「折本──」さて、この後に続く言葉は── 作:時間の無駄使い
* * *
──比企谷八幡サイド──
怒涛の昼休みを終え、午後の授業。
残りの二科目は国語と数学なので、数学に関してはもはや寝てしまうから関係ないし、国語は得意だから退屈には思わないので快適に過ごせそうだった。
最近気温も上がって来て、風こそ冷たいものの、その風も春の匂いを運んできている。
そんな、冬と春の境目──若干、春よりだろうか。そんな季節の中で、俺は三学年初日の学校生活を送っていた。
──しかし、授業が始まる前の喧騒というのは、静かにして聴いていると全て同じに聞こえてくる。
あいつらの会話も。あっちでの会話も。そこの奴らの会話も。
全てが同じ会話に聞こえてくるのだ。──つまりは機械の様に。
ただお決まりのフレーズをお決まりのタイミングで、作り上げられた固定観念の中でそれを絶対的偶像の様に崇拝するかの如く、流れに逆らわない様に言う。
もし逆らえばそいつは異教徒扱いされ、そして異端者のレッテルを貼られる。
一度そのレッテルを貼られたら周りを物理的に変えるかそれとも努力して復帰するか、はたまた諦めるか。──覆すのは簡単ではないのだろうが。
がしかし、俺にはそこまでして復帰する事にそれ相応の対価があるとは──意味があるとは思っていない。
その点、ぼっちは楽だ。
何故なら同じ異端者でも、初っ端から異教徒だから。
裏切り者ではない。既に別枠。──出会う前から入り混じる事のない壁を作り、それを維持し続ける別種。
──だが、そんな壁を破ってくる輩が、完璧にいない訳じゃない。
一人はその宗教の宗主から気に入られているアホの子。
一人は俺と同族のぼっち。
一人は宗教の宗主である元彼女。
一人は目立たない事で自由を獲た元文化祭実行委員。
その他にも何人かいる。小町だったり、小町だったり、小町だったり、戸塚だったり、戸塚だったり、戸塚だったり。
天然水?木材?……確かにあいつらもそうかもしれない。
でも、俺は──。
* * *
秘技・章変えリセット。──と言うか、ただの描写カット。
という事で午後の授業を終え、放課後。
「ヒッキー、部活行こ!」
由比ヶ浜がそう言いながらトテトテとかけて来る。
「煩い寄るな暑苦しい」
「何で三重苦みたいに言ったし!?」
「…いや、似てないと思うが?……お前、…いや、何でもない」
「最後まで言ってよ!?」
いや、流石アホの子は違うなと思っただけだから、別に言っても言わなくてもいいんだが。
「比企谷君は部活?」
と、そこへ津久井が話しかけて来る。
「おう。津久井もか?」
うん、という返事が返って来ると同時に、後ろに背負っていたラケットバック(※そこまで本格的なものではない)を前へと持ってくる。
「比企谷君、見て行きますか?女子テニス部」
「…俺も部活だっつの……」
「冗談ですよ。……それじゃあまた明日に。さようなら、比企谷君、由比ヶ浜さん」
津久井はそう言うと、ドアを出て行った。
「…何か津久井さん……」
「んぁ?」
「いや、何か明るくなったな…って……。…てか、あたし達も部活行かないと!」
「ぐぇぅっ!!」
由比ヶ浜が叫ぶと同時、何故か俺の襟を掴み、そのまま引っ張ったせいで一瞬首が締まり、バランスを崩して倒れかける。
それを何とか堪えつつ、由比ヶ浜に引っ張っられて久しぶりの奉仕部部室へと足を運ぶのだった。
* * *
黒い三連星。
この単語で1stガ○ダ○を連想出来る人はまま居るだろうが、ここでは全く持って関係ない。
(字が)黒い
俺は、この様に物事を考える基準が他とはかけ離れて居る。
──微妙な導入になってしまったが、言いたいのはつまりそれだ。
由比ヶ浜の優しい言葉に何か裏を探そうとしてしまうし、雪ノ下の優しい態度に意味を見出そうとしてしまう。
だから──
「ごめんなさい……」
──こんな状況にも、必死に都合のいい解釈を求めていた。
* * *
──少し前、
「やっはろー、ゆきのん、小町ちゃん!」
奉仕部に着いた──と言うより引っ張られて来た俺と、引っ張って来た由比ヶ浜はそのまま中に入り、俺にとっては久しぶりな、由比ヶ浜にとっては恐らく日常的な動作を行い、いつもの状態を作る。
ちなみに、小町がいるが奉仕部部員ではない。一色みたいなものだ。…まあ、一色は余計な仕事を持ってくるし、あざといから害ばっかりであんま利が無いが、その点小町は違う。最早利しかない。だからここにいてもいいのだ。
そして、そこで事件が起こった。
「…由比ヶ浜さん、小町さん、少しの間、席を外してくれるかしら……」
それまで本を読んでいた雪ノ下からの唐突な一言。
当然俺も、由比ヶ浜も、小町ですら途惑った。──が、
「…分かった。……終わったら呼んでね、ゆきのん」
由比ヶ浜がそう言うと同時、席を立つ。その口調には、これから起こる事が分かっている様な、微かに雪ノ下を心配する気持ちが含まれた、静かな応援の口調だった。
由比ヶ浜が立った事で小町もその流れに乗る様に立ち、由比ヶ浜の後を付けていく。──小町は状況が飲み込めていない様だ。……安心しろ、俺も分かってないから。
スゥー、ハァー、と深呼吸をする雪ノ下。珍しく少し緊張しているみたいだった。
そして──
「…ねぇ、比企谷君」
「………おう」
「……………………」
「……どうした?」
「………………ご…」
「…ごめん…なさい。……病院で、怪我をしているあなたに、……“折本”さんに、酷いことを言ってしまって」
──!?
