気でそう言っているのかも知れない…。
そう思わせるに十分な説得力が、その目にはあった。
だけど──
「すいませんが、無理です」
「え?」
俺にだって、ようやく心に決めた人が出来たんだ。
悩んで、
考えて、
それこそ、他人にいろんなヒントを貰いながら。
「…俺は、その人に告白しようと考えています。…これも、あなたと同じ様に本当の想いです。──だから、どんなに言われても、それだけは譲れません」
──だから、俺も雪ノ下さんの目を見てしっかりと言う。
俺の想いを伝えるために。
「……そっ…か。………あーあ、比企谷君なら雪乃ちゃんのプリンスになれると思ったのになー」
久しぶりに聞いたプリンスと言う単語にピクッと反応してしまうが、恐らく雪ノ下さんは知らないはずなので、そのまま雪ノ下さんの反応を待つ。
「……因みに、本当にその人が好き?…今まで勘違いを繰り返して来て、他人の気持ちも自分の気持ちも全部勘違いって言って来た君が、本当に好きな人?」
「…はい」
「そ。…なら文句ないや。…ありがとね、話だけでも聞いてくれて」
「その位はしないと後が怖いですからね…」
──と、家の玄関でそんな会話をした後、雪ノ下さんは、何時の間に呼んだのか、あの黒い車で帰って行った。
「…………ねぇ、お兄ちゃん?」
「うおっ!?……こ、小町、まだ居たのか」
──どうやら、今日の俺はとことん災難に見舞われるようだ。
* * *
小町の猛攻を掻い潜り、夜ご飯と風呂を済ませると既に時間は十一時。
久しぶりの登校で身体が疲れたので、自室に入って倒れ込む様にベッドに横たわり、そのまま直ぐに寝てしまった。
──決心はついた。
後は、今週土曜日を待とう。
皆さんが気付いて居たかは分かりませんが、実は26の今日と、17の今日って同じ日なんです。
つまり、17〜26にわたって、同じ日に起きた事(途中に途轍もなく大きな回想を含む)を書いていた訳なんですが、その事実に、私は25の作成中まで気付かなかったです。
そして、なんの前触れもなく今回の話が最終話の1〜2話前になりました。
実は、本来はもう少し延びる筈でしたが、前回からの仲町さんの動きに関係がありまして、
本当の流れは
勉強会→奉仕部での日常
へと続き、その中で材木座が出て来て今回になる予定だったんですが、仲町さんを書いていたら結果的に材木座の出番が無くなり、今回が恐らく最終話前話かなと思います。
今まで感想や評価、お気に入り等の支援。更には誤字脱字報告等を報告して下さった皆々様。お世話になりました。
今後は、少し時間を開けた後に再び書き始めようかと考えています。
それに当たり、Tzestheyarnehさんに協力をこぎつけたので、活動報告の【自由欄】に、①津久井ルート ②折本のアフター ③その他 で記入してください。尚、その他は内容もお願いします。投票形式で、3/25 23:59まで有効投票とします。一人一票でお願いします。
最後に。
私、時間の無駄使いと、お金の無駄使いの二人で協力してSSを書く事になりました。
それに当たり、無駄使い戦線と名乗って活動して行くつもりです。
どちらのSSも無駄使い戦線で検索すればヒットするので、よければ見てください。
もしかすると、オリキャラの交換何かもあるかもしれませんので、その時は報告します。