「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
* * *
──比企谷八幡サイド──
ある日、折本から急に電話がかかって来て、そして訳もわからぬまま駅前に着いたら、後から来た折本は風邪を引いていた。
──と言う前置きがあり、そして現在。
折本をおんぶして家まで送り、折本に玄関を開けてもらって中へ入る。
「……んせっ、と…。…取り敢えずは着替えて寝とけ。俺はタオルとか用意するから」
折本をおんぶしたままベッドまでどうにかこうにか運び寝かせた後、今度は濡れタオルを作りに行く。──某熱冷ましのシートくらい在るだろって言ったら無いって即答されたしな。因みに、こんな具合で。
「…なぁ折本、熱冷ま──」
「無いよ」
「──シート…」
──と言う訳でタオルを言われた場所へ取りに行き、何度か来た事で、ある程度勝手知ったるこの家のキッチンへと向かい、冬の冷たい水道水をタオルと一緒にボウルに入れて再び折本の部屋へ。
「……入るぞ、折本」
「うん…。コホッ」
声をかけてからドアを開けて中に入ると、パジャマに着替えた折本が。
取り敢えずボウルに入れて持って来た中の水を、こぼす恐れのない様に絶対にぶつからないようなところにボウルを置いてから、その上でタオルの水を絞り、折本の方へと移動する。
折本が寝ているベッドの横まで行きそこに座ってから、タオルをひたいに置く為に折本の髪をはらった。その時に触れたひたいは、少し熱くなっていた。
「熱上がったか?」
「あはは…。安心したら、ね」
そんな会話をしつつも折本のひたいにタオルを置く。
「ひゃっ!?……タオル冷たい…」
「冷たい方が良いだろ。…ってか冬の水道水だぞ。冷たくて当たり前だろ」
俺はそう言って立ち上がり、ついでに折本に布団を掛け直す。
すると折本が、
「………どこか行くの?」
と、消えそうな声でそう呟いた。
「…大丈夫だよ。…昼飯まだだろ?お粥作ってやるから。それまでは寝てろ。……あー、それとも寝るまで隣に居た方がいいのか?」
「!……うん。…比企谷が、よければ」
明らかに見て取れる程の喜びを表情で示した折本は、俺に向かって手招きをする。どうやらこっちへ来い、という事らしい。
「俺に気を配る必要はねぇよ。…気にすんな。お前病人なんだから、お前優先でいいよ」
「うん…。…じゃあ、お願い」
「おう」
──そうして、折本のベッドの真横で折本が寝付くのを待っていると、不意に折本が、
「…何か面白い話してよ」
と言って来た。どうやら無言が気まずかったらしい。流石に俺に面白い話を提供させるのは誰がどう見たって(誰も見てはくれないが)爆弾でしかないので、代わりのモノを用意して、どうにかやり過ごす。
「………ムチャ振りは辞めろ…。…手くらいは握ってやるから」
そう言って折本に手を差し出すと、折本は指を絡ませて来た。
「ふふっ…。……ありがとね、………八幡」
──!
「んなっ!?……ちょ──」
「な、何でもない!…お、お休み…っ!」
自分が口にした事が恥ずかしかったのか、折本は布団を頭まで被り、完璧に潜り込んでしまった。……それでも手は握ったままだったが。
* * *
どうやら折本は他人の手を握ったまま寝られる奇才の持ち主らしく、しかもなかなかに指を剥がすのが大変というオプションまでついていた。
普通に腕を引こうとしたら、つられて引っ張られた折本の腕がベッドの外に出て来たのだが、寒かったらしく、俺の腕ごと布団の中に引きずり込まれた。
起きてるのかと思ったがそう言うわけではなかったし、その上恋人つなぎなので、仕方なく指を一本ずつ剥がしていったのだが──
人差し指。
中指。
薬指。
小──
──ギュッ。
小指から最後の親指へ移行する前に、小指の途中で握り直される。
「……………」
(まぁ、そんな事もあるか…)
と言う事で、再チャレンジ。
人差し指。
中指。
薬指。
小指。
親──
──ギュッ。
(……おしいっ!?…いや、何でこんなハイテンション何だよ…)
「も、もう一度…」
人差し指。
中──
──ギュッ。
「早っ!?」
思わず声に出してしまった。
その後もしばらく折本の指と格闘し、五分が過ぎた頃…。
「………よ、よし……」
俺は、謎の達成感を感じていた。
何はともあれ、両手が久方ぶりに自由になったので、立ち上がり部屋を出る。