「────な」
「だから、……ごめんなさい……」
雪ノ下は、そう言いながら頭を下げている。
「お、おい……」
恐らくは俺が入院中、ただ一度だけ来た雪ノ下のあの時の俺に対する──折本に対する態度を言っているのだろう。
あの時、思わぬ反撃を食らって、"あの”雪ノ下がたった一度の反撃で勝利を捨て、去って行ったのも恐らくはそれが分かっていたから。
だから、
だが──
「…気にすんな。……俺も気にしてねぇし」
俺は、そんな事など全く持って気に留めていなかった。
──と言うかより正確に言えば、あの後に起こった他の事全てが内容が濃すぎるお陰で陰が薄かっただけなのだが。
とにかく、俺が気にしていなかったのは事実だ。
「………そう」
「ああ。……まあ、この件はこれでお終いだ。…何もなかった。それで良いだろ」
「私は!……いえ、…何でもないわ。……あなたが言うのなら、何でもないのね」
「…また偉く信用したな……」
「か、勘違いしないでくれるかしら」
──と、顔を赤らめながら言われても困るんだよなぁ…。
「……はぁ。……由比ヶ浜さんと小町さんを呼んでくるわ」
雪ノ下はそう言いながら、部室を出て行った。
* * *
「せんぱーい、いますかー?…って、先輩一人だけですか?」
「おう、……また仕事持って来て…」
「無いですから!……先輩は私をなんだと思ってるんですかねー……」
「あざとい後輩」
「余計なの取りましょうよ……」
「あざとい」
「先輩にとって後輩って余計な要素なんですか!?……ていうか自然に私の全ステータスを批判しましたね!?」
一色は、部室に来るなり用事も告げずに普通にここにいるが、この場に小町が居なくて本当に良かったと思う。…小町の為と言うよりは、俺の為に。
──と、そこへ小町からメールが着た。
《Sub:お兄ちゃん・津久井さんへ!
Text:折本さんからお誘いがありました!放課後、二人で折本家に行って来て下さい!…お兄ちゃん、ちゃんと女の子の事送るんだよ?》
「……………」
「…うわー、小町ちゃん流石ですね…。……って言うか訊きたい事が幾つか」
「……………」
……ヤバい、死ぬかもしれない。
何がヤバいって後ろの一色から放たれるオーラにヤバめの雰囲気が混じってる。
……こいつ、そう言えば俺と折本との関係知らないんだった。
病院で何度か折本や津久井と鉢合わせてたけど、その時は特に訊かれなかったし──って事は津久井の事も知らないんじゃ…。
「……一色、雪ノ下と由比ヶ浜に宜しく頼む」
──言うと同時、俺は全速でこの場を去った。
到達しないと思っていた20話に遂に辿り着きました!
やっぱり、入院の件が大きかったですね。あとは、その後の各個人の言動。
前々回?くらいまでは、何回も何回も視点を変えてその時の動きを個人別に書いて行った形に近いので、やはりそこで時間を取りました。…時間の無駄遣い──もとい、時間の無駄使いを名乗る私だからでしょうか?
冗談はおいて置き。
今回の補足説明。
前半部分の、宗教に例えたあの部分。宗主というのはグループのトップを指します。
以上、終了。
今回は雪ノ下との決着を着ける回になりました。
後の山場は一つですが、小さいのが少しあります。
このまま行けば40到達前には──下手すれば28くらいで終わりを迎えます。
長い間お世話になりました。そしてこれからも、宜しくお願いします。