「……変えとくか」
──その前に、折本のひたいのタオルを再び水にくぐらせ、絞って、ひたいに戻す。
そして今度こそ部屋を出て、お粥を作りにキッチンへと向かった。
* * *
──四十分後。
「…入るぞー」
お粥と淹れたてのお茶を乗せたトレイを持ち、逆の手でドアを開けながら折本の部屋へ入る。
それを一度折本の机に乗せ、折本を起こしにかかる。
「折本、起きろー」
あんまり触る訳にもいかないので軽くゆさゆさと肩を揺する。
一分。二分。三分。
「ん、んんっ……」
揺らし続けて三分ちょっと。
折本がようやく薄目を開け始めた。
「起きたか。…昼飯用意したから食べろ。お茶もあ…る!?」
「比企谷が居るぅ……」
──何が起きたか分からない人のために説明すると、折本に状況を説明してる最中、不意に折本が俺を抱き締めながら布団に引きずり込もうとした。…というか引きずり込まれた。
「お、おい!…折本、起きろっつの!」
暗い布団の中で、かろうじて息は出来るものの、下手に暴れたらラブコメイベント真っしぐらな為に動くのもままならない。
だから俺がこの場で出来る事は寝ぼけて居る折本を起こす事なのだが。
「折本、起きろって!」
「んにゃぁ…。…………んぁ…っ?」
「……………」
「……………」
──折本、覚醒。というか起床。
「………おはよ…う。…比企谷」
「ん。…おはよう、折本。…離してくれるか?」
「……………」
「……………」
──互いに顔が触れそうな位置での沈黙。
折本の方は覚醒と同時に俺の顔が目の前にあった事を認識した筈なのだが、固まっている。
そして──
「きゃぁぁっ!?…ひひひ、比企谷!!?何で私の布団に入ってんの!!?」
──有らぬ誤解を受けた。
「……いや、お前に引きずり込まれたんだが…」
そしてこの後、説明に追われた。
* * *
その後、すっかり冷めてしまったお茶は俺が貰い、折本がお粥を食べている間にお茶を淹れ直した。
昼飯の後で体温計で熱を測ると、朝よりは引いていたが、それでもまだ微熱程度の熱が残っていたので、眠れないと言う折本にはそのままベッドで横になってもらっていた。
「……ねぇ、比企谷」
「…どした」
「比企谷はさ、明日予定ある?」
「いや、ねーけど」
「なら、さ……」
──プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
「……電話…だね」
「……電話…だな」
「わ、私出て来るね?…もう立てるから」
折本はそう言いながら布団を出て、リビングへと向かう。
俺はその間、再び折本が戻って来るまで特に何もせず、部屋の中で静かに待っていた。
──しばらくして。
ガチャッと言うドアを開ける音と共に現れた折本は、何のリアクションも取らず、ただただ俺の方へと真っ直ぐ歩いて来て──
俺に、抱き付いて来た。
「…………」
「………お、おい…?…折…本」
状況を把握出来ないまま、なされるがままになっていると、折本が抱き付いたままの姿勢で、急に話し始めた。
「…さっきの電話ね?お父さんからだったんだけど、お父さん、…仕事で遠出しないといけないらしくて、火曜日まで帰って来ないんだって」
「お、おう…」
「……でさ?…今日、お母さんも居ないしさ。………比企谷、泊まって行ってよ」
「なっ──!?」
「…認めるまで離さないから……」
──折本の看病は、だんだんと怪しい方向へと向かい始めていた。
予想外に回想が長くなってしまいました…。
本当なら今回で回想が全て終了し、現在の話に戻っている筈だったんですが、書き続けてたらうっかりやってしまいました…。
そして驚く事に、今回の登場キャラが、
八幡・折本・折本父(名前のみ)・折本母(名前のみ)だけという。恐らく最初の方の津久井さんと比企谷のショッピングデート?以来の登場キャラの少なさ。
回想はこのまま次回へと続きますが、次回の投稿日である火曜日何ですが、日曜日と月曜日に大きな用事がありまして、書き終わっていない可能性があるため、もしかしたら投稿出来ないかも知れません。
因みに、今回が書き終わったのは土曜日朝ですから、私の執筆スピードとその他を考慮するとキツいですね…。
読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願い致します。